スケール

 

 その日以降も、二人は岩の上に来て私を質問攻めにした。

 そのやり取りが面白いので、アルトゥからのプレッシャーより考えられるようなシビアでシリアスな空気はない。

 

 と、いってもそれは長続きはしなかった。

 

 おそらく戦いが始まってしまったのだろう。

 

『あー、ほんとにギリギリのタイミングだったんだねー』

【吾の言う通りであったろう?】

『イヤーな雰囲気がこの森の回りからするからねぇ。……何人死んでしまうのかなぁ』

【幾人も死ぬであろう。しかし、それが】

『人の抗い。そして和解への道』

【知る者は、狙われてしまうが……。この吾と居ればそれは大丈夫だ】

『いるだけで聖域発生ですか……。でも天然の防空壕と考えていいわね。どのくらい待つの?』

【本来の時間ならば、六年ほどだ。しかし、それを吾は待てぬ】

『うぉい!その喋り方の流れってなんかする気か!』

 

【面倒だ。”吾の名において、この空間を今から五年後に移す”

 

 その言葉とともに、いきなり視界が少し変わった。

 

『はぁあああああああああああ?!異空間移動に続いて、時間移動かい!どこの二代目だよ?!』

【うるさい。だが、少し弊害もある。例えばそう……】

 

 常識的にはスケールの違う術を行使して、さらりとアルトゥが私に視線を……

 

『それって、女としてのだよね?私はびっくりだよ……ほんの五cmしか背が伸びてないし、やっぱいろいろちっこいまんまじゃん。あー、でももう少ししたら成長期来るんだよね……』

【なんとかなるであろう?】

『アハハ……』

【瑠威の肉体の実年齢は八歳だ。こういう空間やら時間やらに干渉する術はそういった弊害が出る】

『つまりは周りの人と一緒に老いることができないってことだね?』

【ああ。さて、そろそろ争いが終わろう。また外に出て、岩の上にいるといい】

『どんだけ都合よく動かすんです?ま、いいか』

 

 


 

 

 相変わらず、岩の上から見る森はきれいである。

 変わったことといえば、森を中心に結界らしき跡が見えること。

 

『アルトゥ。もしかして結界内での移動だったのか……。あー、うん。何となく納得したけど、この範囲はスケールが大きすぎじゃ……』

 

 森だけがきれいなのだ。

 森の外は焼け野原。

 

『アルトゥに救われたね』

 

 ……この戦争被害と思われる光景から考えて、本来ならもっと森が小さくなってしまったのではないかと思われる。

 つまり、里をここに作ったとしても、ちゃんとした家はそう多くなかったと考えられるのだ。

 確かに千住一族の木遁を使えば家など造作もないだろう。

 しかしそれは木材の資質的には劣るかもしれない。

 一瞬で家を作れたとしても、それが本当に強度があるかどうかは分からないのだ。

 

『……ともかく、こうして残ってくれてよかったなぁ』

 

 

 

 呟いてみたら何か首にあてられた。

 何このデジャブ。

 

「何者ぞ?」

 

 ほらな。

 


 

 

 前と違って、クナイが外れることはない。

 首にあてられているもの以外にも、背中や頭にいくつか硬いものが当たっている。

 

 いやだなぁ……。

 一気に要注意人物になったの?

 てか絶対一人じゃないだろーが。

 今回は団体様ご案な~いって感じなの?

 あー、気配が1,2,3,4,5,6,7……

 めんどい。

 やめよ。

 とりあえず二クラス分はいるみたいだね。

 

『声変わり、したのね。でも、口調は変わってないなぁ。5年前にもここにいた者だよ』

「!瑠威か?!しかし、その姿……」

『この森を守るために、少し、ね。もう少し大人姿になってるはずだったのに、上手くいかないねぇ……』

「……どうやった?お前は一般人であったろう?」

『私は、ね。兄がやったの』

 

 アルトゥが近寄ってくる気配がする。

 

『そろそろ来るんじゃないかな?』

 

 来たなーと思ったら、アルトゥが空飛んできた。

 それはねーですぜ。

 

【待たせたな、瑠威。おお、どうやら今晩は人が増えそうだ】

『何してんですか、アルトゥ』

【瑠威。体の調子は?今まで寝ていたのだからな】

『全く衰えてなさそうだけど……って、寝ていたことになるの、あれ?』

【吾のあの術はそういうものだ】

『……意外とえぐい』

 

 

「お主ら、ワシを置いていくな!」

 

 

 あ、柱間さん忘れてた。

 

『あ、ごめん。で、この体制は解いてくれないの?』

【瑠威。心配せずとも吾が屠ろうか】

『アルトゥそれはダメ!柱間傷つけたら、怒るよ!』

【冗談だ。で、この森の結界が解けたから見に来たのか】

 

 いきなり話し戻したよ、この神様。

 

「ああ。五年前いきなりこの森に入ることができなくなった。それから幾度も入ろうと試みたのだが……」

【この森を焼くわけにはいかなかったからな。吾が守ったのだ。この樹々も少しは恩寵を受けよう】

「?いったい主は」

『アルトゥ!もう少し考えて話しなって!ああ、でも効かないんだよなぁ。んじゃ、あれだ!一部説明するか、話さないかどっちかにしなさい!』

【吾に意見するとは……。だが、そうだな。少し話そうか】

 

 アルトゥがパンと手を打つと、水晶のテーブルが現れた。

 

「なっ」

【そう驚くな。瑠威そこにいろ】

『なにする気?』

【見ていれば分かる】

 

 アルトゥが光り始めた。

 

 おいおいおいおいおいおいおい!

 

『選択そっちかい!』

 

 つっこむ私をしり目に、アルトゥは本来の銀色の竜に戻った。

 無駄にキラキラきらめいてる……。

 

【さて、これが吾の本来の姿だ。瑠威は従者みたいなものだな】

『はぁ……。これだから神様は……。柱間!柱間さん!ごめんね、こんな感じで伝える気はなかったのだけど。この人、兄ではなく正確には神様なの。私はこの人に助けられてね、力を少し分けてもらってこうして生きている身なんだ』

 

 

「「「「「「「「「「はぁあああああああああああああああ?!」」」」」」」」」」

 

 

 ですよねー。

 一見したら千手(?)一族の皆さんほんとすみません。

 

 

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最終更新:2016年10月03日 21:53
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