うそだああああああああ!
起きて思ったことが、まず否定の言葉であった。
起きると、セブルスのベッドに寝かされていました。
うん、あれだよね。
私、セブルスに洗いざらい今までの事言ったよね。
そっからの記憶がないってことは、それだけで寝ちゃったの!?
断頭台に上がったのではなく、崖から海に飛び込んだ感じがする……
寝言聞かれた?
それとも、庸がなにかイタズラをした?
少しパニックった後、枕元に杖が置いてあるのを見つけた。
庸が銜えて持っていた私の杖、慧である。
なぜに?
え、庸は?
杖をポケットに入れて回収する。
きょろきょろと見回していると、セブルスが気づいて近寄ってきた。
「気が付いたかね?」
その顔はやはり不機嫌そうで……
ああああああ!
穴があったら入りたい!
『すみません。私、寝てしまったんですね』
寝起きで寝癖がついているかもしれないが、とにかくセブルスに謝った。
近寄った彼の足元には、庸がいた。
……なんでお前そっちに寄り添ってんですか。
羨ましい……
「まったくだ。さて、もう寮に帰りたまえ。今日こそ、締め出されては困るであろう?」
ため息をついて彼はそう言った。
はい、その通りです。
「ついでに言っておくが、明日は我輩の授業があった筈だ。マクゴナガルの時と同様に午後にやる。くれぐれも遅れるな」
『御忠告ありがとうございます』
「それから、もし一人になるのならばこの猫も連れて行きたまえ」
『庸をですか?』
「ああ、そうだ。この猫はフィルチのと同じように賢い。貴様が一人になっても、クィレル如きから貴様を護ることくらいはしてくれるはずだ」
そういう彼はやはり不機嫌そうだ。
『了解しました。じゃ、庸帰ろっか』
庸を促して、『失礼しました』とセブルスの私室を出た。
トテトテと付いてくる庸を見て、ため息をつく。
『庸、私失敗したかな?』
此方を見上げるだけで庸は鳴かなかった。
部屋に帰れば、ハーマイオニーがベッドの上で体育座りしていた。
え……
「やっと帰ってきたのね」
ゆらりとベッドから立ち上がり、こちらに顔を向ける。
そのモーションはまるで、幽鬼。
ひぃ!
「さっき談話室に行ってスネイプ先生の噂を聞いたの。とてもよくない噂だったわ」
彼女はベッドから飛び降り、こちらへと歩いてくる。
どっかの怪談話よりこうぇよ!(*怖いよ!)
ハーマイオニーは部屋の中央で(と言っても二人部屋なのでそこまで遠くない)止まった。
「わかるっ!ずっと心配してたのよ!」
『失礼しました!大丈夫です!御心配おかけしてすみませんでした!!』
私はその場にドケ座した。
ハーマイオニーには頭が上がらん。
下に下に出なければいけない。
そんな雰囲気がバンバンする。
もうへタレでいいです、ザ・へタレでいいです。
許してくだせぇ、ハーマイオニー様!
「ふぅ、まあいいわ。で、明日何があるか知ってる?」
『午前が魔法史と闇の魔術に対する防衛術で、午後が魔法薬学でございます。お嬢様』
怒りをおさめたハーマイオニーに、私はまるでどこぞの僕妖精のように答えた。
ははは、彼には来年会えることであろう。
もちろんドビーの事です。
それ以降はウィンキーも楽しみにしてますぞ。
「そうよ。魔法史はいいとして」
いいのかい。
まぁ、寝る授業と化す奴でしょうけど……
「厄介なのは、闇の魔術に対する防衛術と魔法薬学だわ。どちらもクセがあるらしいの。さぁ、今から勉強よ!」
『……就寝時間まで、あと一時間しかないですが……』
というか、まだやるのか勉強。
ハーマイオニーずっとやってたじゃん。
てか、目輝かせてる……
・・・・
「あと一時間もあるのよ!さぁ!」
腕を引っ掴まれ、机の前に行かされた。
ハーマイオニー、勉強に対する情熱パネぇ!
