『えーっと、これを入れると……あ、変な色になってる。じゃ、もう少し入れたら……ふむ、微妙な色合いだね』
新学期早々、私は必要の部屋で魔法薬の調合を繰り返した後。
マートルのトイレで調合を始めていた。
<あ~ら、禪じゃない。今日は何を作っているの?>
ココの主であるマートルがふわりと近づいてきて、聞いてくる。
『ああ、マートル。今、回復薬作ってるところ』
<回復薬?>
『ええ、この世界の魔法薬って、状態異常しか治せないんですもの。そこで、体力だけの回復をする薬を作ろうと思いましてね』
<へぇ>
ぐるりと辺りを見渡すマートル。
<こんなことろでいきなり調合するって言った時は、驚いたわよ?しかもその後、空間を魔法で広げたり、衛生防御魔法なんてもの、いきなりかけたりするんだから、もっと吃驚よ>
ああ、うん。
ですよねー。
『まぁ、そこは――』
<変わり者だからでしょ?>
『って、言われたし!ま、そういうことです』
既に”変わり者”っていうのが、免罪符みたいになっているが、まぁしかたない。
本当にそうなのだから……。
『さて、じゃこれを入れれば……あ、色が安定した』
鍋の中で、綺麗な青色がきらめいている。
『成功?んーでもなんか違う気がする』
そこら辺で捕まえてきたネズミを実験台として、薬を飲ませてみる。
……なんか、走り回った後に自らの顔をかきむしり始めた。
<失敗?>
『みたいね。これ、”絶望”するみたいね』
<絶望?>
『うん。えーっと、何もかもに拒絶されて、行き場所がなくなって、自らを攻めまくるっていう意味での”絶望”』
<なんか、嫌ね>
『まぁね。とーっても嫌よ。私は既に体験したことだし……』
<え?>
『この薬、私の深層心理が反映してしまったのでしょう』
<……>
何とも言えない雰囲気が流れる。
『次は別の調合を始めますか』
次の調合で、見事、回復薬は出来た。
しかしそれは未完成な状態でしかなかった。
『あとは、私自身の意識を変えるしかないのね』
心理に反映する魔法薬を見ながら、棚に収めた。
END:エリクサーが出来た経緯