見たくないものはいくらでもある。

 


十二月になっていくと同時に、私は朝のマラソンが出来なくなった。


どうも、このホグワーツ一帯は雪が多い地域のようだ。
それも豪雪地帯である。


十二月に入れば、それを思い知らされた。


確かイギリスは、日本の北海道より上だった。


こんな初歩の知識は、一番下に埋もれてしまっているので、掘り起こすのに時間がかかっていけない。


と、いうことで。


私は今、絶賛朝の日程をどうするか思案中だ。

 

一般的な選択肢は三つ。

①手頃な所で筋トレみたいなのをする。

②他のことに当てる。

③諦めて二度寝する。

 

……本来なら①を選びで、③は避けるべきだ。

 

だが、あえて私は②を選ぼうと思っている。


それはセブルスの初授業で考えていたことを実行するためである。

 


つまり、一人で作っちまおうぜ!!
魔法薬!!

 

と、いうわけだ。


ということで、これから冬はこうしていこうかと考えている。

 

もちろん、来年はご遠慮しておこう……
ハリーたちと出くわせてはいけないだろうし……

 

ハリーたちといえば、この頃私を避けるようになった。


それはセブルスと仲良しのせいであろう。

今週末も、ドレスの件でセブルスと出かける用事が入っている。


偏見に基づく結果論はいいことないのにね……。

 

だが同時に、ハリーたちと離れて少しだけ安心している私もいる。


ハリーたちと一緒に“みぞの鏡”を見なくてよいからだ。

 

あんなのを見た日にゃぁ、多分私は……


見たくないモノをたくさん連想させてしまって、私はため息をつくしかなかった。

 

見たくないモノなんて、あり過ぎんだよ。
二十五年以上生きてるとな。

 


『さて、とりあえず必要の部屋に行ってみるか……』


寮を出て、移動してゆく。

 

こんなふうになるなんて、半年前までは分からなかった。

 

思いもせずという言葉を、思わず連想してしまう。

 

 

だが、今も昔も変わらぬ思いはある。

 


確固たる意志を持って、必要の部屋へとたどり着き、部屋に入る。


部屋は私の意思を反映し、魔法薬の用意がなされていた。

 

大釜に、材料の数々。

レシピに、資料。

 

部屋の隅々を見渡せば、私は頭をかかざるを得なかった。

 

この物語の帰結にいたる最大のアイテム。


分霊箱が部屋の片隅のテーブルにあったためである。

 

『まったく、想像するつもりはなかったんですがね』

 

それを無視して、材料とレシピを見始める。

 


『それを壊すには、まだ時が来ていません。来たら全力で壊してあげますよ』

 

 

ひとり呟いたその言葉は、この誰も返す事の無い空間では返事など返って来はしない。

 


『…………私は無為の時間をどこからか続けねばならないのかもしれぬが、それでもなお、望み手を伸ばしておきたいものがいくらでもあることを知っている。そうそう呑まれはせぬよ』

 


その言葉は、私にとって決意であり、胸の内に静かに灯る炎そのものであった。


だが、ここでそれらを深く解説ができるほど、私の心中は整理整頓されていない。


よって、この事はまた今後説明するとしよう。


そう、来年の今頃にでも……

 

 

 


その後、私は黙々と作業を続けた。

 

 

 

 

二時間と些細な時間だが、それでも魔法薬づくりに没頭した私は、朝食をとる為、大広間へと向かった。


大広間に入れば、チラホラと生徒が朝食をとっていた。

 

だよね。
今、六時だもんね。
皆そろそろ起きるかなぁ、ってとこだよね。

 

席に座って、少しだけ安心した。

まだハリーたちは来ていない。

正直、今は一人でいる方が楽だ。

もちろん、クィレルに捕まりかなねないというリスクはある。

しかし、それでも……安心をしてしまう。

 

 

元々、私は孤独を好んだ。

静かで。

心が落ち着いた。

決して無音というわけじゃない。

街のざわめきも。

道端で井戸端会議をする人たちも。

犬や猫の鳴き声も。

木々のざわめきも。

その静寂に含まれていた。

 

 

ただ、私だけがそこで透明になっている感じがした。

 


でも、今はホグワーツに来て奇異の目で見られている。

だからその目が少し無くなったのを、安心してしまっていた。

 


