『α』の鼓動


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 「どちらにしてもよくかわしてくれましたミュリエル…。これで私も、久々に思いっきり戦える」
 彼女の一言で場の空気は一瞬にして凍りつく
 彼女の全力…久々という発言から予測できなかったものがさらに予測不可能になっていく
 彼女はいつから本気ではなくなったのか…今は何部の力で戦っていたのか
 どちらにせよこの状況でそのような思考は御荷物でしかない
 考えることはただ一つ…
 私とミュリエルはこの未知の力を持つ『地獄の番犬』にどう立ち向かうかという現実だけだ



 「勝つんだ」

 この試合の勝敗、私は結局のところ勝てばいいのか負ければいいのか迷っていた
 この試合はエキシビジョンマッチ、つまるところ余興なのだ
 まぁ大観衆の中、テレビ中継までしてるんだから互いの誇りやらプライドをかけてといえば十分重要な試合でもあるんだろうが…
 私の気持ちとしては……勝ちたい
 自分が負けること、他者より劣ることを良しとする者なんていない
 それが『戦士』ならばなおさらである
 さらに私たち神姫はマスターを持つ仕える者だ
 存在意義が例え家族や、妹やパートナー……恋人に変わったとしても根本にあるのは主人に対する忠義の心
 それぞれ戦う者、共に生活する者、仕事のパートナーとなる者…道は違えど主人の喜ぶ顔が見たくない神姫なんていないと私は思う
 ご主人さまは私たちを家族だと言ってくれたが今この場にいる私は…『戦士』だ
 この人が喜ぶのであればこの人のために私は勝ちたい…その気持ちは一度だってぶれたことはない
 ランみたいな騎士なら忠義という言葉の似合うのだが如何せん私は犬型だ
 思わず首輪をつけて尻尾を振っている自分が可笑しいというか情けないというか…
 いや……案外いいかもしれない
 いつもミコだけ…あの子ばかりご主人さまに甘えているんだから猫型に限らず犬型である私も…
 ……かっ…かなり魅力的なんだが私のイメージとかけ離れすぎていて無理があるな…
 結局、ケルベロスなんて呼ばれているがご主人さまの前では私はただの忠犬なんだよ実際

 はたまた相手がアルティさんとミュリエルということが事態をややこしくしている
 私じゃなくてミコならば名勝負にもなっただろうが…
 今の彼女なら私のほうが上にいる
 これはうぬぼれや過信でないことは彼女と実際に対峙して確かめた事だ
 早い話「α」を使えばすぐに終わらせることも可能だろう
 何故それをしないのか
 「そんなのバトルでもなんでもねぇだろ?」
 ご主人さまのその一言で「α」は自動的に私の奥の手、切り札となったんだ

 色々と話はそれたがつまり私が言いたいのは…
 「私は勝ちたい。しかし、それでご主人さまが喜ぶのであれば」
 ということだ
 ミュリエルとの戦いの最中アルティさんの実力を大きく買っているご主人さまに私は正直なところ……嫉妬していた
 アルティさんはご主人さまの恋人だった人…それだけでも胸がもやもやとするのに
 この人は彼女たちが強くなっていることを喜んでいる
 口には出さないが顔がいきいきしている
 私はどうもそのことが気に入らなかった
 だから私は聞いたんだ
 「この試合、私は勝てばいいんですか?それとも負けましょうか?」
 と…

 そんな神姫らしくもない質問にため息交じりにもはっきりと「勝て」と命ぜられた
 迷いなんてなくなった
 ただ今は…私を見てください…ご主人さま!!



