日記その五 子の心、親知らず?

  「……なんか……ダルイな……」
  一難去ってまた一難…なんて言葉があるけれど…それってかなり極端な例ではないだろうか
  そりゃ、少年誌のバトル漫画じゃ次々と新しい脅威の対象やらライバルやらこの後どうなる!! 的な流れを止めちゃいけないってのも理解できるんだよ?
   ああ、俺もそんなチープな流れは嫌いじゃないさ…でもいざ我が身に降りかかったとなったときはまた別ってもんだ
  俗に言う「戦士に休息を」ってやつなのかねぇ?
  昔はこんなにくたびれた事なんてなかったんだが……
  いかんせん俺も老けたのか?
  ……嫌だぞ、25の若さで自分の神姫に介護してもらうなんて……
  「なにをボケッとしてるんですか? ご主人様」
  「……考え事してるマスターに対してその発言は酷すぎやしないか?」
  「そうですか? 『パートナー』としてはもっともな忠告だ…とでも解釈してください」
  あなたの中での俺はどんだけポジティブ思考なんですか…
  そこまで前向きならむしろ憐れ……
  「ん? 出かけるのか?」
  「はい、フェレンツェ博士の研究所の方に…」
  「ミコとユーナは? 一緒じゃないのか?」
  「今日は雄也さんと一緒に『秋葉原、武装パーツめぐり&グルメツアー』なんだとか」
  「? ミコかユーナのどちらか一人とならわかるんだが、なんで二人同時なんだ?」
  「なんでもお互いにボディガード役を兼ねているらしいですよ?」
  前言撤回、俺よりも憐れなヤツがいた
  たかられ損だな雄也……
  「では行ってきます。夕飯までには戻りますので…」
  「あ~待て待てノア」
  「? なんですか? なにか急な用事でも……」
  「いや……今日は俺も一緒に行くわ」


