「おい!いつまで引きずる気だ?」
『ああ、すみません。少し緊張してましてね。今、手を放しますから』
そう言って手を放した。
現在位置は、ちょうどプールのところ。
うん、吃驚だよね。
ほんとどんなテーマパーク目指していたのってくらいいろんな施設がある。
しかもこれはツナが記憶していない部類。
……まぁ、既に中央に亀裂が入って巨木が育っているから、水はたまらないけどね。
「しかし、不用心だな。すんなりと手を放すとは」
『貴方からは敵意を感じませんからね』
「……そうか。お前もボンゴレの血を引いているのだったな」
『しかし、ツナほどの力を発揮することはありませんよ。って、敵察知能力だけは別のようですがねぇ。さっさと出てきなさい!』
殺気を飛ばしてきた奴に、同じように殺気を飛ばす。
「ほう。気づかれましたか」
木の上に六道骸が立つ。
「っ、まさか」
『ランチアさんは、そこに居てくださいね』
私はほんの少し力を開放して、空中に武器を展開する。
まぁ、フォークとナイフだけど。
「おや。そのようなもので迎え撃つ気ですか?」
『ご忠告ありがとう。でも、私はツナより複雑な生き物でね。――その必要はないの』
フォークとナイフだけその場に残し、私は骸の斜め後ろに回る。
「!いつの間に」
『貴方が遅いだけ』
儀礼剣で斬りつけ、地面へと落下しながら体制を整えて、風を発生させてゆっくりと地面へ降り立つ。
「くっ、小癪(こしゃく)な」
『貴方こそ。このような場所まで降りてきていいの?ツナが辿りついてしまうわよ?』
「クフフフ……貴女の方が何かと好都合と思ってきてみたのですが、そうもいかないようですね」
『――そうね。私は貴方とも似通っているからね。とりあえず、貴方は今の作戦に集中してきたらどうです?ここまで意識を伸ばすのは大変でしょう?』
「……貴女はいったいどこまで見通しているのです?」
『さぁ?どこまででしょう?もし、貴方がツナに勝つようなことがあれば、秘密一つ話してもいいわ』
「その約束確かに、聞きましたよ。では、貴女のご忠告通り僕はあちらに集中することにしましょう。Arrivederci.La vedi di nuovo」
骸の姿が消え、その気配も消える。
『へぇ。あれが今回のツナの敵ねぇ。とりあえず、女性にやられたのに逆上してこなかった事だけは留め置きましょうか』
壊れたプールの中から、跳んで脱出する。
「あの六道骸が帰った。俺のことを気にも留めずに」
『ランチアさん、大丈夫です?』
「ああ。だが、あんな約束しても大丈夫なのか?」
『それは大丈夫ですよ。今の彼では、ツナの未知数に勝てない。奢りが過ぎる。少しは叩きのめされてくるといいわね』
「……お前はいったい?」
『私?ツナの姉。沢田櫻。現在十七歳の高校に行けるはずだった中学校風紀委員長補佐』
「そういう事じゃなくてだな!」
『ただの一般人にしては戦い慣れしすぎているって事でしょ?』
「ああ。それになぜ俺の名前を知っている?まだ名乗った覚えはないが」
『あら、ミスってたか。んー、それはそれで教えておいてもいいわ。今の貴方ならね。もう、骸の操り人形として戦うつもりないと言っていましたし』
「――いいのか?俺のような者に教えても」
『私はそこまでいじわるではないつもりよ?ちゃんと時が来たら教えることにしているわ。ただし、教える人物によってそのタイミングは変わってしまうかもしれないけれど』
「どういうことかは聞かないでおいてやる」
『あら、ありがとう。ところで、骸は最後になんと?私イタリア語は分かりませんでしたので……』
「”さようなら。またお会いしましょう”だ。そう言っていた」
『ふぅん。たいした自信だとこ』
そのあと私は、ランチアに話し始めた。
十二年前の出来事を。
プールの近くに座りながら、時が経ってゆく。
周りの気配も読めるようになったのか、六道骸が力を振るう気配や、それぞれが動いてゆくのがわかる。
『ふぅ。雲雀さんは少し休んで回復してましたか。感心感心。んで、獄寺はやせ我慢気味、武君は微妙、ビアンキさんとリボーンはいつも通りか』
「こんな場所から分かるのか?」
『私は特殊でね。この場所でも気配は分かりますよ』
「さっきの話といい、お前には驚かされてばかりだ」
『褒め言葉と受け取りましょう。あ、敵の気配が二つ薄れましたね。という事は、残るのは、六道骸だけか。頑張ってね、ツナ』
この先は、ツナにとっては辛い戦いかもしれない。
「今更だが、どうしてお前が戦わない?それほどの実力があれば、すんなり倒せてしまうのではないか?」
ランチアさんが聞いてくる。
『私は、ね。でも、それじゃ周りが成長しない。ツナにはこれからいくつもの試練が待ってる。だからこれ以上は手を出さない』
「そうか」
私の事情を聴いても、少し考え込んだだけで普通に接してくる彼は、やはり大物だ。
『それで、貴方はたぶんしばらく監獄で暮らすことになるでしょうが、それから先、もし外に出られたらどうするおつもりで?』
「墓参りと、謝罪の旅でもするかな」
ランチアさんらしい返答だ。
「だが……そうだな。それが終わったら、お前の手足になってもいいかもしれないな」
はい?
