アカデミーをそこそこに、暇な時間に鍛錬を瑠威につけてもらい――はや三ヵ月。
俺は初めての暗部としての仕事をしていた。
「ごめんね、人が足りないからこれが初めての仕事になっちゃった」
『まさかいきなり暗殺とは……。まぁ、仕方なかろう』
人の上に立つ感覚はよくわかる。
俺も部下共がふがいなく分身を作らざるを得なかったのだ。
ま、その分身というのが俺(分身のひとり)なのだが。
『それで、一応聞いておくが何か制限はあるか?』
「あー、そうねぇ。んじゃ、雷禁止で」
『チッ、面倒だが火の方を伸ばせという事だな』
「そういうこと。あ、こっちは特殊術禁止で行きますんで」
移動しながらターゲットのいる場所まで移動していく。
ちなみに家には俺がいるように、空が幻術と蜃気楼を使ってそう見せている。
暗部だからと、姿も変化の術である程度大人になっていた。
見た目的には二十代前半だろう。
この姿になった時に瑠威、いや、今は翠(スイ)がサインをねだってきた。
……どうやら俺は彼女の元の世界では結構な有名人だったらしい。
それは置いといて。
今は暗部用の仮面をつけて、忍び服を着ている。
仮面にはいろいろ種類があるそうで、色や動物のモチーフを選ぶ事が出来るそうだ。
が、俺のは最初から黒色ベースの狼で目の色とかは赤と決められていた。
翠は黒色ベースの龍、目の色などは青だ。
……釈然としない。
ちなみに暗部名は狼(ロウ)だ。
……お面のまんまじゃないか、いいのかそれで。
いろいろ考えながら移動していると、ターゲットの近くに着いた。
「さて、まずは人がどれくらいいるか。狼わかる?」
『ざっと七十人だな』
「ご名答。どっから行くのがいいと思う?」
『裏と表は見張りがいる。表は堂々と警護して、裏はフェイクとして誰も居ないように見せかけておる。不意打ちで行くなら窓』
「正解。やっぱ、結構最初からチートねぇ」
『翠も似たようなものだろう』
「まぁね。んじゃ、狼は囮になってきて。星はこっちがやるから」
『上手いところを持っていく……。初めてなのだから、少し気にかけてくれ』
そう言ってから二手に分かれる。
翠は一気にターゲットのところへ、俺は裏口へ。
なぜ、裏かだと?
表から行けば囮だとバレバレだろうが。
だからここは三流と偽るためにも、裏から行ってわざと待ち受けていた奴らの相手をすべきだろう。
どうせ表の奴らも来るだろうしな。
ああ、あとこの建物三階建てだからな。
たぶん他の階の奴らも駆けつけてくるであろう。
という読みで裏口へと来て敵と交戦中。
……スピードが遅い。
もちろん俺ではなく、敵が、だ。
クナイと糸、槍しか使っていないが、かなり相手をする事が出来る。
……こいつら、上忍とか中忍とか呼ばれる存在達だよなぁ。
なぜに下忍ですらない俺で互角とは…………こいつらの里は大丈夫か。
突っ込みすら入れつつ、一人、また一人と倒していく。
手加減?
そんなものは無しだ。
弱肉強食の世界であるこの忍び世界で手加減は自滅にすら等しい。
「くそ!なんだこの強さは!」
「増援を!上にいる奴らを呼べ!」
……上手くいきそうだな。
あとは翠が一手置けば終了だろう。
上の階から来た奴らも交えて計五十人くらいまで倒していると、いきなり上から滝が流れてきた。
おいおい。
ターゲットの死体まで流れて行っているが、合図か。
終わったな。
『……』
しゃべらずに、撤退を始める。
幾人かは朦朧(もうろう)としていながらも俺を追おうとしていたようだが、それも水流に阻まれて動きが遅く俺は無事に脱出できた。
里の方面へとさっさと帰るルートを選択する。
「狼、上手くいったわね」
『翠。なんで滝が合図なんだ』
「あー、他の合図の仕方面倒だし、あの術なら楽かと思って」
『特殊術無しじゃなかったのか』
「えー。水遁は特殊じゃないよ?特殊なのはミックスジュースみたいなモノ。ま、今度見せてあげるからね」
『で、このまま帰宅でいいんだな』
「そこは一度火影のところに行かなくちゃいけない。あ、もちろん暗部姿で」
『チッ、面倒だ』
「大丈夫、すぐ帰れるから。というか帰すし。いくら火影でも私達には手を挙げられないし、追及もできやしないから」
どういうことだ?
すでに決まっていた面といい、実はもっとこの翠には権力があるのではないだろうか。
そう思えてならない。
……空や翠のことだ。
いつかは話すだろう。
ただその状態まで来ていないというだけか。
待つのは好きではないが、仕方ない。
男らしく待つとしよう。
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