ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki 金糸雀のプリント

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電灯の消えた職員室をパソコンのモニターが淡く照らす。それまで断続的に続いていたキーボードを叩く音が途切れた。
金「つ、ついに完成かしらー!!」
震える指で保存ボタンをクリックする。今さっき完成したばかりのデータがメディアに保存される。
金「三ヶ月という長い期間を経て、遂に秘密兵器の完成かしら…!!これで生徒の…」
夜中の職員室に金糸雀の高笑いが響く。

蒼「金糸雀先生、なんか嬉しそうだね」
翌日の職員室で、軽快に鼻唄を歌っていた金糸雀に声をかけた。
金「うふふふ、分かってしまったかしらぁ?」
特に否定することもなく、にんまりと笑う。そしておもむろに鞄から厚めのファイルを取り出した。
蒼「それは・・・?」
金「これは、カナが研究の末に完成させた問題プリントかしらー!!」
ふふんと鼻を鳴らしてファイルを突き出す。
蒼「そういえば、金糸雀先生は以前から何かの問題を一生懸命に作っていたね。もしかしてそれがそうなの?」
金「その通りかしら!過去数年の数々の学校の入試過去問や、全国模試の問題などをかき集め、カナの長年の研究と経験から作り出した珠玉の問題プリントかしら!!
全部で3部にも及ぶこれを全てこなせば、生徒の偏差値アップ間違いなしかしらー!!」
ついに堪えきれずに高笑いをする金糸雀。周りの教師が迷惑そうな視線を投げかける中、蒼星石は優しく微笑みかけた。
蒼「うん。金糸雀先生はすごい頑張ってたからね。生徒たちもきっと喜んでくれるよ」
金「きっとそうなのかしらー!!」
そう言うと、問題プリントの入ったファイルを大事そうにギュッと抱きしめた。
この問題プリントには、自分の努力の成果と生徒たちへの想いが詰まっている。
金糸雀ははやくこれを授業で使いたくて仕方がなかった。この日の授業は3時間目だったが、それまでの間、他の仕事が手につかなかった。
何度もファイルからプリントを取り出しては、ニヤニヤしていた。

そして遂に授業の時が来た。いつもより早い時間に職員室を出た金糸雀は、足取りがスキップになってしまいそうなのを必死に堪えながら、教室へ向かった。
金「皆々様―!ご機嫌麗しゅうかしらー!!」
意気揚々と教室へ入る金糸雀を迎え撃つように号令が響く。
号令が終わり、生徒たちが着席するのを確認するなり金糸雀はファイルからプリントを取り出した。
「先生、なんですかそれは?」
金「気付いてしまったかしらぁ?」
さぁどうだと言うかのようにプリントを目の前に出されたのだから、なにか気付かない方がおかしい。
恐らく生徒が何か言うまでそのままでいたかもしれない。
金「これは、カナが作った問題プリントかしらー!!」
プリントを高々と掲げる。生徒は誰一人として反応しなかったが、金糸雀は続けた。
金「次の模試までの授業、これをやれば偏差値を楽してズルして頂きかしらー!」
えぇーと言う声を無視して、プリントを前の列に配ってゆく。
自分の全てが詰まったプリントが生徒に行き渡る。
金「なにか分からないことがあったら遠慮無く質問に来るかしらー。回答と解説のプリントは授業終了の時に渡すかしら」
「あのー、先生」
一人の生徒が手を上げる。既にその生徒の机には先程配ったはずのプリントはなく、変わりに分厚い参考書が置かれていた。
金「なにかしらー?」
「俺、参考書のほうやっても良いっすか?」
金「えっ・・・?」
一瞬何を言われたのか分からなかった。そんな金糸雀にさらに追い討ちをかけるように次々と生徒が僕も、私もと手を上げた。
金「で、でもこのプリントはカナの長年の研究と経験が…」
「学校の授業なんかよりこっちの方が良いしぃ」
学校のテストで一度も満点を取ったことのないような生徒たちが口々に「たかが学校の授業」と言う。

