ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 代務

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お題 『雪華綺晶が風邪か何かで寝込んだ薔薇水晶のために、薔薇水晶の変装をして授業』


真紅「…分かったわ。お大事にと伝えておいて頂戴。」
ある日の朝、そう言うと真紅はどこか物憂げな様子で受話器を置いた。
そんな様子を見て、普段は絶対ここにいないはずの人物はため息混じりにこう呟いた。
水銀燈「何…?今日も薔薇水晶は休みぃ?」
それに対し真紅は首を振ってこう答える。
真紅「いえ…そうじゃないわ…。ただ…。」
水銀燈「…ただ?」
真紅「薔薇水晶の代わりに、雪華綺晶がお休みですって。風邪がうつったそうよ。」
水銀燈「…姉妹そろって何やってるのよ…。はい、書類関係全部終わり。じゃ、後よろしくねぇ。」
そうそっけなく返答すると、彼女は荷物をまとめて職員室を出て行こうとした。
もう2日も真面目に学校に来ているし、あの子が溜めていた雑務も全て終わらせた。今日ぐらい、ワガママを言っても許されるだろう…。
そんなこと考えながら、彼女は同僚が何かをわめいているのを無視し、職員室のドアを開けた。
?「あ…」
そこには、彼女より一回り小さい女性の姿があった。


薔薇水晶(?)「えっと…」
いきなりの強敵の出現に、多少の戸惑いを見せる彼女。
そして数秒後、彼女は何かを思い出したかのようにこう言った。
薔薇水晶(?)「…ぎ、銀ちゃん。授業はちゃんとしないと…」
水銀燈「…雪華綺晶。あなた、何やってるのよ…。」
はたから見れば、それはまさしく薔薇水晶だった。
白い髪は丹念に染められ、口調や背格好まで全て一緒…
しかし、それでもその親友の目を欺くことは出来なかった。


真紅「…で、薔薇水晶に『私の代わりに授業を進めて』とお願いされたのはいいんだけど、あの子よりも人気が出てしまうとまずいから変装した…そう言うこと?」
雪華綺晶「そう…。これなら、ちゃんと授業を進めても大丈夫…。」
その弱々しい言葉とは裏腹に、力強くガッツポーズを決める彼女。それを見て、水銀燈は呆れたようにこう言った。
水銀燈「無理ね。あなたなんかに、あの子の代役が務まると思って?」
雪華綺晶「大丈夫…。世界史も日本史も、同じ『歴史』にはかわりないもの…。それに、私はあの子の姉…。だからきっと…。」
少しムッとしたようにそう答えると、彼女は踵を返し『薔薇水晶』のクラスへと向かおうとした。
その姿に、水銀燈は彼女に背を向け、その場を立ち去った。
「…ま、そこまで言うのなら止めはしないわぁ。ただしこれだけは肝に銘じておきなさぁい…。失敗なんかしたら、薔薇水晶がせっかく築き上げてきたものを、それこそ一瞬にして破壊してしまうかもしれないって事をね…。」
という不吉な言葉を残して…。


雪華綺晶「…授業を…始めます。」
生徒に対し、いつも以上に気合を入れてそう挨拶をする彼女。
かつて、これほどまでに責任を感じた授業…いや、授業だけではない…。戦場では幾度となく危険な任務に携わってきたが、これほどまでに過酷なものはなかったはず…。
水銀燈の去り際の言葉…それは彼女の心に、重くのしかかっていた。
出来ることなら逃げ出したい…。でもそんなわけには…
そんななけなしの勇気を振り絞り、彼女は教科書を読み始めた。
雪華綺晶「えっと…。今日は平安時代からですね…。平安時代の始まりは、794年に…794年に…」
そこまで読み進めると、彼女は次第に苦悶の表情を浮かべ始めた。
そう、彼女はその先にある人物の名前が読めなかったのだ。
こんなのは予想外だった…。高校のときは確かに読めたはずなのに…。これでは、本当にお姉さまの言うように…。
その瞬間、彼女はクラスのみんなに向かってこう言った。
雪華綺晶「…ちょっと、まだ本調子じゃないみたいです…。ちょっと保健室に行って…薬をもらってきます…。」
その言葉と共に、教室を立ち去る彼女。そして、教室からその姿が見えなくなると同時に、彼女は凄い速さで保健室へと走っていった。


