ということで、次の日私はイタリアにいました。
え?
なんで”来ました”ではなく”いました”なのかって??
だって、夜中に移動したらしく目を開けたら、空港からボンゴレ本部へ向かう車の中だったんだもん。
びっくりだよ。
いきなりリムジンの中だよ?
「起きたかね?」
『えーっと、既に現地なんですかこれ?』
「起きた早々だが、分かっているようで何より」
『そう言えば私イタリア語出来ないし、というか英語もできないんだけど』
「そこは大丈夫だ。本部の大半は語学にたけているからね」
『うわお。意外と語学力高いね。家光さんは疑ってなかった?』
「ああ、大丈夫だったよ」
『ならいいけど』
車が止まる。
ん?
「着いたよ」
『あら、結構速い』
ティモッテオさんに促されて、車を降りれば、お城のようなボンゴレ本部が目の前にそびえたっていた。
『かなり大きいね』
「そうじゃな。ここからは少し子供のふりをしてはくれぬか?さすがに怪しむ者もおろう」
『はーい!』
瞬時に子供バージョンに戻った返事に、ティモッテオさんが苦笑した。
大きな玄関へと歩いてゆくと、何人かがこちらへと駆け寄ってきた。
?あれ?このメンバーって九代目の守護者じゃない?
駆け寄ってきたのは三名。
一人は左手が義手らしい初老の男性。
もう一人は顔に無数の傷がある男性。
最期の一人はグラサンをかけた男性。
……嵐に、雨に、雲ですか。
というか、男性ばかりだったよね。
「またお一人で!少しは御身をご自重ください!」
あーやっぱ、お忍びでひっそりとだったのね。
怒ってるよ、コヨーテさん(嵐)が。
そりゃ、門外顧問のとこ行くんだから大丈夫だと思ったのだろうけれど、その途上で襲われるっていうことになる可能性は考えなかったのかねぇ。
ま、ティモッテオさんは強いから、大丈夫か。
歳の方が心配だけど。
「此方の御嬢さんは?」
ブラバンダーさん(雨)が聞いてくる。
「ああ、この子は家光の娘だよ」
『こんにちは!おじさまがた!ティモッテオおじいちゃんに連れてきてもらっちゃった!』
うわー、なんか自分でやっといてあざといぞ。
うわ嫌だ。
でも頑張ろ。
「この方が」
ビスコンティさん(雲)が物珍しそうに見てくる。
うー……嫌いなタイプだね。
自己紹介もそこそこに、ティモッテオさんに色々と案内される。
中庭とか書斎とか。
う~ん、広い。
どこまで覚えれるかが勝負かな?
最終的にボスの部屋らしきところについた。
あ、言うのかな?
それとも、言わずに取りあえずザンザス呼ぶのかな?
「九代目ここまで連れてくるとは、いったい此方の御嬢さんに何を望んでおられるのですか?」
雲の守護者が聞いてくる。
こわぁ~。
雲雀さんがめちゃくちゃ悪い方向に進んだみたいだよ。
結構整った顔してるから元美形だろうけど。
「櫻ちゃん」
『いいですよ。言っても』
ティモッテオさんが言わんとしていることが、その顔を見て分かった。
ボスの顔と父親の顔を、半々で混ぜたような顔をしちゃって。
そんな顔じゃ、こうするしかないじゃないか。
私の了承を得て、ティモッテオさんは守護者三人に話し始めた。
もちろん、私の事情をである。
話し終えると、三人の顔が私を食い入るように見ていた。
そりゃね、こんな人物そうそういないって。
ほかの世界からの転生者なんてさ。
この世界でパラレルワールド関係してんの、三人(もちろん、骸と白蘭とアルコバレーノのボス)くらいだろ?
「それでじゃ、この子は味方になると言っておる」
「信用してよろしいので?」
コヨーテさんが聞いてくる。
一番に疑うのは、嵐の独特な性なのかな?
