日記その四 〈前編〉 『八相』


  「………和美嬢か?」
  「……お止めくださいませスケイス様、それはあまり気分のいい御冗談ではありませんわ…」
  確かにそうか…ちと失礼だったかな……(それはそれで和美嬢に失礼だ)
  「冗談だ。テメーの声、忘れられるわけでもないだろ?」
  「あら、それはそれは、勿体なきお言葉。本当にうれしですわ、スケイス様」
  「こっちとしては早めに忘れたいんだが……」
  「あ、アニキ! アイツは一体何者なんだ? さっきからアニキに馴れ馴れしくしやがって!」
  「そ、そーよ、そーよ!! 兄さんに対して馴れ馴れしいですよ!! あなたは何者なんですか!!」
  「これはこれは、私としたことがご挨拶が遅れてしまいましたわね………わたくしはもと『八相』の1人…」
  「策謀家-ゴレ-」
  「「「!!!!!」」」
  俺の一言で息を呑む三人
  ま、しゃあないわな……
  「……ですが今では元通り、ただのフリーハッカーですわ」
  「けっ、よく言うぜ。ここの警備網を破るなんざ朝飯まえのくせしやがて…」
  「八相……兄さんそれって……」
  「そうですわ、葉月様。かつてレスティクラム世界大会でアキース・ミッドナイトこと、死の恐怖-スケイス-を筆頭に、他のものを寄せ付けない力を示した上位ベスト8……それが私たち『八相』……」
  「…5年以上前の古い話だ……んで、その策謀家が今度はなにをたくらんでんだ?」
  「いえいえ、たくらむだなんてそんな恐れ多い…。今日参ったのは親愛なるスケイス様の妹君である葉月様のお誕生日と小耳に挟みましたので、ご挨拶に…と」
  「あ、それはどうもご丁寧に……」
  「なに礼なんか言ってんだよ葉月!!」
  確かにユーナの言うとおり…ご挨拶しては、ちとばかし…
  「やりすぎじゃねぇのか?」
  「あら、スケイス様ともあろうお方が……この程度、まだ序の口ですわよ? 来なさい、白雷(はくらい)」
  そういうとゴレの後ろから出てきた一体の神姫、どうやらタイプはアーンヴァルのようだ…
  「……神姫なんかつれて何のつもりだ、ゴレ」
  「私、スケイス様がレスティクラム界から去った後に武装神姫のバトルリーグランカーになったことを風の噂に聞いたものですから。なにかあるのではと、こちらの方にも興味が出てまいりまして……。それで今回は葉月様のお誕生日の余興になればと、私とこの白雷とのタッグマッチでの兆戦を受けていただこうかと………」
  「タッグマッチだと? …N&S(ナノロット・神姫共同戦)のつもりか? あいにくなんだが、俺はもうレスティクラムは引退したんだ……いまは1人の神姫のマスターだよ」
  「そんなことはありませんわ。失礼ながら先ほどのバトル、拝見させていただきましたが…貴方様の中の『死の恐怖』、まだまだ御健在かと……」
  痛いトコついてくるな…確かに俺の中の黒い部分は死んじゃいないが………
  「そうだとしても、いま俺には手持ちのナノロットはねぇんだ。その挑戦、受けらんねぇな」
  「そうですか…ならば少しエレガントではありませんが……無理にでも戦わざるをえないようにするのみすわ……白雷!!」
  「御意…」
  そういうとこちらに向けてウイングユニットのエンジンを全開にして突っ込んで来る白雷
  くそったれ! 装備無しのユーナじゃどうしようもねぇし……かわそうにも後ろにゃ葉月たちが…
  「兄さん!!」
  「明人さん!!」
  え?っと思ったときにはすでに遅し
  突然ユーナの前に来たレイアが白雷のM4ライトセーバーの斬撃をフルストゥ・グフロートゥで受け止めている
  何故お前らが前に出るか!?
  「! 葉月、レイア、何で前にでて来るんだよ!? こいつらの相手はお前らじゃ無理だ!! 危ないからさがって……」
  「嫌です!!」
  はぁ!?
  「!! なにいってやがる。こんな時に無茶苦茶言うな! いいから早く安全な……」
  「ちがいます! 私が嫌なのは、兄さんがまたナノロットに乗ること!! ノアちゃんのマスターになってからの兄さんはレスティクラムを始める前みたいに…優しい兄さんだった! また兄さんがナノロットに乗ると…兄さんは本当に『死の恐怖』に戻っちゃう!! 私は……私はそんなのイヤ!!」
  「葉月……」
  「……そこをどけ、オマエでは経験足らずだ…ストラーフ」
  「……レイアです、白雷さん……残念ですが、その要請には答えられませんね…」
  「ほう……」
  「私の御主人様が守ろうとするものは、私が守るべきものと同意!! 明人さんには近づけさせはしません!!」
  「……よき心構えなり…名は覚えておこう、レイアとやら。お主の主人に対する忠誠、見事なり……しかし!!」
  すかさず響く三発の銃声
  「くあっ!!」
  もう一方の手でレイアのサブアームとフルストゥ・グフロートゥをアルヴォLP4ハンドガンで打ち落とす白雷
  正確な射撃で間接部分のもっとも弱い所を撃ち抜くことでハンドガンの威力の低さをカバーしやがった
  続けざまに響くのは銃声とは違う鈍い音
  「!! くっ……くはぁっっ……」
  レイアが悶絶する
  「……少し大人しくしていてもらおうか…レイア殿」
  「れ、レイア! レイア!!」
  ライトセイバーの柄の部分をレイアの鳩尾に叩き込んだ白雷は崩れ落ちるレイアの横を通り再び俺たちの前へと歩を進める
  「しからばスケイス殿、ユーナ殿…これも我が主の命により……御覚悟願おうか…」
  そういってライトセイバーを振り上げる白雷、さっきのバトルを見られてたんじゃ超近接格闘戦は無理だ。本来遠距離戦術を得意とするユーナにコイツとの戦闘は不利すぎる…
  レイアとの時は俺の指示があったから別だが、白雷相手じゃそんな隙はねぇだろうし…
  なにより俺の指示に頼ってちゃあどうしても後手に回っちまう…
  白雷がライトセイバーを振り下ろす
  万事休すか?

