ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki ハリネズミのジレンマ

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水銀燈「…よし…。」
ある日の休日…自室で一人、覚悟を決めたようにそうつぶやくと、彼女は手に持っていた携帯電話の電源ボタンを押し続けた。
それはいつも使っているものとは違う、もう一つの電話…。
数秒後、多少ほこりのかぶったその電話は久しぶりに息を吹き返し、その本来の機能を発揮し始めた。
画面を睨み、水銀燈は中のデータを一通り確認する。
約1ヶ月ほど放置していたため、多少電池の残量が心もとないが、それ以外は問題なさそうだ。
そして適当な番号を見つけると、彼女はおもむろに電話をかけ始めた。
水銀燈「あ…久しぶり…。私だけど…覚えてる…?…そう!私よ!私!!ごめんねぇ…実は、ちょっと車で事故起こしちゃって、今まで入院してて…」
…もちろん、そんな事実など一切無い。
この日、彼女は久しぶりに『仕事』を開始した。
時折、同僚の顔や知り合いの顔が浮かびもしたが、この際そんな情に流されるわけにはいかない。
なぜなら、『ある理由』のおかげで彼女の預貯金はほとんど底をついていたのだから…。
「お金が無いのなら、真面目に仕事をすればいい」と人は言うかもしれない。
しかし、人間1度贅沢を経験してしまうと、元の慎ましい生活に戻るのには大きな覚悟を要するもの…。それに…
水銀燈「…もう、あんな暮らしをするのはうんざ…ううん、こっちの話…。ごめんなさぁい…久しぶりに声聞けて、テンパっちゃってるみたい…」
ふと頭によぎる、高校までの極貧生活…。
もう二度と、あんな思いは…
そんな呪縛から、彼女は逃れることは出来なかった。


水銀燈「…それで…会いたいのは山々なんだけど、入院費とか意外にかかっちゃってぇ…。車も壊れちゃったし…もう私…どうしたら…」
多少のブランクはあったものの、その言葉はまるで魔法のように相手の心を惹きつけた。
「馬鹿な男…」と思わずほくそ笑みながら、彼女は本題を切り出す準備をし始める。
しかしその時、誰かの視線を感じ、彼女は慌ててその方向に振り返った。
そこには、その様子をにこにこと楽しそうに眺める、1人の少女の姿があった。
水銀燈「あ…ご、ごめん…今病院だから…!」
そう嘘をついて話を切り上げると、水銀燈はその少女のほうに向き直り、こう質問した。
水銀燈「…どこから聞いてたの?」
?「んー…『でも、生死の境をさまよってた時、真っ先にあなたの顔が浮かんで…』って辺り?」
あまりの事に困惑気味の水銀燈に対し、少女は笑顔を崩すことなくそう答えた。
彼女の名前は柿崎めぐ…。以前、水銀燈とそのほかの善意の人たちの力によって心臓病を克服した少女である。
あれ以来2人の仲は急速に深まり、ついには家の合鍵を渡すまでになっていた。
むろん、それはこのめぐという少女を信頼しての事なのだが、最近ではその行為を後悔する日が多くなってきた。
もっとも、それはめぐ自身の問題ではなく、むしろ自分自身が原因なのだが…
先ほどの彼女の答えに対し、水銀燈は頭を抱えながらこう呟いた。
水銀燈「…つまり、最初の方からって事ね…。」
その言葉に、めぐは「そう。」と笑いながら答えた。


水銀燈「…で、何で勝手に入ってくるの…。チャイムくらい、鳴らしなさいよね…。」
めぐ「えー?『勝手に入ってきて構わない』って言ったの…先生じゃない♪」
その答えに、「本当に馬鹿な約束をしてしまったものだ…」と、水銀燈は思わずため息をつく。
確かに、めぐと居られる時間は楽しい…。
でも、『朱に交われば赤くなる』とはよく言ったもので、私といるせいでめぐがどんどん良くない方向へ行ってしまっている気がする…。
今日だってそう…。こんな事…万が一めぐが真似するようなことがあれば、それこそ…。
めぐ「どうしたの?何か今日…先生らしくないわ…。何かあったの?」
水銀燈「…別に。大したことじゃないわ…。」
めぐ「ふぅん…。でも、何か困ってるのなら言って。この命は先生に貰ったもの…。だから、先生のためなら何でもするわ。たとえ、それがどんなに悪いことでも、あなたのためなら私は…。」
その言葉に、水銀燈は愕然とする。
そして、彼女は少し考えた後、静かにこう言った。
水銀燈「…なら、これが最後の命令よ…。これ以上、私に近付かないで…。」
と。


