ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 薔薇水晶と三者面談

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「それでは、これからもよろしくお願いします」
薔薇「はい…今日はお忙しいところ、ありがとうございました…」
「先生、さようならー」
生徒とその保護者が、何度も頭を下げながら教室を出て行く。
薔薇水晶も、その度に頭を下げ二人を見送る。
薔薇「次で・・・最後…」
生徒の名簿を見て、安堵の息を漏らす。1週間にも及ぶ三者面談も、次の生徒で最後だ。
生徒にとって、普段の自分を親に晒される三者面談は恥ずかしく、できれば避けたいイベントである。
しかし、それは教師にとっても同じである。保護者と面と向かって話をすることは、生徒と話す時とは別次元の緊張がある。
次の面談までのわずかな時間の間に、体を伸ばし最後の気合を入れる。
F「どうも・・」
面談の時間になった。しかし、そこに現れたのは生徒のF一人だけだった。
薔薇「…F君…?保護者の方は・・?」
F「すいません、母さん、なんか五分くらい遅れるらしくって…。本当にもう…」
Fはさも自分が遅れたかのように申し訳なさ気にしていた。
薔薇「いいですよ…それじゃあ、待ってましょう…」
生徒を椅子に座らせる。Fは椅子につくなり深い溜息をついた。
遅れている母への不満だろうか、それともこれからの面談に対する不安なのだろうか…。
結局、Fの母親が教室へ来たのは、面談開始時間から15分ほど経ってからだった。

F「母さん、遅いよ!!先生をどれだけ待たせてるんだよ!」
母「だって、しょうがないじゃない。買い物が思ったより時間かかっちゃったんだもん。
先生、ごめんなさいねぇ」
薔薇「いえ、大丈夫です…。これが最後ですので、時間はたくさんありますので…」
Fの母親は、自分の汗を拭き取るばかりで、薔薇水晶の話は聞いていないようだった。
母「それじゃあ、始めましょう」
遅れてきたのにも関わらず、開始を促す。腕時計を見る、時間を気にしているようだった。
薔薇「あ、はい…。まずは普段のF君の様子から…。F君は授業にも熱心に取り組んでますし、
クラスでもその明るい性格で、常に中心的人物となっています・・・」
Fが恥ずかしそうに頭をかく。酷いことを言われるのかと思っていたのか、どこかホッとしたような表情だった。
薔薇「それに・・・」
母「そんなことはいいんです」
Fの母親が話を遮る。
薔薇「え・・・?」
母「そんな、普段の生活についてはどうでもいいんです」
母親として、息子の学校での生活ぶりは気にならないのであろうか。
母「私は、Fくんの成績を聞きに来たんです。しかもこんな忙しい時間に…」
恨みがましく言う。Fの表情が、途端に曇った。
薔薇「…すいません…。では、こちらが先日の模試の結果です…」
模試の結果を差し出すと、Fの母親はそれをひったくるように受け取った。
そして、なめ回すようにそれを見た。
母「まぁ!なんなのいったいこの結果は!?」
悲鳴が教室に響いた。


母「なにこの判定は!?去年はAだったじゃない!それなのに、今回はCって…!!」
Fの目の前で、模試の結果を叩く。Fは、反論もできずうなだれていた。
確かに、Fの模試の希望校判定は去年よりも悪い結果となっていた。しかし、それはFに限ったことではない。
模試というのは、一つ学年が違うだけで難易度が大きく変わる。
FのA判定からC判定という結果は、むしろ良い方である。ほとんどの生徒はE判定になったりする。
そして多くの生徒たちはこれに危機感を持ち、今まで以上に勉強に励むのである。
言ってしまえばこの時期の模試は生徒のやる気を引き起こす手っ取り早い起爆剤なのである。
薔薇「けれど、F君の結果はクラスでも優れています…。F君も授業には真剣に取り組んでいます…。
なのでこのまま頑張って勉強すれば、判定も良くなるはずです…」
薔薇水晶に庇ってもらったことで、Fの表情にほんの僅かだが明るさが戻った。
しかし、Fの母親は薔薇水晶の弁解を鼻で笑ってあしらった。
母「つまり、先生のクラスはこの程度ということですか…?」
薔薇「え…!?」
頭を鉄製の棒で殴られたような気がした。
Fの顔から、一気に血の気が引いた。
母「Fくんは去年は別の先生のクラスでしたけど、その時はしっかりA判定を取っていましたよ」
薔薇「あ・・・」
F「母さん、やめろよ…!」
母「Fくんは黙ってなさい!」
息子の制止を振り切り、さらに続ける。Fはどうしようもなく、黙り込んでしまった。
母「それが今年に入って、急にこんなに結果が悪くなったんですよ?」
模試の結果を薔薇水晶に突き出した。C判定という字が、目に飛び込んできた。
薔薇「…申し訳ありません…」
母「申し訳ありませんじゃないですよ!Fくんの人生がかかっているんですよ?
先生には、それが分かっているんですか!?」
もちろん分かっている。生徒の将来を、何よりも考えて指導してきたつもりだ。
薔薇「・・・はい・・・」
母「本当かしらねぇ…」
その口調はまるで薔薇水晶が嘘をついているかの如きだった。