  「大丈夫ですか? 明人様……」

  そう言って俺の目の前に現れた印象的な紅いのナノロットに乗って現れたのは…
  「!! 香憐ねぇ!?」
  「え? ええぇぇぇぇ!? 香憐ねぇって……あの香憐サン!?」
  驚くユーナ、そういえばコイツ知らなかったな
  香憐ねぇは…
  「………おやおや、あなたまでおいでになるとは、意外ですわね。惑乱の蜃気楼-イニス-……」
  「い、いいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?? 香憐サンがイニスぅぅ!!??」
  「……お久しぶりね、ゴレ…いい加減、明人様に付きまとうのは止めてくれないかしら?」
  「そういうあなたこそ、いい加減その過保護っぷりはスケイス様にご迷惑ではなくて? それに私が恋焦がれているのはアキース・ミッドナイト様でしてよ?」
  バチバチと火花を散らす二人
  そういえば昔っから仲悪かったからなぁ…犬猿の仲ってやつ?
  とにかく……
  女って怖えぇ……
  「白々しい…これ以上私の大切な人を傷つけるつもりなら、鳳条院家に使えし我が刃!! 紅のサザビーの錆びにしてくれよう!!」
  白雷のライトセイバーを押し返し、ブーストジャンプでゴレの操るナノロットの方へ向かう香憐ねぇ
  「チィ!!」
  大きな舌打ちをしてその後を追おうとする白雷、しかし…
  「あなたの相手は私ですよ?」
  そういって白雷の行く手を阻んだのは……ノアだった
  「ノア!!」
  「姉さん!!」
  「貴殿は…スケイス殿の本命刀、『緑色のケルベロス』か……」
  「…その名を知っているなら話は早いです。私を知る者なら剣を……」
  そう言い終わらないうちに白雷のライトセイバーがノアを襲う
  白雷の急な斬撃に眉一つ動かさずに手に持った愛用の大鎌、重刎首鎌“ニーズヘグ”に俺のオリジナル改造を施した改良型〈クロノスベル〉の柄で受け止めるノア
  「されば我が求める強者なり…ひとつお相手願おうか……」
  俺(ユーナ)のほうに視線を向けるノア
  「……いいでしょう、ここではなんなので…あちらに」
  「うむ、いいだろう」
  そういって俺たちから距離を置くノアと白雷
  ふぅ…助かったぜ、ノア
  「っく、アニキ!! アタシ達も姉さんの加勢に…」
  「待ちなって、ユーナ」
  そういって俺たちのところに来たのはミコだった。
  「アネキ!! 何でこっちに!? アタシ達はいいから姉さんの…」
  「ノアねぇなら大丈夫だよ。いつも私達のトレーニングに付き合ってくれてるときだって半分も実力出していないくらいだし…ね? 御主人様」
  「あぁ、確かにあれは本気じゃない。ノアの本気はあんなもんじゃねぇな」
  「あれで本気じゃないって……姉さんは化け物かよ……」
  「確かにそうかもw あ、そうだ御主人様、はいコレ、お届けものだヨン♪」
  こいつらノアがいないのをいいことに凄いこと言ってるな…まぁそれはいいとして
  そういって俺(ユーナ)にデータスティックを渡すミコ
  「? なんだこりゃ? 随分古い型だが…」
  「とりあえず見てみれば? 私は葉月んとレイアっちの所にいくから」
  「あぁ、わるい。宜しく頼む。ユーナそれに回線つないでくれ」
  「え? 、あ、了解」
  ユーナに繋がった回線からデータを読み取る………って、コレは……
  「!! 親父のナノロット!? しかもこれって……〈Gタイプ〉!?」
  「え? ええ!? てか、アニキの親父さんて?」
  ユーナが知らないのも無理はない、俺の親父、鳳条院 明之(婿養子なので旧姓は橘 明之)は俺と葉月が幼いころに何か事件に巻き込まれたらしく行方不明になっている
  俺はもう死んでるんじゃないかって思ってたし…
  幼かったとはいえ、俺の印象じゃ温厚だった親父はこういう系には無頓着なような気がするんだが
  「親父、ナノロット持ってたんだ…知らなかった……」
  「アニキ! ボケーっとしてないでそれ使えるのかよ!?」
  「…まて、OSを見てみる。随分古い型だが…」
  手元のコンソールのキーボードでデータの解析をする
  「どう?」
  「……ダメだ、データは生きてるが型が古すぎる」
  「ああ!? どうにかなんねぇのかよ!!」
  「……!! まてよ、どうにかなるかも……」


