ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 向き、不向き

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薔「出席をとります・・・」
出席簿を広げ名前を呼ぶ。だが返事は返って来ず、代わりに笑い声が響く。
生徒たちは薔薇水晶の呼びかけに反応することなくそれぞれの世間話に夢中になっている。
薔薇水晶が軽く溜め息をつく。それとほぼ同時に、教室のドアが開く。
銀「こらぁ、静かになさぁい!」
廊下を通っていた副担任の水銀燈がいつまでたっても静かにならない生徒たちを注意する。
そこで教室はようやく静かになる。それを確認した水銀燈が、薔薇水晶にウィンクをして去って行く。
薔「出席をとります・・・。A君…」
去って行く水銀燈を見送り、何事も無かったかのように出席確認を再開する。
心の中で、さっきよりも大きな溜め息をつく。
ここ最近、ずっとこのような調子が続いている。自分がいくら注意しても静かにならない教室を水銀燈がたった一言で鎮める。
水銀燈に申し訳ないと思うのと同時に、自分の無力さが情けなくなった。
自分は教師には向いていないのだろうか?そんな考えが一瞬頭をよぎったが、すぐさま振り払った。
しかし、その疑問はまるでしがみつくか虫のように薔薇水晶から離れることは無かった。
そして、真紅や水銀燈といった他の教師を見る度に、その疑問は不安となり、水に垂らした絵の具のように急速に薔薇水晶の心に広がっていった。急に学校が息苦しくなった。
自分に話しかけてくれるクラスの生徒はたくさんいる。だが、彼らは心の中で自分をどう見ているのだろうか?
もしかしたら、自分よりも水銀燈のほうが担任に向いていると思っているのだろうか?
そんなどうしようもない考えが、徐々に薔薇水晶の心を蝕んでいった。
叫び出してしまいたくなった。叫んで、心にあるもやもやを吐き出してしまいたかった。
薔薇水晶は思わずトイレの個室に駆け込み、静かに涙を流した。しかし心の中にあるもやもやは一緒に流れてくれなかった。
それどころか、さらに重さを増して薔薇水晶に圧し掛かった。その重さに耐えられず、薔薇水晶は座り込んでしまった。
薔「私は…私は…」
トイレに、薔薇水晶の嗚咽が響く。

自宅に帰った薔薇水晶は、鞄を放り投げるとベッドに倒れこんだ。服を着替える気力すら湧かなかった。
帰りのホームルームが終わった瞬間、薔薇水晶は逃げるように学校を飛び出した。
何人かの生徒がさようならと声をかけてくれたが、返事を返すことができなかった。
そんな薔薇水晶の背中に、生徒はきっと舌打ちをしただろう。薔薇水晶はそんな考えをしてしまう自分自身に嫌気が差した。
とにかく眠ってしまおうと思った。しかしこのままの服装で眠ってしまうのはよくないと思い、気力を振り絞って寝巻きに着替えた。
食欲など、とてもじゃないが湧かなかった。薔薇水晶は、何も口にせず静かに目を閉じた。
心地良い空腹感と、疲労が薔薇水晶を眠りへと誘う。

夢を見た。薔薇水晶の目の前で、数人の生徒が談笑をしている。
談笑をしているのは薔薇水晶のクラスの生徒たちだった。彼らは薔薇水晶の存在には気付いていない様子だった。
「薔薇水晶先生ってどうよ?」
一人の生徒が、急に薔薇水晶の話題を振った。薔薇水晶の鼓動が急速に速まる。
「俺は水銀燈先生が担任のほうが良いなぁ」
生徒の一言が、薔薇水晶の心を切り裂いた。自分でそう思うのと、生徒に言われるのでは別次元の痛みだった。
耳を塞ぎたかった。逃げ出したかった。だが、体は全く動いてくれなかった。
声も全く出せなかった。薔薇水晶はただ、生徒たちの話を聞くしかできなかった。
「なんで水銀燈先生が副坦で、薔薇水晶先生が担任なんだろうね?」
「普通逆じゃね?」
次々と薔薇水晶への不満を口にする生徒たち。
薔(やめて…!!お願い…!!)
どんなに強く願っても、彼らに届くことは無かった。夢の中で、呼吸が荒くなる。
生徒たちの声が、まるでエコーがかかったかのように響く。
薔(いや…いや…!!)
いつの間にか薔薇水晶は生徒たちに囲まれていた。周りの生徒たちが、中心にいる薔薇水晶に向かって、口を揃えて言い放つ。
一番聞きたくなかった言葉を。
「薔薇水晶先生って、教師に向いてないんじゃない?」

