祭りの前の楽しさよ


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  「鳳凰カップとはあの鳳凰カップか?」
  「あれがどれかは知らねぇけど…まぁそれだな」
  俺は訳のわからない返事をしながら出されていた紅茶に口を運んだ

  鳳凰カップのために本社に呼び出された一件の騒動から二、三日が経った
  ほんでもって俺たちは何をしているのかと言うと
  知り合いの神姫関係のショップにブース参加と店での宣伝ポスター掲示のお願い、まぁ簡単に言うと宣伝回りってところなんだろうな
  今まで俺自身がスルーしていたからこんなことはしなくてもよかったんだが…
  何せ今回はバッチリ関係者だ
  イベントが盛り上がればいいと思う気持ちも多少なりともあるのは間違いない
  大手企業は御袋達の仕事なので俺の関わる所ではない
  つまり、親しいショップや神姫マスター達が関わるであろうお店に挨拶に行けばいいのだ
  そう思うと思い当たるのは…エルゴ、<日々平穏>、“ALChemist”

  俺のマンションから比較的近いエルゴの方には香憐ねぇと昴達が、<日々平穏>には葉月があいさつに行っている
  マスターや弥生さんのことだから気前よく引き受けてくれるだろう
  んでもって俺とうちのインターフェイス三人娘達で秋葉原まで出向いているのだった
  俺達の担当は“ALChemist”
  この店を知ってから頻繁に秋葉原に来るようになった気がするなぁ…

  「…して、なぜ貴様がコレをもってくる?」
  チラシを俺に向けて摘み上げるマイスター
  うん、確かに至極もっともな意見である
  一般の客が「ここのブースに出店してみれば?」とは言うかもしれないが、俺はそんなお節介なお客様と言った感じではない
  そこらへんは自分自身でもわかっている
  ある一点の説明がなければ俺がマイスターに鳳凰カップ参加を呼びかけるのは不自然なのだ
  ちょっと小さなため息をついて俺はそのことをマイスターに告げる覚悟を決めた
  「その主催、俺の実家なんだよ…」
  「そうか…実家の手伝いと言うわ…け……だ………な?」
  最後の方が途切れ途切れになってるぞ
  「き、貴様の実家? ほ、鳳条院が…か?」
  「ああ」
  「な、何を言っておるのだ。貴様の姓は橘ではないか」
  「橘は婿養子だった親父の旧姓だ」
  マイスターはむむぅ…と唸ると腕を組み椅子に深く座り直した
  「………驚かないのか?」
  「バカモノ、驚いておるわ。まさか貴様があの鳳条院の跡取りとはな…」
  驚いているとマイスターは言うが、普通の人間ならこのリアクションは薄い方であると俺は思っている

  光には影がある
  その光が大きければ大きいほど影も大きくなっていく
  今や大きな力を持つ鳳条院家の裏にもその影は例外なく存在しているわけで
  媚び、諂い、力の大きな者の下について権力を握ろうとする人間を、俺は小さな頃に幾度となく目にしてきた
  あからさまに「力が欲しい」と権力や金を欲する者の方がどれだけマシだろうというほどに、善人の仮面を被った汚らしい人間を見てきた
  この事は俺が『鳳条院』を捨て、『橘』を名乗ることに多少なりとも関係があった
  マスター……夏彦さんはこのことを知っている
  だからってあの人は知る前と変わらず俺に接してくれた
  そして今、この人も…

  「で? 昼間から三人も美少女を同伴させて我が店にきたわけか?」
  はっ! っと軽く笑い俺の隣に座っているノア、美子、優奈を眺めていく
  軽く「この金持ちのボンボンは…」と言う感じのニュアンスを感じるのは俺の被害妄想なのだろうか
  「この前の美女はどうした。確か…水無月と言ったか?」
  この流れだと香憐ねぇも俺の愛人か何かと思われているのかもしれないので今のうちに訂正しておくとしよう
  「あの人は実家で俺の教育係だったんだ。まぁ、俺にとっちゃ姉代わりって方がしっくりくるんだが…」
  「そうだったのか……む? 彼女は……」
  「げっ…」
  不意にマイスターの視線が優奈の前で止まる
  「はて? どこかであったような…」
  「き、気のせいだろ?」
  マイスターの目線から逃れるように目を逸らしながらユーナが答えた
  まだ納得していないのだろうマイスターは首をかしげてから再びチラシに目をやった
  (どうした優奈)
  その隙に美子の背に顔だけ隠すような体勢で美子の隣にいる優奈に話しかける
  (いやさ…この前この姿でエルゴに行った時、マイスターがいたんだよ。もう憶えてないと思ったんだけど…)
  なるほど、それでか…
  (あんときはビビッたぜ。さっきお茶を持ってきた子も一緒でさ…)
  優奈の言っている子とはマイスターの腹違いの妹、葵ちゃんの事だろう
  『美子』と『優奈』を紹介した後にマイスターから紹介があった
  なんでもあと二人も腹違いの妹がいるらしい
  普通、北欧系の顔立ちの葵ちゃんと日本人であるマイスターの人種的な顔の違いから姉妹ということは判断できないであろう
  だが、俺は彼女がマイスターの妹である事には納得していた
  理由は簡単、身長が同じぐらいなのだ
  …………遺伝なんだろうな
  ん? 遺伝? ならウチの母親の遺伝はどうなるのだ?
  そんな疑問と共についマイスターを見つめてしまう
  (それにしても似てるよなぁ……なんか他人の気がしないよなぁ……)
  葉月にも見せてやろうか…
  「おい、たちば………なんだその顔は……」
  ふと、チラシから顔を上げたマイスターは俺の顔を見るなり眉を寄せた
  「これはつまり出店参加依頼と言うわけでいいのだな?」
  「ああ、できれば“ALChemist”に出店してもらいたい。イベント的にはかなり大掛かりなものだから客の入りも相当なものだと思うぞ」
  「有無、わかった。考えておくとしよう…」
  「橘さん、御代わりはいかがですの?」
  葵ちゃんが紅茶の入ったティーポットを片手に微笑んでいる
  「…………あ、ああ。ありがとう」
  少し返事が遅れたのは葵ちゃんと始めてきたときのロッテちゃんの二人がだぶって見えたからである
  人が神姫に重なって見えるとは…俺がノアたちと長い間暮らしていたせいだろうか
  二、三回瞬きをしてから葵ちゃんを見るが、やはり彼女は人間の大きさである
  と、言っても17、8の女の子にしても小柄な葵ちゃんの体は恐ろしいほど彼女に似合っていた
  三つ編みにした蜂蜜色の髪、コンタクトと言っていたが深い蒼色の瞳、マイスターが作ったのであろう可憐な衣装とエプロン
  その姿はまるで高級なフランス人形のようだ
  そういえば葵ちゃん、インターフェイスの時のランにもどっか似てるんだよなぁ…
  「? 橘さん、ぼーっとしちゃってどうしたんですの?」
  「え? あ、いや、なんでもないよ」
  誤魔化すように笑ってみせる
  「橘、私の“妹”に手を出したら…ただでは済まんぞ?」
  俺の笑い声はマイスターの釘をさすような一言で乾いた笑いに変わったのであった