どうせ、それはひと時のことなのに……。

 


あの魔法薬学の初授業後では、孤独になったのが少し悲しかったのに……。

 

 


矛盾しながらも。

生きよう。

自分は自分以外のナニモノでもない。

 

 

自分の感情を整理しているはずなのに、私はどこか虚ろだった。

 

 

 

 

 

その日、私は初めて授業をさぼった。

 

 

 

 


 

 

(セブルス視点)

 

どうもこの頃、禪が一人でいるような気がする。

表情もどこか暗くて、我輩は眉を顰める日が続いた。

 

そんなある日。

 

いや、12月になった平日だ。

通常授業を終え、十五時半きっかりに魔法薬学の教室から出た時だった。


「セブルス!」


突然マクゴナガルに呼び止められた。

彼女は走ってきたのか、行きが上がっており、肩で息をしていた。


「……何かありましたかな?」

「ゆ、禪を……禪を見、かけ、ませんでしたか……!?」


マクゴナガルの口から飛び出した言葉に我輩は、目を見開いた。


「とにかく、ここではまずい。一旦こちらへ」


そう言って魔法薬学の教室に戻り、無言呪文で防音魔法を施す。

扉も魔法で施錠した。


それから改めてマクゴナガルに向き直り、彼女に問い質した。


「……禪がどうかしたのか…………」

「じ、実は今日、どの授業も出席していないのです!私は彼女に何かあったのではないかと……」


続けて彼女の口から出た言葉に愕然とする。


「まさか…………」


最悪の展開が、脳裏をよぎった。


「校長には?」

「既に報告しました」

きっぱりとマクゴナガルが言い放つ。

 

 


「……」

「……」

 

 

しばしの沈黙の後。

 

 


唯一天井近くにある窓から、一羽のふくろうが、マクゴナガルのところへ手紙を落としていった。
その窓ならば、高い位置にある為、施錠せずとも、人に侵入される恐れはない。

 

手紙のぬしは校長で、内容は以下の通り。

 


“禪は敷地内から出ておらぬ”

 

 

簡単な文章ではあったが、それを見て少し安心した。


「……どうやら、校内か敷地内にいるようですな」

「そのようですね」

「……どこにいるというのだ……」

「例の部屋には既に行きましたが、いませんし、いつもいる図書館の指定席にも彼女はいませんでした」

「……必要の部屋は?」

「もちろん探しましたとも!……ですが、彼女は……」

「そうか……」

 


いったいどこにいるのか………………

 


我輩とマクゴナガルは、その場で黙り込むように考え始めた。

 


「……とにかく、私室に行ってみるか。寮でないのならそちらではないかね?」

「その可能性は十分にありますね。後は……温室とハグリッドのところでしょうか」


お互い妥当な候補を述べてみる。


「……今の彼女の状態では、ポッターたちと顔を合わせる可能性があるあの森番のところへは行かないだろう。その二択ならば、温室の方が可能性が高い」

 

マクゴナガルの意見のそう返せば、彼女は目を見開いた。

 

何かおかしな点でもあっただろうか?

 

「セブルス、よく見ていますね。では、私は温室を見てきます。セブルスは、彼女の私室をお願いします」

マクゴナガルはそう言って去っていった。

 

なんなのだというのだ。

 


我輩は少し唖然としながらも、地下牢へと向かった。

 

 

 


◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇

 

 

 


我輩は、いつもより生徒の視線を感じながら禪の私室を目指した。

といっても、彼女の部屋は我輩の部屋の横で、自分の部屋に向かっているのも同じである。

 


いったいなんだ……

 


地下牢へとすべり込めば、その疑問はすぐに消え去ってしまった。


我輩の部屋ではなく、その横の扉の前へ立ち、それを無造作に開けようとした。

 

しかし、施錠呪文がかけられているのか、開かない。

 

「ちっ!」


我輩は杖を振るい、鍵を開け再びドアノブに手をかける。

 

 


部屋は暗かった。

冷えており、人の気配がなかった。

 

 

 

「……どこに行ったのだ」

 

 

 


我輩は複雑な感情を抱きながら、部屋から出て再び鍵をかけ直した。


とにかく、荷物になっていた教科書や書類を自室においておこうと、自分の部屋の扉のドアノブに手をかける。

 