その三十分後。
「えっと、ここはこうね」
『ん?ああ、ソコはちょい違うよ。こうしてもいいけど、この単語が入ってなきゃアウトにされるんだ』
「へぇそうなの!」
という具合に、実は勉強好きがおでんのように身体にしみ込んでいる私も、彼女と意気投合しておりました。
・・
次の朝、私はとても早く目を覚ました。
時間は懐中時計を見ると四時。
まだ日も差してはいない。
何度も言うが、私の平均就寝時間は六時間。
身体にしみ込んだ習慣は抜けないものだ。
昨夜の勉強と同じように。
この時間に起きたのは、昨日の就寝時間が二十時で、規則を守るハーマイオニーに促され素直に眠ったためだ。
まぁ、ちゃんと睡魔に襲われたのが二十二時であったので、遅い方だ。
本当に二十時に寝たならば、二時に起きなくてはならい。
流石にそれは早すぎるため、わざとずらしたのだが……
それでも早すぎた。
まだ寒い。
だが、もう眠る気にはならない。
ベッドの上で教科書を復習してもよいが、昨日の今日だ。
その気もない。
うーむと考えて、ゆっくりとベッドを下り、静かに着替えた。
そのまま、静かに部屋を出る。
廊下も、音を立てず気配を消し、階段を下りた。
談話室は朝らしい様子で暖炉に火も灯っていなかった。
談話室を通り過ぎ、寮を出る。
「あら、こんな早くにお出かけ?」
後ろを振り向けば、夫人が椅子に座って片目を開けていた。
『おはようございます。ちょっと走ってこようと思いまして』
「走る?」
『ええ、普通の人よりも体力がないんです。それで体力作りのために走ってこようと思いまして』
「あら、そう。その子も一緒に?」
夫人が指差した先には庸がいた。
『まだ、寝ていると思ってたけど、付いてきたの?庸』
庸は無言で私の足にすり寄った。
うは、かわいい。
「ヨウ?珍しい響きね」
『此方の言葉ではなくて日本語でね。中庸っていう言葉からとって庸と名付けたの。意味は平常のこと』
「いい名ね。それと、その子を連れていくなら、肩か頭に乗せてやりなさいな。校長があなたは一人にさせるなっておっしゃたの」
『そういえば、先日もそう言われたとゴースト二人が言っておりましたね。ええ、そうします』
夫人に『行ってきます』と言って背を向けた。
庸は杖を銜えていたので、それを外しポケットにしまい、肩に乗せる。
まだ子猫の範囲の身体なのか、楽勝で肩に乗せる事が出来た。
『庸、多分これから、毎日この時間になるからよろしくね』
なぁーん
珍しく返ってくる返事に和みながら、私はホグワーツの校庭を目指した。
校庭はとても遠い。
映画でも思ってはいたが、このホグワーツはとても敷地面積が広かった。
ですよねー。
禁じられた森も敷地に入ってんですよねー。
すごく広いです。
あの八階の寮から、たった十分で移動してきた私を褒めて誰か。
そんな返事は返ってこない。
こんな朝早くでは教職員も起きてなどいまい。
あのうっとうしいクィレルでもだ。
『さぁ、走るか』
禁じられた森と湖までの間の草原を駆ける。
湖の淵に走るだけで、息が上がってしまった。
『あは、は、情け、ない、ね』
膝に手をつき、息を整えた。
肩に乗っている庸が、バランスを崩しそうになって頭の方に移動する。
少し休憩してはまた学校まで走った。
また休憩して湖の淵へと走る。
その繰り返しを三十分ほどしてから、しだいに走る距離を長くし、休憩を少なくしていった。
五時半になる頃には、ホグワーツと湖までの間を三往復してから休むほどまでに距離を伸ばしていた。
初日にしては良いであろうその結果に、満足して、今度は簡単な運動をする。
初日ならと身体をひねったり、体前屈をしたりと簡単なものに控えた。
基礎体力マジでつけよ。
前の世界じゃ、体育は五段階評価で三だったし。
しかも、ペーパーテストの方を頑張って何とかだぜ?
走ったり、なんかのスポーツだけだったら確実に一だった。
つまり今のままでは、あの最終決戦の臨むどころか、この週末にあるであろう飛行訓練でネビル君救出作戦など出来はしまい。
まぁ、クィレルの奴から逃げ切れる瞬発力とか短距離走程度なら持ち合わせてはいる。
が、いかんせん持久力がない。
というか、スポーツでもすぐ負ける。
例えばテニス。
一発撃つだけで、あとは相手が楽勝で勝ってしまうほど私は弱かった。
ふっ、敗退数ならだれにも負けませんぜ(就職活動も入れて)。
って、誇れることじゃないか。
しかし、短時間でこんだけ走れる距離が伸びるとは……
今思えばマジで努力が足りなかったのよな。
ちと遠い目をしながら、五時半頃、私は庸を頭に乗せたまま、城の中へと戻った。
夫人に挨拶して、寮に入らせてもらう。
談話室を素通りし、部屋に静かに戻った。
昨日とは違い、ハーマイオニーは起きない。
ふぅと安堵して息を吐き、引き出しからタオルを出して、部屋に備え付けられているシャワー室兼洗面所に行った。
洗面台でタオルを濡らして絞り、汗ばんだ体を拭いていった。
シャワーを浴びてもよいが、この時間では、ハーマイオニーを起こしかねない。
昨日の幽鬼みたいなハーマイオニーは、見たくありませんぜ。
庸は、いつの間にかベッドの上で丸まっている。
一人だけふわふわのベッドの上とは、羨ましい。
てか、こやつ食べ物どこでゲットしてんだ?
