さぁ、始まるか。
そう思ったのは、ドラコがまぶたをこすり始めた時である。
……眠いんだね。
もう十二時だもんね。
さすがにそれを見かねたナルシッサさんが寝室へとドラコを促した。
ドラコ君は素直に従って、階段を上がっていく。
完全に寝たかなと思った瞬間、ルシウスさんから殺気に似た緊張感を向けられた。
ほらなぁ。
来たよ、釣られてくれたよ。
このナルシストな敵の副リーダー。
おいおい、いつこんなに弱っちくなったのこのキャラ。
妻の前で何やってんの?
美女の前でやらかしちゃったの?
失態じゃん。
プライドどこ行ったよ……。
いや、敵全体が弱いのか。
まぁ……リーダーというか御旗?本丸?
あ!殿か!
【主よ、元に戻れ】
おぅ、慧すまない。
『さて、私もそろそろお暇しませんと……。どうされましたルシウスさん?なんだか目線が怖いですが』
「未熟者はここにはいない。……はぐらかすな」
『はぐらかしなどしていませんが?』
「嘘を言うな。先ほどから威圧をしているくせに」
おい、威圧なんて仕掛けてないけど……?
【すまない、主よ。我が威圧してしまったようだ】
マジか。
ある意味、オート威圧。
まぁー、仕方ないよね。
慧は神様だもの。
【本当にすまぬ】
もういいよ、今更だし。
『……ふふふ。ルシウスさんはこの後の世界は楽しい方が好き?それともツマラナイ方が好き?』
「……それが貴女のもう一つの顔か」
『それはどうかしら?で、質問の答えは?』
「……。無論楽しい世界の方が好きだ」
『そう。でも貴方は綱渡り中でしょう?』
「なぜそうと思う?私は理事長にして神秘部に勤める身。この通り暮らしは安定している」
『ああ、言っていませんでしたねぇ。私の目の前で虚勢を張るのはやめた方がいい』
慧、合図したら顕現して。
【良いのか?】
構わない。
こういう人には理論よりも、力でひれ伏せさせて事実を認めてもらった方が後々反論もない。
彼の妻も見ていることであるし、言い逃れは出来ないでしょう?
言質取るのよ。
言質。
【承知した】
「それはどういう……」
『これを見ても貴方はその様な事を言えるかしら?』
今よ、慧。
合図とともに慧が私の横に顕現する。
ルシウスさんとナルシッサさんはいきなり現れた男性にびっくりしたようだ。
ま、煌びやかな民族衣装を着た男性が現れたら、自然にそっちに視線行くよねぇ。
【我が主の前で、嘘はつけぬぞ。我は蛇の神にして火と地を司りし者。人ではない】
相変わらず慧は威圧をしているようで、彼が話している間にルシウスさんたちの顔が真っ青になっていった。
容赦ないなぁ。
「蛇の神だと?これは幻覚……」
『幻覚で神は名乗らせないよ。それを安易に名乗ってしまえば、何かしらしっぺ返しが来るからね』
「……どうやら本物のようよ、あなた」
「!シシ―?!」
【ふむ、妻の方がなかなか良い目をしているようだな。そう、これは幻覚などではない】
『そして、貴方たちは私たちに味方しないと親子ともども牢屋行になってしまうでしょうね?これ、読んでごらんなさい』
ルシウスさんに例の遺書を渡す。
彼は眉をひそめていたが、読み始めると真剣な顔に変わっていった。
『お読みになってわかると思いますが、それを例の人は持っていなかったでしょう?あの部屋には承認されていなかったのよ、彼は。ただの思い込みの継承者だったの』
「……お前は分かっているのか」
『そうでなくては慧を見せてなどいないわ。彼は例の人より怖いわよ?なにしろ地獄の炎を扱うことができるからね』
【主に敵意を向けるのならば、ここで息の根を止めさせていただく。我はそれで構わぬからな】
「っ!」
『だけど、私は生き地獄の方がまだ救いがあると信じているのでね。それ慧にはさせないわ』
【主は鬼畜だな】
『いいえ、これは譲歩よ。性格的にはドМだしね』
………………
……………………
「貴方、私はついていくだけですが……。ドラコに罪はありませんわ」
「ああ、そうだな」
変な雰囲気になりはしたが、大人な夫婦は冷静に判断し考え始める。
『…………』
【……】
って、無言で威圧してるね慧。
【それは主もであろう?いや緊張か】(←禪しか聞こえていない)
わかっているなら、もう少し待つわよ。
「……私達の事はよい。ドラコにとって良き選択をすることが今の使命と思っている」
「でもね、Ms.蔡塔。私達の家は呪われてしまっているの」
『それくらいのこと、訳はないわ』
【我と主の力を用いれば、それはそよ風、いや通過点でしかない】
「あの方を謀れると?」
『既に裏はかいた。バレていないし、その様子もない』
【どうするか?】
「私達の答えは決まっています」
「ドラコに光を。そして、あの方には去ってもらおう」
『いい返事ね。では、今後の事を話しましょうか』
【最初から人払いと結界魔法を展開している。存分に話すがいい】
こうして、マルフォイ家を味方につけることができたのだった。
次ページ:今年の仕上げへ