日記その十 〈後編〉 昴VS香憐


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「さぁ! やってまいりましたぁ!! 西洋と東洋のドリームマッチィ!! 騎士VS武士!お互いの『マスターへの忠誠』という誇りを賭けた大一番が…やってまいりましたよぉぉぉう!!」
  わぁわぁと騒がしいギャラリーの歓声の中にいつもより三割増ハイテンションでお買い得な感じのミコによる中継アナウンスが上重なって響く
  ちなみに今のミコはインターフェイスを使ってる
  だから『美子』だな
  「今夜のバトルの実況は私、鳳条院 美子が町のホットステーション、厚い信頼と品質が自慢のホビーショップ『エルゴ』の二階、バトルルームよりお送りいたしまぁーす!」
  ここでまたもや歓声
  周りの人達はさっきまでここでバトルをしていた神姫マスターと神姫たちだ
  新顔同士のバトルということで皆、注目している
  ちなみにどこにもお送りしてないぞ?
  なんでもミコのこだわり演出…らしい
  いらんことしいめ……
  「そぉれでわぁ!! 今日の解説者様方をご紹介しましょう!! まずはホビーショップ『エルゴ』のマスター!日暮 夏彦氏でぇ~す!!」
  「どうもー」
  パチパチと拍手をもらう夏彦氏、もといマスター
  「すいませんマスター。クリスマス前で忙しい時期に…」
  小声で言う俺
  「あ~、いやいや、お客さんなんだから全然かまわないよ? それに今日の二人のタイプは発売してから間もないから、いいデモストレーションになってくれればクリスマス前の宣伝にもなるし」
  「そう言ってもらえると助かるんですが……」
  「俺も個人的に楽しみだしさ、明人君のお仲間のデービュー戦ってのは。特に水無月さんは美人だから。静香ちゃんや美砂ちゃんみたいな可愛い系とか、葉月ちゃんの気さくなお嬢様タイプもいいけど、大人の色気がある美人神姫マスターって感じでファンとかできるかもねぇ~」
  マスターは笑顔でそう言った
  「いや、葉月は別として…二人ともホント可愛いからファンができるのも無理はないんですけど…静香ちゃん達みたいに一部の熱狂的ファンがつくとなると身内としてはあまり喜べたことじゃありませんよ?」
  確かに香憐ねぇは身内のひいき目抜きにしてもかなりの美人ではあるんだけど…
  ……あれ?
  「マスター? でもそれだったら秋奈さんだって大人の色気がある美人神姫マスタ……」
  「アレは別だから」
  マスターは少し遠い目をしながらきっぱりとそう言った
  なんかマスターも…大変なんですね……
  それにしても俺たちがマスターを二階に引っ張り上げちゃったし静香ちゃんもバイトお休みだから、ジェニーさん一人で一階の接客は大変じゃないかなぁ……
  「続いて今日のバトルの両マスターと家族同然のご関係であるランキング13位の神姫バトルランカー、橘 明人氏~!!」
  「…どうもっす」
  俺もマスター同様拍手をもらう
  リーグ戦とか大会とかで拍手はもらう機会は度々あるんだが…
  …なんか今日は変な感じ
  「最後は明人氏の神姫! ノアール譲&ユーナちゃ~ん!!」
  「よろしくおねがいします」
  「ども…(アネキに『ちゃん』付けで呼ばれると背中が痒くなるぜ…)」
  ここでも拍手をもらう
  一部、ノリのいいギャラリーからは「ノアちゃーん」とか古い合の手みたいなお声も頂く二人
  ノアはそつなく笑顔で手を顔のあたりの高さで振って応えるが…ユーナはちょっと笑顔が苦しいぞ……
  「本日は真に残念ながら明人氏の最愛の神姫、ミコちゃんは乙女の事情によりお休みのようです~」
  誰が最愛の神姫じゃ!!
  あのネコ好き勝手言いやがって…
  ギャラリーさんたちも「ええ~」とか言ってミコの戯言に乗らないで頂きたい
  調子に乗るから
  「さて! それでは本日のバトルのご説明をいたします。バトルは電脳戦の一本勝負、AIジャッジシステムの戦闘不能判定か、どちらかのマスターのギプアップコールにより勝敗が決まります。ルール規制、武装制限のないフリーバトルですが…両者とも主にそれぞれの基本武装でいくみたいですね…」
  まぁな
  このバトルの原因がお互いのタイプの意地の張り合いみたいなもんだからそうそう意に反する装備ではこないだろう
  「両マスター、神姫の基本プロフィールは向かいのスクリーンをご覧くださぁ~い」
  ミコがそういうとスクリーンに四人のデータが映し出されて…………って!!
  「おい、美子」
  「どうしました? 明人氏」
  「ラン…ランスロットの戦績が十試合 八勝 二敗ってのはどういうこった? バトルの経験あるじゃないか」
  「さすが! いいところにお気づきになられましたねぇ~。昴選手は最近までイギリスに留学なされていましたのでランスロット選手の戦績はイギリスでの戦績を参考にと。あ、ちなみに日本でのカウントはタッグマッチにより一戦 一勝 無敗です。ですが単独ではこの試合が初めてですので…」
  タッグマッチって、この前のマハとの一戦のことか…だけど
  「んなもん香憐ねぇが不利だろうが…」
  たかが十戦、されど十戦
  結構な差だぞ? これは
  「大丈夫ですよ、明人様」
  香憐ねぇが言う
  「ここにいる皆様も先人の方々とのバトルで己を磨いていらしたのでしょう? ならば私もそうするまで、ですよ」
  「ははっ、いってくれるなぁ~香憐ねぇ」
  香憐ねぇと対峙する昴が答える
  「そうとなりゃこっちも手加減するわけにゃぁいかないなぁ。プチ先輩ながらも経験者の力を見せねぇとw」
  「無論です。胸を貸して頂きますよ昴様」
  ほぉ~、なかなか爽やかな感じだよな
  確かに二人にとっては良い経験になるし、俺としては別にいいんだが……
  ただなぁ……
  「…………」
  「…………」
  バーチャルで映し出されたゴーストタウンのフィールドの中のお二人は真剣そのもの
  本気と書いて『ポンキ』…じゃなかった、『マジ』なお顔で互いをにらみ合っておいでです…
  「ふっ、後悔しても知らぬぞ? ラン」
  不敵ににやりと笑う孫市
  「それはこちらの台詞です。手加減はしませんよ?」
  負けじと言い返すラン
  二人の間に目に見えぬオーラというか力場というか…
  バチバチと火花が散っているような光景だ

