既に遅い時間でもあったので寮の前まで、セブルスが送ってくれた。
『ありがとうございます』
セブルスに頭を下げ、礼を言う。
「気を付けるのだな」
セブルスはそう言って去っていった。
素直じゃないなぁ。
そこがいいと思ってしまう。
もの好きな私だが、そこはありがたく頂戴しておいた。
夫人に合言葉を言って談話室に入る。
談話室に入れば、そこはささやかなハロウィン会場と化していた。
入ると同時に、私はハーマイオニーとネビルに抱き着かれた。
あれ、デジャヴ?
「よかった!」
「もどってきたのね!」
『えっと、二人とも離れてくれません?』
と、お願いしてみたが、二人は離れてくれない。
二人ともご馳走を食べさせてください。
なんとかご馳走を皿に盛り、適当な席に皆で座っても、ハーマイオニーもネビルも離れなかった。
『食べにくいのですが……』
「だ、だって、禪いつもどこかにいっちゃうんだ」
ネビルがぴたりと横にくっついて、カボチャジュースを飲む。
「ごめんなさいごめんなさい」
ハーマイオニーは食べ物に手を付けずに、謝りの言葉を繰り返していた。
『ハリー、ロン。これってどういうこと?』
向かいに座っている二人に助けを求める。
「禪。君が校長室に連れてかれて、みんな退学になると思っていたんだ」
ハリーが口を開く。
「そう、なんだ。僕の方が悪いのに、ハーマイオニーは自分の方が悪かったんだと思って」
ロンが言いにくそうに、顔をしかめた。
なるほどそういう事か。
『大丈夫ですよ、二人とも』
そう言えばまず二人は私の顔を見た。
『私は退学処分になりませんでした。それに一番悪いのは、あの化け物を引き入れた奴ですし』
にっこりと笑って言う。
が、結局二人はパーティーがお開きになるまで離れてはくれなかった。
まぁ、そんな状態だったものだから、後回しにされたことがいくつかあった。
その一つは、パーティーがお開きになり人数が減った時に、ロンがドケ座をしたことで、ハッとした。
「ハーマイオニー、ごめんなさい。禪もごめんなさい」
簡潔である謝罪の言葉であった。
「いいわ、私にも非があったし……」
『それだけ謝る勇気があるなら、許しましょう』
私はハーマイオニーに抱き着かれたまま、彼を許した。
五人がそれぞれの部屋へと戻ったのは、二十時三十分と就寝時間を過ぎたときであった。
私はハーマイオニーに抱き着かれたまま、部屋に戻ると、今度は正面から庸に飛びつかれた。
なぁ~
珍しく、庸はその声を上げて甘えてきた。
庸のことも、後手後手に回った
『ごめんね、遅くなって』
ハーマイオニーに抱き着かれているので、撫でたいが撫でにく。
『は、ハーマイオニー。もう寝る時刻なのですが……』
「ごめんなさい」
彼女は未だに謝っていた。
『ハーマイオニー。謝らずとも、みんな怪我してないです。ですから……』
ベッドに何とか腰かける。
体勢が変わったので、庸が移動した。
膝に移動した庸は、ハーマイオニーの手をなめた。
彼女は少しビクッとなった。
『庸も心配していますよ』
そう言えば彼女はゆっくりと離れていった。
ちゃんと氷で冷やしてもらったようで、目元の張ればだいぶ引いていた。
「禪、あの……」
『ハーマイオニー。夕食、食べていないでしょう?さっきほどまでのパーティーでもそうでしたが……』
彼女が何かを言いかけたが、それを言わせずにハーマイオニーの腕から抜け出して、サイドテーブルに手を伸ばした。
そこには後手に回した最後の布石がある。
サイドテーブルに乗っていたのは、大広間ですぐ杖を向けて部屋に送っておいたカボチャパイだ。
『はい、ハーマイオニー』
彼女にそれを手渡す。
「……ありがとう」
彼女はそう言って、受け取り、少しずつ食べ始めた。
杖を一振りして、紅茶も出す。
寝るまで、結局終始無言ではあったが、それでも私たちの間を取り持つように庸がウロウロして、私たちの仲が悪くなる事は無かった。
ハロウィンが終わってやってきた十一月は、冬の始まりであった。
原作通り、朝には霜が降り、広葉樹である木々は葉を落とした。
朝のマラソンは継続しているが、服装を変えている。
睡眠時間も変わっていない。
あのトロール事件があってから、ハリー、ロン、ハーマイオニーは仲良くなった。
原作外にはなってしまったが、その仲良しに私とネビルも加わり、三人組ではなく仲良し五人組となっている。
この月はホグワーツにおいて、いわゆるクディッチシーズン。
ハリーはもちろん、不本意ながら補欠となってしまった私もその練習で忙しい。
『ハリーがスニッチを取れることを祈るよ……』