昨日は私いなかったし、セブルスは上げるような性格じゃなかっただろ?
………………
猫関連でまさかのフィルチか?
いや、やりそうにない。
あの人はミセス・ノリス一筋だ。
そういうとこは、スリザリン贔屓のセブルスと似通ってんのよな。
他の猫には目もくれんか……
え、じゃ誰よ?
……ミネルバかアルバスおじいちゃんぽいな。
なんだかんだで優しいし。
身体を拭き終わった私は、タオルを水洗いし、絞ってベッドの端に引っかけた。
そこら辺に放っておくよりかは、マシであろう。
……洗濯したものを干すとことかつくろっかな。
適当でいいから、紐と棒があればできるはずだ。
って、材料から調達じゃん。
ちと疲れそう。
六時半になるまで、私はベッドの上で座禅を組んで瞑想していた。
今度こそ、ハーマイオニーと朝食を七時頃とりに行った。
ネビルは離れた席で他の男子と喋っている。
本日も彼は災難に見舞われる。
……今日までの災難は私のせいだが、それでも、彼はよく災難にあう。
思い出し玉だろドラコだろ、あと調合失敗だろ、あ、今学期最終辺りはハーマイオニーもか。
来年も災難なのよな、彼は。
そんなことをつらつら考えながら朝食を食べ終わり、紅茶を飲んでいると「朝食を取る速さが異常よ!」とハーマイオニーに咎められた。
『あは、習性でね。朝はもともと弱かったの。だけど、家を出るのは決まった時間だったから、その分、ベッドから家を出るまでの時間短縮の一端として朝食を食べる時間も短縮させたのさ!』
と、自信満々に言えばハーマイオニーは呆れていた。
ふっ、朝のベッドほど恋しくなるものはないのさ。
……あ、自分で言ってなんだけどマジでさみしいな。
…………せめてセブルスの紅茶飲みたいなぁ。
あれ、マジでおいしかった。
心の隅で、セブルスに会いたいなぁと思っている自分がいるような気がしたが、それは今日の午後に叶うのだからと、ハーマイオニーの朝食が終わるのを“まぁまぁおいしい”と評価できる紅茶をすすって待っていた。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
やはり、魔法史は眠くて睡魔と格闘する授業になった。
くそぅ、あれだ!
魔法史なんて歴史なんだから、図書館で調べてやりゃいいんだ!
あ、どこをどう出したいのかはわからんから、マジで丸暗記か……。
くっ、いまいましい!
なんとかペンを動かしながら、周りの様に寝ないよう意地で起きていた。
くぅ!
ロン、ハリーてめぇら、授業二日目で寝るとは神経図太いな!
次の授業、闇の魔術に対する防衛術は――
――うざかった。
ちらちら視線飛ばしてくんな、クィレル。
お前は蚊以上にうざい。
マジで改心させてやっから、ちゃんと授業を続けろ。
……ま、どもりで気弱を演じているからこそ遅いのは目を瞑ってやる。
だから、視線は飛ばすな。
と、罵るほど、クィレルはどもりながら何度も視線を私に飛ばしていた。
一応授業はちゃんとやるらしく、他の授業と同じようにどうしてやるかという説明をした後、一通り今学期の範囲を説明をしていく。
それだけで授業は終了した。
流石どもり。
普段の二倍以上の時間で説明ですね。
おかげで授業の進み具合がスローペースです。
昼食をとっていて、はたと気づいた。
ネビル君、薬品にかかっちゃうんじゃなかったけ?
