線引き


目が覚めると、そこにはセブルスの寝顔がありました。

 

ふぎゃん!
私は、なな、何をして!!
って、昨日睡眠薬飲ませられたんだっけ。
じゃ、不可抗力じゃん不可抗力。


………………


しかし、セブルスって、眉間にシワがないとこういう顔なんだね。
可愛いけど……
さて、今は何時だろ?


少し身じろぎして、懐中時計を取り出す。

懐中時計は七時をさしていた。


……体内時計はホントに正直だな。
昨日は十二時過ぎに寝たから…………


しかし、そうなると、校内はいつも起きる時間より人が多い。


つまりは、マラソンしてたら、あのクィレルにバレバレ。

 

…………今日は断念するか。

 

 


「貴様は何を百面相しておる?」

いつの間にかセブルスの目が開かれており、此方を見ていた。


うぁ……


『えっと』

「どうせ、また一人で行動をしようと思っておったのだろうが、そうはいかぬぞ?」

言いかけた私をセブルスが制する。

『……う』

「それに今日は日曜だ。少しは羽を休めたまえ」


……え、今日、日曜だったけ?


『日曜?』

「分かっていなかったのか?」

セブルスが呆れた顔をした。


『この頃、曜日感覚ズレてるんですよぅ』

少しだけふてくされて言う。

「何をふてくされておる。それに羽を休めろと言ってもそれは半分本気で、半分冗談だ」


はい?
今なんて言った?


『……セブルスが、冗談を言っただと!?』

「そこに驚くか。まぁ、良い。貴様は先週の事を覚えておるか?」

『え、スルーなの、スルーしちゃうの?!てか先週?』


…………


『もしかして、ドレス?』

それしか思い浮かばない。

「ああ、そうだ。つい昨日の夕方、借り止めしたものが出来たそうだ。で、行くぞ」

そう言って、彼はベッドを出た。
私もベッドから出て、シワクチャになった制服を正した。


別に事に及ばれたわけじゃないけど……卑猥だな。


「さて、とにもかくにも朝食を食べるか」

セブルスが杖を振ってサンドイッチと紅茶を出す。


…………


『セブルス、大広間には行かないの?』

「貴様は二人して部屋を出られるとこ見られたいのかね?」

『……それは、このホグワーツにおいて致命傷を負いかねない事ですね』

「そうであろう。しかも禪はグリフィンドールだ。敵対しているはずの寮の監寮と一緒にいるところなど見られでもしたら、スパイではないかと疑われるぞ?」

『まぁ、ハリーとロン、ネビル、ハーマイオニーは、私がダンブルドアの孫になった事も知ってますので、何となく察してはくれるとは思いますが……それ以外の生徒は、そう思うかもしれませんねェ』

言いながらソファに座り、サンドイッチをぱくつく。

「貴様いつの間に話した」

ハリーに話したことがどうも気に喰わないらしい。

『確か……初日の時点でハーマイオニーに話して、先週の金曜にハリーとロン、ネビルに話したよ。あ、ハーマイオニーは事後承諾で、ハリー達三人にはその場で、それぞれアルバスじいちゃんに承諾してもらいました』

「……なぜ我輩には連絡が来んのだ」

セブルスには、アルバスじいちゃんが話していなかったらしい。

『おそらく、私がじかに話すことを待ってたのじゃないかな?って、その分だと、ミネルバにも連絡が行ってないよなぁ』

アルバスじいちゃんについて行くのは、骨が折れそうだ。
私はため息をつきながら、紅茶を飲んだ。

 


 


ということで、簡単な朝食をとった後、暖炉の前まで来た。

「さて、先週と同じように煙突飛行で行くことになるのだが……」

『無理そうですねぇ。また噛む気がします』

「で、あろうな。という事で、我輩に摑(つか)まりたまえ」


『え?』

呆ける私。

「ちっ、早くしたまえ」

セブルスはそう言って私の腕を引っ張り、暖炉の中に入れ、

「ダイアゴン横丁」

とはっきり言って、フルーパウダーを叩きつけた。

 

 

こうして私とセブルスは、ダイアゴン横丁に向かったのである。

 

 

 

 

 


◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇

 

 

 

 