ため息をひとつつきながら、朝のマラソンを終えた。
既にその距離は湖を半周するまでになっており、結構な基礎体力がついていると考えられる。
ゆえに、持久戦とかでもある程度は持ちこたえれる自信はあった。
しかしそれが、ことクディッチとなると話は少し違ってくる。
すなわち飛行センスだ。
私はマラソンを終えて、軽い運動を始めた。
原作を外れている以上、クィレルをどう阻止すべきか悩みどころだ。
もちろん、セブルスと同じように反対呪文を唱えてもよいとは思うが、それは相手に気づかれる危険性がある。
マダム・ピンスに聞いて、薦められた本を読んでみたが……
やはり反対呪文というのは、日本の呪い返しと同じようなものらしい。
呪い返しといえば、よく陰陽で出てくるが、あれは必ず返した側もかけた側も、双方が双方を認識している。
つまりは被害者と加害者がずっとにらみ合う結果になってしまうのだ。
それは、クィレルに差し伸べる手が短くなるどころか、彼自身が敵意むき出しの為、助けを乞(こ)ってなどはくれまいという結論に至る。
ハリーは助けたいが、クィレルには敵意を向けられては欲しくない。
なんと贅沢である難しい選択肢であろう。
右も左も欲しいというのだ。
素直なハリーは助けられるだろう。
しかしながら、考えが捻くれているクィレルは確実に助けれる存在ではない。
今のところ、ホグワーツの中で真実を知り、彼を助けようと考えているのは、私だけである。
『贅沢かなぁ。でも救えるだけ掬いたいのよなぁ』
ひと運動を終えて、呟く。
北風は強くなりながらも、日の光にその冷たさを少しだけ和らげた。
クディッチというスポーツのシーズンになっても、授業は通常運転だ。
通常の授業をこなし、放課後は課題とクディッチの練習。
このサイクルが今日からずっと始まる。
『ふぅ、考えると嫌ですねぇ』
まるでどっかの専門学校に行っているみたいだ。
………………
まぁ、ホグワーツも専門学校には違いない。
私は寮へと戻り、服を着替えた。
そして、五時であることを理由に、食堂ではなくセブルスの自室へと向かう。
私の足元には庸がいた。
セブルスに言われた通り、忠実に私の護衛をしているのである。
『ごめんね、庸。昨日は遅くまで一人にさせたうえ、今日も今朝からかなり仕事させちゃって』
仕事というのはもちろん、私の護衛のことだ。
庸は一度顔をこちらに向けて、すぐに前を向いた。
確認しただけなのだろう。
私は少し苦笑しながら、セブルスの自室へと歩を進めた。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
「それで、貴様はなぜ我輩のところに来ておるのだ?」
セブルスの自室を訪ね、紅茶を出した彼が問う。
『いやぁ、昨日のこともありましたし、セブルスに聞きたいこともありましたし……』
「もっと簡潔に言いたまえ」
相変わらず、彼は察しがいい。
『……例の物は大丈夫でしたか?』
そう言えば、彼はため息をついた。
「貴様は、そのような心配を……」
『しなくてはいけない立場ですので。それに三頭犬のこともありましたし』
「どうせ“知っている”貴様なら、わかっておろう?」
『ええ、無事だったのでしょう?あの子はすんなり通してくれました?』
「……ああ。少しじゃれてきたが、一言言えば通してくれた」
『やっぱり、先月の間に縮み薬を飲ませてストレス発散してあげたのが良かったのでしょう。それと毎日とはいきませんでしたが、会いに行ってあげることも、いくばくかストレス発散になり得たでしょうし』
二人して九月から、ずっとあの三頭犬をかまっていた。
もちろん私からの発案ではあるが、それでもセブルスはあの三頭犬と仲良しになった。
『どうやら、怪我などはしていないようですね。無事で何よりです』
彼は本来怪我をするはずではあったが、それらの行為により、怪我することなくちゃんと戻ってきた。
「ふん、その言葉。そくっリそのまま、禪に返そう。トロールなんぞを相手にしたのだからな」
危険度でいけば、確かに私の方が勝る。
確かに昨日は、危ないことをしたもんだ。
『んまぁ、その危険きまわりないことをしたから、ここに来ているのですよ』
私の言葉にセブルスがピクリと反応する。
「それは罰を受けたいと――」
『違う違う。私はそんなにドМじゃありません』
「……」
さらりと言えば、彼は顔をしかめた。
少しばかり動揺しているようで、片手をあげている。
今更だけど、やっぱりセブルスは可愛ええのぅ。
って、思考がおっさんじゃん!