  家に帰りそれぞれの報告会が開かれることとなった
  「マスターには出展依頼したんだけど、前向きに考えてくれるってさ。お店の常連さんにも声かけてくれるって言うし、ちゃんとポスターも貼らしてもらってきたぜ? エルゴのマスターは話がわかるよ。流石だぜw」
  えらく上機嫌の昴である
  「香憐ねぇ、コイツに何があったんだ?」
  「それがですね…エルゴの用事が早く終わったのですが、昴様が帰り道に喫茶店を見つけまして。寄っていこうと仰るので『LEN』というお店に寄ったのですが、そこがいたくお気に召したようで…」
  エルゴの近くに喫茶店ねぇ…
  俺の中では喫茶店と言えば<日々平穏>なので見落としていたのだろうか…
  「良かったぜ明人。マスターのお姉さんも美人だったし、神姫の注文は神姫が取ってくれるんだと。まぁ、今日はランも孫市もインターフェイスだったがな」
  「ほぅ」
   ネムちゃんに喫茶店看板神姫のライバル登場だな…
  「神姫をつれた学生のマスターも大勢いましたのでポスターを貼らせて頂きました。あの制服は黒葉学園の制服でしたね」
  「え、黒葉学園?」
  反応したのは葉月である
  「そうです。数年前までは葉月様も着ておられた制服ですから私の見間違いはないと思いますよ」
  黒葉学園、ここら辺で俺の知る限り一番デカイ巨大学園である
  葉月は中学生の時に編入し、高校卒業と共に別の大学を受験したのだった
  「つまり、その子たちは葉月の後輩に当たるわけだな」
  「そうだね。懐かしいな…あ、弥生さんにもちゃんと挨拶して来たよ。ちゃんとポスターも貼らせてもらったよ?」
  「おう、ご苦労様。あとは…」
  「ご主人様、ご主人様!」
  他の神姫たちと共にテレビを見ていたノアがユーナのウイングユニットを使って俺の前にあらわれた
  「どうした、アニメの最終回で何か気に入らないことでもあったのか?」
  「そうじゃありません! テレビを見て下さい!」
  ノアの言葉にその場の全員がテレビに注目する
  『鳳凰カップ2037〈春の陣〉開催! 神姫バトルカップの……』
  「なんだ、鳳凰カップのCMか。毎年やってるじゃねぇか。中継番組の宣伝も…」
  「そうじゃないんです。これ二回目のCMなんですけど…」
  『バトルカップのゲスト解説者にはファーストランカーの橘 明人! さらには…』
  「……………………」
  「……………………」
  「………………ね?」
  笑いを必死にこらえる昴以外の全員凍りついた
  「あのジジイ…実の孫を宣伝に使いやがった…」

  追記
  「お父さん!! 営業課にあのCMの指示を出したのお父さんでしょ!!」
  「なんじゃい伊織、今頃か」
  「今頃かじゃないわよ! 明人が怒って出てくれなくなったらどうするのよ!? せっかく明人が協力してくれるって言うのにぃぃ~~~!」
  「大丈夫じゃよ。桜のお墨付きじゃし」
  「んなっ? さ、桜!?」
  「社長、大丈夫ですよ」
  「で、でもぉ…」
  「若様は器の大きな方ですから。そうですよね社長?」
  「え? う、うん……」
  「若はすっかりご立派になって…」
  「そう…だよね…ふふふっ♪」
  (言いくるめられおったな伊織…。我が娘ながら物凄い親バカな事よ……)

                        続く

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