  「どうしていまさら明人様を引き込むの!?」
  打ち込まれるビームショットライフルの雨
  「別に私のためではありませんわイニス。これは全てスケイス様のため…」
  難無くかわすゴレ
  「なにが明人様のためですか! 傷付いたあの人を…見てもいないくせに!!」
  ショットライフルからビームトマホークの接近戦に切り替える香憐
  「過保護が過ぎて本当の彼を見ていないあなたには解からない…彼はそんなにやわな殿方ではありませんわ。」
  それを読んでいたゴレはまたもや容易くかわしていく
  「そんな戯言を!! あの人だって人間です! 傷付きもするし、涙も流す!!」
  なおも続く香憐猛攻
  しかし、反撃の兆候を見せないゴレ
  「それに本当の明人様は……とてもお優しい方だった。私が…私がレスティクラムを教えなければ……こんなことには! いけ!! ファンネル!!」
  そう言った香憐の機体から放たれる8つのファンネルポット
  「懺悔のつもりですか? イニス。しかし、いい加減にしないと…彼はもっと多くの物を失い、さらに傷付き、枯れ果てるほどの涙を流すことになるかもしれないのですよ?」
  「!? どういうことですか、ゴレ!!」
  「ファンネルを使う者が集中を乱すとは……腕が落ちましたか?」
  さっきとは打って変わって急激に接近してくるゴレの機体
  「!!! しまっ…」
  突然の急接近に反応が遅れる香憐
  ゴレのグフはバックパックブーストの勢いを利用してそのままサザビーを蹴り飛ばす
  「キャァァァァァァッ!!!」
  吹き飛んだサザビーは外壁に叩きつけられる
  「……くっ…、!!」
  体勢を立て直そうとした香憐の前には銃口
  「しばらく大人しくしていてもらいましょうか…イニス」


  「キャリブレーションを取りつつゼロポーメントポイントおよびCPGを再設定、ナラキジ皮質の分子イオンポイントに制御モジュールを直結、ニューラルリンケージネットワーク再構築、メタウンドエーパラメーターを更新、フィードコマンド制御再起動、伝達完成、これより偏差修正、運動ルーチン接続、システムオンライン、ムートストラップ機動!!」
  「………アニキ、なにやってんだ? 何かどっかで聞いたことがあるような……」
  「古いってんなら書き変えるまでよ!! えぇと、武器は……六mmバルカン砲とビームサーベルが一本……こ…」
  「こ?」
  「…これだけかぁ!!」
  「……あ~あ、言っちゃったよ。やっぱりアレか…;」
  再起動し、ユーナと意識間で共同していた体を離れる
  離れた俺の精神を包み込んでいく鉄の感触……
  (久しぶりだな…この感じ…)
  忘れていた感触が俺の精神に細胞にと伝わっていく
  “再起動完了”
  …目を開けるとそこにあるのはマニピュレーターに覆われた俺の掌があった
  「ふぅ……」
  「あ、アニキなのか?」
  「ん? そうだが……なんだぁ? マヌケな顔しやがってw」
  「だって! ……その、なんか……すげぇカッコいいから……」
  「顔赤くして何言ってんだよ…お世辞言ったってなにもでねぇぞ?」
  「(お世辞なんかじゃないっつーの……)」
  「とりあえずノアは心配ないだろうし…イニスの助太刀に行ってくる…お前は無理なんかしないでここにいろ、わかったな?」
  「(? イニス? アニキ、『香憐ねぇ』って呼んでなかったけ…)あ、ああ、わかった」
  「よし、んじゃ……アキース・ミッドナイト、〈アドバンスG〉、いくぜ!!」
  ブーストジャンプで飛躍して俺はゴレの後を追った
  「…………ノリノリだったなぁ……アニキ……」

  追記
  「ミコちゃん……」
  「ん~? な~に? 葉月ん」
  「私達、なんだか……忘れられてない?」
  「気にしちゃ負けだよ、葉月ん♪」
                            続く

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最終更新:2008年03月29日 20:54
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