……………う、ん。
どーしよ。
失敗は成功の素だけど、全身に浴びるなんて言うのはトラウマ級だ。
トラウマなんてのは避けておいた方がいい。
その方が変な先入観も持たないし、何事も避けはしない。
よし、何とか回避しよ。
そんなことを決意しながら、昼食は普通のペースで食べた。
それを見てハーマイオニーは、安堵する。
……彼女は母親で私はその子供か!
という突込みはいいとして、私ってそんなに呆れる存在かい?
◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇
バァン!
お前はナイトバスか!という突込みをできるほど、セブルスの登場はうるさかった。
流石、大人げない人です。
出席を取った後、セブルスは壇上の前にきて語り始める。
「あぁ、さよう。ハリー・ポッター。われらが新しい――スターだね」
猫なで声でイケメンのいいヴォイスですが、大人げないぞ?
まぁ、無邪気な闇こと――ドラコ達は冷やかしで笑ってますが……
てかご本人、もうちょい笑う努力をしよーね。
目が冷たいです。
というか、洞窟みたいです。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
ふむ、その両手はなんなのだろう。
腰つきはエロいな……
ふ、不謹慎でもいいじゃない!
相手は大人げないのですし。
「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん」
いやいや、君は使ってるでしょーが。
主に材料の選別とか、その材料を出現させるっていう魔法で。
私は何度も見たぞ。
「フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這いめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」
腰つきエロいっす。
というか、その薬使えそーだな。
主に私の計画で。
ま、セブルスにゃんは(一応教師として)やらせてくれなさそーだから、こっそり必要の部屋で練習しておきますか。
んで、どっかで作ちゃお。
……ハリー達と同じようにマートルんとこでいいかな?
あの子可愛いしなぁ。
え、甘く見てる?
いえいえ、難しいからこそ必要の部屋なんっす。
「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん」
おっと、セブルスが語っている最中だった。
ここは聞かねば。
マートルは友達として可愛いが、セブルスは恋愛対象として可愛いのだ。
……え、趣味が悪いって?
ほっておいてください、“蓼(たで)食う虫も好き好き”っていいますし。
「我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である――ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロ達より諸君がまだマシであればの話だが」
やはりエロい腰つきでセブルスはそう言い切った。
不機嫌な顔とその言う勢い的に、ここが外であれば唾を吐いていそうだ。
よし、やっぱりシリウスは、一発はたくか殴ってやろ。
こいつが根に持ってんのは、ハリーが似ている人物とそいつだ。
“大事にされている”ハリーが、そのとばっちりを受けんだぞ?
一発くれて、びっし!と言ってやらないでどうします。
あの駄犬め!
身から出た錆をハリーに回すな!
私がそんなことを考えている間、横にいたハーマイオニーは身を乗り出すようにして質問を待っていた。
言っておくか。
私は、走り書きしておいたメモをハーマイオニーに見せるように、広げたノートに置いた。
そんで、ハーマイオニーを肘でつついて、メモに気づかせる。
ハーマイオニーは「何で?」という顔をしていたが、その理由もメモに書いておいたので、渋々身を乗り出すのをやめた。
よし、そんでいい。
巻き込まれたらマジで怖いぞ?
「ポッター!アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
セブルスは叫んで指名し、一年生では難解である疑問を吹っかけた。
ハリーはロンに目配せした後、「分かりません」と答えた。
無邪気な闇――ドラコ達、スリザリン生はその答えに冷笑する。
こやつら、マジで後々後悔すんぞ?