『どうです?』

借り止めされたドレスを着てみて、マダムに問う。

「お似合いですよ。色も教授の見立てどおりでしたわ」

マダムは心底してやったり感気味に言った。

『ありがとうございます。という事は、後は微調整ですか?』

「ええ、そうなるわ。あ、もちろん今日じゃないけど、装飾もしなきゃね」

『これだけで、もう様になっている気がしてるんですが……やっぱり装飾するんですね』

「パーティードレスというものは、着飾ってこそなんですよ」


無事、煙突飛行でダイアゴン横丁に着いた私とセブルスは、マダム・マルキンの店に行きこうして、借り止めしたものを微調整されていた。

私はマダムが担当についているが、セブルスは別ところで別の人に借り止めをされている。

『ふぅ、なんか着ているだけで疲れますね』

「まぁ、ドレスなんてそんなものですよ。それに、お嬢さんなら大丈夫。そんなに綺麗なネックレスしていらっしゃるんだもの」

マダムは私の首元にかかっているネックレスを指差して言った。

「誰からのもらい物?結構高そうな宝石がついているけど――」

その質問を、私は苦笑してごまかした。


ついている宝石は“ラピスラズリ”だ。
ラピスラズリは、元々最古のパワーストーン。
そして、こうも言われる。


“最強の聖石”


魔力が大きく、杖の芯に神様の一部が使ってある私にとっては、何よりの鉱石だ。

トリップ時につけていたので、今でも身につけているが、未だ力を発揮などはしていない。

 

 


私のドレスの微調整は、意外にもすんなりと終った。
一か月にも満たないので、成長などはしておらず、そんなに手間はかからなかったのである。

 

 


ちとさみしいが、致し方ない。

 


「よかったわ。これで借り止めしていた糸の上から縫って、それを抜けば、ほぼ完成ね」

『そういうことですね』

ドレスを慎重に脱ぎながら言う。

「あ、教授の方はまだ少しかかりそうなの。どうする?」

『そうですね、あとどれくらいかかるでしょう?』

「うーん、男子の正装だから……三十分てとこかしらね」


三十分とは、結構かかるものである。


『……結構時間ありますね』

私の言葉に、マダムが苦笑する。

「結構短い方なのよ?まぁ、今回は貴方の方のデータが変わってなかったから、すんなり終わったけど、女性の方が作りが複雑になるものが多いから、時間がかかるはずだったの」

『へぇ~』


これは、三校対抗試合の歳は早く作りに来た方がよさそうだ。


「じゃ、また追って連絡するわ」

そう言ってマダムは行ってしまった。

 

あれ?
私どうしよ?

 

結局どうするか、返事をせずにいた私である。

 

 

一人残された私は結局、店内を見て回ることにした。

 

 

ついこの前私服を買ったばかりだが、セブルスが終わるまでなら、これくらいで大丈夫のはずだ。

見て回ると、この前、制服を買った時にフリフリの服を薦めてきた店員が、またそういった風の服を薦めてきた。


懲りないねぇ。


私はやはり、やんわりと断りながら、三十分経つのを待った。

 


案外三十分というのは短いもので、セブルスはすぐに姿を見せた。

もちろんというか、真っ黒ないつもの姿で。

 


燕尾服姿いつ見えるかな?


そんな疑問を頭に浮かべながら、私はセブルスに駆け寄った。

「……終わっておったか」

『制服の時と変わってないそうですからね。まぁ、少しだけ直しましたけど。そう言うセブルスはどうだったんです?』

 

言いながら店を二人で出て、漏れ鍋へと歩き出す。

 

「我輩はいつも通りではあったが、少し肩幅の方が気に喰わんくてな。直してもらった」

『……もしかして、肩こってたりします?』

「……ああ。すこしな」

『じゃ、ホグワーツに戻ったら、おもみしますね』


そうして二人とも煙突飛行でホグワーツに戻った。

 

 

 

 

 

 


◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇

 

 

 

 

 

『セブルス~』

ホグワーツに戻り、セブルスの自室で紅茶を飲みながら彼を呼ぶ。

「なんだね?」

セブルスはちょうど完成した魔法薬を、ビンに詰めながら聞いていた。

『もうじきハロウィンだっけ?』

「……それがなんだ」

私の質問は、よほど間抜けに聞こえるのであろう。
しかし、私本人としては真剣に言いているつもりである。

『別にお菓子をねだりはしないよ~。ただ単に日にち聞いただけ』

「あと二週間程度だな。禪がそれを聞くという事は……」

『セブルスって、あれだよね。察しがいいというか、頭の切れがいいというか』

「いいから答えろ」

いつの間にか、セブルスが杖を握って首筋に突き付けていた。


いつの間に忍び寄ったん?


