ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 「日常」

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 大人になるまでの私の人生は平凡な「日常」であった。
平凡な片田舎で生まれ、平凡に義務教育を終え、平凡に高校に入学した。
けれど、私には周りの学生達とは違う部分があった。それは軍事に関心があったこと。
おおよそ私が学生として過ごした時代において、軍事とはタブー以外の何者でもなかった。
私が進路について教師に

「防衛大学校に行きたい」

と話したとたんに、私の周りの教師や友人は

「それだけはやめておけ」

と口をそろえて私を説得しようとした。
唯一の救いが、親に反対されなかった事。
私の両親は「娘がそう望むのならば」と黙って認めてくれた。

私はひたすらに勉強した、憧れの防大に入るために。


 そして、私は求めていたものを手に入れることが出来た…、はずだった。
だけど、そこは私がかつて持っていたイメージとはかけ離れた世界であった。
私は平凡に防大を卒業し、平凡に幹部候補生となり、平凡に3等陸尉に任官した。
平凡な毎日、平凡な訓練、私はそこで、理想と現実のギャップを知った。

しかし、私の平凡な「日常」は、「非日常」へと変わりつつあった。
2等陸尉に昇進した頃に、先輩に連れて行かれたバーで出会った男。
青春時代を勉学のみで過ごしてきた私にとって、それは刺激的な出会いであった。
私たちは瞬く間に恋愛関係となった。

だけど、それが一方的なものであるということに私は気付かなかった。

私にとって、その数ヶ月間は夢のような「日常」だった。
でも、私は気付くのが遅すぎた。

後に残ったのは膨大な借金。

男の口車に乗せられるがままに、湯水のように男に貢ぎ続け、手に入れた一時の夢の代償。

気が付けば私は、男のマンションに踏み込んでいた。
そして、男を押し倒し、男の首に手を掛け……たところで意識を失った。
次に気が付いたのは、車の中。そこには私の見慣れた顔があった。

私の上司。

車は、その上司が導くがままに、どこかの駐屯地へと向かった。



-オメガ-
借金などで生活難に陥った元自衛官によって構成される、超法規的特殊部隊。
この部隊に所属する事で、国が借金の肩代わりをしてくれる。
無論、その存在は公には明かされてはいない。

「2,3年オメガで辛抱すれば借金なんてすぐに返済できる」

上司はそう私に話した。
何だかよくわからないけど、ここに居れば借金が返済できる、それだけは分かった。
だけど、私には不安があった。

故郷の両親と、教師をしている妹。

莫大な借金を背負って行方をくらました私の代わりに、借金の返済が求められているのではないのだろうか。

「家族について心配する必要はない」

そんな私の考えを読み取ったかのように上司は言った。



 それからの日々は、自衛隊に居た頃と同じ。毎日ひたすら訓練をするだけ。
だけど、一つだけ違う事があった。

それは、実戦があること。

オメガの役割は一つ、日本の国益を守る為に海外で活動する事。
アフリカ、中東、東欧、東南アジア、南米、シベリア、あらゆる地で私は戦った。
ゲリラ、テロリスト、正規軍、場合によっては国連軍とも戦った。
そこには、私が求めていたものが存在した。
でも、その「非日常」的なものは、あまりにも冷たく、現実的なものだった。
何度も死に掛けた事だってあった。
そこにおいて、失ったものも多かった。
共に戦った同僚達と…、私の右目。

それでも、私の求めていたものが、そこにはあった。



あっと言う間に月日が流れた。
オメガに入隊してから2年と少し経った頃、私は借金を完済した。
周りの完済した同僚達はオメガを離れていった、だけど、私はオメガを離れる事は無かった。
それだけ私は、この「非日常」的な「日常」に満足していた。
でも…、そんな「日常」はいつまでも続かなかった。


久しぶりの休暇で街に出たときに、妹-薔薇水晶-に会ってしまった。


久しぶりに会った妹は、昔と何一つ変わってはいなかった。
だけど、私は違う。

私を見つけた妹は、驚いた顔をしたと思ったら、途端に私の腕を引きながらどこかの喫茶店へと入った。
もちろん、その時の私には妹に抵抗する力があった。

でも…、抵抗できなかった。

「……」
「……」
「…今までどこで何をしていたの…」
「……」
「…その眼帯はどうしたの…」
「……」
「…答えてよ…、お姉ちゃん……」
「……」

妹の発した質問に、私は答えられなかった。
それからどれだけの時間が経ったのかは覚えていない。

ただ…、目の前に居たはずの妹は居なくなっていた。

あれから私は悩んだ。
どうすれば良いのか分からなかった。
ただ、あの時の妹の顔を思い出したら…







胸が苦しくなった。







そして…、私はオメガを離れることを決心した。





















 久しぶりに訪れる故郷。
寂れた駅舎を抜け、バスに乗る。
バスの窓から眺める故郷は何も変わってなかった。


しばらくして、バスは郊外にある実家近くのバス停に到着した。

私が生まれ育った土地。

そして、私の家。


私は、玄関のチャイムを押した。


程なくして私の前に現れた母は、驚いた表情をし、そして、微笑みながら



「おかえりなさい」



と呟いた。



「…ただいま」



この言葉を発すると同時に、私は母の胸元で泣き崩れた。




母は、何も言わず、ただ私を抱きしめてくれた。















 それからの1週間は大変だった。
普段めったに怒らない父に叱られ、血相を変えて赴任先から家に飛び帰ってきた妹には泣き付かれた。

でも、それが嬉しかった。


一段落した頃、私は次の職について考えていた。
最初は警備員にでもなろうかと考えていたが、妹の勧めで、教師になることを目指した。

そして、私は教員免許取得のため、再び勉学に励む事となった。















 私は今、こうして教鞭を振るっている。
あの時、あの場で妹に出会わなければ、私は今でも世界各地で戦い続けていただろう。
確かに、オメガに居た頃は充実していた。
だけど今、こうして妹とともに教師として送る人生は、あの頃よりも充実している。
同僚や教え子達に囲まれるこの生活は、私の中で何者にも変え難いものになっている。

私は、この今の「日常」が大好きだ。
確かに平凡ではあるが、決してつまらないわけではない。




昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。




そろそろ授業の時間のようだ。

私は、教科書を片手に、生徒達が待つ教室へと向かった。










「なんか雪華綺晶先生笑ってたわぁ…」
「普段笑わねぇからなんか気味わりぃですぅ」
「これは何かが起こる予感かしら~」
「…貴女達、くだらないことを考えてる暇があったら早く授業に行くのだわ」



そんな「日常」