ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki

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放課後、暗くなり始めた教室で、電気をつけることなく一人机に座る生徒がいた。
E「……はぁ」
溜め息をつきながら、自分の手首を眺める。細い手首に、幾重にも重なるように横一文字の傷痕が生々しく残っている。
蒼「まだ残っていたのかい?」
不意に後ろから声を掛けられた。Eは慌てて手首を袖に隠す。
蒼「こんな暗いのに電気もつけないで…」
E「す、すいません…今すぐ帰りますんで…」
立ち上がり、逃げるように教室を出ようとした。
蒼「待って」
まさか呼び止められるとは思わず、足を止めた。
蒼「ボクもちょうど帰ろうとしてたところなんだ。せっかくだから一緒に帰ろうか」

職員用玄関で5分ほど待っていると、蒼星石が出てきた。
まさか教師と一緒に帰ることになるとは思ってもみなかった。蒼星石は普段もこうして生徒と一緒に帰っているのだろうか。
蒼「ごめん、待たせちゃったね。それじゃ、行こうか」
そう言ってスタスタと歩き始めた。Eもそれに続く。
二人は、特に会話をするわけでもなく駅までの道を歩き続けた。
Eならともかく、一緒に帰るのを誘った蒼星石も一言も喋らなかった。
蒼星石は一体なにを考えているのだろうか?そんな疑問が頭をよぎった時、蒼星石が足を止めた。
蒼「ちょっと、寄っていかないかい?」
指した先は昔ながらといった雰囲気のラーメン屋だった。
E「え…?ラーメン…」
蒼「別にラーメンの一杯くらい食べたって、家で夕飯は食べれるよね?」
E「あ、でも俺…」
蒼「心配しないで良いよ。代金は、僕がもつから」
蒼星石はEの腕を持つと、半ば強引にそのラーメン屋に入った。

「おういらっしゃい!!」
蒼「こんにちは、店長」
調理場から、いかにも頑固親父という風貌の店長が出迎える。
二人の様子を見ると、どうやら知り合いらしい。
「ん?後ろの坊主は?」
蒼「この子はボクの教え子です」
E「あ、はじめまして…」
「ふーん」
店長はEを一瞥すると、読んでいたスポーツ新聞を折りたたんだ。
蒼星石がカウンターに座ったので、その横に腰掛ける。
「で、注文は?」
蒼「ボクはいつもので」
店長ははいよ、と生返事をした。いつもの、ということは常連なのだろうか。
蒼「E君は、ニンニクとか嫌いかな?」
E「いえ、大丈夫です」
蒼「それじゃあ、この子もボクと同じで」
店長が再び生返事をして、調理場の奥へ入っていった。
E「あの、蒼星石先生…ここは?」
蒼「ここかい?ここは、ボクが学生の時恩師によく連れて行ってもらったラーメン屋だよ。
店長は、その恩師の同級生なんだ」
E「先生の、恩師…?」
蒼「そう、ボクが教師になるきっかけを与えてくれた恩師だよ…」
どこか寂しげな笑みを浮かべながら言った。なにか聞いちゃいけないことでも聞いたかな、と思った。
蒼「…あの傷、どうしたんだい?」
E「えっ!?」
突然の不意打ちに、思わず手首を押さえる。
蒼「あの手首の傷だよ…。悪いけど、見せてもらったよ」
あの時傷を見た蒼星石は、このことを聞く為にEをここに連れて来たのだろう。
E「これは・・・」
蒼「聞かせてくれないかい?どうしてこんなことをしたのか…」

Eは、手首を握り締めながら、少しずつ語り始めた。
E「俺…なんで生きてるのか分からないんです…。何のために生きているんだろうって。
そう思うようになってから、毎日が意味のないように思えてきて…それで、
それで次第に生きるのが辛くなってきたんです…」
上手く言葉にできなかったが、ありのままの言葉をぶつけた。
それを聞いていた蒼星石が、独り言のように呟き始めた。
蒼「ボクが学生の時にも、自殺をしようとしていた同級生がいたんだ…。
その友人を、ボクの恩師は思い切り殴り飛ばしてこう言ったんだ。
『俺が生きている間に勝手に死ぬことは許さん。死にたいなら、俺を殺してから死ね』
ってね…。その日以来、その友人は自殺をしようとはしなくなった…」
E「凄い先生ですね…」
蒼「でも、死んでしまった」
E「え・・・?」
蒼「ついこの間ね。癌だったんだ」
先程の寂しげな表情の意味がやっと分かった。
蒼「『俺はよぼよぼの老いぼれになるまで教師でいるんだ!』って言っていたのに、その夢も叶わずに死んでいった…」
E「……」
蒼「さっきE君は、毎日が意味がないって言っていたよね。君がそう思っている毎日は、
死んでいった人々が生きたいと願った明日なんだ…」
E「・・・・!!!!!」
蒼「意味のない毎日なんて…ないんだよ…」
叫びにも近い呟きだった。
E「俺は…どうすればいいんですか…?」
すがるように聞いた。
蒼「生きることの意味を、喜びを見つけるんだ…」
E「そんなこと、俺一人じゃ…」
諦めにも似た声で言う。そんなEの頭を、蒼星石がそっと優しく撫でた。
蒼「一緒に探そう…。その為に、ボクたち教師がいるんだよ」
そう言って微笑みかけてくれた蒼星石を見た瞬間、Eは曇りきっていた心の中に光が差したような気がした。

凍っていた心が融け出し、涙となって流れた。
E「先生…!!ありがとう…!」
「すっかり先生の顔になったじゃないか。昔のあいつを思い出すよ」
ラーメンを作り終えた店長が、二人の前に注文の品を置いた。Eは慌てて涙を拭った。
大盛のラーメンの上に、チャーシューがこれでもかと乗せられている。暴力的な量だった。
もはや麺が見えない。まさかこれを食べた後に家で夕飯を食べろというのだろうか。
「それにしても坊主。お前は幸せもんだな」
E「え?」
「こんな美人の蒼ちゃんに相談に乗ってもらえてなぁ。毎日お世話になってるんだろう?いろんな意味で」
店長はそう言うと親指と人差し指で円を作り、手首を振った。その意味を知ったEが赤面する。
蒼「ちょっと、店長!ボクの生徒をからかわないで下さい!それと、生徒の前で蒼ちゃんだなんて呼ばないで下さい!」
蒼星石が赤面しながら訴える。店長ははいはいと軽くあしらいながら、再び調理場へと戻っていった。
蒼「本当にもう…!」
蒼星石はふくれっ面をしながら割り箸を割ると、一気に麺をすすった。
Eもそれに続く。美味い。
E「先生…」
蒼「なんだい…?」
E「これからも、相談に乗ってもらっていいですか?」
蒼「もちろんだよ。その度に、ここでラーメンでも食べようか」
E「…はい!!」

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