ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 蒼星石と残業

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「ふぅ……」
走らせていたペンを置くと、蒼星石は息をついた。
そのまま正面の窓をぼんやりと見る。
内部の光を反射して映る自分の姿の奥に、夜を示す黒が広がっていた。
ガラスの中の職員室に誰もいないのを見て、戸締りを頼まれたのを思い出す。
視線を落とし机の上の時計を確認する。 かなり遅い時間だ。
残りは帰ってからにしよう。
机の上の書類を鞄の中にしまうと蒼星石は席を立った。

もっと早く帰ればよかった。
暗い廊下での後悔の理由は、誰もが持つ暗闇への恐怖。
昼間の賑わいとは打って変わって、自分ひとりの足音だけがコツコツと響く静けさがそれを強調する。
知らず知らずのうちに歩く速度が早くなる。
そのとき、視界の隅で光が映った。
「……な、なに?」
ちらちらと煌くそれに向けて首を動かす。
窓の向こう、中庭を挟んで向かいの校舎の一室でゆらゆら光が動いていた。
その光と共に、2、3の人影が動き回る。
「でたぁぁっ!」
誰もいないはずの学校にいる存在が蒼星石にはそのまま幽霊に繋がっていた。
腰を抜かし、ぺたりと床に座り込む。

確認、しなきゃいけないのかな?
学校内にいる不審者を確認、適切な処置をし、学校の安全を図るのは教師の役目だ。
蒼星石の中で恐怖と義務が天秤にかけられる。
果たして、僅差だが義務が勝った。
ゆっくり立ち上がると、壁に手を着きながら件の教室に向かった。


ただ幽霊じゃないことだけを願いながら渡り廊下を渡ると、
廊下の奥の教室から微かだが明かりが漏れていた。
「誰かいるの?」
そっと問いかける。
ただ、ずっと続く闇に言葉が飲み込まれると蒼星石は思っていたが、
意に反して教室から漏れていた明かりが消えると
「隠れろ」という命令とドタバタという擬音が返ってきた。
それは確かに生きた人間が出す音で、
幽霊でないことが確定し蒼星石そっと胸をなでおろした。
じゃあいったい誰がいるのだろうか、泥棒ではないだろうか、と蒼星石は考える。
しかしすぐにその考えを捨てた。
泥棒ならば、昼間しか利用されない教室ではなく職員室や事務室、校長室を狙うはずだからだ。
だから、あの教室にいるのはなにかの事情があって忍び込んだ生徒なのだろう。
隠れるからにはやましいことをやってるんだろう。
夜の学校に忍び込む悪い生徒になんて言おうか考えながら蒼星石は教室へ向かった。


教室の扉を開けた。
月明かりが差し込み、廊下よりはいくらか明るい教室で、
机の影に隠れているつもりらしい黒い塊がもぞもぞと動く。
「なにをしてるんだい?」
彼らに向かって問いかけながら、蒼星石は電燈のスイッチに手を伸ばした。
かさり…
指先がスイッチじゃない何かに触れる。
なんだろう? と顔を向けるとひも状の物体が垂れ下がっていた。
手繰り寄せてみる。
薄暗闇の中に浮かんだものは、鮮やかな色彩。
色とりどりの折り紙が小さな輪っかを作り、更にそれを鎖状につなげたものだった。
まるで、パーティーの飾りのような……
はっとして蒼星石は視線を黒板に向けた。
窓から差し込む月に照らされたそこには、様々な色のチョークで縁取りされた『おめて』。

おめでとう──

それは祝福の言葉の欠片。
嫁の出産で早々に帰った先生がいたことを蒼星石は思い出した。
彼らはその教師を祝うためにこんなことをしているのだろうか。
そのために夜の教室に忍び込み、暗い中、教室の飾り付けをしていたのだろうか。

影でひそひそとささやきあう彼らに顔を向ける。
どうするか決めかねているのか、姿を晒す気配は無い。
そんな彼らに蒼星石は微笑むと、
「早く、帰るんだよ」
呟いて、明かりをつけないまま教室を後にした。
ボクもあんな先生みたいになりたいな。
自分の幸せを教え子にまで祝福される……そんな教師に。
暗い廊下を歩く蒼星石の足取りは軽い。