教室の空気が、一気に息苦しくなった。
F「母さん、もうやめてよ・・・」
母「これはFくんの将来に関わることなの!!」
机を叩く。乾いた音が教室に響き、母親の怒号と混ざり合う。
もはや母親の怒りを鎮めることはできなかった。
母「先生には生徒のために全力を尽くしてもらわないと困るんですよぉ」
今まで指導に手を抜いたことなど一度も無かった。常に全力で生徒たちと向き合った。
薔薇「生徒の指導には、常に尽力しています…」
強気に言ったつもりだったが、声はうわずり、震えていた。
母「こんな結果を出させておいて、よくもまぁ!ねぇFくん」
嫌味たっぷりにおどけて見せる。Fは母親の問いかけに対し、ただ歯を食いしばって下を向いていた。
薔薇水晶は、この場から逃げてしまいたかった。だが、蛇に睨まれた蛙のようにその場を動くことができなかった。
母「先生、お綺麗でいらっしゃいますけど、自分を磨く前にまず生徒を磨かないと…」
やめて、やめて!!どうしてそんなことを言うの?私は、何よりも生徒のことを…。
薔薇水晶が心の中で叫ぶ。
母「先生教師になって間もないんでしょう?」
やめて!!もう、これ以上言わないで!!
心の中で耳をふさぐ。だが、Fの母親の言葉は矢となって、容赦なく薔薇水晶を貫いた。
母「それでいきなりこんな大事な時期の生徒を受け持つのは、力不足なんじゃないですか?」
薔薇「……!!!!」
Fの母親の言葉の矢が、薔薇水晶の心の盾を打ち砕いた。


薔薇「あ…あ…」
視界が揺らぐ。息が荒くなる。
心の盾を打ち砕かれた薔薇水晶は、自分の中で何かが崩れる音を聞いた。
母「先生にとっては生徒の将来なんてどうでも良いかも知れませんが
私たち親にとっては愛する子供の将来は何より大切なんですよ?」
私だって…生徒のことを・・・愛して…。なのに…なのに…
母「このままFくんが駄目になるのは見ていられないわ…。校長先生に頼んでFくんだけでもクラスを変えて・・・」
F「うるさい!!!!」
さっきまで黙らされていたFが、立ち上がった。母親を睨みつける目が震えていた。
母「Fくん・・・?何を言ってるの?」
息子の激変に驚いた母親が、目を丸くする。
F「・・・帰ってよ…」
拳が震えている。
母「なに言ってるの!?お母さんはまだ先生とお話を…」
F「帰れって言ってるだろ!?」
母親の言葉を遮るように叫ぶ。
薔薇「F、君…?」
F「ほら!もう帰れって!!」
母親の反撃を封じるかのように、もう一度叫ぶ。
母「こんなにも私が真剣になってるって言うのに…。もうしりません!!」
母親は、鞄をひったくるように出て行った。


母親のいなくなった教室に、静寂が訪れる。だが、息苦しさは少しも変わらなかった。
薔薇水晶もFも、下を向いたまま黙り込んでいた。
F「・・・・・・・・」
薔薇「・・・・・・・・・」
F「・・・・薔薇水晶先生・・・」
沈黙に耐え切れず、下を向いたまま声をかけた。何かを言わないと、おかしくなりそうだった。
薔薇「・・・・・・・・・」
だが、薔薇水晶はFの呼びかけに答えず、ただ黙っていた。
F「・・・先生?」
見上げると、薔薇水晶の目からは大粒の涙が流れていた。
Fは、罪悪感に引き裂かれそうになった。
薔薇「・・・ごめん・・・なさい…」
薔薇水晶の口から、微かに声が漏れた。
F「え・・・・?」
薔薇水晶は、それだけ言うと目を伏せたまま教室を出て行った。
F「せ、先生!!」
追いかけようとすると、薔薇水晶は走って行ってしまった。
一人残されたFは、力なくその場にへたり込んだ。




