光り輝く術式を床に、チャクラを使って刻んでいく。
「これは?」(風影)
食い入るように見る彼とその護衛の暗部3名。
チヨ様とその他いた上忍は、こちらに残り留守番である。
まぁ、頭がいない時ほど里は荒れるモノだから致し方がない。
『私特製の術式』(威守)
フォンという音とともに、術式の中心に光の円が出現した。
『どうやら、できたようだ。この円に入れば、とある場所まで行くことができる。所謂、扉のようなものよ。ただし、この術式をちゃんと理解できる術者がちゃんと書き、それが行く場所にもあることが条件。だから、おいそれと真似できない代物なの』(威守)
「ほぅ。では、これに入れば別の場所に着くというわけか」(風影)
瑠威の元居た世界でいけば、まだゲームの世界でしか実現できていないワープという技術である。
この世界に来てから、試行錯誤してできたのだ。
ただ、座標の固定などを術式に込めるために一度はその場所へと足を運ばねばならない。
『さて、では行きましょう』(威守)
輪に入れば、すぐに視界が開けた。
目の前には水晶の部屋。
『うん、やっぱここでOKってことね』(威守)
思い通りの場所につけるというのは、なかなか気持ちがよい。
後ろから風影たちが続々と到着する。
「随分と煌びやかな部屋だが」(風影)
「「「……」」」(砂の暗部)
『此処は私の原点ともいえる部屋の一つ。さて、どっちにいるか……ん?』(威守)
部屋についている三つの扉のうち一つが開く。
そこに居たのは、一組の男女。
よく見知った二人だ。
「流石は、瑠威といったところだな」(???)
「気配で来られたのがわかりましたので」(???)
相変わらずか。
……砂の暗部が警戒しているねぇ。
まぁ彼らだしな。
「威守殿、こちらの方は」(風影)
『久しいわね。と言っても、一か月くらいしか経っていないか』(威守)
そう声をかけると女性の方は苦笑した。
「そうね。其方の方が、風影様とお見受けします。私は雨隠れにおいて長の補佐をしております。小南と申します」(小南)
「同じく雨隠れ、その長の弥彦と申す」(弥彦)
『貴方たちが来てくれていて助かったわ。で、今彼はどこに?』(威守)
「サソリとディダラが見ているわ。今は落ち着いてる。此方に飛んできた時は精神状態が酷すぎた」(小南)
「今にも自殺しそうな目をしていたぞ」(弥彦)
『そう。では歩きながら話しましょう。早く彼のところに行った方がよさそうです』(威守)
「威守殿……」(風影)
『不安になるのはわかるが、とにかく移動しながら話しましょう』(威守)
彼の不安を感じ取った砂の暗部たちは、彼を守るように配置につく。
それに内心ため息をつきながら、私は雨隠れの二人を先行させて部屋を出た。
水晶で出来た廊下を進む。
基本青色の水晶だがほんの少しずつ色を変えて、グラデーションを効かせた廊下となっていた。
「相当寝ていなかったようだな、隈がひど過ぎる」(弥彦)
『まぁ、彼に入れられたもののせいでしょう。それに、周りの目がいらぬ不安を掻き立てて、さらに眠れなくなる。身に覚えがあるわ……』(威守)
「ルイ、経験が?」(小南)
『ええ、あまり思い出したくはないけれど。対処方法は、とりあえず強制的にでも、寝てもらうしかないわね』(威守)
「それは!?難しいのでは!!?」(砂の暗部その1)
「それでは暴走に!」(砂の暗部その3)
「あれに策など……」(砂の暗部その2)
『黙りなさいな、砂の方々。風影、安心しておいて。暴走などさせないわ。ちょうど弥彦もいるし、私もいるもの』(威守)
「……どういう事でありますかな?」(風影)
私はくるっとい後ろを向き、彼を見る。
『わかりやすく言えば、弱肉強食だから大丈夫。ってことね。まぁ、ちょうどついたみたいだし見てなさいな』(威守)