 「『α』に移ります…転送お願いします」
 「了解~、転・送…っと」
 サイドボードにあらかじめスタンバイしていた武装一式をノアに転送する
 転送は攻防の真っ最中などには隙が多くなり不可能なんだが今のミュリエルは動こうものなら転送キャンセルをしたノアのラッシュを受ける位置関係にいるので下手に手出しもできない
 そんな中でノアへの武装転送が終わった



 「転送終了、『α』問題なく受け取りました」
 彼女の纏う『α』とは基本や見た目的には犬型武装
 ただし、完全なる薄型軽量化と材質に凝った作りをしている職人芸な一品だ
 『腕甲・万武』では《クロノスベル》も持てないのでそこいらも配慮した造りになっている
 武装は今まで通りの《クロノスベル》に加え、お腰につけた双剣『干将・莫邪』と…
 「お久しぶりでありますな大佐!!」
 「けっ、やっとこさ出番かよ…あぁぁ!!?」
 「ふっ、お久しぶりですね我が姫…」
 「ホント、ノアったら全然呼んでくれないんだから…」
 上より順にぷちマスィーンズ壱、参、肆、伍
 それぞれ翠影(ひかげ)、黒曜(こくよう)、蒼騎(そうき)、白菊(しらぎく)という名前がある
 ちなみに弐号の赤丸はユーナにレンタル中だ
 ノアの背中で翠影が指令を出し、黒曜、蒼騎、白菊の三人がそれぞれのマスィーンで攻撃する
 ノア自身はほとんど遠距離の射撃はしない…もとい、する必要もないのだ
 こいつらを並のぷちマスィーンズと思ったらそれだけで大誤算
 実力のほどは…まぁみてりゃわかるわな
 「四人とも久しぶりね…今回も力を貸してくれる?」
 「了解(ヤー)。 であります大佐!!」
 「ちっ…しゃあねぇな…あんたの頼みとあちゃ断れねぇ…」
 「無論です我が姫ノアール様。この身は常にあなたの刃」
 「私とあなたの仲でしょ?もちろんよ、ノア」
 「ありがとう、ではみんな…行きましょうか!」



 「…転送…?」
 「ああ、軽装型には変わりなさそうだが…ぷちマスィーンズときたか」
 「アル…どうする?」
 「出方を窺いたいところだが…」
 そんな余裕はこちらにはない
 受けに回ったが最後、反撃のチャンスが来る保証などないんだ
 「打って出るぞ」
 「…うん…その方が…いい」
 「よし、準備はいいか?」
 「…アルヴォPDW9×2…マガジンセット…《アポカリプス》次弾装填…《ライトオリジン》…砲身冷却度98,8%…《レフトアイアン》…内装マガジン交換完了済み…いつでも…OK」
 「そうか…では、行くぞ!!」



 「明人選手、ノアール選手に武装を転送したみたいです!ただいま送られてきました資料を見たところによりますと、今までの『頭甲・咆皇』、『脚甲・狗駆』『exOPT_KT36D1 ドッグテイル』に加え軽量型の『胸甲・心守』と改良型の『腕甲・万武』という装備!武装は『緑色のケルベロス』の由来となった《クロノスベル》はそのままに夫婦剣《干将莫邪》と四体のぷちマスィーンズ!さて、この装備となって事態はどう動くのでしょうか綾川さん!?」
 「はい、今までのノアールさんは超軽量化による高速移動とそれによる絶対回避のスタイルでしたが…完全に防御を固めたわけでもないですし武装も増えています…接近戦のスタイルを変えてくるとは思えませんが…ぷちマスィーンズが気になりますね…」
 「そうですか、ありがとうございました!」

 「くっ、ノアール殿め…以前手前との戦いでは本気でないことは判ってはいたが…あの小娘が相手とはどういうことだ…」
 「あら、冥夜ヤキモチ?」
 「ぐぅ…なにをいうか主、私はただ…」
 「ただ?」
 「……えぇい、もうよい。何にしても次に手合せする機会には本気を出してもらおうか」
 「あらあら…ホントにノアールさんにお熱の様ね」
 「…誤解されそうな言い回しはやめてもらおうか」

