心理学演習ⅡA 記憶A班
2008/05/27(火) 話し合い用
実験計画書⑥
★テーマ
人物を記憶する際に、その人の服装は記憶に影響するのか。
★話し合いで決まった事項
●序論
今回の実験計画を進めるにあたって、私たちの班で話題に上がったのは、”ポケモンなどのキャラクターを覚える”ということだった。キャラクターは視覚的印象が強く、あまり苦労することなく覚えることができるというのは、日常の中で経験していることであると思う。キャラクターはその色や格好に特徴があり、しかもそれは常に変化しないので、それらは覚える際の手がかりとなる。キャラクターにとって、色や格好は重要な個性とも言える。
この話題から、私たちは、日常生活に欠かせない”人物を覚える”ということを対象にした実験を考えた。私たちは人物を記憶する際に、様々なものを手がかりとする。顔はもちろんのこと、その人の服装や髪型、出会った場所などである。ここで、キャラクターと人物との違いを考えてみると、人物の場合、格好は常に変化し、固定された色などを持っているわけではないので、それらを覚える手がかりにするのは難しいように思える。人物にとって常に変化しないのは「顔」である。しかし、人物を記憶する際に、顔のみで覚えているとは言いがたい。人物を記憶する際のことではないが、実際、友達がいつも見慣れた格好とは違う系統の格好をしていると、イメージが違ったりもする。また、自分がよく行くファストフード店の店員が、制服ではなく、私服を着て街を歩いていると、見たことはあるがどこで何をしていた人かなかなか思い出せなかったということもよくある。
上記のような身近な経験をもとに、今回私たちは、人物を記憶する際には、キャラクターを記憶するのと同じように、顔の特徴以外にその人物の背景は影響するのか、ということに着目した。
人物の背景文脈の記憶率については、従来からも研究が行われている。Daw&Parkin(1981)は、人格特性で顔を判断するように求められた被験者が、形態特徴で判断した被験者よりも、個々の顔の背景(建物や着ている服など)をずっとよく再生できることを示した。しかし、逆に再認時に背景が変わっていると、人格特性で顔を判断するように求められた被験者は再認成績が下がり、形態的特徴で覚えたほうが成績は良いという傾向も認められている。(Beales&Parkin 1984)
今回は、人物の背景の中から「服装」に注目し、刺激として「服装」の中でも職業を連想させる服装を用いた実験を行う。落合(1988)は、職業名を与えると社会的に一般化された共通理解があるため、認知者に関係なく刺激人物の評定が画一的になされるとしている。つまり、職業という観点で人物を記憶した場合、個々の特性ではなく、外見的な特徴に左右されやすいと考えられる。例えば、職業を連想させる服装は、普段着とは異なって色や形などの外見・形態的特徴が強く(ex.看護婦=白いミニスカートのワンピース、保育士=エプロンなど)記憶する際の符号として用いることが可能である。一方、性格については、顔の記憶に関する実験の際に『「親切な」「知的な」といった特性語を用いて顔から受ける性格印象について判断を求めた場合、顔をていねいに見るので、個々の顔の示差特徴が符号化されやすく、それが記憶の促進につながるという考え方(Winograd, 1981)』がなされている。したがって、性格という観点で人物を記憶した場合、顔をていねいに見ることから、記憶の際に服装はあまり影響しないのではないか、と考えられる。
つまり、人物を記憶する際に、職業を手掛かりに記憶した場合の方が、性格を手掛かりに記憶する場合よりも、服装の影響が強くなる、ということが言えるのではないだろうか。
そこで今回は、特定の職業を連想する服装をした人物の顔を記憶する際に、被験者を2群に分け「その人物の職業を手がかりに記憶してもらうグループ」と「性格を手がかりに記憶してもらうグループ」を作り、さらにそれぞれそのうちの半分を「服装を記憶時のままにして再認テストを行うグループ」、もう半分を「職業、印象などになるべく影響を与えない統一された服装(Tシャツ)に着替えて再認テストを行うグループ」にする、という方法をとる。*図1参照
再認テストの際に、統一された服装に着替える群を入れたのは、服装が記憶時と変わる、つまり記憶時と背景文脈が変わったときの記憶への影響をみるためである。もちろん背景文脈が変わらなければ、再認時の手掛かりが多いということになり、再認成績も良いと予想される。また上記の先行研究より、職業で記憶したほうが、性格で記憶した際よりも再認成績が良いということがいえることから、予想される結果として、1群の方が3群よりも再認成績がよい、また、4群の方が2群よりも再認成績がよいと考えられる。
以上のことから、私達は、人物を記憶する際に、記銘時と再認時とで服装が同じ場合から異なる場合に変えたとき、職業を手がかりに覚える方が、性格を手がかりに覚えるよりも再認成績の低くなる割合は大きくなる。という仮説を検証するべく、今回の実験を進めていく。
|
記名時 |
再認時 |
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職業 |
1群 |
職業服 |
職業服 |
2群 |
職業服 |
Tシャツ |
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性格 |
3群 |
職業服 |
職業服 |
4群 |
職業服 |
Tシャツ |
図1:群分けした記名時と再認時の刺激
●目的