私はため息をつきながら、両手を上げる。

『まぁ、セブルスが考えてる通りですよ』

セブルスが眉間にしわを寄せて、舌打ちした。

「ちっ、やはりポッターが……」

『あー……心配すんのもわかるけど、一応私いるし大丈夫だよーん。それより、セブルスの方が心配』

「なに!?」

『だって、セブルスってあの三頭犬に慣れてないっしょ?』

「……」

そう、セブルスは主にペットに慣れていない。
いやペットに限らず動物に慣れていない。


ま、“動物もどき”と“半分動物”の苛めっ子たちがいたのだから、致し方がないが……


『って、ことで今から三頭犬のとこ行こ?』

「何が、とういうことで、だ。我輩はまだ――」

『いやいや、もういくつも作ったでしょーが。セブルスは働き過ぎ。いくらそろそろ風邪の季節だとしても、そんなに必要はないって。それ以上必要になったら、手伝ってあげるから』

「ふん、まだ一年生の貴様の手など借りん。このての魔法薬は――」

『はいはーい。保存がきくとかどうとかはいいから。そんなことは“知ってる”から。んな事よりほれ行くよーん』

セブルスの抗議をものともせず私は、ひそかに取り出した杖をセブルスに向けて振った。
セブルスはとっさに身構え避けたが、魔法はしっかり彼にかかった。

彼の身体が数センチ浮くという状態で。

「何をする!?というより貴様、いつ無言呪文を覚えた!!」

『こうでもしないとセブルスってついてこんしょ?あ、ちなみに無言呪文は最初っから出来てました。一発成功でした。もち“慧”のおかげです』

結界とかは杖を振っておらずとも、無言呪文の範囲に入るだろう。

とにかく、セブルスを宙吊り(?)にしたうえで部屋を出た。
彼は浮いたまま私の後についてくる。

「こんな姿で生徒に見られでもしたら……」

反対呪文とかは通用しない術にした。
よって、セブルスは頭を抱えて、ふわふわと浮かぶことを余儀なくされた。


という感じではあったが、この一行は生徒に見られることにはならなかった。
それに、すぐに三頭犬のところに行くのではない。

「……なぜ、ここに来る必要が……」

強制的につれてこらされたセブルスが、顔をしかめる。
それもそのはず。
私が連れてきたのは、四階などではなく、厨房。

『昨日の時に約束してるんですよ~。お肉持ってくって』

食いしん坊のが三つのうち一ついるし、食べ物の恨みというのは怖い。

「まったく、なんで我輩がこんな……」

セブルスはまだ悔しがって……いや恥ずかしがっているようで、片手で顔を隠している。

『まぁまぁ、今後の保険だと思ってくださいよぅ。それに生徒や他の教授方とは合わなかったでしょう?』

「どういうことだ?」

怪訝な顔をしてセブルスが聞いてくる。
私は僕妖精に、バスケットいっぱいに鶏肉を入れてもらいながら、言った。

『ちゃんと人払いの呪文かけてんですよぅ。そりゃ用意周到に。んでもって、今それを厨房の外あたりにかけっぱです』

ほんとはステルスモードを使ってもよかったのだが、出来るだけ慧のこの能力はハリーの透明マントの様に隠しておきたい。
なので、慧に頼って別の術を行使することにしたのである。

「……もはや、何でもありか」

『まぁね。さてと、ありがとうね』

僕妖精にお礼を言って厨房から出る。

『じゃ、今度こそ行きましょうか』

そして四階へと歩いてゆく。
セブルスは相変わらず浮いていた。

 

 

 

 

 

◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇

 

 

 


