名前を付けて?

(セブルス視点)


 我輩はあの騒がしいダイアゴン横丁から、ホグワーツの正門前に姿現しで帰ってきた。
 横には我輩と共にダイアゴン横丁で買い物してきたMs.蔡塔がいる。

『……結構な荷物になってしまいましたね』

 子供らしからぬ言い方で、彼女は教科書やペット達を見やった。
 それもそのはずだ、一年生というのは何から何まで初めて。
 物がかさばるのは致し方が無い。
 まぁ、その費用もなのだが……。

 どう運ぼうかと思案している彼女を一瞥し、我輩は杖をふった。
 地面か彼女の手にあったものが全て宙に浮く。

『!ありがとうございます、教授!』

 Ms.蔡塔が目をキラキラさせて笑顔でお礼を言ってきた。

「ふん、これくらいは出来なければな。さっさと運ぶぞ」

『はい!』

 宙に浮いたそれらを先導するように、ホグワーツの校舎及び自室へと歩き出す。
 彼女も我輩についてきた。






 全く我輩がなぜこのような事をしなければならないのか……
 全ては校長の、あの古狸のせいだ。

 















 校長に彼女の入学準備を頼まれた。
 なぜかマクゴナガルを差し置いて。 
 苛々しながらも、それを引き受け、自室に戻った。


 少し様子が気になり、隣の彼女の部屋の扉をノックし、返事を待った。
 

 しかし、待てど返事はない。
 扉をゆっくりと静かに開け、部屋に入る。
 彼女はベッドにいた。
 どうやら泣き疲れて寝てしまったようだった。
 このままでは風邪を引くなと、あどけない顔をした彼女をちゃんとベッドに寝かし、シーツをかけてやる。

 そのまま我輩の自室に戻り、ため息をついた。






 彼女は、幼かった。



 その物言いや中身を気にせぬほどに、その寝顔は幼かった。
 その彼女のどこが例のあの方に似ているのであろうか。









 そう思いながら我輩もベッドへともぐりこんだ。




 日が昇ったと同時に目を覚まし、身なりを整え、魔法薬を二つ調合した。
 この時間ではないと作れないものもある。


 ほどなくして扉がノックされ、Ms.蔡塔が入室を求めるように扉越しに挨拶してきた。


 我ながら悪いとは思ったが、杖をふって紅茶を用意し、彼女が飲むだろうカップに真実薬を少し入れた。
 校長が言わずとも、彼女は怪しいのだ。
 念には念をである。


 彼女はそれを飲むのを見計らい、タネを明かせば、彼女はただ微笑むばかり。
 いや、彼女は飲む前からただ笑っていた。
 しかも、真実薬が入っていても我輩が使うなら飲むと言いおった。
 物好きにもほどがある。
 他の死喰い人であったのならどうするのだ……


 なぜだと思いながらも、尋問してゆけば昨日と同じかそれよりもちょっと違ったことを言うだけ。
 

 “知っている”ならばと、あのハリー・ポッターの事を聞いた時にはさすがに吃驚せざるを得なかった。
 まさか、海の上まであやつの親戚が逃げているとは……
 彼らは何を恐れておるのやら。
 彼女はどうやら今年の“厄介事”の件も知っているようであった。

 
 その後、真実薬が切れるのを待ち、あの騒がしいダイアゴン横丁に向かったのである。
 

 

  例のあのお方に似ていると言った割に、校長は太っ腹だった。

 Ms.蔡塔に金庫を丸々一つ与えてしまったのである。




 本当に何を考えているのかわからない狸だ。




 トロッコに揺られて喜んでいる彼女には吃驚した。
 彼女は、子鬼にも興奮していた。
 こやつは、あのお方などではなく、あの森番に似ているのではなかろうか……


 金貨がぎっしりと詰まった金庫を見て、また溜息をつき、またトロッコに揺られ、グリンゴッツを後にした。


 その後、変に気を使うMs.蔡塔を抑え、マダム・マルキンの店に行くように指示した。
 彼女はそれがどこなのかと聞いてきた。
 本当に知らなかったのだなと、書店に行くついでに連れて行ってやる。


