入学式

 そんなこんなで禪は入学式まで、セブルスに言われた通り、一人になるのは私室に籠る時間だけにした。

 午前中は、学校の内部をミネルバかセブルスによって案内され、道順やら授業で使う部屋やらを覚える時間となった。
 午後は、セブルスによってスパルタな講義を受ける。

 食事の際は、セブルスと共に大広間に行っているし、もし行かずとも、彼の私室で食事を共にしていた。
 だいたい呪文練習や教科書で分からないことを質問して長引いてしまいそうになった時には、そうなる。
 セブルスもどうやら魔法薬を作ることをしつつ、それらを教えているので後者を選択する事が多くなっていった。
 ついでに言ってしまえば、彼は禪に新学期の準備を手伝わせてもいた。
 材料の選別や配分、大鍋の掃除などで。

 
 
(まぁ、いいですけどね。呪文の練習にも体力の維持にもなりますし)



 (別に文句はないわな)と禪は思う。
 それは束縛ではなく、守られているのだから。

 






 今夜が問題の入学式だ。




 禪はどちらになろうがヴォル様憑きのクィレルに目を着けられる。

 しかし、闇に落とそうと思うだろうのは、スリザリンの方になった時の方が確立が高いのではないだろうか。


 今あの寮は、闇の巣窟だ。


 その監寮のセブルスとて、心のどこかで悲しんでいるであろうソコに行くのは気が引けてしまう。
 無邪気な闇なら尚更……



 となると、主人公組のグリフィンドールがいいかもしれない。
 あそこは、守られるところだ。
 故意であろうが、意図せずだろうが。



(……セブルスに厳しい目が向けられるだろうが、それは一過性のものだと思いたいなぁ)

 禪は自分がマジでセブルスに目がいっているのを自覚し始めていた。

(これで、二十七歳の精神のはずですし)
 



「そろそろ時間だ。支度したまえ」



 そう言って、セブルスが問答無用で私室に入ってきた。




(……着替え終わっててよかった)





 彼ならばこういうこともあるのではと、昼食後に着替えを済ませていた禪。
 くるりと彼に向いた。


『今後は、寮での生活という事になりますか……』

「もちろんそうだ」

『では、荷物どうしましょう?』

「もっともな質問だが、それは校長が何とかするとおっしゃていた。問題なかろう」

『セブルス?』

「……なんだ?」

『プライベート以外では名前呼び辞めた方がいいですか?』

「…………」

 セブルスの声が途切れた。
 その顔は複雑だ。
 少しの間沈黙が流れる。
 
『セブルス?』

「……ああ、そうしてくれたまえ。他の生徒に示しがつかん」

『了解です。では、どこで入学生に混ざった方がよろしいでしょう?流石に駅じゃありませんよね?』

 (ああ、車内販売逃したなぁ)と禪は思った。
 狙いはカボチャパイとカエルチョコである。
 禪は甘いものが大好きだ。
 まぁ、こちらの世界では甘すぎるものやイマイチぱっとしないものが多く、ほぼ飲み物やスイーツだけだが。

「そうだ、駅ではない。今からでは間に合わん。ついでに言えば、ホグワーツ特急は間もなく到着なのだ」

『……午前中に発車でしたもんね』

「わかっているではないか」

『ええ、“知っているもの”として』

 『しかたないですからねぇ』と言えば、彼はさらに複雑な顔をした。

『セブルス?』

 そんな彼を心配する。

「……辛くはないのか?」

 彼が絞り出すように呟いた。
 セブルスも何となく察したのだろう。

『辛くはないですよ。今はまだ、大丈夫。まだ何も起きやしない。確かに水面下で何かが起こってはいるとは思うけど、まだ表側に現れてはいない。だから、大丈夫だよ』

 優しそうな顔で彼にそう言えば、ため息をつかれた。
 そしてそのまま、部屋を出ていく。
 
(え、私何かしました?)