円形の広間に出る。
そこも水晶で出来ており、色は緑。
装飾もそれに似合うものが置いてあったりするが、ここは広間として一番大きな空間としてドーム状となっている。
その中央に、三人がいた。
「来たか」(サソリ)
『術式教えておいたらさっさと帰っているんだもの。で、彼はどう?』(威守)
「旦那が薬飲ませて、少し落ち着いた。だがな、うん」(ディダラ)
横たわる赤髪の少年に付き添う、同じく赤い髪のサソリ。
『根本的な解決にはなってはいないか。んじゃ、サソリどいてて。ここからは私の領域だ』(威守)
私は真顔になって、サソリがどいたのを目視した。
少しずつチャクラを流し目を閉じる。
真の姿になるのは、さすがに今は勘弁だ。
あいつに聞いたその姿は、あんなの化け物だ。
大体、人でなくなるしな……元に戻るとも思えない。
やれることは、一つ。
目の前にいる少年は意識が遠いところにある。
発狂寸前といったところだろう。
本当にばかばかしい兵器の生成の仕方だ。
人を何だと思っていると腹を立てて怒り出いが、今は救助が優先。
このままではマジで自殺させてしまう。
『……人とは不思議なものでな。眠っているときでも、死の間際でも聴覚は鋭い』(威守)
チャクラで生成しながら、髪のひとふさが変わっていくのがわかる。
やっぱ、この特別な力で語りかけるのには犠牲あるのね。
「ルイ、髪!」(小南)
「無理するな!」(弥彦)
『大丈夫、ほんの少しだから』(威守)
「っ!」(サソリ)
「そこまでしねぇといかねえってのか!うん!」(ディダラ)
動揺する私の仲間たち。
「どういうことだ」(風影)
風行きが怪しいと思ったのか、風影が問う。
「……人でなくなるほどの力を、ルイは扱うことができると俺は聞かされたことがある」(弥彦)
「弥彦、あなた!」(小南)
「小南。いつかは話さねばならん。それに、ルイがわがまま通すってならこちらもだ」(弥彦)
「……おい、弥彦。サブを任されているんじゃないか?」(サソリ)
「まぁな。だが、やることはこれさ」(弥彦)
弥彦は一瞬にして結界を張る。
「ただ、強力な結界を張るだけなの」(小南)
「見ているだけというわけか」(風影)
「……口惜しいことに、こんだけのメンツが揃ってるってぇのに、な」(サソリ)
一同は私を見た。
チャクラでオカリナを生成していく。
言わずと知れたあのゲームでも有名な楽器だが、まぁこれくらいがちょうどいいか。
オカリナが自律で演奏を始める。
曲は、眠る彼と夜明けをイメージして……そう≪君をのせて≫。
結界を張った空間に音が鳴り響く。
そのまま、私は彼の精神世界にダイブした。
人の精神の中に、入るのはこれで何度目だろうか。
久しいというわけではないが、どうも今回は随分と寂しい感じだ。
……この精神世界はその人その人に影響されるから無理もない。
広がった風景は、ナルトが彼を暁から奪還したその時の映像よりもひどかった。
干上がった地面ではない。
確かに乾いているが、平面ではなく渓谷。
元の世界に似たようなものがあったな、あれはアメリカのグランド・キャニオンか。
別のルートに行っているというのになんという風景だよ、まったく。
精神世界の発信源である彼を探すが、この高低差だ。
なかなか見つからない。
この世界ではチート能力は使えないし、とりあえず虱つぶしだな。
いや、この世界の中心に大体いることが多いから、そこを見れば大丈夫かな。
山の上に立ち、中心と思わしき位置へ跳ぶ。
チャクラの概念くらいはあるようだな。
そこはさすが忍びの息子といったところか。
跳んだ位置に彼はいた。
なんつーベストポジションだけど、見つけた彼はあまりにもボロボロの服装をしていた。
どこまで鬼畜おやじだよ。