気付いた時には、部屋の前に立っていた。どの道を通って帰ってきたのか、記憶が定かでなかった。
鍵を開けようとしたが、手が震えてなかなか差し込むことができなかった。
何とか部屋へ入ると、薔薇水晶はそのままドアに背をもたれて、ズルズルと座り込んだ。
薔薇「私じゃ…力不足…」
Fの母親の言葉を思い出す。その途端、強烈な吐き気が襲う。
トイレへ駆け込み、便器に向かって口を開けると、まるで水道の蛇口をひねったかのように胃の中のものが逆流した。
薔薇「はぁ・・・はぁ・・・」
胃が空っぽになるまで吐いた。胃が痙攣している。
Fの母親の言葉も一緒に吐き出せたらどれだけ楽だろうと思ったが、薔薇水晶にしがみついて離れなかった。
水道水で口をゆすぐと、部屋の隅へ行き、膝を抱えるようにして座り込んだ。
今までの自分を思い返す。
自分は、生徒のことを一番に思って教師をしてきた。常に生徒のことを考えてきた。
生徒に愛されるよう、生徒を愛してきた。
だが、それは単なる自己満足だったのだろうか?実際は、誰一人として幸せにできていないのだろうか?
再びFの母親の言葉が蘇る。その声は、いくら耳を塞ごうとも頭の中から響いてきた。
薔薇「私は…力不足…私は…」
膝を抱える力が強くなる。深い絶望感が涙となって頬を伝った。
薔薇「私は……うぅ…」
薔薇水晶の嗚咽が、部屋に響き渡る。

昨日は、玄関に入った途端、待ち構えていた母親と口論となった。塾に行かせると言う。
猛烈に反発した。結局、靴を脱ぐことすらせず家を飛び出した。あんなに母親に反発したのは初めかもしれない。
その足で友達の家へ転がり込み、泊めてもらった。
その日の夜、夢を見た。目の前に薔薇水晶がいた。しかしFがいくら声をかけても、
薔薇水晶は反応することなく前へ進んでいく。
必死に追いかけたが、いつの間にか薔薇水晶の周りに濃い霧が立ちこめる。
薔薇水晶は霧に飲み込まれ、姿を消してしまった。
そこで目を覚ます。時間はまだ夜中の2時だったが、それ以降は眠れなかった。
胸騒ぎを抱えたまま、朝を迎えた。自宅へは帰らず、友達の家から登校をした。
朝のチャイムが鳴る。いつもだったら、ほぼそれと同時に薔薇水晶が入ってくるのだが、ドアは開かなかった。
その数分後、ドアを開いたのは副担任の水銀燈だった。
銀「薔薇水晶先生は風邪でお休みだから、今日は私が出席を取るわよぉ」
男子生徒が歓声をあげる中、Fは一人沈んでいた。
その日の午前中の授業は、全く集中できなかった。教師の指名にも上の空で、2回ほど立たされた。
昼休み、友達に一緒に昼飯を食べようと誘われたが、それを無視して職員室へ走った。
F「し、失礼します!!」
やはり薔薇水晶のデスクは無人だった。
F「水銀燈先生・・・」
副担任の水銀燈なら何か知っているかもしれない。
銀「あらぁ、F君、どうしたのぉ?」
F「先生、薔薇水晶先生は風邪なんですか?」
銀「そ、そうよぉ」
水銀燈の表情に一瞬だけ浮かんだ困惑を見逃さなかった。
F「本当のことを言って下さい!!」
必死に食い下がった。Fの迫力に押された水銀燈は、諦めの溜め息をついた。
銀「本当のことを言うと、今朝から先生の携帯に電話してるんだけど、繋がらないのよぅ。
先生からも連絡が無いし…」