『やっほー、来たよーん』

そう声をかけて部屋に入れば、三頭犬は嬉しそうに立ち上がってこっちに来た。

「……もはや驚かんな」

セブルスは浮いたままで、頭を押さえている。
それはすんなり私が呪文を使いこなしているせいであろう。

『はいはい、じゃ、そろそろ降ろしてあげるから、逃げないでね』

「とうぜんだ。すぐさま降ろしたまえ」

不機嫌そうにセブルスがため息をつきながら言う。
私は杖を振ってセブルスを降ろした。

『んじゃ、翻訳魔法でもかけますか』

慧にお願いして、かけてもらう。

【禪。もしその者にも聞かせたいのであれば、服とかを握っておくとよろしかろう】

慧がそう言ってくる。

(ありがとう、慧)

【なんのことはない】


『セブルス~。ほい』

「……なんだ」

私が自らローブの裾を差し出すので、なんだろうと思ったのだろう。
セブルスが首をかしげた。

『まぁ、いいから握っておいてください。というか握ればわかります』

半ば強制的に握らせる。
セブルスは握ると同時にびくついた。
大きな声が三つ聞こえた為である。

≪あ、早速来たんだね≫
≪して、その者は誰だ?≫
≪肉―!≫

やはり三者三様の回答であった。

「禪、これはいったい……」

呆然とするセブルス。

『翻訳魔法です。オリジナルですよ~』

そう言えば、セブルスがばっと此方を向いた。

「なんと、しかし……」

オリジナルで魔法を使うものなど、そうそういないのであろう。

『慧と私にかかればお手の物なんですよ~。あ、とにかくこの子と仲良くしてやってくださいね』

≪禪、その人だれ?≫
≪早く名を教えろ≫
≪肉~!≫

『ああ、ごめんね。はい、とりあえず肉投げるよー』

そう言って肉を三方向に投げてやった。
やはり三者三様に、肉に喰らいつく。

『あ、セブルスとにかく自己紹介』

「ああ、わかった」

彼は三頭犬が肉をそれぞれ飲み込んだ後で、自己紹介し始めた。

「我輩の名は、セブルス・スネイプだ。ここで教授をしておる」

≪へぇ、先生なんだ≫
≪なんの担当だ?≫
≪肉もっとなぁい?≫

三者三様に返すが、やはり一人は食いしん坊のよう。

『ほいほーい。今日はもうちょっと持ってきたからね』

そう言って、また投げた。
三頭犬が食らいつく。

『ほい、セブルス。答えてあげなよ』

「う、うむ。我輩の担当は魔法薬学だ」

≪薬?≫
≪ほう、面白そうだな≫
≪おいしー≫

『そりゃよかった。彼とは仲良くしてくださいね~。後で役に立ちますからね~』

「……何が役に立つのだ?」

利用する気満々ではないかとセブルスが疑いの目を向けてくる。


その視線恐いです。
マジでハリーが敵視する訳がひしひし分かります。


『そう睨まないでくださいよ。セブルスって心配性ですし、例の物を見に行くこともあるかもしれないじゃないですか。で、あればここでこの子に襲われないようにしておけば、変なトラブルとかもないでしょう?』

「だが、それがこの三頭犬に役に立つとは……」

『うん、そこはギブ・アンド・テイクってことでこの子の悩みを解決欲しくてですね――』

「つまりは、何かの魔法薬が欲しいとかか」

『ぉう、さすがは察しがいい人。正解でーす。というより、ほんとはそうでもしないとこの子、死ぬよ?』

「どういうことだ?」

ほんとにわかっていないセブルスが聞いてきた。

『簡単な事さ。この部屋は、この子にとっては小さすぎる。食器棚の下に子供が隠れているような状態さ。ハリーでいけば、今住んでいる部屋と同じ』

「こやつがポッターと同じ状況だと?!」

『まぁ、そう苛立たない。ハリーは御厄介になっているとこで冷遇されてんですよ。セブルスって、床下とか階段下に長時間入った事ある?』

 

「……ないな」

 

『私はある。で、ハリーもだ。ハリーはずっと階段下の小さな物置を部屋とされいれられていたんだ。だから、あまり責めんでやらんでくれ。ハリーもこの子も、同じように閉じ込められて精神面に支障が出る。それは致命的な欠点になりかねないレベルだ。となれば、責めない方がいい。まぁ、目を光らすのはいいけど……』