 そんなセブルスを追う様に彼女も部屋を出る。

「……とにかく大広間に向かうぞ。道はもう覚えたか?」

 セブルスは歩きながらそう言った
 禪はそれにいそいで着いて行く。
 すぐに追いついてみれば、彼の歩くスピードは、どことなく遅かった。
 禪に気を使うように。
  

(ちょっと、言ってはいけないことを言ったのかな?でも、こうして何気なく気を使ってくれる彼には嘘つきたくないし)

 それより彼の問いに答えなくてはと、禪は口を開く。

『あ、はい。なんとなくではありますが、ここの構造や、どこをどう言ったらどこに行けるとかは把握しました』

「よろしい。次はその才能を授業で見せてくれることを期待しよう。ただし、我輩の魔法薬学の授業はきっちりでなければならないかもしれませんがな」

『ですよねー。魔法薬って薬ですし』

「我輩レベルになれとは言わん。だが、“ウスノロ”になってはかなわんのだ」


 そういって、セブルスが足を止めた。
 そこは有名シーンでおなじみの大広間に続く階段だ。


『了解です。ここで混ざればよろしいので?』

(確か、ハグリッドが連れてきてミネルバが説明してたよね)
 


「ああ、そうしてくれたまえ。そこの物陰から紛れればよかろう」

『ありがとうございます』

「礼には及ばん。では、我輩は先に職員用のテーブルへ行く。それと――」



 セブルスが禪の視線に合わせるように身をかがめ、彼女に瞳を覗いた。



『セブルス?』

「それと今から先程言った様に、我輩を名前で呼ぶのはプライベートだけにしたまえ。我輩もそうする」

(……なんだろ、セブルスなんか少し辛そうな……?)
 
 (でも、ここは了承だな)と彼女は割り切る。

『わかりました。教授』

 にっこりと笑って彼を覗き返した。
 それにセブルスは安心したように立ち上がる。

「では、次はプライベートか授業で」

『はい』

 そう言って彼と、禪は別れたのであった。




 物陰で隠れていると、ほどなくして上級生たちが大広間へと入っていった。
 約七百~八百名の人間が入っていくのは、さすがに見ていて壮観だ。
 あの悪戯好きのウィーズリー兄弟もいるはずなので、禪は気配を消してそれを見る。

 どうやら誰もそれに気づかなかったようで、安堵していると、また一群が来た。

 ハグリッドが先頭にいるあたり、目的の一年生の一群であろう。
 物陰からひっそりと抜け出し、彼らに混ざる。

 ハグリッドやミネルバがこちらに目配せしていた。
 小さくだが、手を振ると彼らはそれを認めた後、それぞれの仕事に戻る。

 ミネルバが説明し、ハグリッドは先に教員用のテーブルへと向かう。
 ミネルバが長い説明をした後、大広間の扉が開かれ、彼女が一群を率いるようにして入ってゆく。 

(まさに映画通りの壮観さ)

 いつもの夕食よりも少し豪華に装飾された大広間に、禪は見とれた。

(今まさに、私も映画に呑みこまれたって感じだね)




 一群の先頭が前に着くと、ミネルバがここで待つように言う。

(さぁ、まず最初の分かれ道だね)

 いよいよ、組み分けが始まる。
 


 生徒たちと職員の間の通路に、椅子と組み分け帽子が置かれる。

 そして、その帽子が映画と同じように歌いだした。






【きれいじゃないけど、
 
 見かけで判断しないで。
 
 私はホグワーツの組分け帽子。
 
 私より賢い帽子なんてない、
 
 山高帽とかシルクハットよりすごいんだ。
 
 キミの頭ん中はお見通し。
 
 私に見えないものなんてないんだよ。
 
 グリフィンドールは、
 
 勇気ある者が住まう寮。
 
 勇猛果敢な騎士道こそが、
 
 グリフィンドールと他との違い。
 
 ハッフルパフは、
 
 正しく忠実で、
 
 忍耐強く真実で、
 
 苦労を苦労と思わない、
 
 そーゆー人が入る寮。
 
 レイヴンクローに入るのは、
 
 意欲があって頭いい人。
 
 機智と学びをね共有する、
 
 そーゆー友達ができます。
 
 スリザリンでも、
 
 友達できます。
 
 手段を問わず目的を遂げようとする野心、
 
 そーゆー資質を持った人が行くとこね。
 
 かぶってごらん。
 
 怖がらないで。
 
 私の手にゆだねよう(手なんかねーずら)、
 
 私は考える帽子!】




 帽子はそう歌い終えると、黙った。


 ミネルバが入学生の名前を挙げていく。




(この帽子も、ある意味災難が始まる年なんだよね。今年は組み分け困難者が出そうになる年ですし)

 

もしかしたら、組み分け困難者になったミネルバが名前を呼んでいくのは、ある意味皮肉かもしれない。

 


