ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki

病室の木の葉

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 これは、水銀燈が駆け出しの教師であった時のお話。
 白い壁。医療薬品の匂い。窓から見える嫌なほど蒼い空。
 白いベットに白い布団。枯れかけ花が飾られた小さな机。
 そして、病的に白い肌と艶のない黒い長髪の女の子がベットの上に居た。
水銀燈「お邪魔するわよぅ~」
 勢い良くとは、行かないが元気良く開かれる病室の扉。
 水銀燈は、ベットの上に居る女の子を見てにっこりと微笑む。
水銀燈「今日は、不死屋の苺大福買ってきたわよぅ~ 一緒に食べましょう?」
 水銀燈は、不死屋と書かれた袋を女の子に見せてそれを、食事用のテーブルに乗せた。
 女の子からの反応は無く、女の子はただ窓の方を向き蒼い空を見ていた。
水銀燈「なにこれぇ……枯れかけてるじゃなぁい~」
 小さな机に飾られた枯れかけの花を見て、水銀燈はそう言うと花瓶を持ち上げ一度部屋を出た。
 しばらくして水銀燈は、戻ってくるとまた同じように花瓶を小さな机に乗せた。
水銀燈「めぐぅ~こっち向きなさいよぅ」
めぐ「…………」
 めぐと呼ばれた女の子は、水銀燈の言葉に答えたのか水銀燈の方を向く。
 生気の無い顔。この世に絶望した顔。早く死にたい。そんな顔をしているめぐ。
水銀燈「相変わらず……死にたいの?」
めぐ「……えぇ……ドラマみたいに此処から見える木の葉っぱの最後の一枚が落ちたら死ねるかな?」
水銀燈「真紅の言葉を借りれば、ナンセンス。非現実的な思考よそれ」
 慣れた手つきで、お茶を入れていく水銀燈。
 はい。と、お茶の入ったカップをめぐに手渡す水銀燈。


めぐ「ねぇ……先生」
水銀燈「なぁに?」
めぐ「なんで、私は生まれたんでしょうね……」
 めぐの言葉を聴いて、スゥッと目を細め真剣な表情をする水銀燈。
めぐ「生まれた頃から、心臓に病を持って……ねぇ……本当に何で生まれたんでしょうか私」
水銀燈「……アナタの」
めぐ「え?」
水銀燈「アナタの両親が、生まれてほしい。幸せにしたい。そう、思ったからに決まってるじゃない」
 そっと、めぐの頬に手を添える水銀燈。
水銀燈「のびのびと育ってほしい。幸せに生きてほしい。めぐが、どう思ってるかしらないけど」
 そこで、言葉を切り水銀燈はめぐの頬を一度なでたあとめぐの手をとる。
水銀燈「厄介とか不幸な子だとか、こんな子生みたくて生んだんじゃないとか、そう言うのは絶対に無いのよ」
めぐ「………詭弁ですね」
水銀燈「そうね、詭弁で偽善で安い言葉。ヘドがでる?」
 そうですね、ヘドがでます。と、めぐはうなづく。
水銀燈「誰かの為に生まれ、誰かの為に死に、誰かの為に幸せになる」
 水銀燈が、ポツリポツリと呟き出した。
 そのつぶやきを聞いて、めぐは分からないと言う表情になる。
 水銀燈のつぶやきは続く。
水銀燈「何かを求め。切望し絶望し希望を見出し何かを手に入れればいい」
めぐ「先生?」
水銀燈「ねぇ、めぐ」
 めぐは、はい? と、首をかしげる。


水銀燈「アナタは、何かを求めた?」
めぐ「え?」
水銀燈「アナタは、今何を求めてるの? 本当にそれは今求めたい事?」
 水銀燈の重い言葉。私の今求めているもの。それは『死』
 だけど、それは本当に……本心で求めてる?
水銀燈「さてと、お茶が冷めちゃったわねぇ。苺大福食べましょう」
 先ほどの真剣な顔つきとは打って変わっていつものおちゃらけた表情に戻る水銀燈。
 包みを開けて、苺大福を取り出し一つめぐに手渡す。
めぐ「…………」
水銀燈「相変わらず不死屋は、いい仕事してるってやつねぇ~」
 苺大福を一口食べて水銀燈はそう言う。めぐは、一言も発せずただ黙々と食べていた。
 意味の分からない先ほどの水銀燈のつぶやきと、尋ねられた事が
 めぐの頭の中で、ずっと残っていた。
 私は『死』以外を求めていいの?
 苺大福を黙々と食べながら、そう考えるめぐ。
水銀燈「あら、結構時間がたったのね」
 ふと、窓の外を見れば黄昏時の黄金色が、空に満ちていた。
 水銀燈は、イスから立ち上がるともう空になった包みを丁寧に折りたたんで直ぐ側にあったゴミ箱に投じる。
水銀燈「また、明日ね? めぐ。何かほしいモノある?」
めぐ「………ノートと書く物をお願いできますか?」
水銀燈「えぇ、わかったわ」
 めぐの言葉に、水銀燈はうなづきそして「またね」と、水銀燈は病室から退室した。