それは即ち、金糸雀を否定しているのと同じだった。
「と、言うわけで参考書の方やらせてもらいまーす」
金糸雀は足の力が抜けるのを感じた。なにも言うこともできず、椅子にぺたんと座りこんでしまった。
生徒たちの持っている参考書は、有名予備校の講師によるものが殆どだった。
受験を控えた生徒たちは、この類の参考書が最も良いという定説を信じてこぞって買い漁る。
確かに、その類の参考書は人気なだけあり分かりやすい。だが、金糸雀は自分の作ったプリントはそれに負けないくらいのものだと思っている。
せめて、一度は使ってから判断して欲しかった。
結局、一度も授業中に質問に来る生徒はいなかった。金糸雀は来た時とは打って変わって重い足取りで教室を出た。
ふと、教室の後ろに置かれたゴミ箱に目が行った。ゴミ箱の中身を見て、金糸雀は見てしまったことを後悔した。
ゴミ箱の中には、金糸雀の作ったプリントが一つも回答されないまま押し込まれていた。
頭に殴られたような衝撃が走る。一瞬視界がぐらついた。

気付いた時には職員室のデスクに戻っていた。しかしまだ足が震えている。
プリントを入れたファイルにまだ厚みがあることに気付いた。そういえば、回答と解説のプリントを配り忘れていた。
だが、そんなもの必要ないだろう。配ったところでどうせ・・・・・・。
金糸雀はその場に突っ伏し、誰にも見られないように涙した。
放課後になるまで、金糸雀は誰とも話さなかった。普段は誰とも構わず話しかけるだけあり、その変化は顕著だった。
金糸雀一人が沈むだけで、職員室全体の空気が沈んだ。
そんな空気に耐えられなくなった真紅が、金糸雀に話しかけた。
真「どうしたの、金糸雀先生?そんなに沈んで…。あなたらしくないわね」
金「真紅先生・・・」
真紅を見つめるその目は、赤くはれていた。
金「カナ、教師に向いていないのかな…?」

真「・・・どうして?」
突然の質問にうろたえることなく続きを促す。
金「だって、カナはドジでおっちょこちょいだし…」
そう言ってうつむく金糸雀に、真紅は軽く溜め息をついた。
真「そうね。貴女程ドジでおっちょこちょいで間抜けで五月蝿い教師はいないわね」
金「そ、そんなに言ってないかしら…」
金糸雀が今にも泣きそうな表情になる。目には既に涙が溜まっており、流れ落ちるのを今か今かと待っている。
真紅はその涙を指でそっと拭った。
真「でも、貴女ほど生徒にひた向きな教師もいないわ。私たちも、そこは見習うべきね」
金「え・・・?」
真「ほら、貴女の気持ちに応えてくれた生徒が、貴女を待っているわ」
そう言って金糸雀の後ろに視線を送った。金糸雀が振り返ると、そこには今日プリントを渡したクラスの生徒が数人立っていた。
手に何か持っていた。それは、まさしく金糸雀が作ったプリントだった。
金「あ、あなたたち…?」
「あのぉ、今日のプリントについてなんですけど」
まさか職員室にまで文句を言いに来たのだろうか?金糸雀は思わず身構えた。
ゴミ箱に捨てられたプリントを思い出し、嫌な汗をかいた。喉が急に渇きだした。
「ちょっと教えて欲しいんですけど」
金「え?」
思わず塞ごうとした耳に、思いも寄らない言葉が投げ込まれた。
「だって先生、解説のプリントをくれるって言ってそのまま出てっちゃったんだもん」
その後ろで数人の生徒が同じく批判の声を出した。
金「カナのプリント、やってくれたの・・・?」
「え?やりましたよ」
さも当たり前のように返事をする生徒たち。
金「参考書じゃなくて、いいの…?」
「そんなのより金糸雀先生のプリントのほうが良いですよ」
その言葉は、金糸雀の心を覆っていた雲を一瞬にして消し去った。

どれだけこの言葉を待ち望んでいたのだろうか。例え全ての生徒に受け入れられなくても、この一言で頑張れるような気がした。
いつの間にか、金糸雀の目からは先程までとは違う涙が流れていた。
「え!?金糸雀先生なに泣いてるんですか?」
金糸雀の突然の涙に戸惑う生徒たち。金糸雀は慌てて涙を拭って誤魔化した。
金「ちょ、ちょっと埃が目に入っただけかしらー!!」
そこには、いつもの金糸雀がいた。金糸雀の甲高い声が職員室に響く。
職員室に、再び活気が満ち溢れた。