 ミネルバに名前を呼ばれた生徒が帽子をかぶり、どんどん組み分けされてゆく。




 ハーマイオニーは原作や映画の通り、少し時間がかかってグリフィンドールへと選別された。



 ロンはすぐにグリフィンドールと言われる。



(うんうん、この二人ってこういう違いがあんのよね)




 その次辺りにドラコがよばれ、すぐさまスリザリンに選別された。


(ロンよか、速いって……あれなんですかね。元ゴドリック・グリフィンドールの所有物なだけあるんですね。それだけ無邪気な闇は怖いか)


 ネビルはハーマイオニーと同じで、結構時間がかかったが、グリフィンドールへと振り分けられた。




 ハリーの番になると、大広間がシンとした。

 微かな音も立てたくないのか、皆真剣にハリーを見つめている。


(……こりゃ、嫌だわ。ハリー緊張するはずだわ。皆で見るなんて、羞恥プレイですか)


 組み分け帽子は長々、呻ってハリーと会話していたが、彼がお願いするように言ったので声をあげてグリフィンドールと叫んだ。
 ハリーは嬉しそうにグリフィンドールへと歩いて行った。


(あれ飛び跳ねそうだね)









 その後、ザビニまで終わってしまう。




(って、おいいいいいいいい!私は最後なんかいな!)

 ポツンと残された禪は、ため息をつきつつも、心中でそう突っ込んでいた。

(目立つなというか、東洋人だからすぐ目立つんだろうけど、これハズくね?マズくね?さらにクィレルに目を着けられるぞ?)

 一抹の不安を抱えながら、禪はミネルバに名前を呼ばれた。
 


「蔡塔・禪!」

『はい』



 名前が呼ばれ、椅子へと歩んでいく。




 最後なだけあって、ハリーと同様、皆がシンとした。
 どうやら最後の入学生いうわけより、ホグワーツには珍しい東洋人であるので皆ガン見しているようだ。
 自分が同じようにみられていたのも関わらず、ハリーまでジッとこっちを見ている。

(おい、ハリー。自分がやられて嫌だったことを他人にすんなや)

 ドラコ達スリザリンも、目を細めてみている。

(あうう、目立っちゃってるじゃないか。地味で地道に行きたかったよ、この道は。そしたら、相手の裏を静かに欠けるじゃないか。主にクィレルとかクィレルとかクィレルとか……いや、もう目付けられてるけど危険度下がるじゃんか……) 










(羞恥プレイなのか私も……)













 (先が思いやられるなぁ)と思いながらも、椅子までたどり着き、少し高い位置にあるそれに座る。



 ミネルバが帽子をかぶせてくれた。




 帽子が問いかけてくる。



【おお、君がダンブルドアが言っていた子かな?】


(こんにちは、いえ今晩はかしら?組み分け帽子さん?)


【確かにお嬢さんは、例のあのお方にも似ておるようだな】


(それは致し方ない事だわ。まぁ、あの人の様に堕ちはしないから大丈夫よ)


【それを聞いて安心した】


(信用してくれるようで、私も安心したわ)


【さて、どの寮か決めなくては】


(ええ、そうね)


【……なんと、数奇な運命の持ち主だな。どの寮にするか迷ってしまう】


(あら)


【手段は問わないし、勇気もある、知恵はあるし、好奇心旺盛で、優しい】


(ふむ、どの寮にも適したとこがあるってことね?)


【そうだ】


(ならば、私が望むままにしてくれる?)


【君が望むならば】


(では、グリフィンドールに)


【本当にそこでよいのかね?】


(ええ、訳あってスリザリンは嫌ですしね)


【君も無邪気な闇が怖いか】


(それもありますが、それらをイチイチ相手するのが手間です。特にドラコ君辺りが)


【知恵や好奇心、優しさはどうする?】


(今はそれよりも敵をバッサバッサと倒したいのですよ。やること満載なので)


【……君は一体?】


(まだ話したいことがあれば、校長室に伺いますので、今は組み分けを。このままでは多分ですが、組み分け困難者にされてしまいます。いえ、もう五分は経っているので、そうなんですが……かかりすぎです)



 帽子はそう言われたのにハッとして声を高らかに上げた。





【グリフィンドール!】
 

 

 

                                       次ページ:寮とピーブスへ

 

最終更新:2015年05月03日 23:47
|新しいページ |検索 |ページ一覧 |RSS |@ウィキご利用ガイド |管理者にお問合せ
|ログイン|