めぐ「…え?」
思わぬ言葉に、めぐはそれ以上言葉を発することが出来なかった。
初めは冗談だと思った…。しかし、水銀燈の目を見る限り、どうもそうでは無いらしい…。
めぐ「ど…どうして…?チャイムも押さずに家に入ったのがいけなかったの?それとも…」
水銀燈「…うるさいわね。もううんざりなのよ…!あなたの面倒を見るのは!!私は別にあなたなんか頼りにしてない…!!むしろ、邪魔なのよ!!分かった!?」
その言葉に、めぐはしばし呆然とした。やがて自我を取り戻すと、彼女はあふれる涙を懸命にこらえながら部屋を後にした。
「…これでいい。これでいいんだ…。」と水銀燈は自分に言い聞かせる。
めぐ…これ以上、貴女のそばには居られない…。
めぐに会った日から今日まで…それは本当に楽しかった…。でも結局、私は周りの人を傷付けなければ生きていくことは出来ないようだ…。
そう、一度汚れてしまったものは、どんなにそれを直そうとしても元の白さには戻らない…。だからこそ手遅れになる前に…。
バタン、と音を立ててしまる玄関のドア。そのドアを見つめながら、彼女は静かにこう呟いた。
水銀燈「…ごめんね…めぐ…。」
決して大きな声ではないはずの声…。しかしその声は、彼女以外誰もいなくなった部屋に大きく響いていた。


真紅「…今日も柿崎さんは休みなのね…。水銀燈、何か知らない?」
それから3日後の朝…。あの日以来、めぐはずっと学校を欠席し続けていた。
原因は不明…。ならば、「彼女と親友であるはずの水銀燈なら何か知ってるのでは…?」と真紅は彼女に対しそう質問したのが、彼女は持っていた雑誌に目線を落としたまま、ぶっきらぼうにこう答えた。
水銀燈「…知らない。」
真紅「…嘘ね。本当に知らないのなら、慌てて彼女の家に向かうはず…。そうでしょう?」
その言葉に、思わず水銀燈は舌打ちをする。
全く…お馬鹿のくせに、変なところで勘が働くんだから…
そんな彼女の考えをよそに、真紅は新たな疑問を彼女に投げかけた。
真紅「…一体何があったの?柿崎さんは、あなたのことを物凄く慕っていたのに…」
水銀燈「うるさいわね…。そんなこと、もうどうでもいいわ…。」
その言葉にぴくりと眉を動かすと、真紅はさっきより強い口調でこう言った。
真紅「そんな言い方ないでしょう!?あなたは、文字通りあの子の命を救った…。だからこそ、あなたを一番慕っているの…!でも、それが目の前で崩れ去った時、その行為が本人にとってどんなに辛い事か…それはあなたが一番よく分かって…」
そこまで言った時、彼女は思わず口ごもった。
なぜなら、水銀燈本人も同じような目にあっていたことを十分に知っているから…。
そして、それは彼女にとって大きな傷跡を残してしまったことを…。
しまったと思いつつ水銀燈の方を見ると、彼女はハッとした様子で真紅の顔を見つめていた。
そして数十秒後、彼女は真紅に対しこう言った。
水銀燈「…ちょっと、休憩がてら散歩してくるわね…。」
と。


…それから2時間後、彼女はめぐを連れ学校に戻ってきた。
水銀燈「…なんで学校なのよ?今なら、どこでも自由に遊びに行けたのに…」
とぼやきながら。
それをなだめながら、めぐは彼女の手を引っぱり、学校の中へと先導する。そんな2人の手は、いつまでも硬く握られていた。