 我輩は書店で探していたものと、ついでにMs.蔡塔の教科書を買ってやった。
 その後、彼女がその店で用を済ませ、出てくるのを待とうと、店まで歩く。
 しかし、Ms.蔡塔は意外と早く終わったようで何処かへと去るところであった。


 校長があっていたのか?と思い、後をつければ彼女はペットショップの前で何か悩んでいた。


『ふくろうか猫か……』


 どうやら杞憂であったと、彼女の背後に回り込み、声をかける。
 彼女は吃驚したように見上げてきた。
 そして、どちらにも行くという。
 


 全く、どちらかにすればよいというのに。



 どちらにも行き、二匹を一人ずつ持った。
 一人で持つには無茶がある。

 やっと本命だろう杖を購入しに、オリバンダーの店に向かう。




 なかなかMs.蔡塔の杖は決まらなかった。


 本当にこやつは魔女なのか……


 杖が決まるまでにハプニングが起きるのは予想済みだ。
 我輩の時もそうであった。
 購入したペット達に防音魔法をかけてやる。
 まったく、我輩がなぜこんな事を…… 

 オリバンダーが杖を探している合間に、彼女が防音魔法のことでお礼を言ってきた。

 ふん、彼女には杖が無いからここにいる致し方ない。


 

 その後、オリバンダーが杖をいくつか出してきた。
 三本の中に彼女の杖があると老人は言う。

 
 

 その中に無ければ、こやつは魔女ではないなと思いながら、それらを振るのを見ていた。




 二本目までは何のリアクションも起きなかっが、最後の一本で彼女は、杖に選ばれた。



 そして――
 
 











  
 ――、我輩も校長と同じように彼女を怖く思ってしまった。
 

 

 

 

三本目の杖を持った途端、Ms.蔡塔の雰囲気はガラリと変わった。





 気丈に笑顔でいる彼女が、確かに例のあのお方と通ずる畏怖をたたえた雰囲気に変わったのだ。





 杖を差し出したオリバンダーでさえ、ひれ伏すかのように“杖をよろしく頼む”と彼女に頼んでいた。





 彼女はそれに戸惑ったようで、オリバンダーをすぐ立たせ杖屋を後にした。





 そして、彼女は今我輩の後ろにいる。


 今の彼女は、気丈に笑顔でいる方だ。

 我輩としては、そのままの彼女でいてほしい。

 例のあのお方の二の舞になどさせられぬ。





 杖を取り上げてしまえばよいのか?






 いや、それではホグワーツの授業についてなど行けぬ。

 ここは様子見をするか……









 いや、杖に関してだけでも警告しておくか……

 確か校長は様子見して失敗しているはずなのだから。






                                                                       (セブルスside end)

 


 

 やっとこさホグワーツに帰ってきた二人は、荷物を禪の部屋に運び入れて、セブルス・スネイプの部屋で一息ついていた。
 禪の膝にはロシアンブルーが座っている。
 いきなり一人ぼっちにするのはいけないと思い、禪が連れてきたのだ。
 ちなみにふくろうの方はちゃんとふくろう小屋に入れてきており、学校のモリフクロウ達と一緒である。

 セブルス・スネイプが杖を振り、紅茶を出した。
 
『ありがとうございます』

(やっぱり、教授は優しい)

 紅茶の匂いを楽しみながら、一口飲む。

「……ところで、Ms.蔡塔。その猫に名前は付けるのかね?」

 彼は方目を吊り上げ、灰色の猫を見る。
 猫は初めての場所にもかかわらず、部屋に充満する薬草の匂いと紅茶の匂いにくつろいでいるようだ。

『そのつもりですが、まだ決まってないんですよ』

「候補はあるのかね?」

『いえ、まだおぼろげなんです。その、イメージが……』

 紅茶をもう一口飲み、うーんと禪はうなる。

「では、早く決めることですな。ここにはフィルチの猫もいる」

(礼儀をわきまえる為にも早く付けろという事か)