雪華綺晶「お姉さま…!!これ、なんて読むの…!?」
水銀燈「…桓武(かんむ)。」
雪華綺晶「ありがとう…!」
半分寝ぼけた状態の水銀燈を残し、喜び勇んで教室へ戻る彼女。
一方、水銀燈の方はというと、急に安眠を妨害されたことにだんだん腹が立ってきた。
どうしてあの姉妹は、人を素直に休ませてくれないんだろう…
今度、私の大切な眠りを邪魔したらただでは…
雪華綺晶「…お姉さま!!これは…!?」
水銀燈「…蝦夷(えみし)…。ちょっと、ここに座りなさぁい。」
1分もしないうちに保健室へ戻ってきた彼女を前に、水銀燈はもう呆れ返ったという表情で、目の前のイスを指差した。


水銀燈「…ほら、これで分かったでしょう?あなたには無理だって。薔薇水晶は、それこそ寝る間も惜しんで授業に力を注いでるのよぉ?それを、一朝一夕でどうにかしようなんて無理に決まってるわぁ…。」
雪華綺晶「うん…。でもどうしよう…。」
水銀燈「いいから、早くその髪戻して来なさぁい。それで、授業は無理に進めようとしないで、復習に徹するの。そうすればあの子も、明日以降やりやすいはずよ。歴史は流れで覚えたほうが分かりやすいもの…」
雪華綺晶「でも…私…分かんない…」
そう言いながら、彼女は泣きそうな顔をしながら教科書をペラペラとめくり始めた。
そんな様子に、水銀燈はため息をつきながら立ち上がり、どこかへと歩き出した。
雪華綺晶「…!?待って…!お願い…力を貸して…!もう、お姉さまだけが…」
そんな言葉をよそに、水銀燈はさっさとその場を立ち去ってしまう。
そういえば妹が言っていた…。「例え相手がどんなに嫌な人でも、暴力を振るったり陰口を言ってはいけない」と…。「いつかその愚かな行為が、自分に帰ってくる日が来るから…」と。
まさしくそのとおりだ…。お姉さまには、散々酷いこともしたし、今日だって言いつけを守らなかった…。
これはその報いなのかもしれない…。
雪華綺晶「うっ…うっ…」
もう、彼女にはその場で泣くことしかできなかった。
そんな頭に、ぽんと置かれる白く透き通ったような綺麗な手。
その暖かい手の持ち主は、相変わらず呆れた様子でこう声をかけた。
水銀燈「…髪直してきなさいって言ったのに、何でここで泣いてるのよ。ほら、これ使いなさぁい。」
そう言うと、彼女は何かの印刷物を手渡した。


雪華綺晶「…これは…?」
水銀燈「去年私が作った問題。お馬鹿さん達にはかなり難しかったみたいだけど、『雪華綺晶』のあなたがやらせるのなら問題は無いでしょう?」
その言葉に、雪華綺晶は慌てて今貰ったプリントを読み始めた。
一目見ただけで、かなり難解だと分かる問題…。
確かにこれなら私の出番は無いだろうし、「妹の授業のほうがよかった」と答える者も増えるはず…
それに印刷されたばかりと分かる、その紙1枚1枚のほのかな温もり…
そうか、これを印刷するためにお姉さまは一時この場を…
そうだ…お姉さまは、私を見捨てたわけじゃなかったんだ…!
雪華綺晶「…お姉さま…」
ごしごしと涙を自身の袖でぬぐいながら、水銀燈に飛びつく雪華綺晶。それに対し、水銀燈は一歩身を引きこう言った。
水銀燈「ちょっと!抱きつくのは止めてって言ったでしょう!?服にシワが…ああ、もう…!」
雪華綺晶はそう言う彼女の腕の中で、ひとしきり甘え、そしてその喜びを味わった。
一方、水銀燈の方はというと…
水銀燈「ちょっとぉ…もう、お願いだからいい加減にして…。私、こういうの苦手なのにぃ…」
嫌なんだか恥ずかしいんだかという微妙な表情をしつつ、仕方なく雪華綺晶の頭をなで始めた。
両者の間にできた、深く広い溝…それはもう、完全に消え去っていた。