  「さて! 両者セットアップが完了したようです!!」
  先ほどとは打って変わって静けさに包まれるバトルルーム
  さぁて…どうなることやら…

  『試合・開始』

  システムAIの開始の合図で両者が素早く開始位置より動き出す
  「さぁ、解説の明人氏! まずは両者どのように動くと思われますかぁ!!?」
  耳元で大きな声出すなよ、聞こえてるってーの
  「…孫市は射撃に強いらしいからな。そうなりゃ、とりあえず離れて射程距離を稼ぐか…はたまたスナイピングで来るかだろうけど…」
  あの気炎万丈だったか?火縄銃じゃ連射はできないだろうな
  射程もそんなに長くはないだろうからスナイピングも難しいだろう…
  「逆にランの方は近距離に持ち込めば独壇場じゃないのか?」
  ユーナが言うことはもっともなんだが…
  香憐ねぇがそんなに簡単にいくものかどうか、だよなぁ
  案の定孫市は開始からランと距離をとるように遠ざかっている

  「ラン、追うんじゃないぞ」
  「はい。わかってますよ」
  やはり昴も素直には追わない
  神姫マスターとしては初心者な昴だがレスティクラムで養った経験から予感と言うか直感と言うか、そういうものには長けている
  「あえてどう出て来るかを見てみよう。大通りで待ち構えてみるか」
  「了解しました。私もかくれんぼはあまり好きではありません」
  建設物の陰から大通りの交差点に飛び出すラン
  しかし、経験豊富なのは香憐ねぇにも言える事で…
  “ズドォン!!” と重低音がフィールドに木霊する
  間髪入れずにスピュュンッ!! っと空を切る一粒の弾丸
  それはとても目で確認できないほどの速さでランの足元に着弾した
  着弾跡はかなり深くえぐられており、黒い穴から煙が出ている
  「……大丈夫か?ラン」
  「行動に支障はありません。しかしこの距離の射撃は…」
  ランが言い終わらぬうちに第二射目がランの頬をかする

