禪・蔡塔という人物は、不安定だ。
時にもろく。
時に知識豊富なところを見せ。
時に無知に。
時に満面の笑みで。
時に鋭く。
時に――――
――――――どこか影を持っているように見えた。
実に不可解な人物である。
あの“ウスノロ”と同じようなとこもあるのに、校長は“例のあのお方”に似ていると言っていた。
我輩としては、あの森番い近いところがあると思っているのだが、マクゴナガルから見たら“不憫な女の子”で活発で利発と思っているようだ。
このような違いはどこから来るのか?
答えは単に、彼女が不安定だという事に尽きる。
このような……こんな人物は初めてだ。
このホグワーツの組み分けの様にすぐに仕分ける事が出来ればよかったものを。
そうすれば、我輩のペースは保てていたのだ。
あのポッターの前での初授業さえ、禪が邪魔をし、ペースが保てていなかった。
いや、ポッターの前だからこそ保っておきたかったのに、彼女の前では、それは出来ない事であった。
まぁその次あたりからは、我輩のペースで授業を進めれたのだが…………
しかし、どれにも当てはまるらしい禪だからこそ。
ホグワーツの組み分け帽子によって組み分けされる時に、組み分け困難者にならざるをえなかったのではないか。
つまり、彼女はどれにも染まりどれにも染まれないという矛盾した存在。
我輩はどうしたいと思っておるのか……
何となくの自覚はある。
が、それを確信まで持っていく自信はない。
グリフィンドール流に言えば、それは“勇気がない”とでもいうのだろう。
我輩は、部屋で紅茶を飲みながら考える。
湯気が立つ紅茶からは、我輩が独自にブレンドしたフレーバーが香る。
禪はこの紅茶を、実においしそうに飲んでいた。
その姿は普通だった。
ふぅっとため息をつく。
禪には普通のままでいてほしい。
我輩のペースを乱してまで、ポッターを庇ったが故に彼女はあのルシウス・マルフォイに目を付けられた。
それは闇側に目を付けられると同意義。
元闇側であった我輩だからこそ、それが手に取るようにわかる。
それに、彼の息子のドラコは、親に似すぎだ。
まぁ、中身は純粋のようだが、闇を闇とわかっておらん。
危険分子であることには間違いないが、きちんと言い聞かせれれば、まだ踏みとどまれるかもしれぬ。
……ドラコ如きより、今はクィレルの奴をどうにかせねばな。
奴は何を考えているか分かりかねる。
もはや、あのお方についても意味を成さぬだろうに。
しかも、奴は何処か奢っているようだ。
奴も先輩と同じように、禪に目を付けている。
心しておかねば、禪は闇側に囚われる。
はぁ
我輩はまた溜息をついた。
これは既に囚われておるな、あの感情に。
我輩はそれを自覚しつつ、ソファに身を任せた。
自覚した後。
我輩は夜の見回りを始める。
今日は、なにやら夕食の席で、ドラコがポッターに何かを言っておった。
何やら胸騒ぎがする。
何も無ければよいが……
月明かりに照らされる校内を歩く。
しんと静まり、行内は夜の冷たい空気に満ちていた。
我輩は、比較的に夜の方が好きだ。
調合するのに最適だからである。
魔法薬の調合では、些細な音や変化を見逃すことが致命傷になる事もあるのだ。
まぁ、生徒が作るレベルのものではなく、あくまで創作・研究の物ではあるが……
ふと足を止めた。
気配はなかったが、人影が見えた。
小柄で……先程まで考えていた人物。
こちらも気配を消したまま近づき、その人物を引っ張た。
「このような場所で何をしている?」
首根っこを掴み、そう言えばその人物――禪はぎこちなく見上げてきた。
まったく、困る。
「我輩の部屋で、話を聞こうか」
そう言って、我輩は彼女を捕まえたまま、部屋に戻った。
胸騒ぎとは、的中する物なのか……
禪を部屋に連行しながら、我輩はまた溜息をした。
今夜は長い夜になりそうである。
自室に着き、扉を閉め、禪を解放した(いえ、放り投げた、が正解。本人は単に解放したと思っている)。
真実薬を取り出し、脅した。
しかし、彼女には効かないと、本人に言われ手にした真実薬をしびれ薬に変える。
すると禪は動揺し始めた。
ふむ、こちらのほうが彼女に効くのか……
悪戯心を刺激され、我輩は思わず口元に笑みを浮かべる。
いつもの我輩のペースにそのまま持ち込み、禪に何があったか問い質した。
すると彼女は、首を可愛らしくかしげて見せる。
内心少し動揺したが、それをねじ伏せ、再び問い質した。
彼女は開き直って、洗いざらい話し出す。
禪が話し始めると、我輩は笑ってもいられなくなった。
我が、スリザリン寮の生徒が情けないことをしていたためである。
というより、物事をちゃんとした形で知ってはいないようで、それを大勢の人の前で言った事が、スリザリンの面目を潰していた。
まったくルシウス先輩もその息子も、困ったものだ。
やはり、事にはあのポッターが絡んでおり、禪はその安全を確保するために動いたと言う。
………………しかし、あの三頭犬を手なづけてしまうとは……
呆気にとられるというか、やはりあの森番に似ておるのではないであろうか……
ポッターは予定以上の人数を引き連れ、校内を逃げ惑ったという事を知る。
しかも逃げ込んだ場所が、禪の予想通り三頭犬のいる部屋であったと言った。
その後、ポッターは無事に怪我をせず皆で去り、寮へと戻ったらしい。
しかし、ここで矛盾が出た。
禪は扉の開け方と閉め方、そしてポッター達からどう姿を消していたかである。
まだ彼女は一年生だ。
その呪も術も、知らないはずである。
それを聞けば、どうやら杖に助けられているようだ。
禪の杖は特別だ。
校長の杖もそうではあるが、格が違う。
禪の芯には“神”の一部が使われていると言っていた。
つまりは、その“神”に頼って術を行使しているという。
…………何という事だ。
まさか、どの呪文も術も思う通り使用可能とは……
まさに規格外の杖だ。
杖の事もあるが、やはり彼女を一人で行動させるのは問題があるようだ。
既に日にちが変わっており、このまま彼女を寮に戻すのは危ない。
あのクィレルが徘徊しておるであろう。
我輩は禪に、今日はここで寝るように言った。
彼女は再び動揺した。
楽しい。
その動揺する姿を見るのが楽しい。
いよいよ、動き出しておるなと、自分の感情を再確認し、もう一度同じことを禪に言う。
渋る彼女を、また首根っこを掴んでベッドに放り投げる。
何やら無意識に心の声が出ている禪に、眠り薬を飲ませた。
彼女は意識を手放し、眠りにつく。
我ながら、やっていることが少々手荒い。
自分がそうでもしないと……
…………我輩は何を考えておるのやら。
自覚し、それを解き放てば、己の矜持が壊れそうになっていることに気づいた。
「まったく、目が離せんというかなんというか。呆れた奴だな」
ため息をひとつつく。
このセリフはどちらに向けたものであろう?
禪にであるのか、我輩自身にであるのか……
まぁ、今はまだよい。
まだお互いそう付き合いは短い。
もう少し、もう少しでよいから、このぎこち内容な関係上で、彼女の反応を楽しんでいたい。
我輩はそれ以上考えたくなくて、また溜息をひとつつく。
己もベッドに身を横たえ、彼女にシーツと毛布をかけてやり、眠りについた。
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