 水銀燈が、めぐにノートと書く物を手渡してから数日後。
 めぐと水銀燈は、病院の屋上に居た。
水銀燈「いい風ねぇ~ ちょっと肌寒いけど春が来てるって事よねぇ~」
めぐ「そうですね……いい風です」
 屋上から見える風景。
 遠くに見える山は緑色。聞こえないはずの山の音が聞こえてくる様だった。
めぐ「先生」
 しばらく無言が続いたが、めぐは水銀燈に声をかける。
水銀燈「なぁに?」
めぐ「ありがとうございました」
水銀燈「な、なによぅ行き成り。もう今日が最後のお別れみたいな事言ってぇ~」
めぐ「ふふ……ただ、毎日来てくれる先生への感謝の言葉です」
 くすりと微笑んで、めぐは自分の言葉に焦っている水銀燈にそう言った。
 その言葉に、水銀燈は頬を赤らめて恥ずかしそうに頬を掻いた。
めぐ「あぁ、本当に……いい風」
 フェンスの取ってに手を置き、ぐっと伸びをするめぐ。
 その表情は、絶望もあきらめも何も無く何処か、先を求める。そんな顔をしていた。
水銀燈「そうねぇ~……そうだ、めぐ」
めぐ「はい?」
水銀燈「もっちょっと暖かくなったら不死屋の餡蜜食べに行きましょう」
めぐ「はい」
 水銀燈の提案に、微笑んでうなづいためぐ。



 その日の夜。
 水銀燈は、真っ暗な道を走っていた。正確には、奔る。
 息が切れ、肺が体が酸素を求めているがそれを無視し、最低限の空気を取り込み。
 水銀燈は、駆ける。
 急がなければ、急がないと、早く、早く、早く、速く!
 事の始まりは、一通の電話だった。
 明日は、めぐに何を持っていこうかな? と、考えていた矢先の出来事。
 電話から伝えられた一つの事実。
 めぐのお母さんからの一言。
『めぐが危篤状態に』
 掠れはっきりとしない涙声で、何とか聞き取れた言葉。
水銀燈(嘘でしょ!? めぐ!!)
 走る。走る。走る。走る。走る走る走る走る。
 服が髪が乱れる事なんて構ってられない。
水銀燈(あんなに元気だったじゃない! 餡蜜を食べに行く約束したじゃない!!)
 乱れる息。痛いく鈍痛が走る足。
 目じりから流れる涙が、漆黒の空間に輝く。
 遠い。病院までの道が、遠い。
水銀燈「あぅっ!?」
 石に躓き、転ぶ水銀燈。体が停止した事により、一気に襲い来る疲れと痛み。
 膝から血が出ている。靴がボロボロになっている。
 靴を投げ捨て、軋む体で立ち上がり、また走り出す。

 ようやく病院に到着する水銀燈。
 その姿は、鬼気迫るまるで夜叉。
 息を切らせ、ボロボロになった服と足。
 髪はぐしゃぐしゃに乱れている。
 ソレを見た看護士が、水銀燈をとめたが今の状態の水銀燈をとめられる者などおらず
 水銀燈は、めぐの病室までたどり着く。
水銀燈(危篤なんて嘘でしょ? ここを空けたら「また来たんですか?」って言ってくれるんでしょ?)
 はぁはぁ、と息を切らせ、その紅の瞳から流れ落ちる涙もぬぐわず。
 水銀燈は、扉を二、三度ノックしゆっくりと扉を開く。
 期待は、裏切られるモノ。
 呼吸器がつけられ、苦しそうな表情で目を瞑っているめぐ。
 耳にやけに響く、心電図の不規則的な電子音。
 めぐの母親が、「先生……」と声をかけるがそんなのは耳に入ってなかった。
 よろよろと、めぐに近づく水銀燈。
 そして、めぐの細い手を握る。
水銀燈「明日くる予定だったけど、来ちゃったわよ。めぐ」
 水銀燈は、めぐにそう声かける。
 ふっと、苦しそうに目を瞑っていためぐが目を開き水銀燈の方を見る。
めぐ「……先生……」
水銀燈「めぐ?! そうよ! 先生よ! 不死屋の苺大福もってきてるんだから! 一緒に食べましょう!」
 持って来ては居ないが、それがあるのよ。と、大声でそう告げる水銀燈。
 そんな、水銀燈にめぐは、呼吸器ごしだが口に笑みを浮かべた。