  「おおーっと! スナイピングのようですね! どうなっているのでしょうかぁ!?」
  「弾丸が球状だから銃は火縄で間違いないみたいだな」
  とマスターの解説が入る
  なんかノリノリですね、マスター…
  「しかし火縄銃には連射機能や射程の問題があるのでは?」
  「気炎万丈は日本の火縄銃、瞬発式火縄銃だろうね。玉込めのタイムラグはあるものの点火時に生じるラグはほとんどないから狙撃にむいてるんだ。射程距離は火薬の量で調節できるんだけど…反動が大きいから使いにくい。でも、そのかわり威力と貫通力が半端じゃないっていう長所もあるんだ」
  なるほど…ンでもって孫市はそれを見事に使いこなしている…と
  「オリンピックのマズルローダー競技(前装銃競技)マッチロック(火縄銃)種目では欧米人の選手の多くが日本製の火縄銃を使用してるんだ。当然これを使い慣れている日本人選手にはメダルを獲得し易いって言われているしね」
  ま、マスター…あなたはどこまでマニアック…いやいや、博識なんですか?
  「しかし、なかなかの腕だよ孫市ちゃん。リロードの早さもたいしたもんだ」
  腕を組んで頷きながら感心しているマスター
  「………やるな」
  いつの間にかユーナは同じ狙撃を得意とするものだからか真剣な顔になっていた

  「ふぇ~、やってくれるじゃんか香憐ねぇと孫市ちゃん」
  「…昴さん、なに感心してるんですか」
  一端裏路地に逃げ込んだランは少し不機嫌だった
  「わりぃ、俺も火縄銃については半端な知識しかなかったもんだから虚をつかれちまってよw」
  あくまで茶化すような口調の昴
  「………昴さん」
  「わ、わかった;そんなジト目で睨むなよ。いつものおしとやかなランスロットらしくねぇぜ?」
  「私が誰のために頑張ってるのかわかってますか?」
  「あいあい、 わあったってば。んじゃまぁ迎え撃ちますか」
  「何言ってるんですか。まずはこの距離を縮めないと…」
  「だぁいじょうぶだって、香憐ねぇの性格なら次はきっと……」
  不意に裏路地のランの周りが暗くなる
  「上からお出ましだぞ!!」
  「!!」
  昴の指示に反応してランがコルヌを引き抜き頭上に構える
  すかさずコルヌに上からの攻撃の重さがかかる
  どうやら気炎万丈の銃身を使った打撃のようだ
  「やっぱり接近戦で来たか。常に相手の裏をとる…明人の師匠なだけはあるな! 香憐ねぇ!!」
  「やはり読まれていましたか…しかしこちらは奇襲だけが策ではありませんよ? 孫市!」
  「承知!」
  孫市は後ろに飛躍してランとの間合いをとる
  ランはその隙に体勢を立て直してコルヌを両手で構えて孫市の正面に立つ

  「対峙するのはけして広いとは言えない裏路地。双方相手に背中を見せれば危険な距離だ!この近接戦闘、どちらがどう動くのでしょう。ノアさん、いかがでしょうか」
  近距離戦はノアに聞けってか?
  「この状況は孫市さんに不利です。いくらリロードのタイムラグが少ない瞬発式火縄銃だとしても外せばランさんが懐に飛び込むチャンスを与えてしまいます。逆にランさんは致命傷になる所だけは注意を怠らずに集中することでチャンスをつくりやすい…」
  「なるほど! 『肉を切らせて骨を絶つ』ということですね?」
  その通り、現状では孫市が分が悪い
  しかし香憐ねぇがあえて接近したことは引っかかる
  策がありそうだって言うのもハッタリではないだろうな

  「…………」
  「…………」
  互いの間合いを探る二人
  しばらくの緊張状態から先に動いたのは…孫市だった
  脇差である怨徹骨髄を片手で引き抜いて後ろを向く形で反転する
  「(罠かも知れないが…いっとくか!)行け! ラン!」
  「了解です!!」
  地を這うような一足飛びで間合いを一気に詰めるラン
  そして孫市の直前で胴打ちの様に両手でコルヌを水平に振る
  「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
  そのまま一刀両断するかと思われた…その時だった
  孫市はその身を再び反転さえて銃身の先をランのコルヌ目掛けて突き出した
  「!!」
  ランのコルヌは孫市を両断することなくランの手元で再び構えられる