頭の中で、霧に飲み込まれた薔薇水晶が遠くへ行ってしまう気がした。
心臓の鼓動が速まる。耳鳴りがする。いてもたってもいられなくなった。
F「先生・・・薔薇水晶先生の住所を教えてください…」
銀「え?どうするのぉ?」
F「今から行ってきます」
銀「何言ってるの!?薔薇水晶先生の家はここから歩いていける距離じゃないわよぉ!」
F「それでも、行きます!!」
銀「薔薇水晶先生の所へは、放課後に私が行くから、その時一緒に行きましょう?」
なだめるように言う。だが、気持ちは収まらなかった。
F「今じゃないと駄目なんです!!」
霧に包まれた薔薇水晶がどんどんと遠くへ行ってしまう。手の届かない所へ…。
銀「ふぅ、しょうがない子ぉ」
水銀燈が大袈裟に溜め息をつく。
銀「ほら、行くわよぅ」
F「・・・え?」
銀「歩いていったら日が暮れちゃうわよぉ。本当、お馬鹿さぁん」
車のキーをジャラジャラと鳴らし、意味ありげな視線を送る。
銀「ほら、早くぅ。昼休みが終わっちゃうじゃない」
F「は、はい!!」

銀「昨日、なにかあったの・・・?」
ハンドルを握ったまま尋ねる。
F「実は・・・」
助手席に座っていたFは、昨日の三者面談でのことを全て話した。
自分の母親が薔薇水晶に酷いことを言ったこと。自分はそれに対して何もできなかったこと。
そして、薔薇水晶が出て行ってしまったこと…。
銀「なるほどねぇ」
ハンドルをきりながら呟く。
F「だから俺、先生に謝らなくちゃ…」
銀「あなたが謝る必要なんて無いのよぅ」
水銀燈が笑う。
F「でも…!!」
銀「教師をやっていれば、そんなこと何度も言われるわぁ。私だって何度も言われた…」
その時を思い出したのか、少し苦しげな表情になった。
銀「でもね、こんなこと言っちゃ駄目なんだろうけど、そう言う苦情はある程度聞き流さないと教師なんてやってられないのよぅ?」
こんな所で水銀燈の本音を聞けるとは思わなかった。
銀「でもあの子は、純粋だから全てを受け止めてしまったのね…」
その口調はまるで、妹を心配する姉のようだった。
F「薔薇水晶先生…」
不意に、車が止まった。
銀「ここよぉ・・・ここの2階の一番奥の部屋」
F「あ、ありがとうございます」
車を出る。だが、水銀燈は運転席に座ったままだった。
F「水銀燈先生?行かないんですか?」
銀「私が行っても無駄よぉ。電話しても出なかったんだもの…。
今あの子を助けられるのはあなただけ…。ほら、行きなさぁい」
F「はい…。水銀燈先生、ありがとうございます」
薔薇水晶の部屋へと向かうFを、水銀燈は運転席から複雑な笑顔で見送った。




F「先生!!薔薇水晶先生!!俺です、Fです!」
呼び鈴を鳴らす。だが、反応がない。
F「先生!!開けてください!!先生と話がしたいんです!!」
続けて扉を叩く。近所迷惑など、今は関係ない。
暫くして、ドアノブが内から回り、扉が開いた。
薔薇「F・・・君?」
F「薔薇水晶先生…?」
昨日の服のままだった。目は真っ赤に泣き腫らしていた。
かなりげっそりとしていて、いつもの薔薇水晶とは別人のようにも思えた。
薔薇「入って、下さい…」
Fを部屋に通す。カーテンは締め切ってあり、昼間だというのに暗かった。
薔薇「ここに…」
座布団を指し示す。Fは言われた通りにそこに座った。
薔薇「何か、飲みますか…?」
F「いえ、いいです」
飲み物など飲む気になれず、断った。だが、コップに注がれたオレンジジュースが目の前に置かれた。
F「あ、ありがとうございます…」
渡された手前、飲まないわけにも行かない。一口だけ飲み込む。
粘っこい甘さが喉に張り付く。
薔薇水晶がFの前に座る。
F「先生…俺、あの…」
薔薇「……」
F「薔薇水晶先生に昨日のこと謝ろうと思って…」
薔薇「先生…」
Fの声を無視して独り言のように語り始めた。
F「え?」
薔薇「先生、教師を辞めようと思います…」
F「!!!!!!!???????」
霧に包まれた薔薇水晶が、何処かへ行ってしまう足音が聞こえた。

