おにいちゃん

 

 ビスコンティさんと別れて、部屋に入るとザンザスは窓際で読書をしていた。

 部屋は広いのに、窓際に行くとは。

 窓際の方がいいのかな?

 狙撃されたらアウトだよね??

 

「誰だ?」

 

 低い声が響く。

 

 うーん、いい声。

 

『櫻』

 

 一言そう言えば、ザンザスは目をこちらに向けてきた。

 

「はっ。ガキじゃねぇか」

『いいなぁ、お兄ちゃん。背が高い』

「フルネームは?」

『沢田櫻』

「沢田?家光の子か」

『うん』

「で、いくつだ?」

『五歳』

「……で、そんなガキがなんのようだ?あとブリっ子しても無駄だぞ」

『……すごいね、おにいちゃん。なんでブリっ子してるとわかったの?』

「てめぇは不審過ぎる」

『そっか。そっちいっていい?この部屋広くて、声を張り上げるのが疲れるよ』

 

 そう言えば、ザンザスが手招きした。

 私はトテトテとそちらへ歩いてゆく。

 近くまで行くと、首根っこを掴まれて膝に乗せられた。

 

 おいおい。

 

『?本読まなくていいの?』

「もう何度も読み直したやつだ。別にいい」

 

 そう言って、まるでぬいぐるみを抱きこまれるように抱きこまれる。

 

「それで、どうして来た?」

『お兄ちゃん寂しいの?』

「……どうしてそれを」

『えーっとね。もう何人か知ってるから、お兄ちゃんにも言うね』

 

 私は自分の事情をザンザスに説明してゆく。

 守護者とは違い、彼は動じなかった。

 

『ということなの』

「ふん。そういうことか。で、お前はどうするつもりだ?」

『うーん、なんかもう守護者らしいよ。だからボスになるつもりはないかな』

「そうか。?守護者だと?」

『ん。これ』

 

 私は首に下げた指輪を見せる。

 

「これは……見たことねぇ指輪だな」

『風の指輪っていうらしいよ。お兄ちゃんが知らなかったという事は、本当に前任者がいなかったのね』

「という事はじじいから、もらったのか」

『ティモッテオおじいちゃんのこと?うん。そうだよ』

「お前はどう思う?」

『おじいちゃんのこと?』

「ああ」

『うーん。油断ならないけど、味方につけたら優しいおじいちゃんかな。でも、不器用だから、ちゃんと物事を伝えれないんだと思うよ』

「じじいは、俺のこと……」

『やっぱり不安?』

「……」

 

 腕の力が少し強くなった。

 

 ……当りか。

 

『じゃあさ。一緒にいこ?ティモッテオおじいちゃんのとこ』

「だが……」

『今行けば、私が仲裁できる。ティモッテオおじいちゃんに嘘なんて言わせない』

「……」

『聞くのが怖いなら、手を握っててあげるよ?』

「…………ガキが言うじゃねぇか」

 

 顔を見上げれば、ザンザスが少し苦い顔をしていた。

 子供に励まされるなんて、と思っているのであろう。

 

『行こう?』

「……わかった」

 

 


 

 

 こうしてザンザスと共に、ティモッテオおじいちゃんのところへと戻る。

 一人でも歩けるというのに、ザンザスは私を抱いたままだった。

 

 おいおい。

 十二歳だよね、お兄ちゃん。

 重くないの?

 というか、イタリア人ってこれくらい普通なのかな?

 

「そういえば、家光の奴は?」

『来てないよ?』

「なに?」

『今頃日本で、ティモッテオおじいちゃんのわがままで連れて行かれたと思ってるかな?』

「お前は寂しくないのか?」

『うーん、精神年齢二十四歳だし。すごく寂しいという事は無いけれど、いっかい叩(はた)かなきゃなと思うくらいには、思っているよ』

「そうか」

『あと、もう少ししっかりして欲しいかな。髭とか寝癖とか、手紙の回数とか』

「そうか」

『お兄ちゃんは?』

「……俺はもう少し、言葉が欲しいな」

『そう……』

「はっ。てめぇが気にすることじゃねェよ」

『気にするよ。事が大きくなりすぎると、私まで火の粉が飛んでくるし、ものすごく悲しいから』

「悲しい?」

『うん。私ね、前から他人の感情に移入して、泣く子だったから……。だから今も、少し、泣きそう』

「?!おい」

『……ごめん。大丈夫まだ泣かない』

「とりあえず話す。……と言っている間に着いたぞ」

 

 重厚な扉の前で止まる。

 そういえば、来た時に見たはずなのに、ちゃんと認識していなかったようだ。

 

 ザンザスがノックし、中から了承する声が聞こえる。

 私はザンザスに抱えられているので、当然一緒に中に入る事に。

 

 ティモッテオおじいちゃんは窓際で空を見ていた。

 

 ……親子ともども窓際好きなのかな?