薔「いやぁーーーーーーー!!」
薔薇水晶の悲鳴が深夜の部屋に響いた。
帰って来た時には茜色に染まっていた部屋は、目を覚ました時には真っ暗になっていた。
全身にびっしょりと汗をかいていた。喉が乾きすぎて痛かった。
水道の蛇口をひねり、コップに水を注いだ。
喉から流れ込んだ水が、体全体に行き渡るのを感じた。水を吸収するスポンジになったような気分だった。
服を脱ぎ、シャワーを浴びた。嫌な汗を丹念に洗い落とした。まるで体中を這われているようで気持ちが悪かった。
シャワーを止める。髪の毛を伝って滴り落ちる水の音が、不規則なリズムを刻む。
薔薇水晶は、裸のままその場に膝をついた。
薔「私は…」
先程飲んだばかりの水が涙となって流れ落ちた。薔薇水晶はこれを止める術を持っていなかった。

毎朝5時半にセットしてある目覚まし時計を鳴る前に止めた。結局あの後は寝れなかった。
いや、寝るのが怖かった。寝たらまたあの夢を見てしまうかもしれない。それぐらいなら、起きていたほうがずっと楽だった。
いつもだったら朝食を準備し、着替え、軽く化粧をして身支度を整えるのだが、そんな気が起きなかった。
学校へ行かなくてはならない。授業をしなければならない。だが、体が動かなかった。
時計の針が、もう出掛けなくてはいけない時間を指している。だが、準備は何一つできていなかった。
携帯電話を取り出し、学校へ電話をかけた。2回ほど呼び出し音が鳴った後に向こうへ繋がった。
雛「はい、こちら有栖学園なの!!」
向こうで受話器を取ったのは雛苺だった。薔薇水晶は少し安心した。

薔「あ、雛苺先生ですか…?薔薇水晶です…」
雛「あ、おはようなの!!んと、水銀燈先生に代わったほうがいいかしら?」
薔「あ・・・!!そのままでいいです・・!!」
水銀燈に代わろうとした雛苺を慌てて呼び止める。水銀燈に直接言う勇気は無かった。
薔「あの…今日ちょっと風邪をひいてしまって…」
雛「えぇー!?薔薇水晶先生大丈夫!?」
受話器の向こうで雛苺が悲鳴をあげる。もちろん風邪などひいていない。薔薇水晶は少し罪悪感を覚えた。
薔「だから、その、今日は…お休みします…」
雛「うん!分かったの。水銀燈先生にも伝えておくわ!」
薔「はい…お願いします…。すいません…」
雛「うぅん、いいの!お大事にね!」
電話を切り、ベッドに横になる。学生時代以来のズル休みだった。
教師ともあろう者がズル休みなどしていいはずは無い。いや、教師でなくても同じである。
だが、このまま学校へいってもまともな授業をする自信がなかった。

普段なら学校で授業をしているはずの時間に家にいる。なんとも不思議な感覚だった。
薔「皆、ちゃんと授業してるのかな…?」
いつの間にか生徒たちのことを考えていた。途端に気になってしょうがなくなった。
こんなことなら、学校へ行っておけばよかったと思ったが、もう遅い。
時を刻む時計の音に身を委ね、静かに目を閉じた。

部屋の呼び鈴の音で目を覚ました。時計を見ると、既に学校が終わった時間だった。
自分の眠りっぷりに少し驚いた。
寝ぼけ眼のままドアを開けると、そこには水銀燈が立っていた。
銀「薔薇水晶先生、大丈夫ぅ?」
どうやら風邪で休んだ薔薇水晶を心配して、わざわざ来てくれたらしい。
ますます申し訳なくなった。
銀「寒ぅい…。私まで風邪ひいちゃうわぁ。お邪魔しまぁす」
突然の来訪に驚いて突っ立っている薔薇水晶の脇を通って、水銀燈は勝手に部屋に上がり込んだ。

