朝早く目が覚めては、朝のマラソンと体操をして、制服に着替えハーマイオニーと共に朝食をとり授業に出席し、みんなと課題をする。
課題を終えたあとは自由時間で、私はもっぱらセブルスのところに行っては、彼を四階の三頭犬と触れ合わさせる。
以上が、私がハロウィンまでの日々の行動であった。
ハリーたちは黙々と授業をこなしながら、セブルスへの不満を漏らし。
片やそのセブルスは、ハリーにかつての苛めっ子の姿と贖罪を感じながら、授業と研究、そして三頭犬との絆を作っていった。
この間にハリーは、正式にグリフィンドールのクディッチチームのシーカーになった。
練習にも打ち込み始め、彼は多忙な日々を送っている。
ロンはその応援とかで忙しいそうだ。
ネビルは、放課後スプラウト先生にいろいろ教えてもらっているらしく、彼も忙しい身になった。
残るハーマイオニーは、図書館に入り浸り、読書の日々を送っている。
つまり、みんな授業以外ではバラバラの生活を送っていた。
そして、問題の一九九二年十月三十一日はやってきた。
その日はくしくも土曜日で、やはり皆起きるのが遅かった。
ほんとに原作の曜日はアバウトだったのね。
早起きして朝のマラソンをしながら、そう思った。
確か作者も認めている事項で、色々と辻褄が合わないはずである。
……この状況でどうやってロンが酷い事を言うというのだろう?
あの場面は確か、妖精の魔法の授業後という件があったはずだ。
うーむ、悩みどころである。
妖精の魔法の授業でずっと神経を張り巡らせていたというのに、これではどこで何が起きるか想像がつかない。
いや、それにみんなちゃんと夕食に来るのだろうか?
土曜は祝日だし、みんな自由に動いている。
どの寮も一人や二人はいないのではなかろうか……
こちらのハロウィンというものをあまりよくは知らないが、一応調べまくった事がある。
私はその時の記憶と知識を、引っ張り出していった。
確か……もともとケルト人の収穫祭で、宗教がらみの行事であったはず。
確か死者を迎えるのと、悪霊やら魔女やらを追い出す為のものだった。
うん、魔女を追い出す為の行事を魔女がやるって矛盾だよね。
まぁ、同じ魔女っていう言葉でも意味が違うらしいけど……
追い出すのは確か魔女と言いつつ、妖精の一種だった。
バンシーとかがそうで……
死者を迎えるっていうとこは、日本の“お盆”と同じだよね。
で、いつの間にかカボチャが主流になったけど、実はあれカブの一種をあの顔にしていたという……
なんだっけ?ルで始まる……あ、ルタバガだ。
あのカブって自生してたよな、一九二〇年のスウェーデンに。
ハロウィンで常套句の“Trick or
Treat”は比較的新しく、子供の脅し文句であって、ただ流行っていっただけ。
マグル世界なら漫画っていうメディアツールで伝わっていって……
って、漫画だよな。
やっぱ、マグルありきの魔法界なんだな。
じゃなきゃ、こっちにも伝わらねェよ。
よし、マジで容赦なく倒してやろ(もちヴォル様をな)。
後は……火を持ち帰るっていう事が、なくなったって事か。
収穫祭で、村とか町でやっていたものだから、集会所とか広場、または神殿・社とかに行って、そこで儀式して……
そんで火をもらって、家の暖炉の火をつけ直すんだよね。
うーむ、いろいろ紆余曲折だよなぁ。
って、いつ間にやら、この湖半周してるし。
どうやら考え事をしていたので、走るコースを間違えたようだ。
考え事も長すぎれば、このように何かに支障が出てしまう。
今後の教訓にせねばと、私は気を引き締めた。
その後、軽い運動をして校内へと戻る。
カボチャの匂いが鼻孔をくすぐった。
朝のマラソンであれだけ考え事したが、現段階ではステルスモードを使いまくるしかないのではなかろうか?
あの“Trick or Treat”から逃れるには……
しかしそうも言っていられない。
なにしろ、授業がない以上。
ハーマイオニーがどこで、ロンに酷いことを言われるか分からない。
ならば、彼女の傍に付っきりでいるしかない。
と、いう結論が出る。
セブルスの方は……まぁ、何とかなるでしょ。
布石は打ってあるし……
兎にも角にも、今は別問題が発生だ!
そう内心で思い、私は寮に帰らず厨房を目指した。
え、なぜかって?
せっかくの服を小麦粉で汚したくないでしょ?
