ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki

蒼星石の事情

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匿名ユーザー

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蒼「……で、ここでは様々な解き方ができるんだ。今回は、帰納法というものを使って……」
「…ホント分かりやすいよねー」「マジいいよね~。美人だし~」
「しかも運動も出来るんでしょ?完璧だよね」「あー私も蒼星石先生みたいな人になりたいなぁ………」


蒼「………皆、お疲れ様~」
ボクはいつもそう言って帰る。ある部活の顧問もやっているけど、今日は翠星石先生に代わってもらった。
かなり不安だけど…大丈夫だよね。
紅「あら今日は早いのね」
蒼「少し用事があるからね」
苺「お疲れなのー」
金「お疲れ様かしらー」
そう。少し用事があるんだ。ほんの少し用事が…

…翠星石先生の心配をしている場合じゃないのかもね。ボク自身の事も心配しなきゃならない…のはわかってる。

「先生、さよならっす」
「蒼星石先生さよなら!」
「先生またわからないとこ出来たから教えてください!」
蒼「さようなら。悪いけどまた明日でいいかな?」
帰り際生徒達に会うと、どんな生徒でも必ず挨拶をしてくれる。ボクを慕ってくれてるのかな?
…確かによく先生のようになりたいと言われる。他の先生からも羨ましい、凄いと言われている。
でもボクはそんなに目立つわけじゃないし、特別美しいわけじゃない。ただの一教師だと思ってる。
だけど、ただの一教師だからこそ生徒のことを大切に思って、愛して、真剣に彼等と向き合っている。
…そんな事を考えながら帰路に向かう。


「あら、蒼星石さん。今日はもうお帰りですか?」
蒼「はい。今日は少し用事があるので」
「そう。いつも頑張りすぎてるからたまにはゆっくりお休みなさいね。
 あなたの評判は町中の噂ですよ」
蒼「ありがとうございます」

いつもの帰り道を歩く。夕焼けが紅く染まって美しい。まだ肌寒い風が頬を撫でる。人々が笑いあう。話し合う。
いつもの帰り道。いつもの町並み。いつもの光景。
ふと、小学生の軍団が前を走り抜ける。と、小学生達はおいかっけこをやめ、彼女を見、蒼星石先生だ!とはしゃぎ始めた。
蒼星石はにっこり笑い、危ないからあまりはしゃぎすぎちゃだめだよ。と応える。
小学生達はは~い!と言い、また走って行ってしまった。

蒼星石は街の人々にもとても信頼され、人気がある。まさに理想の教師、いや理想の人と言えるのかもしれない。
蒼星石は、その小学生達が見えなくなるまで彼等の後ろ姿をじっと見ていた。
…何てのどかで良い街なんだろう、と思う。それぞれが豊かな表情をしている。「生きる事」を堪能している。
蒼星石はそんな街で暮らしている自分が喜ばしく、誇らしげに思う。
そしてまた歩き出す。
自宅に向かって。


蒼「ただいま」
誰もいない部屋に向かって呟く。
学校から25分ほど歩いて行ける、ちょっと色褪せたアパート。
彼女はそこに一人で住んでいた。
部屋の中は殺風景…と言うわけではない。少し古風な感じが漂う。いっさい散らかることなく綺麗に整えられている。
目につくものと言えば、やはり書物の多さ、だろう。そこには漫画などの娯楽雑誌は一切ない。
数学の教材や、年季の入った分厚い本、読み込んでいるのであろう小説。様々な本がある。
蒼星石は着替えもせず、部屋の中心にあるこたつの中に入り寝転ぶ。
あれ?用事は?そう思う方も多いだろう。今に分かることなのだが。
少しうとうとしつつも、彼女は何かをじっと待っていた。天井を見る目は何故か少し辛そうな目をしていた。



━━━光る風を追い越したら~

静かな空間に突如として鳴り響く着メロ。
蒼「………きた」
蒼星石は体を起こし、少し深呼吸、さらに一息おいて電話に出た。
蒼「………もしもし。蒼星石です」
『よお。俺だ』
蒼「……わかってるよ」
顔が少しこわばりながらも応える。
『…分かってるだぁ?分かってるんだったらさっさと返してくれんかのぉ!?』
蒼「……先月の分はちゃんと払ったはずだよ」
『…はぁ…聞いてないのかよ。足りてねぇんだよ!親御さんの分がよぉ!』
蒼「……そんなはずはないよ。両親はちゃんt」
『足りてねぇもんは足りてねぇんだよ!!とにかく明日までに振り込め。借りたもんはきっちり返してもらわんとなぁ』
蒼「…わかったよ。いつもの口座でいいんだね?」
『ああ。払わなかったらお前の家のもん全部売り払っちまうからな。それかお前を』
蒼「わかってるよ……じゃ」プツッ