「……禪は、なぜ、そういうことになると言葉が多くなる?」

『へ?』

「気づいていないのか……貴様は自分のマイナス面であるとおしゃべりが多くなる。それがどうしてなのだと聞いておるのだ」


『…………たぶん、私もストレスが出てるのだと思う』


「禪にか?」


『うん、多分そのストレスは色々な原因があるけど、一番は話し相手がいなかったこと』


「……」


『あ、セブルスが気にすることじゃないよ。もし、ほんとに聞いてほしくなったらちゃんと言うから、ね?』


「わかった」


『で、欲しい魔法薬なんだけど……』


「悪用する訳じゃないだろうな?」

『違う違う。欲しいのは“縮み薬”。一時的でもこの子を小さくして。部屋の中を駆けずり回してやれれば、ストレス発散になるでしょ?』

「なるほど……それならよかろう」

セブルスは頷いた。

 


そうして二人は、三頭犬と少し仲良くなってから、また人払いの術をかけてセブルスの自室へと戻った。

鶏肉を入れていたバスケットは、セブルスが杖を振ればその場から厨房へと姿を消す。

『さすがはセブルスですね』

術の見事さに感心した。

「ふん、このくらいどうってことない」

セブルスは鼻を鳴らし、もう一度杖を振った。
すると今度は、テーブルの上に紅茶のセットとクッキーが現れる。

『セブルスにしては珍しいですね。クッキーとかあまり甘いものは、お好きではないでしょう?』

そう、セブルスはシンプル派、つまり素朴な味が好みのはずだ。

「我輩とて、こうも頭を使っては脳に糖分が足りず、処理が滞るのでな」

『?……何か頭使いました?』

私がそう言うと、セブルスがきっと睨んできた。


え、マジ何かやったか私?


「貴様の呪文のレベルが高すぎるのだ。とても一年生ではないぞ!」


あ、そこか。


『しかたないじゃないですか。出来ちゃうもんは出来ちゃうんですし』

「絶対にあちら側にはバレるな!!そして、授業ではそのような事態になる事を避けるため、少しは演技しろ!」

セブルスがどなるように言った。

『うーむ、演技というのはちと難しいのですよぅ。ですので、自制します』

「……それが、貴様の答えか」

『というより限界ですね。既に敬語でしゃべることは周囲にわかられていますし』

ソファに座って、本日何度目かの紅茶を飲んだ。

「はぁ、貴様というやつは……」

『まぁ、あきれてものも言えんとか言うでしょうが、そこはマジで諦めてください』

 


そう言って、私はセブルスと数時間、寮に帰るまで紅茶を飲んだり、魔法薬を調合したりしていた。

 

 

 


 

 

 

(ハーマイオニー視点)

 

どうして私のルームメイトは読めないのかしら?

 


このホグワーツに来て最初に出来た友達。


それが、ルームメイトの禪・蔡塔だった。

 

彼女は珍しい東洋人で、とても珍しい組み分け困難者になったわ。

同じ部屋だし、とても可愛い猫を連れているから、初日にちゃんとお話ししたかったのに、初日にもかからわず、彼女は寮に来なかった。


その日は結局、彼女の猫と一緒に、彼女を待ちながら寝てしまった。


そしたら、次の日の朝彼女がいわゆる“朝帰り”してきたのよ?


問い詰めたら、もっと信じられなかったわ。


・・
あのピーブスに認められてて、しかもダンブルドア校長の孫ですって?!


規則守ってないのに??

 

……けれど、彼女はそれ以上に並々ならぬ知識と道案内を披露したわ。


だって、みんなが迷うこのホグワーツで、彼女はどの授業も一番乗りで、呪文も一発で成功させたのよ?!


・・
あのスリザリンしか贔屓しないセブルス・スネイプ教授まで、言い返したわ。
しかも私が知り得ない事まで、言ってたけど。


そんな禪が土日にいなくなる。
しかも、言い負かした相手のセブルス・スネイプ教授の用事とやらで。

 

可笑しくはない?

 

飛行訓練の時だって、彼女は何もしてないのにマクゴナガル教授にハリーと共に連れて行かれてしまったわ。
飛ぶのだって、すぐに飛べたし。
ネビルを助けるのも迅速だったわ。


しかも、その後ハリーとロンが、マルフォイに引っかけられて決闘に行ってしまって……
私は止めたのに、彼らが止まらなかったの!!
……成り行きで私もネビルもついてくる羽目になったけど、その中に禪はいなかったわ。


ほんとに彼女は、どうなっているのかしら?
校長命令でも出てるの?