二時間後、私の手にはバスケットがあり、その中にはカボチャのクッキーがたくさん入っていた。
無論、Trick or Treat対策である。
よし来てみやがれ!
……って、なんかちがうか。
そう、一人漫才をしつつ、私は寮の自分の部屋へと戻った。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
「Trick or Treat!」
寮に戻って、まず初めにこの言葉を使ったのは、ロンだった。
『はぁ……』
ため息をついて、カボチャクッキーを渡す。
「うわぁ、いつの間に用意したんだい?」
『今朝ですよ』
「今も朝だろ?」
『いえ、十時ですから朝と言えません』
相違はなって、ロンに背を向け目をこすりながら起きてきたネビルへと足を向けた。
『ネビルー。いるかい?』
クッキーをちらつかせてみせる。
「いる!!って、あれ言った方がいい?」
『別に言わずともいいよ。あれは雰囲気を楽しむための常套句さ』
そう言いながら、ネビルにクッキーを渡した。
「ロン。ハリーは?」
『まだ寝てる?』
ネビルとともに、ロンに問いかけてた。
「それがいなくてさ。もう既にクディッチの練習に行ちゃったみたいなんだ。これがベッドの上に置いてあったよ」
ロンがふてくされて、紙を差し出した。
紙にはメモ程度のことが書かれている。
“ロンへ
クディッチの練習に行ってくる。起こしちゃまずいだろうから、静かに出てくよ”
『……あらら、今日も練習なのね。で、なんでロンはふてくされてるんです?』
「だって、あいつ僕を置いて行ったんだぜ?」
『そんなことですか、そりゃ気持ちよさそうに寝ている君を見たら、起こさないで行きますよ』
「だよね。ぼ、僕だってそ、そうするし」
「……ついでに言えば、ロン。あなたって今から応援に行くっていう考えはないのかしら?」
ズザザアアアア!!
いきなり背後に現れたハーマイオニーに、私たち三人は吃驚して後ずさりした。
『ハーマイオニー、いつの間に起きてきたんです?』
「今さっきよ。あ、それってクッキーよね?」
ハーマイオニーが私の手の中にあるものを見て言う。
『ええ、そうですよ』
「じゃ、Trick or Treat」
私はハーマイオニーにクッキーを渡した。
この間に、ロンは床へと膝(ひざ)を折り、悔しがっている。
『久しぶりにこのメンバーですね』
「そうね、最も一番いなかったのはあなたなのよ?禪」
『あはは、そうですね。まぁ、そこは致し方ないと思ってください。今日はハロウィンですし、こんな日にまで練習をしているハリー達にこのクッキーを届けに行きません?』
「いいわね!あら、ロン。あなたはどうするの?」
ハーマイオニーが、いまだに悔しがっているロンに聞いた。
「……」
ロンは返事をしない。
「ね、ねぇロン、行こうよ」
ネビルが引っ張る。
「……わかった」
ロンが起き上がり、のろのろと寮の出口へと歩いて行った。
残った三人は、それぞれ肩をすくめて見せ、彼の後を追う様にして寮を出た。
『やっほー、ハリー』
いつかの時のように、彼に手を振って声をかけた。
クディッチの競技場は既に一度入っているが、やはり木造でどこか日本を思わせるところがあった。
日本も大半の建物は木造である。
「禪!みんな!!」
ハリーは降下しながら叫んだ。
ハリー以外のクディッチ選手もそれぞれの練習をいったん中止し、駆け寄ってきた。
……そんなにお菓子欲しいのか……
「……確か君、ハリーといた――」
一番最初に声をかけてきたのは、キャプテンのウッドだった。
『禪です。お久しぶりですね』
「「姫!!」」
ウッドに挨拶して雑談しようとしていたら、双子に挟まれた。
「「Trick or Treat!!」」
さすがは双子。
重複した声で完璧なシンクロを見せてます。
目がクッキーにくぎ付けで、それが輝いているとこもです。
『はい、ということで、こんな祝日も練習する人たちに差し入れのクッキーです。というか、少し食べておいた方がいいと思うよ?』
そう言って、ウッドたちにバスケットをそっくりそのまま渡す。
「いいのかい、ありがとう。いやぁ、実はこんな日でもないと、ゆっくり練習なんてできなくてね」
ウッドが嬉しそうにバスケットを受け取りながら言う。
「「そうそう、スリザリンの奴らうるさいし、みんな揃うとこなんてなくてさ」」