『昨日も言いましたように、私が魔法を使うと少しばかり強すぎるんですよ』
「大人のトロールの一撃を止める事が出来る盾の呪文が、すこしか?」
『あははは、そこは言葉のあやです。で、その強すぎるというところなんですが、何となく原因らしきものが一晩寝て――』
「わかったのか」
セブルスが遮って、結論を言う。
『あれ、もしかして文脈で分かりました?』
「はぁ、分かりやすすぎだ。分かりづらく言うならば、もっと頑張りたまえ」
『えへ』
「……はぁ。とにかく我輩に何をしろというのだ」
ため息をついて、セブルスが言った。
『……忙しいでしょうが、私と実践の練習をしてもらえますか?』
「トロールを倒せたのだ。別に必要は――」
『あります。というか、あんな魔法の連発はさすがに無理だと思います』
「……それはどういう意味かね?」
『あ、ヤバ。口滑っちゃった』
セブルスが杖を向けてくる。
「話したまえ」
『まだ時期尚早なので、拒否します』
「いいから話せ」
『せめて私が四年生になるまで、お話しできません』
「……そうか。では、その年に何かあるのだな」
『ギク!』
やっぱり文脈で察してしまったらしい。
『せ、セブルス。あのー……』
「貴様は、なぜそう全て背負おうとする?我輩では力不足か?」
私はその言葉に目を見開いた。
セブルスが、気を使っている??
というか、原作に書かれていた彼にしてみれば、歯の浮くようなセリフではないか?
……まさか、これが二次元と三次元との違いか!
私は数秒の内に色々と考えて、ため息をついた。
『別に、今は平穏そのものですからね。ちゃんと話すときに話します』
「禪!」
『そう声を荒げないでください。私は力不足とかいう意味ではなさないとかではないんです』
私は彼を静かに見つめた。
『それに今年はまだ小物と言えど、奴を何とかせねばホントの平穏はあり得ない』
「それはそうだが……」
『彼自身、今月は一回はしかけてきますでしょう』
「なん、だとっ!」
セブルスが目を見開く。
『さて、その狙いは何かわかるかな?』
「……ポッターか」
意地悪で質問したのだが、セブルスにはお見通しのようだ。
『あらあら、セブルスには簡単すぎましたか』
「奴が狙うなら、ポッターかお前だからな」
『ちなみにどのタイミングで狙うか分かります?』
「皆目見当がつかんと言えば、禪は満足かもしれぬが、あえてこの月に狙われるというのだ。この月にしか行わない事なのであろう?ならば、クディッチ以外あり得ぬ」
『さすが、セブルス。分かってらっしゃる』
「……ということは、禪。貴様も狙われるのではないか?」
『予想だにしていない補欠選手になってしまいましたからねぇ』
「何をのんきに言っている!貴様には危機感というものがないのか!!」
セブルスが声を荒げた。
『いえいえ、ありますよ。それも含めての実戦訓練のご教授を窺いに来たのですから』
心配してくれるのはありがたいが、ある意味無用だ。
『それに、あくまでも補欠ですからね。出番がなければ、狙われません』
そう言えば、セブルスがまた溜息をついた。
「……出番はないのか」
『無いはずですよ。ま、気楽に行きましょう』
すっかり冷めた紅茶を飲む。
『で、ご教授は?』
私は再三の質問をした。
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