 「ああっと!ミュリエル選手動きました!!」



 「ノア、来るぞ」
 「了解しました」
 地面すれすれを高速移動で右回りに旋回しながらアルヴォの銃口をこちらに向けるミュリエル
 先ほどのように鉛玉の斉射がノアを襲う
 しかしノアは動かない
 というか動かなくていいんだ
 「出番ですぞ蒼騎少尉!!」
 「了解ですよ。《イージス》PS装甲展開!!」
  翠影の指示でノアの前に出てきた蒼騎が叫ぶと、蒼騎の前の空間にバリアのようなものが張られる
 鉛玉は全弾その膜に阻まれることとなった
 「…!!…それなら…」
 ミュリエルは地面に右手をつき、身を低くしたまま向きをこちらに正対させた
 「…《アポカリプス》…ファイア…」
 背中の六連ポッドから二機のミサイルが射出された
 「…青いのは…釘づけ…」
 アルヴォの射撃は止まないので蒼騎は動けない
 「なんの!!黒曜少尉!!」
 「おぅよ!!うらららららぁぁぁ!!」
 二機のガトリング砲をぶっ放しながらミサイルに向かって突貫する黒曜
 「ほれ!ひとーつ!!ふったあつっ!!」
 見事に二機の撃墜に成功……したかに思われるが
 爆炎の中からもう一基のミサイルが黒曜の真横を通り過ぎる
 その先にはノアが
 「うげぇ!!しくった!時間差かよ!」
 ノアに接近するミサイル
 しかしノアは動こうとしない
 「ヒメさんあぶねぇ!!」
 黒曜が叫ぶと同時にミサイルは爆発
 煙の中のノアは……無傷だった
 「やっぱり私がいないと駄目ね…黒曜?」
 「流石であります白菊中尉!」
 「がっ…て、てめぇ…しぃらぁぎぃくぅ」
 「いつも詰めが甘いんだから…赤丸にも言われてたでしょ?」
 「うるせぇ!!俺に説教じみたことすんじゃねぇ!!」
 「二人とも、戦闘中でありますぞ!!」
 「そうですよ、姫の前です…少しは静かに…」
 お前ら全員うるせえっての…
 「あんなのに…防がれた…」
 「くっ…一気に行くぞミュリエル、全砲門一斉射撃。突貫する!!」
 「…了解…出し惜しみなしの…パワー勝負!!」
 サバーカの脚力を十分に使い地面を蹴るミュリエル加速により真正面から突撃するようだ…
  蒼騎、蒼騎、白菊の三人がアルヴォ、《アポカリプス》《レフトアイアン》の攻撃をそれぞれ防ぐ間にも《ライトオリジン》の銃身からバチバチと放電現象が起こる
 「狙いは…フルパワーの零距離発射の様だ。…いけるか?」
 「はい。この子たちがいるから攻撃に全力を注げます……」
 そう言いながら両目を閉じて《クロノスベル》を握りなおす
 そしてそのまま腰元へ
 刹那の勝負に抜刀術ってか…

 10………9………8………7………

 「ノアが構えた!しかし…退くことはない!」
 「…もちの…ろん…」

 6………5………4………3………

 「大佐殿が打って出ます!三人とも退避を!」
 「おぅよ!」
 「了解」
 「わかったわ!」

 2………1…………

 「奥義…狗咆斬!!」
 「………展開!!」

 0


 ミュリエルの周囲にプラズマ現象を引き起こすほどのエネルギーとノアの半月を描く斬撃が衝突し拮抗した力は行き場をなくし…
 爆破



 煙が晴れ…立っていたのは…
 ノア……とミュリエルの二人ともであった
 「…驚きました。まだ立っているなんて…」
 「ん……がんば…った…」
 「ミュリエル…あなたは強い…断言しましょう…あなたならいずれ私や冥夜さんにも劣らない神姫となるでしょう」
 「………ん」
 「しかし今は」
 そう言いながら愛用の大鎌を持ち上げその刃の切っ先をミュリエルの首元へと運ぶノア
 「私の勝ちです」
 「………ん……降参…」
 両手をあげてアルヴォを放すミュリエル
 二丁のアルヴォが地面に落ちると同時に大喝采が巻き起こった