蒼「ふぅ…」
蒼星石は溜め息をつき、ずっと握った携帯電話を放り投げ、青を基調としたベッドの上に寝転がった。
手が少し汗ばんでいる。もう馴れているはずなのに、まだ恐怖しているのだろうか。
…いや、馴れてなどなかった。あの時の恐怖は今でも忘れられない。
そして恐怖からかベッドの横の壁にもたれ座り、膝を抱え、首を屈めた。
そっと目を閉じ、この脳に染み付いた恐怖から逃れようとしていた…。


━━━突如、蒼星石はハッと目を覚ました。もう部屋は暗闇に包まれて時計の秒針の音だけが響いている。
蒼「やっぱり思い出しちゃったな…」
蒼星石は思い出していた。
昔のこと。両親の経営していた会社が倒産したこと。
昔のこと。莫大な借金を抱え、今まで優しくしてくれていた人々が離れていったこと。
昔のこと。借金取りが家に乗り込んできた時のこと。
昔のこと…

蒼「…『むかしのこと』それで済ませることが出来ればいいのにな。
  でもそれで済まされるはずもないよね。帳消しなんかできないもんね。
  …ボクの選択は間違ってないよね。やりたいことをやらないといけないよね…
  『いきること』を堪能しなきゃ駄目だよね…」
膝を抱える腕に自然に力が入る。暗闇の部屋の中一人、そう呟いていた。

何故両親の借金であるはずなのに、蒼星石も返済しているのか。
理由は一つ。教師になる直前、蒼星石自身が、自ら全額返済したいと言ったからだった。
…当然両親は反対した。これは自分達の問題だと。お前に今まで迷惑かけたのにこれ以上迷惑はかけられないと。
だが蒼星石は頑としてその意見を曲げなかった。
親への恩義、そして親の苦労をずっと見てきた彼女には自分だけのうのうと暮らしていくのは嫌だったのだろう。
そして話し合いの結果、両親と蒼星石で負担して返済していくことになった。
父親、母親は何度も泣いて謝っていた。だが蒼星石はボクが決めた事だからと笑って応えていた。


そうして時は流れた今。毎月蒼星石決まった額をきちんと返済していた。
今回の電話はどうしても両親が払えなかったのだろう、少々金額が足りなかったらしい。
それだけだ。別に困るほどの生活はしていない。そう思っている。
だが、この住んでいるアパート。ふるびていて、他の部屋の住人も好い人、というわけでは決してない。
食事も裕福に食べているとはあまりいえないだろう。
節約にあれこれ頭を捻り、どうにかして無駄金を減らそうと努力している。
ふと思う。両親に自分が返済するなどと言わなければもっと学校に近い良いマンションが借りられるのではないか?
もっと外食にも行け、自分の好きな本を買うことが出来るのではないか?
…そう思ってしまう。
蒼「ボクの選択は間違ってないよね…。お父さんお母さんが苦しんでるのはもう見たくないもんね…
  自分だけ幸せに暮らしても心が晴れるわけないよね…」

涙が溢れる。悲しくないはずなのに。
一層腕に力が篭る。膝を抱き締めすぎて震えている。それとも体の震えか。
そうして一人、暗闇の中にいた瞬間。

━━━な~つがすぎ~かぜあざみ~
携帯の着メロがなった。
蒼星石は体をビクッと震わせ、光っている携帯を見た。
また彼からだろうか。そう思ったが、その考えはすぐに消えた。
着信のはずなのに先程とは曲が違う。特定の相手だけ着メロが変えられると言うものだ。
そしてこの電話の先が誰であるのかと言うことも分かった。
蒼星石は涙を拭い、そっと携帯電話を手にとり、話始めた。
蒼「……もしもし。ボクだよ。何か用かい?」






