ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 白崎 -Sirosaki-

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「真紅先生」
「あら、どうしたの?」

廊下にて、真紅はある女子生徒に呼び止められた。
「実はずっと聞きたいことがあったんです」
「いいわ、遠慮せずに聞いて御覧なさい」
真紅が微笑みながらそう返すと、生徒はある男性に視線を移していた。

「えーんじゅ、ホラホラこの薔薇水晶先生を見るんだ!
 若奥様風にエプロンなんか着せてみたんだけど、どうかな!?」
「素晴らしい……が、その鞭は何だ」
「え? あ、これは僕の趣味で……余計な詮索は……ね?」
「…………そうか」

廊下で薔薇水晶を使って遊んでいる白崎、それが彼女の疑問の元らしかった。
「白崎先生は……ラプラス教頭なんですよね?」
「ええ」
「でもあのはっちゃけ振りからは信じられないんですけど……。それに周りの皆さんもなんであんなに馴染んでるんですか?」
生徒の言うことはもっともである。
あの白崎の見た目・性格・行動からは、誰もあれがラプラスだとは想像できない。

「まさか、気疲れしすぎてもうひとつの人格がッ!?」
「惜しいっ! ……けど違うわ、そんな医療的なアレじゃないの。いいわ、詳しく教えてあげる」

真紅は昔のある事件を語りだした。



―――数年前の話。

「ああ、あの馬鹿校長……私はもうストレスで死んでしまいそうだ……」
と、ある朝にガリガリと壁を引っ掻きながらラプラスは唸っていた。
おそらく昨日また校長が馬鹿なことをしていたのだろう。

「私は……もう、根がまじめな自分が憎い……」
ついつい校長の騒ぎに胸を痛め、ストッパーとなる日々。そんなのはごめんだが、自分がやらねばならないのは事実。
だがこのままでは本当に、ストレスの所為で保険金が下りてきそうな病気にかかってしまう。
ジレンマだ。物凄くタチの悪いジレンマだ。

「さぁ、今日の占い第一位は………こちら!」

ふと、TVから聞こえる声が耳に入る。画面を見ると、示されているのは自分の星座だった。
何かの救いにならないかと、画面を食い入るように見つめてみた。

「今日はあなたの転機が訪れる日! 新しい自分が見つかって、今までの苦労も吹き飛んじゃう日だよ!」

この言葉を聴いた瞬間、ラプラスは己の中に電流が走った感覚すら覚えた。
ラプラスは震えた。プルプルと、その場を一歩も動かずに震えた。だがそれは怒りではない。
「新しい自分……そうか……この方法があったのか……よし、これだッッ!!」
そう、良い方法を思いついた自分への喜びだったのだ。


そして朝、職員室にて小会議を行っていた所。
ラプラスは突然席を立った。突然のその行動に教師達は疑問を浮かべる。

「皆様にお願いがございます」
ラプラスの妙にプレッシャーのある声に、全員は息を呑んだ。
「私はラプラスの魔……それは永劫に変わらぬ事。ですが……」
一度言葉を切るラプラス。そして白く広い布を取り出した。
それをバサリとはためかせ、自身の前を包む。さながらバリケートの様に。
そしてラプラスは美しくはためくその布のバリケートを勢いよく上に投げ捨てた。
するとそこにはラプラスではなく……一人の長髪の男が立っていた。
二足歩行するあの紳士なウサギではなく、小さな眼鏡が印象的な長髪の男が。

「これからは気分で度々人となり、それを満喫しようかと思ってるから……よろしく」

男はそう言うと、パチリとキュートにウィンクをする。
一瞬のそのイリュージョンに、教師は全員固まっていた。
「ど、どういう事ぉ?」
「イ……イリュージョンかしらー……」
水銀燈と金糸雀は疑問と率直な感想をぶつけた。
当然だ。「あの」目の前の生真面目なウサギ姿のラプラスが人の姿になっているのだ。
「あの、ラプラス教頭……なんですよ、ね?」
「ふふーん、いいリアクションだねー。そうだよ」
「そんな……声まで変わって!」
蒼星石はいつかのCMの様な反応を返してしまった。

「まぁ、とにかく私はこれからはこの姿でも徘徊するのでよろしくという事で。
 それとこの姿での僕の名前は”白崎”だからそちらも宜しくね。いやぁ、清清しいなぁ」

ラプラ……白崎のその言葉に唖然とする教師陣。
だが、その空気を跳ね返すように一人の勇者が待ったをかけた。

「ちょっと待ってくれ……ラプラス教頭」
「ラプラスじゃない。し・ろ・さ・き」
「………白崎、説明してくれ。その必要性は何だ」

ローゼンは先ほど投げられた布を自分の体から剥ぎ取りながら白崎に尋ねた。
「しかも何で僕に投げるのだ……」と愚痴りながら布を畳むローゼンを、微笑みながら白崎は見つめる。
そして校長に詰め寄ると顔を思い切り近づけ、何かの重圧を彼に与えながら……呟くように言った。