 

「じじい」

『ティモッテオおじいちゃん』

「来たか」

 

 声をかけると、ティモッテオおじいちゃんが振りかえる。

 その姿は、ボスというより、年相応の人物に見えた。

 

『ティモッテオおじいちゃん、ちゃんといいなよ』

「ああ、ありがとう櫻ちゃん」

 

 寂しそうな目をするティモッテオおじいちゃん。

 

「おい、じじい。こんなガキまで巻き込むんじゃねェよ」

「お前に言われるほど、私は情けないのだろうね。家光にもその性質が映ってしまったようだ」

『分かっているなら、ちゃんと言いなよ』

「……ザンザス。私はお前の実の父親じゃないんだ」

「?!!」

 

 いきなりの告白に、ザンザスの腕の力が強くなる。

 

「だが、私は、お前を実の息子だと思っているよ。私にお前以外の息子はいないとも思っている」

『他の候補者四人を押しのけてでも?』

「ああ。それどころか、一番マフィアのボスとしての風格があるとも思っている。ここのルールを曲げてしまいたいほどに」

「じじい……」

『おにいちゃん、泣いてもいいよ?』

「っ!泣くか」

『じゃ、私が泣く』

「っ!」

 

 結局、二人して泣いた。

 ティモッテオおじいちゃんはそれを見て、抱き寄せてくれる。

 

 って、私、かなり苦しいんだけど……

 

 


 

 

「すっかり、櫻ちゃんには世話になってしまったな。申し訳ない」

『いえいえ、こちらこそ。涙で汚してしまって……』

「櫻、それは俺の方が……」

 

 仲が何とか修復できたザンザスは、少し柔らかさを持っていた。

 

 ?

 まさか、イタリア男の性でも復活したか?

 というか、いつの間にか呼び捨てだし。

 ま、いいけど。

 

「櫻ちゃん、夏休みの間はここにいてもいいからね?」

「というか、居ろ」

 

 え。

 命令?

 ザンザスからの命令なの、これ?

 

『えーっと、じゃあ……。お言葉に甘えて。でも、お母さんと綱吉が寂しがらないかな?』

「そうなったら、家光が来ると思うよ」

「その時に叩(はた)いてやればいい」

 

 って、おい。

 今度は私と家光さんの間の問題か。

 ……いいでしょう。

 綱吉の分まで叩(はた)いてやりますよ。

 

 


 

 

 

 どうやら、私が知る”ゆりかご”とやらは回避できたようだ。

 だが、そうするとオッタビオの罪や、綱吉の成長具合はどうなるのか……。

 押して知るべしということだろうから、今は分からないな。

 

 和解した後、お兄ちゃんは仲間とやらを教えてくれた。

 吃驚することに、既にその中にはスクアーロとベルフェゴール、マーモン、ルッスーリアがいた。

 レヴィもいるそうだが、彼は任務中らしい。

 

 ……というか、既にカタチ整ってんじゃん。

 もう私が知るヴァリアーメンバーじゃん。

 

 彼らはザンザスの腕に抱かれた私に吃驚していたが、ベルフェゴールとルッスーリアが私の髪に目を止めていじり始めたため、すっかり仲良くなった。

 

 おいおい。

 いーのかそれで。

 私が敵対してなくてよかったよ。

 だって、怖いもん、このメンバーの実力。

 一騎当千とかはいかないけれど、それに準じる力持ってるんだから。

 

 ちなみにテュールさんは生きているとのこと。

 どうやらこの世界では、スクアーロが峰打ちとか言って手加減したらしい。

 って、『その剣両刃だよね?』と聞いたら、「日本刀に付け替えてやった」と返ってきた。

 義手になったのを、逆手に取ったか。

 というか、スクアーロも結構根がいいやつだね。

 ただし、テュールは隠棲しているらしい。

 

 変わらなかったのは、マーモンとベルフェゴールくらいだ。

 彼らは欲に忠実で、いきなり「金」「だって王子だもん」とそれぞれに言っていた。

 

 ルッスーリアは……もはや言うまい。

 そう思えるほどに、彼からは独特のオーラが出ていた。

 

 ということで、本当に仲良くなりました。

 もちろん、レヴィ以外と。

 彼は盲信過ぎているので、あまり好きな部類ではなかった。

 それはザンザスも他のメンバーも重々承知しているようだ。

 

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最終更新:2015年10月12日 23:25
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