おっと、開錠呪文を……

 

誤って手をかけてことに気がついて、杖を取ろうと思ったが、そこでハッと気が付いた。

 


施錠している時の微かな反発が、扉から伝わってこない。

 


我輩は急いで杖を振ることなく扉を開けた。

 


部屋の様子はいつも通りであったが、ただ一つ違う事があった。

 

ソファ近くの床に、禪が倒れていたのである。

 


「禪!」


急いで駆け寄り、抱き起す。

彼女は熱でもあるのか、真っ赤な顔をしていた。

額に手を当て、ものすごい高温に我輩は顔をしかめる。

 

「……いったい何が……」

 

とにかく、彼女を我輩のベッドに寝かせ、ため息をつく。

 

とにもかくにも、この事を校長とマクゴナガルに報告せねば………………

 

しかし、禪を一人にするのはいただけない。

かといって報告を明日に伸ばすなど論外だ。

 


なぁー


我輩が悩んでいると、足元で声がした。

そちらに目を向ければ、ロシアンブルーがいた。

それに次いで、ものすごいスピードで鳥が部屋へと入ってくる。

ソファの上にとまったその鳥は、アメリカワシミミズクだった。

 

どちらも、禪のペットである。


考えている暇もなく、我輩は紙とペンをとり、要件をかき、鳥の足に結びつけた。


それを確認し、アメリカワシミミズクは来た道を戻るように部屋を出て行く。

 

ふぅっと息をつき、足元の猫を撫でた。

 

「……礼を言う。おまえが連れてきてくれたんだな」


咄嗟とはいえ、扉をあけっぱなしにしてしまったが。


それもたまには役に立つ。

 

 

 

熱があるが、その症状が一体、どの病のものなのか分かりかねた。

 

 


この季節ならば、風邪だろうと思うが……

うっかり、間違った薬を飲ませてもいけない……

 

 


やがて、あわただしい足音が聞こえてきた。

 


一応閉めておいた扉が開かれ、校長たちが入ってくる。

 


「「「禪!!!」」」

 


入ってきたダンブルドア校長、マクゴナガル教授、マダムポンフリーの三人が、口をそろえて言った。

 

「いったいなにが……!」

「すごい熱!」

「禪!」

 

校長は唖然とし、マダム・ポンフリーは額に手を当てて驚愕し、マクゴナガルは叫んだ。

 


「彼女は、我輩の部屋で倒れていたのだ」

我輩が説明し始めると、三人ともバッとこちらを振り向く。

「最初は、隣の彼女の部屋にいるのではと思って、そちらを探したのだが、いなくてな。とりあえず荷物になっていた授業の書類や教科書を置いて行こうと自室に戻ったところ、見つけたしだいだ」


「何もともあれ、見つかって何よりです!ところで、セブルス。このように熱を出しているというのに、薬の一つも飲ませていないとは何事です?」


マクゴナガルが安心したと一言いってから、こちらを責めてくる。


「我輩は確かに、魔法薬に関しては得意中の得意だが、病気の診断となるといまいち的確には下せない。そこで、手紙に書いたとおり、マダム・ポンフリーに来てもらうようにしただけだ」


「賢明ですよ。スネイプ教授」


我輩の回答に賛成するように、マダム・ポンフリーが言う。

 

 


「風邪と思っていても、もっと深刻な病であったりしますから…………ですが、これでは手の打ちようがありませんわ」

 

 


マダムの言葉に、その場にいた者は目を見開いた。

 

 

「どういうことじゃな?ポピー」

 

 

やはり早くショックから回復した校長が聞いた。

 

 


「どうも、風邪では無いようです。かといって他の病気とは考えにくいのです、禪の症状から察するに……」

 


「では、どうしたらいいのじゃ……」

「禪!」

「……」

 

 

大人4人で暗く沈んでいると、

 

 

 


【まったく、我が主がこのような状態だというのに。

 情けない年長者だ】

 

 

 

どこからともなく声が聞こえた。

 

 

 

【おっと、失礼。聞こえても見えぬのであれば、分からぬか】

 

そう言って、声の主は姿を顕現する。


その人物は赤と黒の衣をまとっていた。

 


奇妙な服だ。
何かの伝統衣装だろうか……

 