…ちょっと前の出来事。蒼星石が職員室でいつも通り仕事をしていた時だった。
―――みかんみかんみかーん!!
その当時の彼女の携帯電話の着メロが鳴り始めた。
その瞬間、蒼星石は突然携帯電話を手に取り職員室を飛び出してしまった。
他の先生は?マークが浮かんだだけであまり気にとめなかった。
借金取りからの電話が急になったのだ。
人の通らない場所でいつものように対応する蒼星石。
でも顔にははっきりと恐怖が写っていた。
そして電話も終わりほっとしていた時、そこにたまたま彼女が通りかかった。
蒼星石は逃げようとしたが、彼女がそれを許すはずもなかった。
仕事が終わった後、二人で飲みに行って事情を説明すると言う約束を無理矢理取りつけた。
そして仕事も終わり、飲みながら事情をぽつりぽつりと話した。
その話を聞き終わった後、彼女は何故今までそんな大切な事を話してくれなかったのかと泣き始めた。
蒼星石は彼女に迷惑がかかるし、やたらとお節介をかけられるのも悪い気がするので言いたくなかった、と答えた。
すると彼女は蒼星石の頬をはたいた。さっきよりもさらに泣きながら彼女は言った。
迷惑かかってもいい。お節介なんかでいいならいくらでもする。だから一人で何でも抱えこむな。と。
いつもはどこか素直じゃない彼女が本気で泣いて怒って、自分を叱ってくれた。
真剣に自分のことを心配して、泣いてくれたのだ。
蒼星石も自分のこと、考え、感情を隠さず話し………泣いてしまった。
彼女はそれを全て受けとめ理解して、慰め、励ましてくれた。
…それから二人は親友となった。


蒼「……もしもし。ボクだよ。何か用かい?」
『何か用かい?じゃないですよぅ!バカにしてるんですか!?』
蒼「うるさいよ…そんなに叫ばないで…」
『うるさくなんかないです!人がどんだけ心配したと思ってるんですか!?』
蒼「あれ、素直に心配してくれてたのかい?」
『うっ…うるせーです!とっ、とにかく大丈夫ですか!?涙声ですよ!?』
蒼「まっ…まずは落ち着いてよ…。………うん。大丈夫だよ」
『嘘です!全然大丈夫じゃねーです!私の耳に間違いはねーです!』
蒼「いや…大丈夫だよ。特に何もなかったよ」
『ぅぅ~……信じていいですか?』
蒼「うん。心配かけてごめんね」
『ほんっと迷惑なやろーです!…でもまた何かあったら私に相談するですよ?』
蒼「うん。本当にありがとう」
『…また明日です』
蒼「…また明日」プツッ


蒼「ふぅ……」
また先程のように溜め息をつく。握り締めていた携帯電話を放り投げる………などということはしなかった。
両手で携帯電話を包み、そっと胸に当てる。
何の温かさもない機械。でも確かに伝わってきた温かさ。
その機械の向こうから伝わってきた温かさ。素直じゃないけれど伝わってくる想い。
先生達の中で唯一自分の事情を知っていて、なおかつそれを理解してくれている大切な友人からの想い。
機械は媒介でしかない。だが蒼星石はそれをぎゅっと握り締めていた。
目頭が熱くなってくる。涙が頬を伝い、手に当たっては弾ける。


蒼「本当に素直じゃないのはどっちだろうな…」
そう、泣きながらかすれた声で言った。鼻水をすする音が辺りに何度も響く。
すると突然蒼星石は立ち上がり、カーテンをあけ窓から空を見上げた。
窓から優しく差し込む月明かり。それが、蒼星石の陰を描き出す。
蒼「月……綺麗な満月だ……」
蒼星石は吸い込まれるようにじっと月を見つめていた。

自分の事を真剣に考えてくれている人がいる。何て幸せなことなんだろう。
良いものを食べるだとか、良い場所に住みたいだとか、そんな幸せはこの事に比べたらどんなにちっぽけだろう。
愛でるべき生徒達に囲まれて、素晴らしい教師達、友人達と働き、のどかな街に暮らし、大切な親友がいて…
十分なほど幸せな生活をしている。少しでも今の生活が嫌だと思った自分が嫌だ。
頑張ろう。自分で決めた道だ。後悔するはずがない。

蒼星石はまだ窓の前に立ち尽くし、空を見上げていた。



「ありがとう」

そう、呟いた。

~Fin~

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