獄寺とやらも一番にかみついてたよね。
「この子からは悪意は感じない。むしろ、似ているよ」
『え、誰に?』
「そうだな、家光にかな」
『……うわ~。なんかいたたまれない。というか、家光さんにはちゃんとしてほしーんだけど。そうしないと綱吉が成長した時にいっぺん殴られるよ、あの人』
「それはどういう風にだね?」
『連絡を逐一お母さんにしてほしいんだよ。ハガキや手紙でさえ一年に三通しかないんだよ??お母さん、心配によるストレスが溜まって溜まって……。いつ病気になってもおかしくないから』
「そうか。それはいけないね。さり気なくそうしてもらう様にしよう」
『よろしくお願いします。まぁ、事情を言えないってところは確かに似てるのかもね』
はぁっとため息をついていると、何とか脳が追いついたのか三人とも顔を上げる。
「わかりました。で、そのような特殊な事情を持つ御嬢さんにあれを?」
え?
あれ??
ええ、変なアイテムでも来るのかな?
「ああ、そうだ。櫻ちゃんにはあれを持ってもらう」
「このような幼い子が……」
「仕方ないのだよ、コヨーテ。この子にしか扱えぬだろうから」
んん?
マジでか。
……というかさっきから頭の中にキーンっていう音が聞こえるんだけど。
『なにこれ。なんか、頭の中だけに何か鳴り響いてる』
「やはり適合者だったか。ビスコンティ」
「これか?」
「ああ、それだ」
ビスコンティさんが取り出した黒い箱を、ティモッテオさんが受け取り、私の前で開ける。
そこには指輪が一つ納まっていた。
え、何の指輪?
「櫻ちゃん。まだ指に、はめなくていいから手のひらを出して」
言われるがまま、手のひらを差し出す。
その手のひらに、指輪がコロンとおさまった。
頭の中に響いていた音も消える。
『音が納まった?』
ええ??
「どうやら、本当に適合したようだ。いいかい、櫻ちゃん。この指輪はね。ずっと持ち主がいなかったんだ」
『つまり、前任者がいなかったという事ですね?』
「ああ」
『……』
私はしげしげと指輪を見る。
これ、なんていう指輪だろ?
「風の指輪。それがこの指輪の名前だよ」
風?!
天候というより、それって空と大地の狭間にあるものじゃない??
あ、でも気象学的説明では”大気の流れ”だっけ。
天候に関係してるのは間違いないか。
ビックバンでも起きたのは風(爆風)だし。
『私が持っていればいいの?』
「そうしてもらうとありがたい」
『はぁ……。わかった、もってる。でも指にはめれないならどうしよう……』
「ペンダントにして持っていればいいと思うよ」
『あ!そうか。装飾品には興味なかったから思いつかなかったよ。鎖とか、リボンとかあります?』
「これならどうだ?」
ブラバンダーさんが内ポケットから何やら取り出した。
それは水色の細いリボン。
「ほう、ブラバンダーにしては珍しい持ち物だね」
「実は来週娘の誕生日でして……。そのためのラッピングとして色々そろえていたら、ちょうど服に紛れ込んでおりました」
あちゃー、イタリアはかなりロマンチストが多いっていうイメージだったけどマジでそうなのか?
とりあえずそのリボンをもらってペンダントとして首に下げた。
「しかし、君はここでも動じないね?」
『これくらいの威圧感は大丈夫ですよ。私は』
「どうしてか聞いても?」
『ああ、答えは簡単。前世では死にかけたことが一度や二度じゃないんですよ。少なくとも五回くらいは死にかけました』
「?!一般人なのにかい?」
『ええ。どうも良い事があったら、その相対する不幸が三割増しでこの身に降りかかる体質だったようで。まぁ、生まれ変わったからその体質はないと思いたいんですけどね』
「それは……何とも言えないな」
『まぁね。んで、この後どうすればいい?というか、これって私の問題っていうより、ティモッテオおじいちゃんの問題でしょ?』
「そうじゃな」
ふぅっとため息をつき、ティモッテオおじちゃんは、空を見る。
その姿を見た三人の守護者は珍しいものを見た感じで、それを見ていた。
もうちょっと頑張ろうね、三人とも。
特に雲のビスコンティさん。
君、孤高だろう?
