『さて、どうしたものかねぇ』
流れで寮を出てきたとはいえ、独りであることに間違いはない。
うーむ。
なぁー
足元で声がした。
『ん?』
そちらを見れば、庸がいた。
『あの短い時間でついてきたんですか、庸』
ゴロゴロ
庸がすりついてきた。
ああ、メチャ可愛いい。
『庸、行こうか』
身もだえしたいのを抑え、庸を頭の上に乗せる。
それから歩き出した。
『さて、どこにいるかねぇ』
当てなどない。
「「姫!!」」
……なんかいた。
また抜け穴らしきとこから双子が登場した。
『あ、午前中お世話になりました。助かりました』
一応礼を言っておく。
「「いえ、姫が無事であるならば!!」」
やっぱり、ノリに着いて行けないよ君ら……
『ハリーが今どこにいるか分かります?』
「「ハリー?彼がどうしたんだい?」」
ついて行けないと、話題を切り替えた。
『実はまだ寮に戻っていないんですよ。マクゴナガル教授に連れて行かれたのですが、既にお話は終了しているはず。それなのに戻ってこなくて、寮で皆が心配しているんです』
「「ロンもかい?」」
『もちろんですよ。彼は特にです。ロンはハリーの親友みたいなポジションにいますからね』
双子が腕組みして考える。
シンクロしたまんま答えるのは、少しばかり怖いですね。
「「では、我らについてこられますか、姫」」
膝を折り、畏(かしこ)まった。
なにをどうしたら、そーなるの!?
『……一緒に探してくれるという事かな?』
「「もちろんです!!」」
うん、なんかナイトっぽいけど、コエ―よ!!
『では、よろしくお願いします』
「「喜んで、姫!!」」
ハリーは意外なとこで見つかった。
なんと、ふくろう小屋にいたのである。
「「やぁ、ハリー」」
双子がそう声をかければ、ハリーは飛び上るほどびっくりした。
「だ、だれ?」
『やほーハリー』
双子に遅れて私もハリーの目の前に姿を現す。
「禪!」
『こんなとこに居たんだね、探しちゃったじゃないか。あ、その双子はロンのお兄さん達だよ~』
「「はじめまして、愚弟がお世話になってる」」
「僕がフレッドで」
「オレがジョージさ」
双子が自己紹介をした。
「よ、よろしくお願いします。ハリー・ポッターです」
ハリーも自己紹介する。
『さて、お三方。寮に帰りましょうか?』
三人を促して、寮へと歩き出す。
『で、ハリー。なんでふくろう小屋にいたの?寮とは真逆でしょ?』
ハリーに聞いてみた。
「えっと、実はマクゴナガル教授とのお話は終わったんだけど、その後帰り道がわからなくて……」
正直にハリーが答えた。
って、この子方向音痴だったけ?
違うよね、違うはずだよね?
『……ちなみにマクゴナガルっ教授の話しってなんだったの?』
“知って”はいるから、聞かずともよいがそれではハリーに怪しまれるだろう。
というか、既に少し疑問を持たれている。
これ以上の疑問を持たれては、私が動きづらい。
色々したいんだよ!?