私達が三頭犬なんて、危険な生物から逃げてきた後、寮に戻ったけど、それでも禪はいなかったわ。
まったく、ハリーもロンもあの部屋の仕掛け扉に気づかないなんて……
鈍感にもほどがあるんじゃない!?


そして、禪は次の日の朝も寮に戻ってこなかったわ。
あ、今日の事よ、これは。

 

ほんとに彼女は、いったいどういう人物なのかしら?
ハリーとロン、ネビルの三人から聞いたけど、禪は義理の孫なんですって?
ダンブルドア校長はなんだって、そんな彼女を孫にしたのかしら?
もっと、規則を守る子を選べばよかったのに。

 

 

まったく行動が読めない子。
それが私の友達のはずの、禪・蔡塔。


彼女がこの部屋に帰ってきたら、とっちめてやろうかしら?
でもまぁ、ちゃんと事情は話してもらえるのよね。
今までそうだったし。


けれど、彼女はホントの事言ってるのかしら?


何か引っかかるのよ。
彼女時々意味不明だし……
なんか私達と彼女の間に、ガラスの壁でもあるみたいで……
ハリーとロンは無鉄砲だし……
ネビルは失敗しすぎだし……

 

 

 

とにもかくにも――――

 


早く帰って来なさいっよ!!禪!!!

 

                                                                    (ハーマイオニーside end)

 

 


 

 


寮に戻る間、私は一人だ。

セブルスが付き添うとか言ったが、それではホントにスパイ容疑をかけられかねない。

だから、それを辞退し、一人で寮へと戻る道を歩いていた。

現在の時刻は、十七時。

空は夕闇に染まりかけているが、ホグワーツは賑やかな声に包まれている。

その為、他の生徒や教授も歩いたり喋ったりしているが、そこは問題ない。

彼らの目に私は映ってなどいない。

またステルスモードを使用しているのだ。


こうしていると、ホグワーツがイキイキとしているのがよく分かる。


そして私が、異分子であることも……


別に私がおらずとも、世界というのは回ってしまうのだ。
いや、そうであってなくては困るが、少し寂しさがある。


こういう寂しさが、あのヴォルデモートを作ってしまったのではなかろうか?


まぁ、そうであろうともその寂しさを助長させてはならない。
それに、社会に必ず必要される人物になどなってはいけないのだ。
必ず必要にされる。
それは“不可欠”という事だ。
この“不可欠”というのは厄介なもので、生きている内は重宝されるし、優先もされる。

しかし、問題は死ぬ直前と死んだ後だ。

人であれ物であれ、無くなってしまうことが分かった時、人は混乱するのだ。
代用する、つまり代わりになるものがあるかどうかと。
もちろんそんなものはない。
人であれ、モノであれ不死ではいられない。
まったく違う運用の仕方、まったく違う製法、全く違う人事。
それらに変わらぬ限り、不可欠になったものが抜けたところは混乱し続ける温床にしかならないのだ。


だから、“不可欠”など必要がない社会の方が混乱が無くてよいのだ。

 

 


そういえば、クィレルは自分を特別だと思っているのであろうか?

 

 


不可欠というのをもっと簡単な言葉で言えば、それは特別であろう。
クィレルはそれになりたいと、少々思っているのだ。

 

 

ま、ちゃんと更生してやりますがねぇ。


思考の海から自分を引きずり出し、今自分がどこにいるかを再確認する。

歩いている内に寮の前まで来ていた。


……ちょっと気が重い。


はぁとため息をつく。


柱の陰に隠れ、ステルスモードを解く。


同室のハーマイオニーや、ハリーたちに何と言ったらよいか……


気まずいながらも、私は夫人に合言葉を言って寮に入った。

 


寮に戻ると、談話室でハーマイオニーとハリーたちが待ち構えていた。

 

 

うわー、なにこれ死亡フラグ?