双子が早くもクッキーをぱくつきながら言った。
『……そうなの?って、毎週うるさいの?』
「実はそうなんだ、禪」
ハリーもクッキーを手に取って言う。
『うーん、それって観客席からヤジ飛ばすとか?』
「ああ」
「「そうなんだよー、姫ぇ」」
「そうなんだ、マルフォイとかがいろいろ言っててさ」
ウッド、双子、ハリーの順に言う。
って、なんで双子半泣きなんだよ。
他の選手も三人の回答に頷いていた。
『うーん、ということはそれ練習妨害ですよね。手まわして注意するように言っときますよ』
「えっ?!どうやってさ!」
ロンが吃驚する。
って、お前が吃驚してどうするんだ。
『ああ、まぁスリザリンの監寮であるスネイプ教授に言っておくだけですが……』
「あのスネイプ教授にか?」
ウッドがしかめっ面する。
『まぁ、こちとら手伝いやらなんだで顔突き合わせてますし、そのギブ・アンド・テイクだと言って注意しますよ』
「……禪。それ半分脅しじゃない?」
ハリーが眼鏡を輝かせて言った。
『まー、そうね。でもあちらはプライドが相当高いですし、すぐ止めさせてくれるでしょ。“我が寮の恥になりかねない”とか言ってね』
セブルスの真似をしつつ言う。
「「姫ぇ!ありがとぅ!!」」
双子が挟み込んだ状態で抱きついてきた。
だからなんで泣いてるんだ、おまいら。
『そう言えば、あんまハロウィン祝ったことないんだよねぇ』
観客席に移動してからポツリと言った。
「「「ええええええええ!」」」
一緒に移動してきた、ロン、ネビル、ハーマイオニーが叫ぶ。
「御馳走食べれるんだぜ?」
「あれだけ家の扉叩かれるのに?!」
「街じゅうオレンジと黒一色なのよ!?」
彼らは口々に言った。
って、ロンは食い意地張ってるんですか。
ネビルは……もはや何も言うまい。
街じゅうそうなのかい?ハーマイオニー。
『まぁ、日本では宗教が違うため、ハロウィンというのは企業とかの商品戦略に利用される行事でしかないんですよ』
「……え、それってみんなカボチャのお菓子とか作るってこと?」
ロンが聞いてくる。
『うーん、別にそうじゃないですが、基本はそうです。まぁ、お菓子屋さんとかケーキ屋さんとかがそうなるだけですけど』
「仮装してお菓子をもらいに来る子は?」
今度はネビルだ。
『いないかなぁ。子供だけでそんなことすれば、親が黙っていないんですよ。なにしろ、この行事は先ほど言った通り、宗教上から浸透していない。と、なればお菓子をねだりに隣の家を尋ねても戸惑いが生まれるだけで、下手すればトラブルになりかねない。よって、ハロウィンってのはしないんですよ』
「え、警察とかも動かないの?そうしたらトラブルにはならないでしょう?」
ハーマイオニーが聞いてきた。
『まぁ、確かにそうですが。しないのが普通なんですから、それは街じゅうですることにはならないのですよ。せいぜい特定の通りだけとか、デパートの中だけとかに留まるので……』
それぞれに、そう返しておく。
「日本って変わってるね」
「宗教が違うなら仕方ないわよ、ロン」
「だね、国が違うとやってることって少し変わるし……」
皆さんがっかりする。
『まぁまぁ、そう落ち込まずとも。もともと日本は、お祭りの数が多い国なのですよ。こちらと違って神様が多い国ですし』
余ったクッキーをかじりながら言う。
「神様が多い?」
ロンが聞いてきた。
って、トップバッターは君が多いね。
『ええ、そうですよ。むしろ数えきれないので、八百万(やおよろず)の神々なんて言い方しますね』
「やお?」
聞いた事の無い言葉だからだろう。
ハーマイオニーが聞いてきた。
『八百万(やおよろず)。日本の文字で八百万(はっぴゃくまん)て書いて、そう読むんですが』
「数えきれているじゃない」
『いえいえ、あくまでこの言い方は“いっぱい”っていう意味でしかないんですよ』
「そうなの」
ハーマイオニーは興味つつで耳を澄ませていた。
そこまでして知識が欲しいのね。
さすがは組み分け帽子がレイブンクローと迷った訳だけある。
『ま、そういうことなので、お祭りというものが飽和状態なんです。ですから、他のお祭りが入っても、宗教が違う事もあり、そんなに盛り上がってはくれないのですよ』
「へぇ~」
別にどうってことない説明だが、それでもハーマイオニーは真剣に聞いていた。