  「おおっと! 孫市選手が銃身でコルヌを押し返して防いだ!?」
  いや、違う
  コルヌはサイフォスの代名詞的な主力武装のはず
  銃身ごと真っ二つにしたっておかしくはない
  「アニキ! あれ! 銃の先のほう!」
  ユーナの声で皆がスクリーンに映っている気炎万丈に注目する
  ランのコルヌを押し返した物は…気炎万丈の先に光る怨徹骨髄だった
  「なるほど、銃剣ときたか。だったらこの勝負…」

  「なっ…銃剣!?」
  驚く昴をよそに畳み掛けるように接近する孫市
  銃身を槍のように両手に持ちラン目掛けて振り下ろす
  「くっ!」
  コルヌで受け止めるラン
  「かかりましたね」
  香憐ねぇがつぶやく
  「なに!?」
  「“ちぇっくめいと”でござる…」
  「あっ!」
  ランが気づいたようだ
  そう、銃先の怨徹骨髄を受け止めたはいいがその後ろ、気炎万丈の銃口は至近距離でランの顔を狙っている
  だからと言って身動きしようものなら先の刃の追撃が待っている
  香憐ねぇ、お見事
  「くぅ…しかし、まだ…」
  「やられたな…まいったよ、降参だ」
  「なっ! 昴さん!?」

  『試合終了。Winner,孫市」

  「ふぅ……よくやったわね。孫市」
  「お褒め頂、至極恐縮でござる。姫君殿…」
  湧き上がる歓声と拍手の中、とりあえずお騒がせなバトルは幕を閉じた…

  追記
  「……………」
  「おい、ラ~ン~。いつまで拗ねてるんだよ~」
  エルゴの一階、商品が並ぶガラスのショウケースの上でランスロットはひざを抱える形、俗に言う体育座り(三角座りとも言う)で背中を向けて拗ねていた
  「彼女…どうしたんですか?」
  と、今まで店番をしてくれていたジェニーさん
  「なんでも『まだやれたのに!』って昴のギブアップがご不満のようで…」
  俺と美子、ノア、ユーナの四人はジェニーさんと共に昴の説得を見守っていた
  ちなみに香憐ねぇは何故か二階で握手会をやってる
  司会進行は何故かマスターだ
  なにやってんだかなぁ…
  「なぁ~孫市ちゃんも『そなたの誇り、見せてもらった!』って褒めてくれたじゃないか。それでいいだろ?」
  「…あれは馬鹿にされたんですよ…そんなものかって…」
  「孫市ちゃんはそんな悪い子じゃないだろ? オマエが一番よく知ってるじゃないか」
  「でも! 私はまだやれました…なんで止めたんですか…」
  「そりゃ……お前が傷付くのは見たくないから…」
  目線をランからそらしながら言う昴…おい
  「………昴さんのバカ。バーチャルバトルなんだから傷なんかつかないじゃないですか…」
  …おいおい?
  「阿呆、バーチャルだってわかってても…嫌だったんだよ…」
  振り返るランスロット
  案の定というか……頬が赤い
  ……なんだこの展開?
  「す、昴さんのバカぁ~~!!」
  そういいながら昴に抱きつくラン
  それを迎える昴
  お二人さん? なんか背景にバラ背負ってますけど?
  俺たちは五人とも口を半開き、半目状態で呆れるしかなかった
  「………アホらし。帰るか…」
  「そうですね。帰りましょう…」
  「付き合ってらんねぇぜ…」
  「あぁ~私もお兄ちゃんとバラ背負いたいよぅ~」
  「あ! ちょ、明人さん! ちゃんとこれ持って帰ってくださいよぅ~;」
  面倒だからアレは香憐ねぇたちに任せよう
  少し気の毒に思いながらもジェニーさんの困ったような声が聞こえるエルゴを背にして
  クリスマス前の夕空の下を家路に着く俺たちであった…
                      続く

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