歯車になるか、それとも――

 

「禪」

 

 セブルスが困惑気味に聞いてくる。

 

『それは、貴方が知らされていない事実。この物語の、深淵の一端』

「?!」

『知る覚悟は、あるか』

 

 私の纏う雰囲気にセブルスが息をのむ。

 凍てついてはいないが、厳かな空気に包まれ、目が細まる。

 そして、杖から慧が出て、魔方陣の方を見張りに行った。

 

「知って我輩に得はあるのか?」

『そうだね。相手を完全に出し抜ける。安全に、そして確実に、此処を護れる』

 

 悪戯モードや本来の雰囲気をがらりと変えた私の影響からか、私を中心に幻影魔法が広がる。

 幻影の内容は、水晶と花畑。

 

 ああ、そうか。

 この幻影は、私の心の中の風景。

 

 人も建物も無い、社交性ゼロの風景。

 親から否定された風景そのもの。

 

『この風景には惑わされずに、答えて欲しい。ちなみに他に得があるかと言えば、来年あたりだね。セブルスの仕事が少しは楽になるし、時の歯車が全て出そろう』

「時の歯車?」

『ああ。これは私の言い回しでね。全てのピースが揃うという事さ。ただし、こちら側のね。以前からの味方は既に数に入れてあるから。そしてなにより、裏切り者をとらえれる』

 

 これはタチが悪いのかもしれない。

 セブルスに憎しみの欠片をチラつかせてしまっている。

 でもね、セブルス。

 それだけ……私は…………

 

 

 彼からの返答を待つ。

 今度こそ、失望されるかもしれないと、なかば諦めて。

 

 

「禪。もう一つ聞いてもよいか」

『どうぞ』

「お前は事が起こるまで、いや、四年生の時に何かあると言った。だが、それは今から二年も時がある。それなのに、何を急いでおるのだ?」

 

 冷静に見抜かれた。

 流石はセブルス。

 

 

『急ぐ理由は、敵を出し抜くため。そして、敵を騙すにはまず味方からと言うからね。……でも一番の理由は、死人を出さないためだよ』

 

 

 

 それだけは何とも防ぎたい。

 

 

 

 

 

「そうか、……わかった。条件がある。我輩だけには隠し事はやめてくれ」

 

 

 

 

『えっと……それって、つまり……』

 

 期待してもいいの?

 

「言ったであろう。この世界に来た最初の時に。我輩は占いは信じぬと。いや、信じたくなどない。そしてそれを覆すだけの力や、選択肢があるならば、それを求めるのだ」

 

 確かに予言というあやふやなモノには振り回されたくない、と言っていたね。

 

『そう、だったね。ごめん、まわりくどいことして』

 

 厳かな雰囲気は既に失われていて、私は通常の状態に戻っている。

 まわりくどい伏線を彼に対ししていた自分を、心の中で嘲って、ため息をつく。

 

 バカバカしいというか、もう笑うしかないくらい情けないなぁ。

 セブルスは疑心暗鬼してしまう人なのだ。

 だからこそ、彼には誠意あるべきと思っていたのに……。

 もう少しだけ、その背中借りててもいいかな。

 元々、半信半疑だからなぁ。

 あれだよ。

 これが不信だけになったらヴォル様まっしぐらじゃないか。

 それは嫌だ。

 現状的には、その軌跡を微妙に辿っている気がするが、中身は別物でいきたい。

 おいおい考えなければ、ね。

 

 今回はセブルスに言っても大丈夫。

 なにしろ、本人が知らぬうちに倒されて解らなかったと言っていたのだからね。

 ちゃんと手を打ってはあるし、まぁいいでしょう。

 

『じゃぁ、言うわね』

 

 今している事と、この大釜に入っている中身について言う。

 離していくにつれて、セブルスの顔が厳しいものに変わっていく。

 

「貴様はそれがどんな危険な事か分かっているのか?!」

『理解はしてるわ。でも、本人はこれが倒されている事に気づかなかった。んで、これは本人が無意識に作ったモノの一つ。だからギリギリセーフ』

 

 我ながら、危険な橋を渡っているねぇ。

 

「それでどうするのだ」

『そうね。薬品の効果もあって、かなり素直になっているはずですから。とりあえず切り札として持ってるわ。ちゃんと節度を守って使えば、それなりの成果でるだろうし』

 

 あくまで切り札。

 常時使うものではない。

 

『あ、でも一つだけヤバい事が』

「それは?!」

『君の先輩が疑いを持ちまくるっ!てことだよ。何しろ送り込んだのは彼だからね。まぁ、あのナルシストも苦肉の策だろうさ。息子がいるのに、それを送り込むんだから』

 

 狙いはアルバスじいちゃんの失脚。

 平たく言えば校長の椅子。

 

「そうか」

『でも、私がそれをフイにしたからね。とりあえず彼なら、今年と来年のナルシッサさんの誕生日で仕掛けてくれだろうさ。んで、セブルス。その時ばかりは着いてきてほしくないんだけど』

「なに?」

『付いて来てもいいかもしれないけど、事と次第によっては土台から君は疑われちゃうじゃないか。そんなことしたら……』

「……確かに、そう、だが……」

『そんなに心配しないで。慧がいるから』

 