F「先生…今なんて…?」
薔薇「昨日、面談の後、ずっと一人で考えていました…」
ポツリ、ポツリと出される声は震えていた。
薔薇「私、今まで生徒の為に全力を尽くしてきたつもりでした…
生徒のことを誰よりも想ってきたつもりでした…けど…」
薔薇水晶の目に涙が溜まる。声は既に涙声だった。
薔薇「それらは全て私の思い込みでした…」
F「そんなことないです!!」
薔薇水晶の部屋に入ったとき、本棚が目に入った。
本棚は『良い教師になろう』や『慕われる教師とは』といった指南書と、日本史の資料で埋め尽くされていた。
そのどれもが背表紙がボロボロだった。何度も読み込んだに違いない。
図書室に置かれた古い本でも、ここまでボロボロではなかった。
薔薇「私は、教師として力不足です…」
瞳から溢れた涙が頬を伝った。
F「そんなことない!!」
Fが力の限り叫んだ。まるで水門を閉めたかのように薔薇水晶の涙が止まった。
薔薇「F君・・・?」
F「俺、ずっと母さんに勉強しろ勉強しろって言われ続けてました…。
それで今年に入るまで学校に行くことすら嫌になってしまいました…。
けど、薔薇水晶先生が担任になってくれて、薔薇水晶先生の授業を受けて、だんだん学校へ行くのが楽しみになってきたんです…」
薔薇「……」
霧の中で、必死に薔薇水晶を探した。手探りをしながら、何度も名前を呼ぶ。
F「急に勉強が難しくなって悩んだ時も、先生が『頑張って』って言ってくれるだけで元気が出ました…。
薔薇水晶先生は、去年までなかった勉強の楽しさを教えてくれました。
薔薇水晶先生は、僕にとって最高の先生なんです!!」
薔薇「私が…?」
霧の中で『助けて』と聞こえた。それは、紛れも無く薔薇水晶の声だった。

薔薇「でも私は、あなたのお母さんに…」
F「先生の授業を受けたこともない、薔薇水晶先生のことを何にも知らないヤツの言うことなんて気にしちゃ駄目です!!
そんな奴等が例えどんなことを言おうとも、先生が僕にとって最高の先生であることには変わりありません!!
これは、俺だけでなく、みんなそうです!!みんなにとって先生はかけがえのない存在なんです!!」
薔薇「私で…いいんですか…?」
さっきまで周りを取り囲んでいた霧が蜘蛛の子を散らすように晴れた。
その中心に、薔薇水晶がいた。
F「先生じゃないと駄目なんです!!」
肩を掴む。もう逃がさない。もう遠くへは行かせない。
薔薇「F君…」
F「俺、昨日家に帰ったら母さんに塾へ行かせるって言われました…」
薔薇水晶の肩を掴んだまま話す。
F「でも俺、絶対に塾へは行きません。塾へ行かずに、A判定を取って見せます…。
それで、言ってやるんです…。薔薇水晶先生のお陰だって…だから…」
肩を掴む手に力が入る。
F「だから…辞めるなんて言わないで下さい!!」
薔薇「……F君」
薔薇水晶の手がFの目を優しく撫でた。いつの間にか泣いていたらしい。
薔薇「ありがとう…」
そっと微笑む。涙に濡れたその笑顔は、まるで輝いているかのようだった。

F「先生…?」
薔薇水晶は立ち上がると、カーテンを開けた。久しぶりの光が眩しい。
そしてクローゼットへ移動すると、ふと動きを止めた。
薔薇「向こう、向いてください…」
F「え…?」
Fが聞き返す間もなく、薔薇水晶は服を脱ぎ始めた。
F「うわぁ!!」
慌てて窓の方を見る。だが、ガラスに反射して薔薇水晶の服を脱ぐ姿が見えてしまう。Fは目を閉じた。
薔薇「もう良いですよ…」
着替え終わった薔薇水晶が立っていた。
薔薇「急ぎましょう…」
F「え…?」
薔薇「5限目は、日本史ですよ…」
そこには、いつもの薔薇水晶がいた。
F「は、はい…!!」

外に出ると、水銀燈がけたたましくクラクションを鳴らした。
銀「遅いわよぉ!なにやってたのぉ?早く乗りなさぁい」
運転席から怒鳴ったが、その顔は笑っていた。
F「すいませーん!!今行きます!!」
2階の廊下から返事をし、薔薇水晶の方へ振り返る。
F「さ、薔薇水晶先生。行きましょう」
手を差し伸べる。薔薇水晶が、ゆっくりと、しかししっかりとそれを握った。
薔薇「・・・はい…!」