「いい加減ねぇ……もう限界なんだ……”ラプラスとしてあなたにツッコミを入れる”のはね。
 こうやってストレス発散して無いと僕は死にそうになる訳だよ。だから、こんな方法を取らせて貰ったんだ」
「二重人格に逃げたのか君は……」
「何とでも言えばいい。それに二重人格と言うほどではないのであしからず」
「悪かった……悪かったから! 元の真面目なラプラス教頭に戻ってくれ! 調子が狂うんだ!」
「別にこれでも仕事するしー。それに気分次第で戻るから安心して欲しいものだ」

あのラプラスが校長に下克上……。
ラプラスが軽口を吐いた……。
ラプラスがおかしくなった……。

と、教師陣がひそひそと囁いているのを知ってか知らずか。
白崎はローゼンから目を離し、時計を見ると、
「さぁ、皆今日も一日頑張ろう! 以上、白崎からの報告でした!」
そんないつものラプラスからは有り得ない様な明るい口調で小会議を終わらせた。



「―――とまぁ、これが出生秘話。ちなみに早朝壁ガリガリ事件は本人からの証言よ」
「凄いですね……」
「でもそれはまだ序の口。今はもう慣れたけど、それからが大変だったわ。
 生徒や他の先生の皆に”自分は白崎という一人の人間として扱って欲しい”という要望を徹底したり、
 これは詳しくは知らないけど、過去に事務長の槐先生とあの姿で縁があったという噂があったり……。
 まぁ、ストレスでちょっとキツい時は白崎、そうでも無い時はラプラス教頭、と使い分けている様よ」
「よっぽど……なんですね」
「ええ、よっぽど……ね」

二人が顔を見合わせ、そしてそれが合図の様に同時に白崎を見た。
白崎は今度は槐の腕を引っ張り、どこかへ向かおうとしている。方角的には家庭科室へ行くのだろう。
「さぁ槐、どうやら今日は翠星石先生が調理実習だそうだよ。そして若奥様風味の翠星石先生の姿まで見れるよ!」
「翠星石先生が若奥様……わからない……」
「わかってないなぁ! 今旬のツンデレだよ? ツンデレ若奥様……嫌いかい?」
「ツンデレ若奥様……”今日は肉じゃがを作ったですけど……つ、作りすぎたからオメーにやるですぅ!”……みたいな?」
「君は相変わらず変に細かいなぁ……さぁ、行こう!」
こんな馬鹿会話をしながら、2人は家庭科室への道を歩いていった。
2人が見えなくなると、また真紅と生徒は顔を見合わせ、そして今度はお互いに笑みをこぼした。

「でも思うの。私はね……教頭はああやって”白崎”として、馬鹿騒ぎをしたかったんじゃないかって」
「何故ですか?」
「教頭は根っからの真面目人間でしょう? 昔もきっとそう……だからああいう事が出来なかったんじゃないかしら」
「だから、今青春を謳歌してるって事ですか……?」
「私の勝手な推測だけれど。でも、ああして気分転換できるのはいい事だわ」
「ふぅん……先生、ありがとうございました」
「いえ。また聞きたいことがあったら何でも尋ねなさい」


生徒と別れ、真紅は職員室を目指して一人歩く。
そして、生徒には話していないもう一つの過去を思い出した。
”白崎”が誕生する更に前のいつかの日に、自分とラプラスが話していた事だった―――


「真紅先生、私は生徒に好かれているのでしょうか……」
「……教頭? 随分と貴方らしくない質問をするのね」
「私は他の先生方に比べ、生徒と接する機会がありませんからね。つい不安になる時があるのですよ」
「なら直接会話して、高感度を上げてみれば良いわ」
「生徒は私と話をしてくれるでしょうか……お堅い役職と性格ですからね、不安ですよ」
「なら変装して近づけばいいのだわ。新しい自分の発見にもなるかも……」
「ふふ、無茶を仰る」


―――思えばあれが白崎誕生の布石だったのかもしれない、と真紅は苦笑した。
そして職員室前に辿り着いた彼女は扉を開こうと手を伸ばす。その時、ふと白崎の姿が見えた。

白崎の隣には槐、そして2人を囲む様に男子生徒や女子生徒が数人。どうやら楽しそうに談笑している様だ。
そんな風に生徒と楽しそうに会話をする姿。それは過去に真紅に不安を吐露したラプラスには程遠くて。
けれど微笑ましい彼のその姿は、とても充実しているように思えた。

「あれも一つの、新しい教師像かもしれないわね」

真紅は優しげに微笑み、ドアに手をかけた。



fin