ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 花見

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頬を撫でる夜風に運ばれ、桜の花びらが滑るように舞い散る。
月明かりに照らされた桜は、まるで風花のような輝きを放っている。
「風流だねぇ」
音もなく吸い込まれるように地面に落ちてゆく桜の花びらを目で追いながら、蒼星石がしみじみと呟く。
「それにしても、よくこんなに良い場所が取れたわねぇ」
思わず感嘆する水銀燈の目の前に、金糸雀が胸を張って立ちはだかる。
「花見の場所取りは、このカナリアに任せるのかしらー!」
数年前から、花見の場所取りは金糸雀の仕事となっていた。はじめは嫌々やっていたものの、良い場所を取ったと褒められてから自らこの仕事をするようになった。
実際金糸雀の押さえる場所は素晴らしいものだった。毎年どんな手を使って場所を押さえているのか気になるくらいである。
「まぁ、こういう時くらい役に立たねぇと困るですぅ」
「ど、どういう意味かしらー!?」
「んー?言って欲しいですかぁ?」
まだアルコールが入っていないのにも関わらず、執拗に絡もうとする翠星石を必死に止める蒼星石。これも最早この花見の風物詩である。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて!せっかくの花見なんだから!まずは乾杯しよう、ね?」
そう言って缶ビールを二人に手渡す蒼星石。
「カナはジュースがいいかしら」
「翠星石はビールは嫌いですぅ」
そう言って手渡されたビールを返そうとする二人。だが、蒼星石はなかなかそれを受け取ろうとしなかった。
「そ、それが実は…」
その時、蒼星石の後ろでビニール袋を漁っていた真紅が悲鳴をあげた。
「こ、これはどういうこと!?ビールしか入ってないじゃないの!」
「やぁねぇ。日本酒も入ってるわよぅ」
既に缶のプルトップを開け、準備万端の水銀燈がビニール袋から日本酒のパックを取り出した。
「そういえば、今年の飲み物の買出し担当は…」

恐る恐る、確認をするように水銀燈の顔を覗き込む翠星石に向かって、水銀燈は満面の笑みを投げかけた。
「そうよぉ、私よぉ」
それはまるで、天使のような笑みだった。
「私は紅茶が飲みたいのよ!どういうつもり!?」
「花見をしに来てまで紅茶を飲むつもりぃ?本当ぉ、お馬鹿さぁん」
「なっ…!!」
激しく食って掛かる真紅に、既にプルトップを開けた缶ビールを手渡して押え込む。
薔薇水晶と雪華綺晶はすでにビールを手に持っていた。お酒しかないことに関しては特に不満がないようだった。
「みんな準備は良いみたいねぇ。乾杯~」
月夜の下、缶と缶が当たる小気味良い音が響いた。この瞬間から、真紅たちは『教師』から『花見客』となった。



頬に当たる夜風の心地良い冷たさに思わず瞳を閉じる水銀燈。山程買ってきたお酒も、残るは水銀燈の持つ缶ビールのみとなっていた。
月に雲がかかる度、桜の木は様々な表情を見せる。水銀燈はそんな桜の木の表情の移り変わりを楽しんでいた。
翠星石と蒼星石は2人寄り添うようにして桜の木の下で眠っていた。
雪華綺晶はお腹が空いたといって出店の通りへ消えていった。薔薇水晶はそれについて行ってしまった。恐らく代金を払うのは彼女になのだろう。
金糸雀は水銀燈の膝の上で、雛苺は真紅の膝の上で眠っている。
「も、もう飲めないのかしら…」
夢の中でも翠星石に飲まされているのだろうか。金糸雀は終始苦悶の表情を浮かべている。
「もう食べられないの~」
一方雛苺は夢の中で自分の好物を食べているのか、幸せそうな笑みを見せている。
表情は対照的だが、見ている夢のレベルは一緒である。
「みんな本当にお酒に弱いんだから。つまんなぁい」

酔い潰れてしまった同僚に対して不平を鳴らす水銀燈の横で真紅は自分の膝の上で眠る雛苺に対し、まるで我が子を見つめる親のような微笑を浮かべ、優しく頭を撫でている。
「ねぇ水銀燈先生…」
「なによぉ?」
膝上で眠る雛苺に視線を送ったまま、水銀燈に語りかける真紅。水銀燈もまた膝上で唸っている金糸雀を見つめたまま返事をする。
「私は、また貴女と一年間一緒に働くのね」
「なぁに?嫌だってことぉ?」
水銀燈が真紅に対して意味ありげな笑みを向ける。だが、真紅は水銀燈の方を見ることなくそのまま続けた。
「いいえ、その逆よ…。貴女と、みんなと一緒に働けることに感謝したいくらい幸せだわ」
そう言って微笑みかける真紅と目が合った水銀燈は思わず目を逸らした。
「な、なんなの急に。酔ってるんじゃなぁい?」
「あら、私はいたって正気よ?」
「本当、つまんなぁい…」
持っていたビールを一気に飲み干す。喉に焼けるような痛みが走る。頬が赤いのは酒のせいだけではない。
いつの間にか金糸雀の顔いっぱいに桜の花びらが落ちていたので、それを手で払ってやる。
その横で真紅は手の平で舞い落ちる桜を受け止めている。そして独り言のようにそっと呟いた。
「来年も、こうやってみんなとお花見ができるといいわね」
「まぁ、暇潰しにはなるでしょうねぇ」
真紅に倣って桜の花びらを手で受け止める水銀燈は、まんざらでもなさそうな笑みを受けべた。
銀色の月明かりに照らされて地面に伸びる二人の影。そのうちの一つが、もう一つの影に頭を預けるようにして寄り添った。
夜風に揺られた桜の花びらは、月光に照らされ、まるで宝石のような輝きを放ちながら一つになった影を包み込んだ。