・実験の目的
本研究では「人物を記憶する際に、その人の服装は記憶に影響するのか」ということを調べるために、形態的特徴が強いとされる「職業に関する服装」を用いて、職業を手掛かりに覚える場合と、その人物の性格を手掛かりに覚える場合での再認成績を比較する実験を行う。また同時に、記銘時と再認時で服装を変える群と変えない群に分けることによって、服装という背景文脈を変化させた場合の記憶への影響も調べ、上記の表のように分けた4つの群に、どのような差が出るか比較検討する。以下に実験を行う上での仮説を示しておく。
・仮説
人物を記憶する際に、記銘時と再認時とで服装が同じ場合から異なる場合に変えたとき、職業を手がかりに覚える方が、性格を手がかりに覚えるよりも再認成績の低くなる割合は大きくなる。
●方法
・実験デザイン:
独立変数・・・記憶の手掛かりに用いる尺度…【尺度】(職業)/(性格)
記銘時と再認時での服装… 【服装】(同じ)/(異なる)
<2要因 2×2水準>
また、被験者間要因で実験を行う。
従属変数・・・再認テストの正答率
・被験者:大学生約40名(各群約10名ずつ)
・実験日時:
・装置:パソコンを使い、実験者が刺激の写真を1枚ずつ画面上に提示する。そのためのソフトとしてMicrosoft Office PowerPointを使用する。
・刺激:
同年代くらいの男女各(8~10)名(女子は髪を結ぶ、男子は画像処理などをして、髪型・髪の
色を統一する。)の写真を用いる。このうち男女各(8~10)名の写真は記銘時と再認テスト段階の両方で提示する。残りの男女各(8~10)人の写真は再認テスト段階におけるディストラクターとして使用する。刺激の提示時間は先行研究に倣って4秒とし、提示方法はパソコンを使って刺激を一枚ずつ提示するものとする。
記銘段階の刺激は、男女各(8~10)名の写真を使用し、順序をランダム化して被験者に提示する。
その際に、各個人に以下の職業を連想させるような服装を着てもらう。
【女性】 【男性】
・カフェ店員 ・ガソリンスタンドの人
・ファストフード店員 ・コック
・看護士 ・コンビニ店員
・ウエイトレス ・塾講師
・保育士 ・農家の人
・スポーツインストラクター ・学生
・事務員 ・スポーツ選手
・美容師 ・科学者
・旅館のおかみ ・ラーメン屋
再認テスト段階では、記銘段階で提示した男女各(8~10)名に、ディストラクターの刺激である男女各(8~10)名を追加し、順序をランダム化して提示する。服装については、1群、3群では記銘段階と同様に職業の服を、2群、4群では記銘段階と異なる服装(無地の白いTシャツ)着てもらった刺激写真を用いる。*P2の図1参照
・手続き:
被験者はパソコンの正面の画面が見やすい位置に座ってもらう。実験者は、被験者が画面を見る妨げとならない場所に着席する。
まず、記銘段階では、被験者に刺激を一枚ずつ提示し、1群についてはその人物の職業を、2群についてはその人物の性格を連想し、選択肢から選択する。(強制多肢選択法)
実験の方法について以下のように教示する。「これから何枚かの人物の上半身の写真をお見せします。1枚につき4秒間提示します。提示後、その人物にあてはまると思われる職業名(性格)を、今からお渡しする紙に書いてある選択肢から選んでください。選択する時間は5秒間です。提示された写真を見て職業名(性格)を選ぶ、という作業を繰り返し、『終了』と書かれた画面になったら、終わりです。では、今から職業名(性格)が書かれた紙をお渡ししますので、目を通してください。」教示終了後、職業名(性格)が書かれた紙を渡し、1分間目を通してもらう。
その後、質問がないか確認し、「それではまず練習を行います。」と合図し、練習用の刺激の写真を用いて練習を行う。
練習終了後、質問や問題がなければ、本試行用の刺激の写真を用い、記銘段階に移る。「では始めます。」と合図を行い、最初の写真を4秒間提示する。そして、5秒間被験者が選択肢から職業(性格)を選ぶ時間を与える。これを『終了』と書かれた画面になるまで繰り返す。
提示終了後、「今から5分間の休憩をとります。」と教示し、5分間休憩する。
休憩終了後、再認テスト段階に移る。再認テスト段階では、記銘段階で使用した刺激と、ディストラクターを混ぜ、記銘段階と同様に1枚ずつ提示する。被験者には、記憶時に覚えた顔であったかどうかを○か×で回答してもらう。
再認テストの方法について以下のように教示する。「これから再び何枚かの人物の上半身の写真を見せます。提示時間は先ほどと同様に1枚につき4秒間です。それぞれの写真が、休憩前に見た写真と同じであれば○を、見ていないものであれば×を、今からお渡しする紙に書いてください。『終了』と書かれた画面になったら、終わりです。」
教示終了後、質問がないか確認してから、被験者に記入用の用紙を渡す。「では、始めます。」と合図を行い、記銘段階と同様に刺激を提示し、被験者に回答してもらう。これを『終了』と書かれた画面になるまで繰り返す。
テスト終了後、用紙を回収し、最後に内観をとる。
・分析方法:2要因の分散分析を用いる。
●予想される結果
・記憶方法と服装の変化について交五作用がみられる。
●引用文献
・西本武彦・吉川佐紀子,2003,認知心理学2 記憶
・落合勲,対人認知の多元的研究Ⅱ 自己評定と刺激人物認知,早稲田大学人間科学研究 第一巻第一号 pp63-72,1988
●参考文献
・梅本堯夫・川口順,1999,『現代の認知研究―21世紀へ向けて―』,培風館
・川口順,1992,『日常記憶の心理学』,サイエンス社