朝、5時ごろに校内を歩く。
早めに運動を切り上げて、私は思考の海におぼれていた。
どうしようかしら、単純な名前は嫌だと言われたし……
考えているのは、三頭犬の名前である。
もちろんフラッフィーという名前が既についているのだが、よくよく聞いてみれば、三者三様の名前が欲しいらしい。
そもそも意志が三つに別れているのだ。
確かに、三匹とも同じ名前というのは嫌だろう。
えーっと、一匹目は少しさわやか真面目の性格。
この子がフラッフィーで満足してるって言ってたわよね?
で、二匹目が年長者みたいな物知りな性格。
最後の三匹目が食いしん坊、っと。
え、真面目にどうしましょう。
あの三匹を示す言葉がフラッフィーでいいとしておけばいいのかしら。
それとも、本当に最初の一匹目にその名前を割り当てればいいのかしら。
………………う~む、悩む。
<あ~ら。どこの寮の子?考え事しながらこんなとこに来ても面白くないわよ>
ん?
響く声に思考の海から意識を引きずり戻すと、なんか暗そうな場所に辿りついていた。
『あれ?ここどこ?』
<気づいていなかったのぉ~。ここは、トイレよ>
って、ちょい待て。
さっきから聞こえてくる声と、ここがトイレだという事を総合して考えると、ココって!
『え、ついさっきまで一階の廊下を歩いていたつもりなのに、なぜに三階にいるんですか、私。そんなに長い間悩んでた?!』
<へぇ……そんなに長いこと考え事してたのね。何を考えていたのかしら>
『えーっと、ちょい珍しい種類の犬の名前を……。貴女はマートルさんですか?』
<珍しい犬?ええ。そうよ私がマートル>
『……噂って当るもんじゃないですね。けっこう可愛らしいじゃないですか』
<あら、嘘つかなくてもいいのよ?私って……私って?!>
あ、ヤバいヒステリー起こしそうになってる。
『嘘じゃありません。本当に可愛いですよ。そんなことを言う人は見る目がなかったのです』
<言うじゃない。貴女って、変わり者?>
『そうですね、変わり者の孫ですし。確かに変わり者です』
<?孫?>
『はい。私は現在の校長、アルバス・ダンブルドアの孫になった、禪・蔡塔といいます。現在は一年生です』
<あ、貴女、校長の孫?似てないわね>
『まぁ、養子みたいなものです』
<ああ、なるほど。そういうことね。で、犬の名前を考えていたの?>
『ええ。ここの森番が飼っている三つの頭を持った珍しい犬の名前を』
<え、あの森番……ハグリッドなら既に名前つけてるはずでしょ?>
『もちろんついてはいたのですが、どうも聞いてみたら、意志が三つあってそれぞれに名前が欲しいっていうんですよ』
<まぁ!…………というより、よく犬の声なんて聞こえるのね>
ああ、そうか。
説明しておかねば。
『私自身確かに変わり者ですが、扱う魔法も少し変わっていましてね。その変わっている魔法の中に”翻訳魔法”というのがあるのですよ。対象にしたものを翻訳してくれる魔法なのですが、動物の声を対象にすれば、意志疎通可能です』
<なるほどね。面白いわね、貴女>
そろそろ座ろうかなと思ったが、トイレの中だから椅子はない。
しかたない。
私は杖を取り出して、一振りした。
すると、窓際にベンチと机が現れる。
<うそ。もう無言呪文が使えるの?!>
『まぁ、変わり者ゆえです。確か、幽霊でも座れはするのでしょう?なら、座りませんか?』
<本当に変わっているわ>
そう言いながらも、マートルはベンチに座る。
『このトイレはいいわね。静かで考え事するには落ち着くわ』
<でしょう?だからあたしもずっとここで考え事してるのよ>
”死について”でしょうね、もちろん。
まぁ、死因が死因だし仕方ないかも…………。
『さぁて、考えなきゃ』
<あたしも考えようかしら?どんな子なの?>
『一匹目はちょいさわやか真面目君で、二匹目は物知り年長者、三匹目は食いしん坊です。三匹とも安直な名前は嫌だそうです』
<さわやかに、物知り、食いしん坊……>
………………
…………………………
少しの間、二人とも無言になる。
<難しい注文ね。印象でつけたいくらいなのに>
『やっぱりそう思います?ちなみに印象だけでつけたら?』
<さわやかが”リック”、年長者”エンディミオ”、食いしん坊”ブーラム”>
うん、なんか色々突っ込みどころ満載だね。
てかエンディミオって、セーラー○ーンの主人公のフィアンセか!
『そこら辺になるよね。ちなみに私が適当につけると、さわやか君が”爽(そう)”、年長者が”詳(しょう)”、食いしん坊が”糧(りょう)”』
<え?>
『あ、もしかして可笑しいです?』
<ううん、そうじゃなくて、その名前ひねってあるように聞こえるわ>
『そうなのですか?!日本では適当すぎる名前なんですけど……、”爽”はそのままさわやかという意味。”詳”はくわしい。”糧”は食料とかのことを意味するんだけど……』
<それでいいのではないかしら?こちらの名前をつければ結構高度な名前を付ける……例えば、長い名前にするとかね、そういう事を求められるけど、その貴女の母国?かしら、その――>
『日本語』
<そう!その日本語とやらでつければ、意味が深くなるから条件クリアなんじゃない?>
そういうもんなんだろうか?
まぁ、確かに漢字と使用しているので、それなりにいいネーミング(?)にしてあるとは思うが……
『……一度、それで聞いてみましょうかね』
<是非そうするべきよ!>
『ええ?でも……』
<そうするよね?>
熱弁するマートルに、私はこくりと頷くしかなかった。
その日の授業後にそれでどうだろう?と三頭犬に聞きに行くと、あっさりと通った。
うん、意外だったよ。
ちなみに、三頭犬の呼称だけフラッフィーという事になった。
また、マートルと結構仲良くなったため、すぐにでもそこで魔法薬を調合する事ができた。
まぁ、セブルスの介入により調合場所を変えられることは、別の話である。
END:三頭犬の名前