いや、させてやろう。
「チッ、チッ、チッ――有名なだけではどうにもならんらしい」
セブルスも大人げないです。
知ってんでしょーが、ハリーが無知にならざるをえない環境だったて事くらい。
トラウマ克服しよーね。
あの駄犬を一発殴ってやっから。
ちなみに、先程のメモで身を引いたハーマイオニーは、少し悔しそうに手を上げずにいた。
そのメモにはこう書いておいた。
“S.Sはスリザリンにしか目向きしない。よって当てられてもいないのに、手を上げるのは愚の骨頂となる。ハリーが目を付けられた。彼はかの者に責められる。が、これも助け舟を出すな。それをすれば、かの者の言う「ウスノロ」の仲間入りだ。巻き込まれ「ウスノロ」の仲間となりたくなくば、手を挙げるべきではない。”
我ながら一年生には少し分かりにくい言葉を使っている。
が、ハーマイオニーはセブルスの質問を答えることはできたのだから、これらの言葉も調べているであろうと踏んだ。
しかしそこはグリフィンドール生として、悔しかろうし、ハーマイオニーが耐えていれる保証もない。
そこで、以下の様に追伸を付け加えておいた。
“PS. もし、耐えれなければ私を肘でつつけ。私が何とかしよう。かの者も私であれば、喋らせてはくれるはずだ。”
ハーマイオニーは、私が義理とはいえダンブルドアの孫と知っている。
だから、素直に身を引いた。
まぁ、少しばかり甘い考えのままの彼女だからこそ、通じた追伸なんだけどね。
「ポッター、もう一つ聞こう。ベアゾール石を見つけて来いと言われたら、どこを探すかね?」
たしか、教科書の隅にしか書かれていないそれを答えよという質問だ。
ハリーは冷笑し続けるドラコ達をできるだけ見ないようにして、「分かりません」とまた答えた。
「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」
真っ黒な瞳からそらさぬよう、ハリーは必至で視線を外さずにいた。
教科書を手にしただけで喜んだハリーには全く分からない知識だ。
彼にとっては、学校に来れることさえ奇跡なのに。
「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
ハーマイオニーが肘で私をつついてきた。
やはり、耐えきれないらしい。
確かこの質問で、原作や映画では本来椅子から立ち上がるはずであったのだ。
――致し方ない。
やるか。
「分かりません」
ハリーがそう答えた後、私は出来るだけ静かに威圧感をかけて、
『スネイプ教授、少しよろしいでしょうか?』
と、言った。
セブルスは、私が発言するとは思ってもいなかったのであろう。
威圧をかけての発言である為、彼は目を見開いて私を見ている。
上等だ。
喧嘩ならば、それは殴られる行為に値する。
「なんだね」
その一瞬のたじろいだ様子の後、セブルスが言う。
教室にいた生徒全員の視線も、私に殺到した。
『そのような調合上級者の質問に、新入生である私たちが答えられる事は無理からざることです。もし、私たちから答えさせたいのならば、失礼ながら、私がお答えいたしましょう』
「別に貴様には――」
『先程教授が言われました通り、ハリーは我らがスターです。となれば、質問されているのは私たち全員となります。その代表として私が答えると言っているのです』
セブルスの言葉を遮って、私はそう言った。
少し無茶な説明だ。
しかし彼は受け入れざるを得ない。
恨むなら、自分の性格を恨め。
このツンデレ根暗陰険引き籠り教師よ。
「よかろう。ならば答えてみよ、Ms.蔡塔」
ハーマイオニーがはらはらとして見ていたが、それは杞憂に終わる。
ほらな。
『ありがとうございます。では順に最初の質問から行きましょう。皆様メモをお取りくださいませ。少し説明を要します。』
と言えば、セブルス以外がバッとノートとペンを持った。
はい、これで皆のとばっちりも回避さ。
セブルスが舌打ちしそうだが、君の身から出た錆だ。
諦めろ、大人になれ。
そんな彼を真っ直ぐ見て、私は答えてゆく。
『第一の質問。アスフォデルの眼球の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?
これは“生ける屍の水薬”と言われる強力な眠り薬です。とても強力の為、一滴で効果を発揮し、使われれば、あのアズカバンよりも恐ろしい現実と向き合う可能性もございます。眠った時とその後にズレが生じるためです。この薬には解毒薬が存在しますが、それを使うまでが長ければ長いほど、その者は時代についてゆけず、悲観し自殺するでしょう。また、調合が非常に難しいため失敗すれば、被験者を半永久的に眠らせてしまう事もございます。そのような難しい薬ゆえ、上級生でもほんの一握りが成功する次第です』
長々と説明し、尚且つメモをとれるよう、少しばかり余計な事も織り交ぜる。
『第二の質問。ベアゾール石を見つけて来いと言われたらどこを探すか?
これは、牧場に行くか、ダイアゴン横丁に行くか、山に行くかです。もちろん、魔法薬学の権威であるスネイプ教授の材料庫にもあるでしょうが、譲っていただく以外でしたら、この三択です』
「牧場?」と首をかしげる生徒方。
セブルスは先ほどのハリーの様に、何とか視線を逸らせないようにするのが精いっぱいだ。
あははは。
まだ威圧は解けてませんからね。
『ちなみになぜ牧場と言いますと、このベアゾール石は山羊の体内から発見できるものだからです。体内のどこか、それは内臓の一つ“胃”でございます。取り出すためには、殺すしかございません。なので私としては、血をみたくなければダイアゴン横丁をお勧めいたします。しかし、質を求めるのであれば野生の山羊を探し回るか、牧場で、それこそ譲っていただくことをお勧めいたします。ただし、この石を持っている山羊はとても数か少ないのです。よって、譲っていただいた、又は、見つけた山羊が石を持っているかは不明確。つまりは、確実に質の良し悪しを問わなければ、ダイアゴン横丁へ。不確実だが、品質を求めるならば牧場へ。不確実で日数をかけてもよく、品質を求めるならば山へ。ということです』
さぁ、ラストだ。
『第三の質問。モンクスフードとウルフベーンの違いは何か?
