ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki

新しいグローブと古い自転車

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匿名ユーザー

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 「失礼しま~す」
  ある日の昼休み、1人の生徒が教務室に入ってきた。
  その手にノートと筆記用具を持って。
 「蒼星石先生いらっしゃいますかぁ?」
  機械的なお決まりの挨拶で呼ばれたその教師は
蒼「どうぞー」
  と、生徒に顔を向け、笑顔で招き入れた。
  入ってきた生徒に席を勧める。生徒がそれに座ったのを確認して
蒼「で、今日は何の用かな?」
  何か含んだような口調で尋ねる蒼星石。
  それにあっけらかんとした態度でその生徒は答えた。
 「今日も数学を教わりにきましたー」
蒼「はいはい、わかってるよ」
 「お願いしま~す」
  この2人のやり取りを見ると
  この生徒が蒼星石に教わりに来るのは今日が初めてではないようだ。
  早速生徒が質問し、それに答える蒼星石。
  流石、校内一の教え上手と言われている蒼星石、
  生徒の疑問はあっという間に解決したようだ。
 「あっ、そっかー、こーゆーことかぁ」
蒼「そう、そういうこと。わかったかい?」
 「はい!ありがとうございましたー」
  そうして、一仕事終えた蒼星石が一つ伸びをする。
  するとその生徒が、

 「あのぅ、もう一つ質問があるんですけど…」
蒼「ん、まだあったのかい?」
  再び数学の教科書に手を伸ばした蒼星石を見た生徒は
  慌てて自分の前で両手をブンブンと振り否定を表してこう言った。
 「ち、違うんです。私が聞きたいのは数学じゃなくて『それ』のことです」
  その生徒は蒼星石の机の上に置いてある物を指差した。
  蒼星石は『それ』と呼ばれた物を手に取り生徒に尋ねた。
蒼「このグローブがどうかした?」
  生徒が指差した『それ』とはグローブのことだった。
 「いえ、なんかピッカピカでいっつも机の上にあるんで気になったんです。
  大切なものなんですか?」
  尋ねられた蒼星石はチラッと隣の誰もいない机を見て溜息をついた。
蒼「話すと彼女が何か言うと思うんだけどなぁ…どうしても聞きたい?」
 「はい、ゼヒ聞きたいです!!」
  その生徒の目は先程数学を教えた時よりも、目の輝きが20%ほど増していた。
  それを見て複雑な気持ちになり、再び大きな溜息をついてから蒼星石は語り始めた。
蒼「あれはボクが大学生の時だったな…」
                   ・
                   ・
                   ・

  川沿いの道をバイクにまたがり颯爽と駆ける人影が一つ。
 「今日の試合は2:00からだから十分間に合うね」
  蒼星石、当時大学3年生。成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能と
  三拍子そろった文句の付け所のない大学生であった。
  この日は所属している大学の野球部の試合の日だった。
  そこで彼女は女性ながらエースという肩書きを持っていた。
  唸る速球、切れる変化球、繊細なコントロールと
  こちらも三拍子そろった文句の付け所のないピッチャーであった。
  さらに今日の試合は重要な意味合いを持っていた。
  この試合に勝てば全国大会へのキップを手にすることができるのだ。
蒼「絶対に負けられないな、がんばらなくちゃ」
  気合をいれ球場に向かう蒼星石。
  そこで彼女にとって運命的な出来事が待っているとも知らずに…

  バイクを走らせ河川敷にある野球場についた蒼星石。
  すでに到着しているチームメイトを見やる。
  その表情は気合に満ちあふれ、とてもたのもしく見えた。
蒼「みんなも気合十分だね。よーし!」
  再度気合を入れる蒼星石。すぐにでもグラウンドに入りたかったが
  まずはバイクを止めなくてはならない。球場備え付けの駐輪場に向かう蒼星石。
  すでに駐輪場には他のバイクやら自転車やらが止めてあった。
  その中の一つを見て蒼星石は驚愕した。
蒼「えっ!?こ、この自転車は…」
  蒼星石が目にした自転車…
  それは3年前のあの日、蒼星石があの駅で“彼女”に預けた物だった。
  離れ離れになった2人をつなぐ、約束のこめられた自転車。
  それが今、目の前にある。それが意味することは一つ。
蒼「まさか…」
  口では疑ってみたが、蒼星石の頭の中にはしっかりとした確信があった。
 『彼女がいる』という確信が
  急いでバイクを止め、ベンチに向かう。
  グラウンドに入った蒼星石はチームメイトに挨拶もせずに、相手側のベンチを見た。
  そこには…

蒼「やっぱり…」

  蒼星石の視線の先には“彼女”がいた。
  スコアブックをひざに乗せ、ベンチに座っている彼女が。
  外見はすっかり大人びていたが、
  それは間違いなく蒼星石とあの駅で約束をし、別れた彼女だった。
蒼「ほんとに…」
  喜びと驚きが混じった感情を抱きながら
  蒼星石は彼女に向かって一歩踏み出そうとする。が、
 「おーい、蒼さ~ん!アップいきますよー」
  チームメイトに声をかけられ、はたと踏み出しかけた足を止める。
蒼「あ…うん、わかった。今行くよー」
  今日の本来の目的を思い出し、踵を返しアップに向かう蒼星石。
  彼女がこっちを見ていないかと期待をこめて振り向くが、
  その彼女は乾いたグラウンドに目を落としていた。