  フェレンツェ・カークランド
  35歳
  若くしてその天才的な頭脳で英国国立大学の名誉教授にして博士の称号を持つ現代のネット社会における国際的重要人物
  『人と神姫のコミュ二ケーション』を題材に超極秘間で研究を行っており、現在、日本を代表する大手技術会社『鳳条院グループ』と共同で『人型神姫インターフェイス』の試作型の開発、運用テストプロジェクトを進行中
  妻子あり…………って
  「おお、ノアール!! 私の可愛いノッア~~~ル!!!」
  「……博士、何度も言いますが私のご主人様は明人さんで、実質的に私は明人さんのものなんですが……私の名前も明人さんに付けて頂きましたし…」
  そんな大物人物を誰がこんなオヤジと想像できようか……
  これもまたひとつの『恐怖』か?
  「おお!! この父を見捨てて違う男の下へと行こうと言うのかい!? 泣いちゃうよ? パパは泣いちゃうんだからね!?」
  「……誰がパパですか…」
  「しかし、それもまた愛しき娘の巣立ちの日!! いつかは来るその別れ…しかし私にはそのDestinyに打ち勝つ力はない、ああ、まるで私はシ●・アスカのよう……主人公なのに最後は悪役という憐れな運命に……」
  “パコッ”っと軽い音
  「あでっ!!」
  久々にでました、ノアのスリッパツッコミ
  自分の父親に対しても容赦ねぇな…(こんな親父だからか?)
  「いてて、酷いよノアール~;」
  「何、馬鹿なこと言ってるんですか」
  「馬鹿とはナンダイ!! パパに向かって!! 私はそんな風に君を育てた覚えは…」
  「無いに決まってるじゃないですか。今まで私を育ててくれたのは…明人さんなんですから……」
  そうなんだわな
  5年前のノアはホント全くの世間知らずで箱入り娘、イチから常識を教え込むのは大変だったなぁ……俺の入浴中に風呂場にスッポンポン(プラス無表情)で入ってきたり
  ホラー映画のDVD見せたらテレビ画面ごと映ってるゾンビを叩き割るし…
  なんでもジジイ曰く、ノアは『人型神姫インターフェイス』のなかでもプロジェクト的にはゼロから始めた初号機ってんで、サンプル採集に適さないかも知れないからって最低限の知識以外は初期入力を行ってはいなかったらしい
  ホント、よくここまで育ったもんだ…
  これじゃ俺のほうが父親みたいな心境だな……
  「……なんですか? ご主人様」
  やっぱり自分も同じことを考えていたんだろうな……
  ノアが少し頬を赤くしながらジト目で俺を見てやがる
  今日はなにかとデジャヴが多いですね~ノアールさん
  「いーや? よくもあんな無防備なノアとの二人暮しの日々に平常心を貫いて耐えたものだと自我自賛」
  「……ただのへタレでは無かったのですか…」
  「? なんか言ったか?」
  「いえ、何でもあり…」
  「NO~~~!!! それではあれかい!? つまりはだね、『私をアナタ色に染めてください、ご主人様(ハート)』ってヤツなのかい? そうなのかい? ノアール。そうだとしたらパパもう本気で泣いちゃうよ? パパは本気と書いて『マジで』泣いちゃうんだから……」
  “パコォッ!”再び軽い音……って、心なしかさっきよりも音が鋭い
  「あでっ!!!」
  本日二本目のノアのスリッパツッコミ
  つうか流暢な日本語でなにを言っとるんだ、このオッサンは……
  「まったく、このダメ親父は……」
  「……三人の時もこうなのか?」
  「はい、ですがいつもはユーナがツッコミ役です。」
  「……なんで?」
  「コレの相手は疲れますので、任せてあります。」
  ……ついにはコレ扱いされる天才博士ってどうよ?
  「……んで、もうメンテもサンプルデータ回収も終わったんだろ?」
  「ん? あぁ、メンテナスに関してはなんの問題も無いよ。むしろ良好ってとこかな…」
  「そうなのか?」
  「いや、私に聞かれましても……」
  「……明人君、ちょっと……」
  「? なんですか?」
  手招きされて今いる博士の書斎の隅まで連れて行かれる…
  「いや、なんてことはないのだがね? その………最近何かあった?」
  「は? いきなりなんですか?」
  「いやちょっと気になることが…」
  なぜかあまりハッキリしない博士
  「まぁ、心当たりぐらいはいくつか……」
  なにせうちの『かしまし娘達』だからな…
  「その中でも最近まで起こらなかった…特別な事って無かったかい?」
  「特別な事…ですか? そうですね……俺がまたナノロットに乗った事ぐらい…ですかね…」
  「!!! ほんとかい? すまないがその事、もう少し詳しくお願いできるかい?」
  やけに真剣になった博士にしばし押され気味になってはいたが、俺はこの前の葉月の誕生日パーティでの出来事を博士に説明した