え、なんかビックリなんだけど……
『……よろしいので?』
「ああ。俺に出来ることはそれくらいだからな」
気を遣わせてしまったか。
「それで、状況はどうなっている?」
『ビアンキさんが油断したみたい。末梢からじわじわと骸に操られてる。無事なのは、ツナとリボーンのみ。現在戦闘中』
「毒サソリもか」
『ん?フゥ太のマインドコントロールが解けた』
言ったのだな、あのセリフを。
『ツナ、さっさと覚醒しちゃいなさい』
獄寺と雲雀さんが駆けつけるのを感じながら、そう思う。
『覚醒してしまわないと、貴方は友達をなくしちゃうから……』
雲雀さんの意識が途切れる。
『無茶しすぎですよ。さて、ここから本番というとこか。んー、ビアンキと獄寺が敵の掌中にあるとは……。せめて武君だけでも、そうならないで欲しいものですねぇ。って、無理か。次は?』
これで原作とかなり異なったなぁ。
「俺たちはここに居てもいいのか?」
『行っても足手まといですよ。六道骸がいる部屋はそれなりに広いですが、建物の中とあっちゃぁ、無理があります。それに、骸には、ツナと一緒で特殊弾を利用してる』
「なに?」
『憑依弾』
「っ!それは……使用法がかなり酷いぞ?!」
『だが、彼は使いこなしている。でも問題はそこじゃない。どうしてそのような状況へと骸が追い込まれたかの方が問題なの』
「確かその弾は、エストラーネオファミリーが開発して、全てを破棄された品物だ」
『……何となく読めた。多分、骸はマフィアが嫌いだ。ツナと同じで。でもそういう類の嫌いじゃない。もっと怨嗟がある嫌いだね。家族を殺されたような怨みじゃない、ならば自分自身に何かをされた?実験でもされたか……』
「実験だと?!」
『そう驚かずに。力を求めた者が辿りつく先は大体そこでね。科学者だろうが、心理学者だろうが、小説家だろうが、権力者だろうが、力を求めすぎた者は大体、人体実験をする』
「なら、六道骸は……」
『ランチアさん自身に怨みはないでしょう。そう貶める政体や、組織を恨んでいる状態ですね。だが、私の弟の秘めたる力は、そんなのもろともしないはず』
「……止めないと」
『今、行っても足手まといですよ。いえ、ツナの敵を増やすだけ。すでに獄寺君、ビアンキさん、武君、あと柿本と城島の五人が操られてます』
「同時にか?!」
『それほど怨みが強いのでしょう。元々の彼の力量でもありますが……』
さっさと、言いなさいよ。
ツナ。
思ったことをちゃんと言わないのは貴方の最も駄目な所なのよ?
「お前ではダメなのか?」
『ん?櫻でいいよ』
「櫻では、ボンゴレボスはダメなのか?」
『確かに資格となる条件二つ”超直感”と”死ぬ気の炎”はあるのですが、前者は微かにあるだけだし、後者は全く性質が異なるもの。情けないことに、私は姉として弟の代わりにボスになる事は不可能。気持ちはあっても、器が異なってしまえば、ボンゴレの本来の使命とやらが全く意味をなさなくなる』
「そうか、難しいな」
『ええ。これまた広い範囲に影響を及ぼしてしまう事だし、私は自由でいて自由でないという条件下で生きている』
「おい……」
『気を遣わないで。あ、ツナがやっと思ったことを口にした。”骸に勝ちたい”か。すがすがしく、単純明快だわ。おぅ、レオンが羽化したか』
今頃ニューアイテムとやらに戸惑っているだろうな、ツナ。
何しろ毛糸の手袋だし。
相手を油断させるには恰好の獲物でしょうけど。
『さっさと勝ちなさいよ、ツナ。負けたら私が直々に相手をしてやるから!』
「……櫻は怖いな。だが、そうだな。俺のようになるなよ、ボンゴレ十代目」
ノリで言ったのか、ランチアさんもそう言う。
『……今、ノリで言った?』
「ああ。なんとなくな。櫻はあまり大声を出すタイプではないだろう?」
『この短い間になんか分析された?!あー、でも確かに。普段はそんなに大声出さないよ。むしろこういう風に心許してたりすると大声出してたりする、かな』
「……心を許すか。俺のようなものに」
『私は少しだけ歪んでますからねぇ。ま、宣戦布告なんてしないし、平和ですけど』
少しだけ骸には賛成なのだ。
だが、その手段を取れば私は確実に壊れる。
『間違った手段で得た者は、必ず目の前から去る。その掌中に再び戻る事は無い』
「よく分かっているな」
『まぁね』
しばらくして、ツナが勝利した。
だが、動けないようだね。
『ん。来たかな?』
「ああ。そのようだな」
復讐者(ヴィンディチェ)が音もなく近寄ってくる。
「引き取りに来た」
『貴方がたが、復讐者?』
「そうだ。ランチアを引き取りに来た」
『そう。で、ランチアさん』
「分かっている。俺はもう逃げん」
「良い言葉だ。では連れてゆく」
『じゃ、ランチアさん。また今度』
「ああ」
そう言って私は、ランチアさんの首に鎖が付けられ、連れて行かれるのを見ていた。
『どうこの後、進むかしらね?』
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