これは違いは全くありません。ただ、地域によって言葉が異なっただけです。双方が射すのは、キンポウゲ科の植物。皆様、毒がある草としてご存知の“トリカブト”です。ヨーロッパでは魔術の女神ともいわれるこの植物は、湿気が多い場所を好んで自生しております。また、女神の名を冠するゆえ、庭には埋めてはならないとされています。この植物は、地獄の番犬:ケルベロスのヨダレから生まれたとされていますので、本当に解毒薬がないほどの強力な毒性を持ちます。薬として処方されることもありますが、非常に高度な知識を必要とし毒が強いので副作用も強い薬になってしまい、とても処方するべきではないものとされています』
一旦切って、セブルスに微笑んでみせる。
威圧をかけたまま。
『以上が、教授の質問への答えでございます。なにか、おかしな点等ございましたでしょうか?また、付け加えることはございましたか?』
ペンの音がまだ鳴り響く中、私はそう言ってセブルスの出方を窺った。
書き終えた一部の生徒(ハーマイオニーとかドラコ)も、セブルスの顔を見た。
「いや、ない。では、しばらくしたら、本日の調合に移る」
冷や汗びっしょりのセブルスは、そう言って背を向けた。
ふっ、私の勝ちですね。
!!!――I WiNNER――!!!
あ、セブルスにまた疑いかかるんじゃ……
まぁ、なんとかなるっしょ。
目立っちゃったけど…………
ハリーへの減点も忘れるほどの威圧感によるショックを脱することなく、セブルスは書き取りが終わったのを確認して二人一組に組ませはじめた。
ショックを受けたのは生徒も同じらしい。
生徒・教師、双方がどこか私に畏怖を抱いたまま、ぎこちない動きをしている。
あ、ハーマイオニーも引いてんなぁ。
私誰と調合すればいいじゃ?
セブルスは、まだ私を誰かと組ませるとこまで来ていない。
というか、皆が自然に避けて自動的に組んでいる。
あれだけ親しくしていたハーマイオニーでさえ、他の生徒と組んでいた。
やっちまったな、こりゃ。
それが、最も今の現状にしっくりくるセリフだった。
なにしろ、自ら“また”孤立を好むような事をしてしまったのだ。
教訓を活かさず、また同じことをしでかすかぁ。
実は成長してないんかも。
トホホ……と、しみじみしながら自分を情けなく思っていると、本来シェーマスと組む予定のネビルが近寄ってきた。
え?
「ゆ、禪、僕と組もう?」
ネビルは周りの奇異な目に晒されつつも、振り絞った勇気で震える声でそう言った。
『いいの?』
私が目を見開いて出した声は、お世辞にも大きい声ではなかった。
自分で情けないと思うほど。
とても小さく、聞き取るのが精いっぱいだろう音量だった。
「き、君がいいんだ」
そう言う彼に、答えはただ一つ。
『ありがとう』
感謝の言葉だけであった。
◇~~~~~~~~~~~~~~~~◇
その後のおできを治す薬の調合。
この結果は、なんと皆八割成功・二割失敗という結果であった。
つまりはみんな完璧にできなかったのである。
あのドラコさえ、角ナメクジを十秒ほど長く茹ですぎた。
ふむ、ショックが皆抜けてないと見える。
あのセブルスでさえ、皆を見回る事をしてはいたが、ちゃんと指摘をする事を怠ったほどである。
すまん、セブルス。
だが、身から出た錆だ。
ちと諦めておくれ。
私もちょっと諦めるし、謝るから。
ちなみにネビルは、私を気遣いつつも、私が九割がたできているのを真似しているため、鍋を溶かすこともなく、薬品を全身に浴びる事は無かった。
とにかく皆、不出来な代物を提出し、授業を終えていった。
原作も映画も変えてしまったが、これはこれでいいよね?
すこし、いやかなり自信を無くしながら、薬を提出した私は部屋に帰るつもりもなく、トボトボと校庭の方へ歩いて行った。
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