銀「ふぅ、もう疲れたぁ。あ、これ今日の会議で使った資料ね。テキトーに読んどいてぇ」
上着を脱ぎ、鞄から大きい封筒を取り出すと、それを机の上に置いた。
薔「ありがとうございます…」
お礼を言って、封筒の中身に一通り目を通す。特に重要そうなものは無い。
いつの間にかベッドに座っている水銀燈の横に腰を下ろす。2人分の重みに、ベッドが微かに軋んだ。
銀「風邪はもう大丈夫なの?」
薔「あ・・・はい・・・もう大丈夫です…」
あれは嘘ですだとはとてもじゃないが言えない。薔薇水晶は適当に取り繕った。
銀「ふぅん、良かった。それにしても、あなたが休んで大変だったのよぉ?」
水銀燈が大袈裟に溜め息をついた。
銀「出席をとったのなんて久しぶりなんだもん。何度も噛んじゃったぁ」
薔「でも、私よりも水銀燈先生が出席を取ったほうが生徒が喜びます…」
銀「え・・・?」
水銀燈が驚きの声をあげる。だが、それ以上に驚いたのは薔薇水晶自身であった。
今まで溜め込んでいた感情が口から溢れ出して来た。
薔「私よりも、水銀燈先生が担任のほうが良いんです…」
銀「ちょ、ちょっとあなた何言ってるの?」
決壊した水門からあふれ出す水を止めることはできない。薔薇水晶はあふれ出す感情を止めることができなかった。
薔「生徒は、私なんか望んでいないんです…!!私は、教師に向いていないんです…!!」
次の瞬間、薔薇水晶の首がものすごい勢いで傾いだ。
銀「あなた…。自分で何を言ってるのか分かってるの…?」
一瞬何が起こったか分からなかった。だが、右頬に伝う熱い痛みで水銀燈に張り手をされたということが分かった。
ゆっくりと水銀燈のほうへ視線を向けると、凄まじい勢いで睨み付ける水銀燈がそこにいた。
銀「あなた・・・本当に自分は生徒に望まれてない存在だと思ってるの…?自分が教師に向いていないなんて思ってるの!?」
今まで言葉として溢れ出して来た感情が、続けて涙となって頬を滴った。

薔「あ・・・あ・・・」
言葉が出なかった。だが、水銀燈の問いへの答えは、涙が全て語っていた。
銀「あーぁ、本当にお馬鹿さぁん」
やれやれと息を吐き、肩を落とす水銀燈。そしてやや強引に薔薇水晶の肩を抱き寄せると、よしよしと頭を撫でた。
そうされることで、心の中のもやもやが少しづつ溶けてゆくような気がした。
銀「今日の朝、私が教室へ入ったら、生徒たちなんて言ったと思う?」
薔薇水晶の頭を撫でながら、囁くように言った。
銀「『あれ?薔薇水晶先生は?』よ?第一声がこれだもの。私、ちょっとあなたに妬いちゃったわぁ」
薔「え・・・?」
銀「あなたがどう思ってるのか知らないけれど、あなたはあの子達にとって立派な教師なのよ」
薔「私が・・・?」
銀「そうよぉ。自信持ちなさぁい」
心の中の重しが消え去ったのが分かった。その弾みで、先程とは比べ物にならない量の涙が両方の目から溢れ出してきた。
薔薇水晶は、水銀燈の胸で思い切り泣いた。
銀「本当に、しょうがない子ねぇ」
水銀燈は苦笑しながらポンポンと頭を撫でた。
本はと言えば全てのはじまりは薔薇水晶の思い込みからである。薔薇水晶は、己の弱さを痛感した。
しかし今回の件で少しだけ強くなれた気がした。ほんの少しだけ。けれど、それは薔薇水晶にとってはとても大きな一歩だった。


薔「出席をとります・・・」
いつものように出席をとる薔薇水晶。だがそこに水銀燈が来ることはもうなかった。