 『第五回鳳凰カップ最終試合、エキストラバトルの勝者は………『緑色のケルベロス』ノアール選手です!!』



 追記

 こうして鳳凰杯は幕を閉じたわけなんだが…いかんせん俺としてはものすっごく疲れた
 結果的に優勝はミュリエルで変わりないのであるが…その他決勝リーグにまで勝ち進んだ神姫たちもそれぞれ各メディアに取り上げられ注目されていた中、最後のノアとの激戦が話題となったのか一躍ランカーとして名を売るという結果になった

 その鳳凰杯と言えば会場入場者数、テレビの視聴率ともに過去最高を記録し、スポンサーである各社共々鳳条院グループ挙げての一大イベントは大成功と言えるものになった

 裏で起こっていた事態もなんとかなったらしい
 結果的にミラたちだけで事を成し遂げてしまったというんだから驚きだ
 「アタシとアネキも協力したんだからな!!」
 「そ~だぞ~!えっへん!」
 あ~はいはい、偉い偉い…
 身内が世話になったし結果として俺自身も助けられたことになるんだ
 でかいカリができちまったし、また礼もいっておかねぇとな…
 そのミラはというともろもろの事情で日本に一年近く滞在するらしい
 なんでも大学の特別非常勤講師として招かれているらしい
 ……なんでなんだ?
 烈風のことも聞いた
 フェレンツェ博士やエリーの天才親子と超一流ハッカーの-ゴレ-こと千沙都もいることだし…
 生意気な奴ではあるが…どうにかしてやりたいな

 そんでもって俺が今どこにいるのかというと…
 「若様?…何をぼんやりしているんですか?」
 「ああ、いや…べつに…」
 「しかし若、このたびは誠にお疲れ様でした」
 「いや、桜さんこそお疲れ様でした。大変だったでしょ?全体警備責任者やらアレの御守りやらで…」
 「いえ、警備責任者は大変ではありましたが有能な捜査官の補助ができて大変良い経験をさせて頂きましたし…今回社長はお一人で頑張ってらっしゃいましたよ?」
 「ほんとですか?いつもみたいに『さくらぁ…ヘルプミーーーー!!』とか言ってたんじゃないですか?」
 「そ、そんなこと言ってないもん!!」
 いままで乗っていたエレベーターのドアが目的地について開いたと同時に御袋の不満そうな声が聞こえてきた
 四十階の社長室、御袋のオフィスである
 「ふくれっ面しながら言っても説得力ねぇぞ?」
 「う、うぇぇ……はづちゃん~明人がいじめるの~~」
 「ああ、よしよし。兄さん、お母さんをいじめちゃだめですよ?」
 「へぇへぇ…」
 どっちが親なんだか…
 「明人様…お待ちしていました」
 「香憐ねぇ、用事ってなんだ?」
 そうなのだ、ここ2、3日前から香憐ねぇは桜さんの手伝いとかで本家に帰っていたのだ
 そんでもって呼び出された俺、ノア、ミコ、ユーナと昴とランはこうしてここまでやってきたわけだが…………
 この場にはなぜか千沙都と冥夜もいる
 「後はアルティさんたちとミラさんたちですね」
 「なぁ、何を始めるだ?」
 「ふっふっふっ……お答えしましょうかユーナちゃん」
 「お、おうよお袋さん…」
 「実はね、ここ三日間で編集に編集を重ねて作り上げた……『第五回鳳凰カップ、激闘96時間!裏表、全部見せますアルカナの恐怖!!』っていう社内用の極秘ビデオファイルの上映会なのよ~!!」
 ……オイオイオイオイ!
 いろいろ突っ込むところ多いけど…とりあえず今は…休ませてくれよな…
 「お疲れ様です、ご主人さま」




                          鳳凰杯編 END

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