クディッチの練習は、見ているだけでも面白い。
選手が踊るようにして、それぞれの練習をこなしてゆく。
見ていると、ウッドが箒に乗って観客席の方へときた。
「ちょっと誰かハリーの練習を手伝ってくれないか?」
意外な事であった。
選手以外がその練習に混ざってもいいのか不安だという困惑が、私達に生まれる。
『みんな選手ではないんだけど?』
皆が言いづらそうなので、代わりに言った。
「ああ、そこはさっきマクゴナガル教授がきてね。その時承諾してもらったよ。ちゃんと一筆もらってる」
ウッドはそう言って一枚の紙を見せた。
“私、ミネルバ・マクゴナガルはここに補欠選手の練習参加を認めるものとする”
……
内容が内容なので、みんな固まってしまった。
「って、この中の人が補欠選手になるの?!」
我にかえったハーマイオニーがツッコむ。
「ああ、そういうことだ。一応、マクゴナガル教授は、ロンか禪だそうだよ」
『え、私、候補入ってんの?』
「僕も?!」
名指しされたロンと私は、驚いて顔を見合わせた。
「ああ、そうだよ」
「補欠ってどうすればいいのさ!第一こんな簡単に決めていいのかい?」
しごくまっとうな答えをロンが返した。
ハーマイオニーもネビルも、コクコク頷いている。
「まぁ、そうなんだが、他にあまりいい人材がいないんだ。ロンは双子の推薦で、禪は授業で見事な飛行を見せているし、マクゴナガル教授の推薦だ」
これまた信じれれない言葉を、ウッドが言った。
『ええ?』
私はそんなに見事な飛行でもしただろうか?
「……そういえば、ハリーがシーカーになった時。禪はネビルを的確に助けてたよな?」
少し考え込んだロンが、思い出しながら言う。
「そういえば、そうだったわ。まさかあんなに素早く、しかも呪文を使って確実に助けるなんて思っていなかったし、その後にハリーの事があったからすっかり忘れて……」
ハーマイオニーも思い出したように口を開く。
「そうだよ。僕それで命拾いをしたんだ」
ネビルがあまり思い出したくは無い様に、複雑な顔をした。
あれか、飛行訓練初日か。
……やっぱ目立ちゃってたんだ。
『いやいや!あれはその時だけだって、とっさの出来事!!』
「違うでしょ?その後の飛行訓練はすんなりと楽勝だったし、みんながやれないようなこと一発で成功させるし」
「呪文も一発で成功してるもんな」
「そ、そうだよ。誇っていいよ」
言い訳しようとしたが、ハーマイオニー、ロン、ネビルの順に次々と言われ、それ以上の言い訳はできなかった。
『……ロンはどうする?私はやるつもりないんだけど』
他にもいろいろ言われ、断れそうにない私はため息をつきつつ、聞いた。
「僕?うーん、そうだな。ウッド、補欠は何人いるべきなんだい?」
「基本的には一人だ。それ以上は他の寮が黙っていないだろうし……」
ロンに話を振られたウッドがそう答えた。
「だよな、となると多彩な才能があった方がいいんじゃないか?チェイサーもキーパーも、ビーターも、シーカーもできる様なやつがさ」
『って、ロン。その条件じゃ誰もいないんじゃない?』
無理難題を言い始めたロンを、私が制する。
「そりゃそうさ。だから補欠なんてそうそういないんだ。それに指名されるのはいいんだが、自分にそれがあるかどうかが――」
『不安ね。私もです。ロンはチェイサーとキーパーは出来るんじゃない?』
「推すなよ。そりゃ家で乗りこなしちゃいるが、幾人もの目の前でできるわけがないだろ?!絶対どっかで失敗しちゃう!!……その点、禪ならシーカー代行もできそうだよ」
『ロンも、推さないでくださいよ。第一、シーカーは結構な動体視力がいるんですよ?ハリーもその点において選ばれたんです。私はそのような動体視力はないんですが……』
「嘘言え!君はハリーと一緒に何かしてただろ!」
ロンが声を荒げた。
『ん?別に――』
「禪」
ハーマイオニーが袖を引っ張った。
「確かあなた、ハリーがネビルの思いだし玉取る時に石を止めたでしょ?ロンはその時のことを言ってるのよ」
『え、あれ呪文だからできたことで……』
「いいえ、動体視力で読み取ってからの対処でしょ?なら、シーカーも可能だわ!」
ハーマイオニーも推した。
え、なにこれ。
マジで原作から外れると、こういう面倒なことしなきゃダメなの?