身動き取れなくなったらどーすんのさ。
「えっと、その……」
ハリーが言いよどむ。
『言いにくいこと?校長から退学ではないって聞いてるから、罰則??』
「ううん、罰則はなかったんだけど、僕クディッチのシーカーにおされて……」
「「凄いじゃないか、ハリー!」」
もごもごと話すハリーに、双子が両肩を叩いた。
「「一年生で、しかもシーカーだって!?」」
『フレッド、ジョージそんなに凄いこと?』
むしろ双子の驚き方の方が凄い、と思いながら聞く。
「「そりゃそうさ!なんたって本来一年生は、選手になれないんだぜ!?しかもシーカーは並外れた動体視力が無きゃダメとくる!」」
『へぇ、そうなんだー』
精一杯の驚きをしてみた。
「禪。それ驚いてるの?」
ハリーが突っ込んでくる。
『驚いてるよー。先週見学してたとこにハリーが入るって事でしょ?』
やべぇ、演技できんわ。
というか、実際にそれがマジですごいことなのか実感わかないよぅ。
「うん、そういうことになると思う」
『ちなみにロンのお兄さん達は?先週の練習に確かいたよね?』
「「ああ、待ってました姫!!もちろん我らも選手です!役どころはビーターです!」」
話を振られた双子が、まるで劇場の役者の様に立ち回りながら熱い説明をした。
『ということは、三人とも選手だって事だね。ハリーは、練習はいつからするんだい?』
「えっと、確か……まだ登録とか制服とかいろいろ準備があるらしいから、来週だって言ってたよ」
ハリーはそう言いながら、目を彷徨わせた。
不安らしい。
『ハリー、そう身構えたり、不安を持たない方がいいですよ』
「「そうだぜ、ハリー。心配はいらねェさ!ルールもすぐに覚えるぜ!!」」
そうこうしている内に寮の前に着いた。
双子が我先にと、夫人に合言葉を言い、「「どうぞ、姫」」と言われ中に通される。
……姫って、なんかしっくりこないね。
私はそんな柄じゃありませんって。
寮に入り、談話室で待っていた一年生たちは我先にとハリーの周りを取り囲んだ。
どうやら、何があったか、聞かれているらしい。
ハリーから、シーカーになったと言われ、その場にいた一年生は乱舞した。
「……禪、ハリーってちゃんと自分のしたこと分かってるの?」
随分心配していたハーマイオニーが、別の意味で心配し始めた。
『……どうでしょう?彼はまだ魔法界とか魔法使いとか上手く分かってないでしょうし、ハーマイオニーの心配も分かりますが、彼はまだ探っている段階でしょう。もし、彼が暴走した時は私達が止めればいいことです』
『あ、もちろんロンもですよ』と付け加えた。
ハーマイオニーには少し難しかったのか、
「……そうね。あとでちゃんと言っときましょう」
と、少し考えてから返事した。
まぁ、分かりにくいでしょうね。
そのうち分かるでしょう。
あ、その前にロンとハリーをハタいてやらんとな。
それこそ、奢りになっちまうぜ。
一時の熱かと思われた“最年少シーカー誕生”の話は、その場で解散になっても、夕食後まで引きずられた。
「……禪。私、ハリーが規則を捻じ曲げてご褒美をもらってると、本気で思ってないか心配だわ」
夕食後に寮の相部屋に戻ると、ハーマイオニーはもの凄く心配していた。
彼女が心配するほど、グリフィンドール生の熱は高かった。
一年生だけにとどまらず、他の学年まで浸透し、夕食後の談話室は既に宴状態に突入していた。
ちなみにその夕食の席では、他の寮にもその話が飛び火している。
ハッフルパフとレイブンクローは、“これで、スリザリンの優勝を阻む事が出来るか”と討議がなされていた。
で、そのスリザリンでは、ドラコ達が歯噛みしながら悔しがっており、その寮の選手たちは練習での役割を改めて談話室で練ろうと計画していた。
つまり、グリフィンドールでは宴。
スリザリンでは選手たちによる練習の練り直し。
ハッフルパフとレイブンクローは、どちらが勝つかを討議する。
というのが夕食後、それぞれの寮の談話室で繰り広げられているのである。
『足元をすくわれなければいいですねェ』