【さて、まずは自己紹介をしよう。我は禪の杖を通して彼女に力を貸している者だ】


「ほう。では貴様が“慧”か」


【いかにも。ふむ、物怖じしないとは、他の三人より、少し胆が据わっているな】


そう言われて振りかえれば、校長たちが呆然としていた。

 

 

……情けない。

 

 

 

内心ため息をついて、慧に向き直る。


「………それで、この状況下で出てきたということは……」


【ほう。やはり禪の言った通り察しがいい。そうだ。今の主の現状を説明しておかねばならぬと思ってな。ああ、ついでにそれへの対処方法も教えておくが……】


ズイッ

 

「聞かせろ」


【間髪なく聞くか。良いだろう。さて、そこの方々も此方へ。聞いておいてもらわねば、ならぬのでな】

 


そう言った慧は、にっこりと笑った。

 

 

 


兎にも角にも慧と禪の近くに集まった我輩達。

 

 

【では、まずは音を締め出し、この部屋に入らぬようにしよう】


「……それくらいの魔法は――」


【しておるのは知っている。だが、それでもかすかな綻びはあるというものだ。で、もう既にその措置はした】


「……なんだと?」


【ああ、早すぎるとか、分からなかったぞというリアクションはいい。既に禪に言われていたのでな】


まるで、分かりか切ったように言う慧は改めて我輩達を見た。

その目は真剣だった。

 

 

 

【さて、では教えよう。禪がこのようになってしまっている現状を】

 

 

 

 

 

【平たく言えば、これは魔力暴走だ】

 

 

結界か、何か張ったのか、声がさっきより大きく部屋に響いて、耳に入ってくる。

 

 


「「「「…………」」」」

 

【元々魔力が大きいのだ。いつも禪は、それを冷静な判断と寛容な心で押さえつけている。それゆえに心がブレて、判断が鈍れば、それは簡単に溢れ出す】

 

「……まさか」

 


【さすがはスネイプ教授。察しがいい。今回の暴走は人間関係による情緒不安定が原因だ】

 


「やはり、ポッターは……」

 


やはり一人でいる気がしたのは、本当で。
それが苦になって――

 


【まぁまぁ。大体本気で失望しておれば、魔力暴走はこの程度では済まなかった。禪が暴走すれば、この学校など吹き飛んでしまうからな。それがこの程度でとどまっているということは、それをしたくないと主は考えたのだろう】

 


「……つまりは情けをかけ――」

 

禪は甘すぎるのだ。
ポッターは生いきで――

 


【ああ、違う違う。確かにそれもあるだろうが、“大切なもの”まで壊したくないからだ。主は変なとこまで優しいからな。親しくしてくれた者はともかく、消し去っていい敵小物悪党など、捨て置けばよいだろうに、手を伸ばせるのなら掬いたがる。しかもその手立てはあっさり決められているから、もう諦めるしかない】

 


「……なんだと?」

 

掬う手だてを決めた?
いったいどういうやり方でだ?

 

【まぁ、心配せずとも。そのやり方ならば、禪は怪我をしない。危険性もほぼゼロだ】

 


「…………」

 


いったい禪は何を考えて……

 


「して、禪のこの状態をどうすれば、直せるというんじゃな?」

 

我輩が頭を抱えていると、それまで黙っていた校長が口を開いた。

 

 


【ふむ、簡単な事だ。元の姿に戻してやればよい。主の胸元を見よ。たしか、スネイプ教授は知っておろう?そこに何があるか】

 


「ネックレスだな。青と金の」

 


【そうだ。それは、実は彼女のストッパーだ。で、それを外して元の姿とやらにしてやればよいのだが……】

 


「では、私が外します。禪は女性ですし、男性に任せれません」

 

マクゴナガルも立ち直ったのか、そう言った。

 


【ふむ。妥当な線だが、それは不可能な話だ】

 


「なんですって?」

 


【まぁ、そう怒るな。禪は今無意識下とはいえ、毛を立てて威嚇している猫のようなものだ。そこに、ふいに大切なネックレスを触られてみよ。一気に吹き飛ばされるぞ?】

 

「……では、いったいどうすればいいというのですか?」

 

マダム・ポンフリーが聞いてくる。

 

【ほう、校医か。……そうだな、主が無意識下でも気を許す相手にとってもらえばよい。ほらそこに良い例がおるだろう?】

 

 


そう言って慧は我輩をさした。

 


は?