「禪」
ロンが真剣な声で、私を振り向かせるように言った。
私はそちらに顔を向ける。
「僕は来年チェイサーを目指す。だから補欠には君がなって欲しいんだ」
そこに、いつもふざけているロンはいなかった。
どうも断れないようだ。
はぁ~とため息をつき、片手で頭をかく。
私ごときに補欠なんてできるだろうか……
だが、やる前に諦めてしまっては、ロンがなる事になり、それは来年以降の予定(シナリオ)がズレる。
『わかったわ。私が補欠になる』
私の言葉に、その場にいた人が全員嬉しがった。
みな小躍りしている。
『ただし』
私がそう続ければ、しんと静まった
『ただし、私が今日の練習でハリーがしている練習を一度でも成功出来たらの話よ?』
「君なら、大丈夫さ」
ロンがそう言って、ウッドから渡された箒を私に差し出した。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
ロンに差し出された箒に跨り、空へと上がる。
箒はすんなりと私を空中へと運んで行った。
「じゃ、まずクディッチの内容は知っているかい?」
同じく空中に上がってきたウッドが言う。
『あ、それは知ってます』
伊達に原作も映画も見てはいません。
「そうか、それならいい。で、さっき君が言っていた――」
『禪でいいわ』
「……禪が言っていたハリーが今している練習だけど、実はこれなんだ」
ウッドが懐から何か取り出した。
それはゴルフボールで、禪の知る限り原作にあった練習方法そのものである。
『それを取れという事?』
「察しがいいな。そういうことだ。これを僕が投げる。それを取ればいい」
『てっきり、ハリーはもうスニッチを使った練習をしているものと思っていたわ』
だからこそ、引き受けたというのに、これでは本当に補欠になるだろう。
私はそう覚悟した。
「まぁ、それがフツーなんだが、これがそうもいかなくてな。例のスリザリンの連中がいるっていう件で、それが出来ずにいたんだ」
『敵に知られたくないからでしょうか』
「その通り!本当に君は察しがいいね」
『ありがとうございます。まぁ、ハリーが天賦(てんぷ)の才を受け継いでいるのは、スリザリンにも分かっている事ですわ』
「……どういうことだい?」
私がそう言えば、ウッドが顔をしかめた。
『簡単な事ですよ。スリザリンという寮はっても過保護な親が多くてね。それを手紙でやり取りして教えてきた親がいたんですよ』
これは無論、ルシウスの事である。
「なんだって!」
こいつぁ驚いた!とばかりに、ウッドが吃驚した顔をした。
『ですが、その練習方法と私の登用という要素があれば、スリザリンは油断するに違いないでしょう。未だに本番の練習をせず、補欠を入れたとなれば、敵は“ハリーにその天賦の才がなかった”、“補欠を入れるほどグリフィンドールは弱いのだ”と思わせ、油断させる事が出来ます』
「……」
私の言葉に、ウッドがポカンとして言葉を失った。
しばらくして、彼は言葉を紡ぐ。
「……君、補欠じゃなくて僕と変わってキャプテンした方がいんじゃないかい?」
『いえいえ、私はあくまで補欠です。まだ一年生ですし、一応そう言う情報とかは集めてみますが……』
そう私は苦笑して返す。
「そ、うだったな。わるい、今のは忘れてくれ。だが、そういう情報が手に入ったら、僕にも知らせてくれ」
ウッドはそう言ってから「練習を始めよう」と言って、禪から少し離れた。
ウッドは少し離れた場所まで行くと、ゴルフボールを投げ始めた。
私は箒をコントロールして、落ちていく球を追いかける。
きき手を伸ばし、それを取り、宙へと舞い上がった。
「やればできるじゃないか」
ウッドが目を見開く。
下ではロン達が拍手をしていた。
『たまたまですよ』
私は苦笑して、ウッドにそれを渡す。
彼はまたゴルフボールを投げた。
そして、私はそれを難なくまた拾う。
それを何回も繰り返した。
私が玉を落とす事は無く、拾ってくるのでウッドは目を輝かせていた。
「禪は、ハリーとも並べるほどだぜ!!」
彼の興奮は空中でそう叫ぶほどであり、それを聞いたハリーや他の選手、下にいるロンたちは喜んだ。
逆に私は、少しだけため息をつく。
まさか、こんなことろで時間が無くなるとは、思ってもいなかった。
そう思う、今日この頃である。
そうして一定の時間が流れた後。
ウッドはチェイサーの連取へと戻り、私はハリーと交互に球を投げ合う練習をしていった。
季節はすっかり秋を深めていく。
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