  「……なるほどね……そんなことが…」
  あらかた説明し終わると今まで黙って話を聞いていた博士はそう呟いた
  「それで?」
  「はい? それでって……これで終わりですけど…」
  「ああ、そうじゃないんだ、これからだよ。これから君はどうするんだい?」
  「これから……」
  俺は思い返してみる
  ノアの言葉、葉月の言葉
  ゴレの残した『2つ名の示す意味』というセリフ
  そして、俺と敵対するであろう…アイツのことを……
  「……分かりません。まだ俺には何とも言えない…」
  「……そうか…でもひとつだけ覚えておいて欲しいんだ…」
  「…なんですか?」
  「君はこれから激しい戦いに巻き込まれて行くかもしれない。しかしそれは君の過去との決別だ。なにが起ころうと誰も君を責めたりはしない、むしろ君のために力を貸してくれる人間や神姫はいっぱいいる……もちろんノアールやミコやユーナ…それに私もね…」
  「博士……」
  「だから忘れないで欲しい、確かに君は『死の恐怖-スケイス-』でもあるが『橘 明人』であり……彼女らのかけがえの無いマスターでもあるということを……」
  そういってノアの方に目線を向けるフェレンツェ博士
  その顔は今まで見た中で一番父親らしい顔であった…
  「わかしました…でもなんで何かあったって解かったんです?」
  「ん? いやーそれがね~、さっき調べたサンプルデータに出てたんだが…ノアールの可動情報伝達系、つまり人間で言うと心拍数にあたるところなんだが…その数値が急激に上昇する傾向が多く出ていてねぇ……」
  「!! それってなにかやばいんじゃ…」
  「いやそれが、その上昇時というのは主に2パターンあって、ひとつは戦闘中などの激しい運動をしたときなんだが…これはいつもとかわらない。ノアールは明人君と一緒に神姫バトルに参加してるしね」
  「そうなんですか……もうひとつは?」
  「もうひとつは…ふふふふ、これがまた可愛いんだよ。なんと!! 『数値が急激に上昇するときにはある人物のことを見ている』っていうデータが残っていてね? つまり、その人を見ると心臓がドキドキしてきて止まらない~ってやつ? カッワイイよねぇ~」
  「はぁ……あのノアがですか………」
  いつも淡白な表情してることが多いからな………って、い、いいいぃ!!!!
  「それで最近何か急展開が起きたのかと……ま、あれなんだけどね? もちろんその人物っていうのは他でもない……」
  「は、博士、う、後ろ! うしろぉぉぉ!!」
  「? なんだい、これからいい所なの……」
  “ブオン!!”という音と共に迫り来る
  「…………に?」
  “ドッンガラガッシャァァァァァン!!!!”っとぶつかる
  「あwせdrftgyふじこlp;!!!!!!」
  ノアがぶん投げたのは長椅子型のアンティークソファー
  それに押し潰されながら博士は虫の息のようだ
  「はぁ、はぁ…はぁ、はぁ……この……ダメ、親父は…はぁ、はぁ…」
  珍しく息を切らすノアの顔はまたコレも珍しいほどに真っ赤に染まっていた
  「お、落ち着け、ノア」
  「………ふぅ、……はぁ……帰りますよ、ご主人様」
  小さな声でつぶやいたノア
  「え? もういいのか? 最後に挨拶ぐらい…」
  「い・い・か・ら・か・え・り・ま・す・よ?」
  「……はい…」
  そういって踵を返すノア……こ、怖えぇ……いつもより声が低すぎだろ…
  俺もノアの後に続いて部屋の出口の方へと向かう
  「の、ノアール……いまさら…素直になれない…そんなクール系ツンデレもまた…も…」
  “ヒュン!!”飛ぶ
  “パコン!!!”当たる
  「萌ヴェッ!!!??」
  “ガクッ”ご臨終…
  ノアの投げたスリッパが頭に当たって力尽きる国際的重要人物であった………

  追記
  「………なにをやっとるんだ、お前らは…」
  「オウ! ア~ニキぃ!! おっ帰り~♪」
  「にゃはははは!! 今日のツアーの二次会だよ~ん♪」
  「お邪魔しています、明人さん」
  「ん? おう、リャンか、久しぶりだな」
  「ええ、この前は何かと騒がしかったもので…」
  「ところで……この山の様なお酒の空瓶は一体どこから…」
  「ぜ~んぶ雄也サンの奢りなんだよ~にゃはははは!!」
  「明人先輩…う、うぅ…俺は、俺はぁぁぁ!!」
  オイオイ絡み酒かよ…どうせ有り金ほとんどたかられたんだろ?
  「す、スイマセン明人さん;ほら、マスター!! しっかりして下さい!!」
  「ほぅらぁ~~、あ~にぃきぃもぉ~」
  「おい、ちょ、ちょと待てユー…じゃない、優奈!! お前それ一升瓶…」
  「問答無用ぉ!! 姉さんと二人っきりでデートとは…何事かぁぁ!!」
  「そーだそーだ! なにごとかぁ!! にゃははははは!!」
  「明人先輩~俺は、俺はぁぁぁぁぁ!!」
  「あ~もう!! 三人そろって俺に群がるなぁぁぁぁぁぁ!!」
  「………はぁ…やっぱり、かしまし娘ですね…」
  だからノアールさん、あなたも含まれてるんですってば!!
                              続く

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最終更新:2008年03月29日 20:58
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