「……どういうこと?」
思わず呟いた言葉にハーマイオニーが反応した。
『いえね、夕食の時にスリザリンから聞こえてきたんですよ。“寮に戻ったら、練習内容の練り直しだ”ってね』
「そうなの!?じゃ、私達もそうすべきじゃ……!?」
『いえ、ハーマイオニーそうとは限りませんよ』
「どうして?あっちが練り直すなら、こっちも練り直さないと」
『まだハリーは正式に選手ではありません。それに、彼が飛ぶのは今日が初めてでした。まずは、飛ぶことに慣れる必要性があります。クディッチに関しては、一応、先週の時に見学したので見てはいますが、それはあくまで練習です』
原作では、ハリーがシーカーになったのは秘密の出来事であり、このような討論はいらない。
しかし物事を断った少し捻じ曲げただけで、このようなことになったのだ。
少しでも私の方に責がある。
ならば、このようにハーマイオニーを諌(いさ)めるのも私がするべきであろう。
「……そうね。今心配しても仕方ないわね」
ハーマイオニーがため息をつきながら、ベッドに座る。
『そうですよ。それに第一私達は寮の人間ですが、選手ではありません。ついでに言ってしまえば、クディッチに関して専門的な知識とかありません』
「そうね、そうなのよね」
一気に落ち込んだハーマイオニー。
やばい、気まずい。
『……そういえば、ハーマイオニーは課題どこまで済ませました?』
私は思わず話題を切り替えた。
彼女はそれを聞くや否や、ばっと顔を上げ、目を輝かせはじめる。
「変身術と、天文学と、妖精の魔法、闇の魔術に対する防衛術は済ませたわ!」
さすがは勉強好きのハーマイオニー。
八割がた終わらせているではないか。
『ということは、薬草学と魔法史、魔法薬学はまだなんですね』
「ええ、それが図書館に行く事より、今日の飛行訓練のために読書を優先させてしまったの。だから……」
なんと課題そっちのけで、“クディッチ今昔”を頭に叩きこんでいたらしい。
彼女らしいが、課題の方が恐ろしかろう。
特にセブルスの魔法薬学が……。
『では、明日図書館に行きませんか?実は私も少し調べ物をしたいんです。あ、ちなみに私は課題終わらせてありますから、あ、もちろん今日出されたもの以外ですけど……。それでよろしければ、一応参考にします?』
「ありがとう!!じゃ、明日図書館行きましょう!」
そう言って、二人ともベッドにもぐりこみ夢の中へと旅立った。
私は基本夢を見ない。
しかし、人間だれしも夢は見るものだ。
ただ単純に起きた時には忘れているだけで、実は見ている。
ただ真っ暗な洞くつで彷徨っている時もあれば、夕暮れに染まる街の中でずっと駆けずり回っていることもある。
夢の中で寝て、更に夢を見ていたという事もあるらしい。
夢を見る見ないというのはつまり、覚えているか覚えていないかだけである。
ともかく、私はその日初めて見た夢を覚えていた。
なにしろ――
【主よ】
――と慧に夢の中で問いかけられたのだから。
しかも、フィールド設定が結構こっており、地獄とはいかないが周りをマグマが埋め尽くし、空には鳶(とんび)のようなものが飛んでいた。
中央にはテーブルと椅子があり、なぜかご丁寧にお茶が淹れてある。
時折熱風が吹きつけ、ここはマグマの中だと信じざるを得なかった。
「なにこれ?」
本日二回目に呆気にとられた瞬間でもあった。
夢。
そのはずである。
【主よ】
響く声。
身体に吹き付ける熱風。
それらが夢であって夢でないと言ってくる。
「慧かな?」
虚空に呟いた。
【いかにも】
返ってくる声とともに、その姿が顕現する。
ちょうど机と椅子がある辺りに。
深紅と黒の着物を着た男性がそこにいた。
「貴方が?」
おそらく、その姿は人型に押し込めた姿。
本来の姿ではないはず。
【主が禪。そなたが思う通り、我が“慧”。そして、この姿は仮の姿】
「杖を持った時と同じという事か……」
どうも、思ったことも伝わるらしい。
【さよう。この空間は現世と同じ。夢うつつと言えども、それは変わらぬ】