  その後、始まった試合では、
  蒼星石は彼女を気にして投げているのかいつもの調子ではない。
  しかし、ランナーは出すものの要所、要所はきっちり抑えていた。
  さらに味方打線の後押しもあり、蒼星石のチームは見事勝利した。

  そして試合終了後、蒼星石が荷物を片付けていると…

蒼「どうしようかな…」
  荷物を片付けながら蒼星石は悩んでいた。
  いざ冷静になってみるとどういう風に話しかけていいのかわからなかった。
  何しろ3年振りで、その間連絡も何もしていなかったのだ。
  自分でも 何故? と思わざるを得ない。
  どうしたものかと思案していると、
 「蒼星石!!」
  いきなり自分の名を呼ばれ慌ててそちらの方を振り向く。
  そしてさらに蒼星石は慌てることとなる。
  なぜかというと自分の顔面向けてボールが迫ってきていたのだ。
蒼「うわっ!!」
  間一髪のところでボールを避けた蒼星石だったが、
  その代償として尻餅をつくこととなった。
  そんな蒼星石の姿を見てケラケラと笑い声を上げる人物がいた。
  その人物は腹を抱えながら蒼星石にこう言った。
 「ダメですよぅ、アレぐらいのボールで驚いてたら。
  全国のバッターはもっと鋭い打球を打ってくるですよ」
蒼「で、でもっ、あんなのとれるわけないじゃないか!!」
  顔を真っ赤にして反論する蒼星石を見て、彼女は微笑み、
 「とれなくてもいいですよ」
  と言った。
  その顔は紛れもなく蒼星石が知っている彼女のものだった。
  それを見た蒼星石はほっと胸を撫で下ろした。

  彼女は変わってはいなかった。
  別れた時のそのままでいてくれた。
  それが何よりだった。

  蒼星石は立ち上がり、彼女に向けてこう言った。

蒼「久しぶりだね…」
 「本当ですぅ、5年振りですかねぇ」
蒼「違うよ、3年振りだよ」
 「えっ?…そ、そんなのわかってるですよ!!
  ただおめーが忘れていないか確かめてやっただけですぅ!!」
蒼「ははっ、そういうことにしといてあげるよ」
  ああ、こういうやりとりも懐かしいなぁと思いながら蒼星石は彼女を見る。
  耳まで真っ赤にして反論する彼女はやはりあの時のままだ。
  しばらく蒼星石が彼女を見ていると、
  ふと彼女は思い立ったように自分の鞄に手を突っ込んだ。
  何を取り出すかと思えば…グローブだった。
  彼女はそれを手にはめ、肩をまわしながら言った。
 「ほら!蒼星石も早く準備するです!
  何の準備かって?キャッチボールに決まってるじゃねぇですか!!」
  わかってはいたが彼女をからかうつもりで蒼星石が質問すると
  案の定、彼女はおもしろいように反応する。
  笑いをこらえながら蒼星石も自分のグローブを手に取る。
  2人のキャッチボールが始まった。

  2人はキャッチボールをしながら今までの経緯を話していた。
蒼「何でこの街の学校にしたの?」
  そう聞かれた彼女は少し頬を赤らめて、
 「この街の料理学校は取れる資格が豊富だからですぅ。
  ただ…それだけですぅ」
蒼「へぇー、そうなんだ。じゃあ、野球部に入ったのは?」
  あからさまに誘導尋問めいたことをしている蒼星石。
  彼女はさらに顔を赤くして、
 「…蒼星石が………から…」
  と呟いた。あまりに小さい声で蒼星石は聞き取れなかった。
  なので聞き返そうとしたが、
 「あ~!!もうこの話は終わりですぅ!!」
  と言って一蹴されてしまった。
  何か返ってくるボールの威力も上がった気がした。

  しかし、蒼星石は聞き返すまでもなく彼女が何を言ったかはわかっていた
  それは…

  夕焼けが終わってもキャッチボールは続いていた。
  経緯の説明も終え、今は他愛もない話をしながらキャッチボールをしていた。
  ふと蒼星石が彼女の顔を見ると何か思いついたような顔をしている。
  イタズラっぽい笑みを浮かべ彼女は振りかぶった。
 「いくですよー!!」
  彼女はコントロール無視のカーブを投げた。
  そのボールはとんでもないところに飛んでいった。
蒼「とれるわけないだろう!」
  と、いいながらも蒼星石は必死にボール飛びついた。
  そして見事にキャッチした。
  それを見ていた彼女は驚いた顔をして、
 「すごいですぅ、絶対とれないと思ったですぅ」
  そう言いながら近づいてきた彼女はふと蒼星石のグローブに目をやる。
 「そのグローブずいぶんボロボロですねぇ」
  確かに蒼星石のグローブはすっかり色褪せてしまっている。
蒼「高校の時から使ってる物だから仕方がないよ」
 「それで全国大会にも出るつもりですか?」
蒼「…?そのつもりだけど…」
  彼女の質問の意図がわからず首をかしげる蒼星石。
  彼女も何か考えているようで、そして思い立ったように踵を返した。
  慌ててその後姿に声をかける蒼星石。すると彼女は
 「急用を思い出したんで帰るですぅ。
  あ、自転車はあと一日だけ借りるですよぅ」
  そう言って彼女は足早に球場をあとにした。
  1人取り残された蒼星石は何がなんだかわからなかったが、
  とりあえず自分もここにいてもしょうがないので帰ることにした。