 神様なのだ。

 人一人守護するくらいどうってことないって言ってくれると思う。

 

【安心しろ。それくらいどうってことはない。杖にいる状態でも、彼女の守護は可能だ】

 

 魔方陣を見張っていた慧が言う。

 

「どう安心しろと……」

【不安か?我は神だ。まぁ、我より白虎がいてくれればよかったかもしれぬがな】

「びゃ?」

【ああ、真っ白な虎の神だ。操るのは風。守護する方角は西。風ならばどこにでも吹いていよう?我の様に炎を介したり土を介したりはせぬから、楽に護るには彼が最適なのさ。まぁ、今どこにいるかはとんと知らぬが】

「慧はどうするのだ?」

【我が守る際は、禪の創造魔法を介して力を行使する。さすれば、炎がなくとも地面じゃなくとも、守りきれる】

 

 

 そういうことか。

 確かに十二神将すべてとは言わないが、四方角は欲しい。

 青龍でしょ?

 朱雀でしょ?

 白虎に、玄武。

 麒麟とか来たらおいおい!としか言えんけど。

 

「はぁ。了解した。ともかく、これ以上の隠し事はやめてくれ」

『うん。今年の事はこれくらいだし。来年の事は、またその時に話すよ』

「仕方ないな。それしか手立てがないのだろう?ルートとか言うもので」

『正解』

 

 まったく。

 知っているっていうのは辛いね。

 

 


 

 

 とりあえず、切り札云いは良い。

 あとすべきはハリーの能力に気づかせるという事と、主人公組の育成。

 

 ハリーの能力は……狛に一度原型に戻ってもらって話させるか。

 それで一発だよね。

 

 んで、育成はどうしようか。

 いきなり本気モードの私と戦うのは駄目よな。

 彼らヒヨっ子だし。

 せめてセブルスくらいのレベルじゃないと、付いて来れんて。

 

 出来るだけ認識とかそう言う精神面も鍛えなきゃね。

 特に男の子。

 ハリーはセブルスの為にもちろんだけど、ロンもだよ。

 彼は他の仲間の為にも鍛えなきゃ。

 

 地道に基礎体力向上からするか。

 これに関してはハリーとロン、ネビルはクリアしてる。

 去年、基礎運動と計算を叩きこんでみたら、結構いい線まで行っていた。

 若いって、恐ろしいね。

 

 ハーマイオニーは……マグル界で計算能力は手に入れてるだろーから、少し難易度高い問題を当てて、基礎運動のレベルを計るか。

 彼女の事だから、知識色々吸収するだろうし。

 そこら辺は私にも似た様な事があったよ。

 

 

 

 ひとまず最初の一手の考えはまとまった。

 セブルスと移動しながら考えていたが、これくらいでいいだろう。

 スパルタになり過ぎてもいけない。

 

「また考え事をしながら移動か。そろそろ私室に戻るまで待てぬのか?」

 

 彼がため息をつきながら聞いてくる。

 

『まぁ、癖ですからねぇ。いきなり治るものじゃありません』

 

 前世から変わっていないし。

 

「敵にはそれを見せるな。あまりに無防備だ」

『善処しますよ』

 

 今年は美味しい場面みてないしなぁ。

 

 あれだよ。

 セブルスの決闘シーン。

 ヨダレ物のそれをふいにしてでも、事を防いだのだ。

 腐女子的には辛い。

 

 地上に戻ってこれば、すぐさまセブルスの私室へと連行される。

 生徒の視線が気になるから、二人ともステルスモードになれる結界の中で移動していった。

 途中でロックハートがドラコと話をしていた。

 雰囲気がおかしい。

 

『セブルス』

「またアヤツか」

 

二人してため息をつく。

ステルスモードなのをいいことに、堂々と近づいてやり取りを聞く。

 

「なるほどロックハート先生は、先を見据えていると」

「ええ!その通り!さぁ、君もその為にこれに署名してくれたまえ!」

「そうだな……僕一人で考えていても埒が明かない。おい、グラップ、ゴイル。お前たちはどうなんだ?」

「僕は賛成だな」

「ぼぐだってそうだよ。去年みたいなことで出し抜かれるのは嫌だ」

「……ということで、僕らは賛成。署名しておくよ」

「ありがとう諸君!」

 

 署名だと?

 いやーな予感がするが……

 

 セブルスと顔を見合わせて、その場を離れ、地下牢のセブルスの私室へと直行した。

 部屋に入った途端に、二人して口を開いた。

 

「『なんなの(だ)あれ(は)』」

 

 セブルスは苦虫をつぶしたように、顔をしかめる。

 私はと言えば、訳が分からないと悩んでいた。

 

『まったく知らないわよ。あの署名の内容が問題よね?』

「そうか。確かにそうだな。それを探ってくるのは可能か?」

『出来るけど、したくないよ。あんな中身残念すぎる奴』

「……(我輩も奴に近づけさせるのは不愉快だな)」

 

『とりあえず、様子見してたらわかるんじゃない?署名って言ってたし。多分、ミネルバかアルバスじいちゃんに提出してくるよ』

「そうするか」

 

 ソファに二人でぬくぬくしながら、紅茶を楽しむことにした。

 

 

 

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最終更新:2016年07月18日 00:10
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