可哀そうすぎるでしょ、我愛羅君。
「誰?」(我愛羅)
『君と同じような能力を持つ者です。君に会いに来ました』(威守)
「似ているだと?俺のような化け物が……」(我愛羅)
『君はまだ化け物ではありません。ちゃんと一人の男の子ですよ。それに、それをいったら幾度でも再生し、殆んど老いることがない私の方が化け物です』(威守)
「でも、俺の近くに居たら……」(我愛羅)
『別に構いません。怪我をしたら私は再生すればいいわけですし、他の人にしたって治療すればいいだけです』(威守)
私はその場に膝をついて彼を見る。
『それに、私の近くに一時期でもいればどうでしょうか。私の周りは強者だけですし、いきなり死ぬ輩はいませんよ』(威守)
「そうか。でも俺は兵器だ。里の外になど……」(我愛羅)
『お父さんに関しては、説得する。というか、もう説得開始している。ちょうど公式に外に出る。それを契機とし、私の元に修行に来い』(威守)
「結局、命令かよ」(我愛羅)
『んなわけないでしょうが。君しだいさ。とりあえず、もう一つの精神とは私が話しとくから、君ちゃんと寝なよ』(威守)
『暴走なんてさせないからさ』と言うと、彼は泥のように眠った。
さて、とりあえずここから出るか。
現実に戻ると、オカリナは次の曲の演奏を始めていた。
「ルイ!」(ディダラ)
叫ぶディダラ。
目の前には完全に眠った我愛羅君と、そこからチャクラ体で出てきている狸がいた。
『君が、一尾と呼ばれる守鶴か。意外とかわいげのある輪郭じゃない』(威守)
「オレ様をこうして外に出すなんざぁ、自殺行為だぜぇ?」(守鶴)
『あら、私が本気になるよりかはいいですよ。それに、貴方。我愛羅君が眠らないとどうせ道連れで死んでいたでしょう?憑依とか言っておきながら、かなり大半の意識をこちらに向けているのでしょう?かなりのダメージ、ひと時、そう100年くらい出てこれないでしょうね』(威守)
「……そこまでお見通しってことかぁ。しゃーねぇだろ。こいつの母親との約束もあるからなぁ。死なせはしねぇさ」(守鶴)
『で、君もさっきの話聞いてたでしょ。君は賛同してくれるかい?』(威守)
「……ああ、いいぜ。どうせここに居たってこいつにはマイナスにしかならねぇ。少しでもプラスにならねぇとな」(守鶴)
『ふふ、ありがとう。じゃ、今は大人しくしておいてね。何なら少し外に居られるようにしておくから』(威守)
水晶の一欠けらを守鶴に渡す。
するとそのまま彼は、ただの狸みたいな単体でそこに存在することができた。
「ほう……この様な事をしてええんか?」(守鶴)
「「「「「「「「!?」」」」」」」」(一同)
『まー、その状態はあんましチャクラ使えないわよ。クリスタルは、ただの意識体としてのよりどころだからね。さしずめ、動くぬいぐるみというとこ』(威守)
「……食えないやっちゃな。確かにチャクラなぞ、無いに等しい。この体はただの動物にしてくれるか」(守鶴)
ほんの少し黙る守鶴。
『同じ”守”の字を持つ者として、してやれることはこれくらいだけど。ね』(威守)
これでいくらの近道になっただろうか。
せめて、あの大戦の一部がなくなってくれればと思うのだが……。
<ふむ、あの娘は立ち回っているようだな>
<だが意味ないんやろ?>
<お二方、それはそうでしょう。>
役を担うものは、代わりにそこに現れる者がいるのが普通なのだから。
<ワイらは見とるんか?>
<仕方ありません。それが最大級の吾らの祝福>
<壮大すぎだろ。まぁ、見てるしないなぁ>
異世界から来た彼らの守護をする者たちは、そうして居る事をよしとした。
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