  そして次の日の朝…

  ピンポーン
  蒼星石の家のチャイムが鳴らされた。まだ時計は7時をまわったばかりだ。
蒼「こんな早くに誰かなぁ」
  そう思いながら玄関に向かう蒼星石。玄関のドアを開けるとそこには…
蒼「はーい、どちら…」
  誰もいなかった。変わりにあったのは蒼星石の自転車だった。
  さらによく見るとその籠の中に箱が入っている。
  30cm四方の立方体の箱だ。
  それを手に取るとどこからか声がした。
 「早く開けるです」
  その声がした方を見る。
  そこには蒼星石の家の門のかげに隠れている…といったほうがいいのだろうか、
  半分以上体が見えている状態で蒼星石の様子をうかがっている彼女の姿があった。
 「ほら、さっさと開けるです」
  さらに箱を開けることをうながす彼女。
  ビックリ箱かなと疑いつつ蒼星石は箱を開けた。
蒼「こ、これは…」
  それはビックリ箱ではなかった。中に入っていたのは新品のグローブだった。
  その贈り主であろう彼女の方を見る蒼星石。すると彼女は、
 「ふ、ふん!別に蒼星石の為にあげたわけじゃねえです!!
  あんなボロボロのグローブで出られたら見てるこっちが恥ずかしくなるです!!
  けっしておめーの為ではねえですよ!!」
  その素直ではない説明を蒼星石は笑顔で聞いていた。そして、
蒼「ありがとう、大事にするよ」
 「だから、おめーの為じゃねえって言ってるです!!」
蒼「ははっ、わかったよ」
  彼女はその言葉に喜んでいるのか怒っているのかわからない表情をしてみせた。
  蒼星石にとってはすっかり見慣れた表情だったが。
  ふと、蒼星石はあることを思いついた。

  蒼星石の思い付きとは…

蒼「そうだ!何かお礼をするよ。何がいい?」
  まあ単にお礼をするだけだったのだが。
  いきなり言われた彼女だったが
 「別にお礼なんていらんですぅ!お礼目当てでやったわけじゃねぇですぅ!」
  頑なにお礼を受け取ることを拒否した。蒼星石はならばと思い、
蒼「じゃあボクが何かプレゼントするよ。何がいい?」
  そう言われ彼女はそれならと言い、すぐにあるものを指差した。
  えらくもじもじしながら顔を真っ赤にして。
蒼「えっ?これでいいの?」
  彼女が指差したのは蒼星石の自転車だった。蒼星石は戸惑った。
蒼「でも…これ相当ガタがきてるようだけど」
 「それがいいです!!」
  その声で蒼星石は彼女の意図を悟り、承諾した。
蒼「じゃあ、この自転車は今からキミのものだ」
  蒼星石が言うと彼女の顔には笑顔があふれていた。
  蒼星石はそれを見てある提案をする。
蒼「じゃあこの自転車で今からサイクリングに行こう!」
  彼女は困惑した風な顔をしたが、かまわず蒼星石は言った。
蒼「さぁ!早く乗って!」
  自分の後ろを指差す蒼星石。すると彼女はいつもの偉そうな顔に戻り、
 「しゃーねーなーですぅ。蒼星石がそこまで言うならしかたねえですぅ」
蒼「決まり!じゃあ出発!」
 「出発ですぅ!」

  そうして2人を乗せた自転車は走り出した。
  相変わらずキィキィとうるさい自転車だったが、
  それは2人の再開を祝しているかのようだった。

蒼「ま、というわけさ。その後の全国大会でボク達は優勝できたし」
  生徒は真摯な態度で蒼星石の話を聞いていた。
 「へぇーそうだったんですかぁ。その彼女ってのはやっぱり…」
  その先を言おうとした時、教務室の戸が勢いよく開けられた。
翠「蒼星石!こんなとこにいやがったですね!さぁ、いくですよ!」
  いきなり現れた翠星石は蒼星石をつかむとズルズルと引きずっていった。
蒼「一体どこに行くのさ!?」
翠「グラウンドですぅ。今日こそ魔球を完成させるですぅ」
蒼「そんなの無理だって!大体…………」
  そして生徒の耳にはそれ以上のやりとりは聞こえなかった。
  そして、机の上に置いてきぼりにされたグローブを眺める。

  2人の絆は永遠に続くものであることを確信しながら…

  FIN

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