『そうですね、そうしましょう』

 にっこりとほほ笑んで言う。

『もしかしたら、杖にも名前を付けないといけないかもしれませんね』





(保険として、尊いものとして)





「…………杖にもか?」

 (あまり聞かない、いや普通はしないことだぞ?)と、セブルス・スネイプの視線がそう言っていた。
 怪訝な顔つきのまま、彼は禪を見る。



『ええ、この杖の芯に使われているのは神様の一部なんですよ。で、あれば名前を付け奉るとともに縛ることを考えた方がいいと思います』

(杖に選ばれても、それを使いこなすことすら出来ないのならば、意味がない)

「ほう、ならばそれこそ急ぎ付けたまえ。もうすぐで始業式だ。それまでにある程度は練習もしたかろう?」

 セブルス・スネイプも紅茶に口をつける。
 彼は一口飲んでからこう言った。
 
「それに、神という事ならば、ちゃんとしなければ罰が当りますぞ?」

『ですね。確かこの神様は火と土を司るはずですから、それにちなんだ名前にした方がいいかな?』

「ふむ、呼びやすければ、何でもよかろう。ただし、機嫌を損ねないように」

 顎を少し上げ、禪を見下すように、セブルス・スネイプは言った。
 


 セブルス・スネイプがそうい言うのと同時に、禪は杖の名前の候補をあげていく。

(炎、土、……こちらではサラマンダーが近い。だが、カタカナで名前を付けるのはまずい。縛りが利きにくい。ならば、日本語の漢字でつけよう。オトは、……ケイでどうだろう?男でも女でもいい響きだし)

 うーん、と呻りながら猫をなでる。

(慶、罫、計、いや、喜び過ぎてはいかんし、輪郭だけではだめだし、計ってどうする。継、荊、系、景、だめだ。継ぐでもイバラでも、何かの系統でも、風景でもない)

 ケイという漢字はいくつもある。
 
(そうだ、慧眼の慧でどうだろう?確か、仏教でもよく使う漢字で慧眼・戎定慧というのもあるし。彗星の彗の字も入っているから、火と土の意味も出てる。知恵の別の書き方でもあるので、意味は聡い。うん、そうしよう)




『慧(ケイ)』



 
 ポツリと呟く、禪。
 どうやら五分ほど沈黙していたらしい。


「ん?」


 呟いた名前に、セブルス・スネイプは眉を顰めていた。


『杖の名前は、慧にします』

「……そうか。では」


 一言いってから、紅茶を一口流し込み、


「猫の方にも名前を付けたまえ」


(ん?さっきは、できるだけ早くとか言ってなかったか?)


 「その猫もジッと見ておるようですぞ?」と続けて言われれば、彼女の疑問は消え去った。
 禪の膝で丸まっていたロシアンブルーが、ジッと見つめている。



(杖に名前を付けたのに嫉妬でもしたのでしょうか……?)









『あああ、ごめんね、今考えるから待ってええええええええええ!』








 ペリドットのようなエメラルドグリーンの瞳に見つめられ、禪は慌てる。







 以前にも言った通り、彼女は猫好き。
 しかも、生粋(きっすい)だ。
 男性が女性に弱いというなら、禪は猫に弱いのである。
 であるからこそ、猫に見つめられればこうなるのはしごく当然。

 

(猫版ルシウス・マルフォイとか思わないで。ただ、猫がああああ!)



 ……女性の涙に弱いというルシウス・マルフォイにそっくりな行動パターンを彼女が猫に示しているのは、御愛嬌という事にしてもらおう。
 現に、犬でも猫でもこういう人は良くいるし。


                                                                       次ページ:予習と紹介へ

 


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