揺られる車内で色々とお菓子を買う。
「百味ビーンズ、いいの当らないなぁ」
『それ何味でした?』
「カタツムリ味」
『あー、それエスカルゴでしょ。一応高級食材だからいいやつですよ』
「でも、普通がいいよ。そういう禪は?」
『ローズ味』
「うわぁ!そっちがよかった!!」
意外と私はお菓子に関しては運がいいらしい。
ちなみに、この列車内にいるバスなので、双子は先に宣戦布告しておいた。
『しかし、本当に乗車時間長いんですねぇ。まだ先が長そう』
「あと、2時間かな」
『長っ!まぁ、風景も結構いいですからいいけどねぇ』
というか、この列車どうやってマグルの目をかいくぐってるんだろ……
入口はあれだろーけどさぁ……
?
もしかして、ここいらが異次元空間か、魔法族のみの地帯か……
いや、前者はないな。
一か月後に、ハリーとロンが車で追いついてるし……。
じゃ、後者かな?
トランプやウノをしつつ、お菓子を食べて田園風景見ていたら意外と時が速く過ぎていった。
『おお、着いたー。結構いろいろやってると早いもんですねぇ』
きっちり私服に着替えて、準備万端でホームへと降りる。
「そう言えば、禪。君荷物とかはいいの?」
『そこは、魔法使いの本領発揮ですね』
ポケットからポーチを取り出す。
「なにそれ?」
『魔法のアイテム。中には、冷蔵庫一つ分のスペースがある収納空間となっております』
「……?!いいなぁ!僕らはこんなにたくさんの荷物があるのに!」
『まぁ、反則みたいな技ですけど、ペットだけは変わりませんねぇ。ケージに入ってないだけです』
そう、庸と皓の二匹はしっかりついてきていた。
『ロン、どのあたりにご家族がいるのかしら?』
「えーっと……ともかくゲートを出よう。数人ずつのはずだ」
『ああ、対策ね』
人の波に押されながら、ゲートまで到達する。
近くまで行くと本当に数人ずつ出されているのがわかり、主人公組と、私とネビルの組に別れてゲートを通った。
ハリーはこの間、どうやら知らない生徒たちに声をかけられていたらしい。
有名人も疲れる。
ゲートをくぐり、辺りを見渡すと、そこには、明らかにロンの家族とおぼしき人達がいた。
『あれかな?』
「うん、そうだよ」
そう確認する間も、バラバラと生徒が家族の元へと帰っていった。
「あ、おばあちゃんだ。禪、僕行くね!また新学期に!」
『ええ、元気でね!ネビル』
ネビルが無事おばあちゃんのところへといった。
『ハーマイオニーは?』
「えーっと、そこよ。ほら、ちょうど二人並んでこっちに来ている人達」
『ハリーの親族は……あれか』
「ああうん、そう……」
ダーズリー家のバーノンおじさんだろう。
映画の中でも、原作でもうざいことこの上なかった。
『ハリー、何とかかいくぐって一度は会いに行きますから……』
「うん。ありがとう、禪」
さすがに見過ごすことはできないだろう。
というか、あの態度や表情から見て、ハリーには酷だ。
「ハリー・ポッターよ。ママ、見て!わたし見えるわ!」
「ジニー、お黙り。指をさすなんて失礼ですよ」
おぅ。
原作通りに、ジニー・ウィーズリーとロンのママが会話している。
「忙しい一年だった?」
「ええ、とても。お菓子とセーター、ありがとうございました。ウィーズリーおばさん」
「まあ、どういたしまして」
『私も、お菓子とセーター、ありがとうございました!』
「あら、貴女は……禪って子ね?校長先生の孫だと聞いてるわ」
『はい!禪・蔡塔です!』
元気よく返事をして、挨拶する。
「禪、ロン、ハーマイオニー。僕そろそろ行くよ」
ハリーが、小声で言ってくる。
どうやらバーボンおじさんとやらがしびれを切らして、近づいてきたようだ。
『またね』
「!?」
「ハリー……」
私は知っていたので、驚かずに健闘を祈るように言ったが、ロンとハーマイオニーには結構ショックを受けている。
まぁね。
あんなふうに人目をずっと気にして、自慢をし続けるなんて嫌でしょうよ。
「準備はいいか?まったく。鳥籠なんぞ、ぶら下げよって、しかも中身はふくろう。ここをどこだと思っておるんだ」
ほら、言わんこっちゃない。
「ハリーのご家族ですね」
「まぁ、そうとも言えるでしょう」
ウィーズリーおばさんが問うと、一時的に丁寧語に戻し、ハリーを見やる。
「小僧、さっさとしろ。お前の為に一日を潰すわけにはいかん」
そう言って踵を返した。
彼の進む方には、ペチュニアとダドリーが見える。
ま、居候より、実子の方が可愛いわな。
「じゃあ、夏休みに」
「たのしい夏休み……あの……そうなればいいけど」
『大丈夫よ、ハーマイオニー』
私は意味ありげにハリーに頷いて見せる。
すると彼はその意味が分かったらしく、笑顔で手を振ってゆっくりとバーノンおじさんの後を荷物を引きずって帰っていった。
遠ざかっていき、見えなくなって気配も消える。
「今のどういうこと?」
ハリーの笑顔に驚いて、ハーマイオニーが聞いてくる。
ロンもその横でしっかりと驚いた顔でこちらを見た。
『少しアドバイスしておいたんですよ。確かに魔法は公で使ってはいけないし、見られても、知られてもいけないけれど、親族は含まれないって』
「でも、それで大事になったら!」
『その心配もありません。釘を刺しました。”見せる”のではなく、”匂わせろ”と』
「……殆ど脅しね」
『ハリーにも言われましたね。けれど、今までの状況よりかは改善できるでしょう』
育児・教育での第三者介入は、マグルでもよくあることだ。
私のいた世界でもそうだった。
「でも禪。ハリー、ちゃんと食べていられるかな……」
『……ロン。心配は分かりますが、そこもなんとかしておきます。これでも一度は訪問すると、ハリーに言っておきましたし』
「行くの?!禪が?あの人たちのところに?!」
『まぁ、何とか気づかれずに行きますよ』
ロンの言う事はもっともだ。
あの人たちネグレクトぎりぎりだし……早いうちに会いに行ってしまおう。
遅くて困る事はあっても、早くて困ることなど、そうそうないのだから。
『さぁて!双子覚悟はいい??』
ハーマイオニーも両親の元へと帰り、残るは、ウィーズリー一家と私のみ。
「「姫!ご勘弁を!」」
『すると思う?』
「「思いません」」
笑顔でグーを作りながら近寄れば、双子は身体を小さくする。
「禪さん、いったいどうしたの?」
事情が飲み飲めないウィーズリーおばさん。
『ああ、少し怒りが……。でもご心配なく、さすがに駅ではしません。あ、そうでした。はい、ウィーズリーおばさん。ダンブルドア校長からです』
「あら!手紙ね。えっと……ん?貴女が明日の昼まで家に来るのね!」
『突然になってしまうのですが、よろしいでしょうか?』
「構わないわよ!」
こうして私は、夏休み最初の一日目をウィーズリー家ですごすこととなった。
ちなみに、その日。
双子の頭にたんこぶがついたのは言うまでもない。
END:序章・Harry Potter and the Philosopher's Stone
*一巻終了となります。しばらく、短編を書いて、それから二巻に行こうと思っております。