 


「禪!!いったいどこに行ってたの!?」

ハーマイオニーが駆け寄ってくる。
その形相は決していいものではなかった。

『えっと……』

「言い訳をしても無駄よ?」

「そうそう、禪はまた先生方の用事とやらで借りだされてたんだろ?」

「ま、マクゴナガル教授に聞いたらそうだっていてたんだ」

私が言いよどむと、ハーマイオニー、ロン、ネビルの順にそれを制され、何も言えないないとため息をついた。

「で、実際はどうしてたんだい?」

満を持してハリーが質問してきた。


あはは、こりゃ似た者同士だわ。
ハリーとドラコって。
とにかく、無難に答えるのがよさそうだねぇ。


『まぁ、その通りよ。先生方の手伝いをして……昨日今日とスネイプ教授の魔法薬の手伝いを大半してたから、また“元の部屋”で寝泊まりしてたのですよ』

私はそう言った。

「そうなのね、だからこんなに薬草の匂いがするのね」

ハーマイオニーが私の服を嗅ぎながら言う。


どうにか誤魔化せれたようだ。
まさか、セブルスと一緒に寝ましたとは言えない。


「あ、そうだ。禪、変身術のレポートできた?僕もハリーも、ちょっとわからない事があるんだけど……」

「ロン、私もわからないのよ?」

「は、ハーマイオニー。ぼ、僕も分からないんだけど……」

空気を読めない子であるロンが聞いてきて、ハーマイオニーとネビルが張り合う様にして聞いてきた。


何この状況。


『……ロンはいいとして、ハーマイオニーも分からないんですか?』

「僕はいいってどういう事さ!」

「そういうことよ。あ、私がわからないっていうのは専門的な知識とかじゃないのよ?」

ロンとハーマイオニーが漫才の様に言う。

『?どういうこと?』

ハーマイオニーがわからないなんて、どういう事かと首をかしげた。

「ほら、ここの用語よ」

そう言って彼女はレポート用紙を見せた。
そこにはミネルバが出した題名が記載されている。
その一部に確かに分かりにくい言い方が使われていた。

 

“follow in somebody's footsteps”

 

翻訳(ほんやく)すれば日本人でも分かりにくい、または意味を勘違いする言葉である。


『えっと、“踏襲(とうしゅう)”ね。これは意味を受け継ぐとかやり方を同じにするとかいう意味よ。マクゴナガル教授ももっと簡単に“受け継ぐ”って言ってしまえばよかったのに……』

「なんだ、何かを襲うとか襲われるとかじゃないんだ」

なぜだかロンはがっかりしていた。
本当に意味をはき違えていたらしい。

逆にハーマイオニーは勝ち誇るように胸をそらした。

「ね、言ったでしょ?そもそも変身術で何かと対峙する事は無いって」

彼女は、がっかりとしてうなだれたロンに言った。


って、何かと対峙するつもりだったんですか、ロン。
あれだよね、ノリでハリーも一緒に何かと対峙する気満々だったよね?!

 

という事で用語の意味も解けたとこで、まず夕食に行ってからその課題にみんな手をつけ始めた。


が、私以外一向に進まない。


って、おまいらどうした?


「ねぇ、禪」

『ん?』

ハリーが聞いてきた。

「あの単語の意味って本当に“受け継ぐ”でいいの?」

『そうだよ』

「でもさ、この本のどこを受け継げばいいの?」

まったくわからないと、ハリーが両手を上げた。
今回ミネルバは、教科書に書かれていたある本を課題に挙げている。

『ああ、そこはちょっととらえ方が違うんですよ。受け継ぐという意味はあってますが、本を受け継ぐでは確かにわかりかねるでしょう?そこでとらえ方を変えてやると、“この本が総じて何を言いたいかを理解しそれを受け継ぎつつ、自分なりの意見を述べよ”って解釈してやればいいんです』


ミネルバもお人が悪い。


「……そういう意味なんだ。まったくわからなかったよ」

ハリーは目をぱちくりさせた。

「ほんとだぜ、本を真似ろとかだと思ってた」

片手を頭に当てて、ロンは顔をしかめて見せる。

「あなたはそれでいいわよ。私なんか本のどこの内容か分からなくて後書きを読んでたのよ?」

ハーマイオニーは意味を考えすぎて、疲れた顔でため息をついた。

「ぼ、僕まったくわからなかったよ……」

ネビルはまったくお手上げだと言っていた。

『まぁ、兎にも角にもそう言う事ですから、そのように解釈して課題を進めましょう』

皆にそう言って促した。

 

そうしてようやく課題を済ませた後、みんなそれぞれの部屋に戻り寝てしまったのだった。

 

 

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最終更新:2015年05月21日 22:02
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