 

「我輩だと?」

 

【禪は変な風に甘いからな。第一印象最悪な人物に気を許しておる。“知っている”せいでもあるのだが、……これ以上は言わぬでおこうか。我も行方が気になっているのでな】

 

そう言って、慧はふふっとか言って笑う。

 

校長たちは顔を見合わせ、禪と我輩を交互に見ながら驚いていた。

 

 


…………我輩がやるしかないのか……。

 

自覚もあるが、こやつら(おもに校長)の前ではリアクションをしてやらんと決め、我輩はため息をついた。

 

 

 

ため息をつきながら、禪の胸元にかかっているそれを外した。


もちろん目線は胸元ではなく、チェーンに行っている。

 

 


すると、禪の身体がどんどん大きくなっていった。

服は破けずに、その身体と同じように大きくなっていく。

 

 

 

【これが、我が主。禪の本来の二十七歳の姿だ】

 

慧が言う。

 

「……精神年齢が二十代後半と言っていたのは本当だったか…………」

 

 

彼女が最初に言っていたことは本当だったか…………

 


【残念だが、ちと違う。禪は、我が主はお前らの敵と同じように“子供”の精神のまま“大人”になってしまった人間だ。どの場所でも、どの地域でも、一人や二人はいる現象だ。いつの間にか、置いてきぼりにされてしまっている、な】

 

「それで、いつもどこか不安定だったのか……」

 


【他の要因もあるがな。だから、心底心配してくれる人物には、甘いのさ】

 

「……言葉がおまえも不安定だな」

 

【それは致し方ない。なにしろ、主といるだけで、その主の言葉に感化されてしまう】

 

慧はそう言いながら、手を彼女の額に当てた。

 


【さて、熱も下がったな。やはり、子供の姿のままでは処理しきれない感情を持て余していたか】

 

額から手を放し、息をつく。

 

【禪。少しだけでいいから、過去を思い出せ。辛くとも、分からなくても生きていくのだろう?】

 

そう辛そうに言って、慧は我輩達を見た。


【後は、頼んだ。我は少し眠る。また会おう、スネイプ教授】

 

 

赤と黒の衣装を着た彼は、溶ける様に消えた。

 

 


禪は結局その日、動かしてはいけないとその場にいた者たち全員が思ったので、我輩のベッドで一夜を過ごすこととなった。

 

 

もちろん、我輩はソファの方へ退避した。

 


                                                 (セブルスside end)


 

 

 

望まれて

 


笑顔で出向かられて

 

笑い合って

 

 

叱られて

 


成長して

 

 

 

勉強して


低い点を取って

 

 

そこから狂って

 


勉強漬けになって

 

叱られて

 

友達居なくて

 

いじめられて

 

一人ぼっちで


寂しくなって

 


アニメにのめり込んで

 

ゲームにのめり込んで

 

漫画にのめり込んで

 

ストレスをそれらで発散して

 

なんとか耐えぬいて

 


テストで高得点とって

 

それでも満足してくれなくて

 


また叱られて


叩かれて


蹴られて


物投げられて

 


自分の中で何かが失われて

 


一時期、声をなくして

 


心臓が痛くて

 


涙が枯れるまで泣いて

 

 


……あれ、っと忘れるように何かを、またなくして

 

 

 


(私はいつ治るの??)

 

 

疑問と過去を繰り返しながら、私は熱にうなされていた。

 


確か大広間を出て私室に向かったのに。


今は誰かの腕によって運ばれている。

 


温かい。

 

 

人のぬくもりはひさしぶりだ。

 

ああ、頭も撫でてくれてる。

 

これは本当ににさしぶりだ。

 

 

 

少しだけ外が騒がしくなって

 

もう一つ温かいものが、出現した感じがした。

 

なんだろうとぼんやり思いながら、熱が引いて行った。

 


ああ、楽だ。

 

 

 

 


私は安心して……

 

 

 

 

 

眠りの淵へと誘われた。

 

 

 

                                                                      次ページ:用法と容量へ

 

最終更新:2015年05月04日 00:39
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