めぐ「……餡蜜……」
水銀燈「そうよ! 約束したじゃない! 一緒に餡蜜食べにいくんでしょ!?」
めぐ「……また……今度に……なりそうです……」
水銀燈「そ、そんな事いうんじゃないわよぅ!」
 ボロボロと涙を流す水銀燈。
 何を、泣いているんですか。と、声が出ないのか口だけを弱弱しく動かすめぐ。
水銀燈「まだ、まだ、私はめぐに、餡蜜も食べさせてあげてないし、まだ、まだ」
 自分で何が言いたいのかわからないのか、水銀燈は、混乱しながらもめぐに話しかける。
 こまった先生ですね……と、また弱弱しく口を動かすめぐ。
 そして、ピーッと心電図が、不規則な音から、一定した電子音を発する。
水銀燈「めぐっ?! めぐぅ!?」
 その場に居合わせた医者が、慌てたように心臓マッサージを試みる。
 ナースコールを押して、電気ショックを持って来るように告げる医者。
 何度も何度も心臓マッサージは続けられる。
 電気ショックにより、跳ね上がるめぐの体。
 そして、医者が手を止めめぐの目にペンライトを当て脈を取る。
『二十一時○○分○○秒……ご臨終です……』
 その言葉に、床に崩れ落ちる水銀燈。
 声を出して泣きたかった。こんなにも、涙は出てるのに。
 声が、出なかった。



『先生……これ、めぐが……先生にって』
 めぐが死んで葬式が終わった頃。
 めぐと最後の別れを告げ終えた頃。
 めぐの母親が、一冊のノートを水銀燈に手渡した。
 いつか、ノートと書く物が欲しいと言ってその翌日に手渡したノート。
 水銀燈は、パラパラとそれをめくる。
『私は、今、死を求めてる。でも……分からない』
『今日、先生が来た。来た瞬間転んだのは、可笑しかった』
『今日、なんとなくロビーに居た。小さい子供に話しかけられ、少しお話した』
『今日、先生が不死屋の苺大福とわさび大福を持ってきた。ロシアンルーレット大福らしい。先生が自爆』
 日記帳として、使用されていたそのノート。
『今、私が本当に求めたいこと。私、生きたい』
 枯れたと思った涙が、水銀燈の頬をつたる。
『今日は、何か頗(すこぶ)る気分が良い。屋上で先生と風に当たる。餡蜜を食べる約束をした』
『生きたかったなぁ………せ………んせ……』
 最後の文章は、曖昧な文字になっていた。
 あの時でなかった声を上げ、水銀燈は泣いた。
 屋上のあの時の言葉を思い出し、また泣いた。







女子「先生。つぎ、先生の授業ですよ(なんで私が……やってられねぇ)」
水銀燈「あら、そう……わかったわ」
女子「……(え? 水銀燈先生よね? この人)」
 いつも艶っぽい舌足らずの声ではなく、普通のごく普通の返答にそう思う女子。
水銀燈「? どうしたの?」
女子「あ、いえ。その古めかしいノートなにかなぁって」
 水銀燈の問いかけに、慌てたように女子はとりあえずその本当に古めかしいノートへ話題を振った。
水銀燈「これね。私の始めての教え子からもらったその子の日記帳」
 何処か、懐かしげに悲しげに儚げにそういう水銀燈。
女子「慕われてたんですね」
水銀燈「そうかもしれないわね。今となってはもう確認も何もできない事よ」
女子「え?」
水銀燈「さーて、授業行きましょうか。男子が煩そうだしね?」
女子「あ、はい」
 水銀燈は、古めかしいノートを丁寧にデスクの引き出しにしまうと席から立ち上がる。
 そして、女子にそう声かけて職員室を女子と共に後にした。
 廊下の窓から見える空は、いつもとなんら変わりなく。
 いつまでも蒼く。時間により黄昏色。時間により黒い。
水銀燈「あぁ、そうだ。今日、一緒に餡蜜でもどう?」
女子「へ? わ、私ですか?」
水銀燈「そう、もちろん私のおごりよ?」
女子「なら行きます」
 じゃぁ、放課後ね。はい。
 ねぇ、めぐ。今度また何処かで会えたなら。餡蜜食べに行きましょう。

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