『あー、あれだ。とりあえず、私があっちに行く』
「?!しかし、君にもしものことがあったら……」
『さすがにこんな五歳児を彼らは殺さないと思うよ?そりゃ、依頼があればやるだろうけどさ。大体彼らって、根は優しいんですよね~』
「いいのかね?このような事を頼んでも?」
『今更ですよ。おじいちゃん』
「では、コヨーテ。頼む」
「了解しました」
五歳児の私を、ティモッテオおじいちゃんはコヨーテさんに預けた。
ビスコンティさんやブラバンダーさんでもいいのだが、二人とも仕事が立て込んでいるらしい。
『コヨーテさん済みませんが、途中までお願いします』
「その事なのだが、本当に途中まででいいのかね?」(ティモッテオ)
『?』
「九代目、もう少し言い方を変えて」(コヨーテ)
「ああ、そうだね。櫻ちゃん、ここは日本じゃない。だからほんの少しの隙も狙われる可能性がある」(ティモッテオ)
『あ、そういうことか。んー……それはそれでやばいかな?私はまだ何の力もないし』
やっぱり日本は治安がいいんだなぁと思いながら、どうにかして無事ザンザスのところに行くことは出来ないだろうか?
うーんと呻っていると、仕事をしに行ったはずのビスコンティさんが戻ってくる。
「どうした?」(ティモッテオ)
「ああ、九代目。今日の仕事が終わっただけだよ。……何を、悩んでいるんだい?そちらの御嬢さん」(ビスコンティ)
「ああ、ビスコンティ。ちょうどいい。仕事が終わったのならこの子をザンザスのところまで送り届けてはくれんか?」(ティモッテオ)
「?コヨーテが行くのではなかったか?」(ビスコンティ)
「そうなのだが、私ではあちらに警戒されてしまうのでな。で、途中まででよいとこの御嬢さんは言うが、隙を見せたら敵が来るのは必定」(コヨーテ)
「ああ、そういうこと。ならいいぞ。私が送り届けよう」(ビスコンティ)
ということで、私はコヨーテさんの手からビスコンティさんの手に渡る。
たらい回しだね。
仕方ないけれど……。
ティモッテオおじいちゃんとコヨーテさんに見送られながら、私はビスコンティさんと共にザンザスのところへと向かう。
というか、こっちの人たちってかなり力持ちだね。
五歳児ってたしか十九㎏はあるはずだよね?
ザンザスがいるのは、別棟のようだ。
……ということは、まだヴァリアーの城的な所にはいないわけね。
彼の前のボスって、テュールとか言うんじゃなかったっけ?
彼も健在かな?
『ビスコンティさん』
「なに?」
『やっぱりぎすぎすしてる?ティモッテオおじいちゃんとザンザスおにいちゃん』
「……ああ」
一瞬。
ザンザスに”おにいちゃん”と付けたのに吹き出しそうだったようだ。
「違和感がぬぐい切れていないんだ。彼も」
『ふーん。まぁ、そういうようなものだよね。でもさ、私はどちらもどっちなんだと思うよ。ちゃんと言ってやればよかったんだ。そしたら、私が知っているような未来にはならないと思う』
「君が知っている未来はそんなに悪い?」
『うん。悪いよ。治安に影響するぐらいに。だからこうしてそれを防ごうと動いてる』
「防ぎきれなかったら、どうするつもり?」
『私の持てる力、全てでなんとかする。でも、その時はずっと後になっちゃう』
「そう。着いたよ」
話している間にザンザスのいる部屋の前についたようだ。
ビスコンティさんがノックをし、扉を開けてくれる。
『ありがとうございます』
「ご武運を」
彼とはそうして別れた。
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