「で、あれば思っていること全て口に出しておけばいいのね」
【頭の回転もいいか。やはり認めただけはある】
「お褒(ほ)めに預かり、光栄でございますよ。で、どうして出てきたのさ?こんな夢の中まで」
双方とも会話を続けながら、椅子に座り、お茶を一口飲む。
【今回の件、禪はどういたすのだ?】
「どの件かしら?クディッチ?クィレル?賢者の石?」
【主に関わること全てだ】
「……私に関わること全てねぇ」
『全てとなれば、慧は私に失望するんじゃない?』
【そうか?我は、禪がセブルスとやらに話している内容もちゃんと聞いておったが、失望はしていないぞ?】
『!マジか。え?まじ、ほんと?!』
【何をそんなに驚く?我は禪を主と認め、なお迎合した】
『………………いいの?こんな私で、いいの?』
【良い。我は禪が主でなければ、嫌だ】
「―――――――ありがとう」
ただ、互いにお茶を飲んで喋っていただけであった。
二人がいる場所は、地獄というより、どこかの火山の上のような場所ではあったし、現実ではなく夢の中である。
それでも、それがただ妙にうれしく思えた。
禪はベッドに飛びあがるようにして起きた。
といっても、騒音は立てなかった。
寝起きであるので、そう力はなかったのである。
枕元の懐中時計を手に取り、確認すれば、今の時刻は五時であった。
それはつまり、いつもより一時間余分に睡眠をとっていたことを意味する。
この一時間の余分な睡眠時間は、慧と話したせいであろうか。
認めて、迎合した。
夢の中で、慧はそう言った。
私の中で、再び、感謝の感情と心配するような感情が絡みついて、複雑な感情となり、意識を混濁させる。
不快ではない、むしろそれは歓迎することで、成長期にあるような葛藤だった。
まだ小鳥がさえずるだけのホグワーツで、他に誰が起きていよう?
セブルスは起きていそうだな。
アルバスじいちゃんは……老人の習性で既に着替えていそうだ。
私はとにかく着替えようと、体操着代わりの服をクローゼットから出す。
引き出しではなく、タンスではなく、クローゼット。
別に、カルチャーショックとかない。
確かに米やしょう油は懐かしいし、餅が食べたいと思う時もある。
既に、習慣でなんとも思っちゃいない。
――――戻れないなら進む。
ただそれだけのこと。
着替え終わり、ひと息深呼吸して、寮の階段を降りた。
五時代のホグワーツは少しだけ活気があった。
教職員の一部が起きていて、厨房では僕屋敷が料理の下ごしらえを進めていた。
一時間だけ違うだけで、こんなに違う。
少し違う空気の中、私は校庭に向かった。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
「で、貴様は何をしているのかね?」
静かな朝焼けの中、走っていると禁じられた森の木々の一本からセブルスが出てきた。
『見たとおり、走ってますが……なにか?』
走りながら、速度を緩めずに言う。
「……それはわかっている。貴様は馬鹿か。なぜ一人でいる?」
…………
『え、一人じゃないよ?ちゃんとほら、庸を頭に乗せてるよ?』
はぁ
そう返せばため息をつかれた。
「貴様というのは……。昨日も言ったであろう?それは猫だ。貴様のペットなのだ。少しは我輩を頼りたまえ」
『……えっと、セブルス?』
まだ生徒がない時間のため、プライベート仕様で名前で呼んでみる。
「なんだ?」
『……セブルスも走るつもりなんですか?』
……そう、彼の文脈でいけば、そうなる。
「……」
セブルスが固まった。
自分がした失態に気が付いたのであろう。
というか、それってフラグ立つんですけど!?
いいん??
いいのんか?!!
「べ、別に我輩が走らなくとも良いはずであろう。ほ、他の生徒に頼みたまえ」
――――ツンデレきた――――!!!
え?
マジで、ちょい嬉しいんですけど!!
嬉しさのあまり、私はその日、朝のマラソンを途中で切り上げた。
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