ローゼンメイデンが教師だったら@Wiki ハバネロと翠星石と雪華綺晶

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  とある夏の早朝。
  部活の朝練がある薔薇水晶に付き合って、雪華綺晶も早出していた。
  しかし、雪華綺晶が顧問を務める部に朝練はない。はっきり言って暇だった。
  あてどなく校内をさ迷っていると、ぷ~んと鼻腔をくすぐる甘く豊潤な香り。
  雪華綺晶は、ふらふらと引き寄せられていった。
  扉を開けると、そこは一面の緑。朝露が朝日を浴びてきらきらと輝いていた。
  畑の一角に屈み込み、びっしりと網目に覆われた球体を両手に取る。
「ああっ、お前、何しに来やがったですか!」
  声のしたほうを見ると、愛用のじょうろを手にした翠星石が柳眉を逆立てていた。
  そう、ここは彼女が顧問を務める園芸部のテリトリーだ。
  雪華綺晶は、何事もなかったように視線を手の中のものに戻すと。
「……メロン、とても美味しそう……食べて、いい?」
「ダメですっ、それは園芸部のみんなが楽しみにしてるのですからっ」
「……………………そう、とても残念……」
  表情は変えないまでも、未練たらたらといった様子で、メロンを畑の中に返す。


  立ち上がると、菜園をぐるりと見渡した。そして再び問う。
「……あの赤いトマトは、食べちゃ……駄目?」
「ダメダメダメっ、ダメですぅっ、一体何ですか、お前は……朝ご飯、食べてこなかったですか!?」
  食べた。しかし、メロンの甘い匂いが、雪華綺晶の胃袋を刺激したようだった。
  と、雪華綺晶の視線が一点で止まる。
「あれは……何?」
  彼女が指差したほうには、コンパクトサイズのビニールハウスが建てられていた。
  中には、数本の植物が葉を生い茂らせ、赤い実を実らせている。
  盛夏で、日差しを遮るものも何もないのに、何故?
「ああ、あれは、交雑しやすいから隔離してるですよ」
「……交雑?」
「ええと、簡単に言うと、種類の違うオスとメスが結ばれて、望まれない子供が生まれちまうってことです。そいつを逆手にとって、品種改良に用いられたりもするですけど、あいつの場合は……」
  と、そこで翠星石の目がきらーんと光った。
「そうだっ、あいつなら食べても構わんですよっ。食べてみるですかぁ?」
「……本当……?」
  翠星石はゴム手袋をはめ、ビニールハウスの中から赤い実をもぎ取って、雪華綺晶の前に差し出した。
「ささっ、たーんと召し上がれですぅ!」


「……パプリカ?」
「そうですそうです、生のままでもイケるですよ。てーか、通は生のまま丸かじりですぅ!」
  しかし!! それは、言うまでもなくただのパプリカなどではなかった。
  世界で最も辛いと言われるハバネロ・レッドサビナ。
  今や希少種のそれを、翠星石は、万難を排して手に入れた。
  何のためかって? それはもちろん……。
  雛苺の苺大福の中身とすり替えるため。エキスを抽出して、真紅の紅茶に、水銀燈のヤクルトに、金糸雀の玉子焼きに、こっそり混ぜ合わせてやるためだ。
  恐らくは、即座に誰の仕業か露呈して、袋叩きに遭うだろう。
  だが、このイタズラには、翠星石にそれを失念させるだけの魅力があった。有頂天になっていた。
  辛さ577000スコビルの恐怖が、何も知らないきらきーの身に襲いかかる。
  かぷり……しゃきしゃきしゃき……。
「……美味しい……」
  ぽっと頬を染める雪華綺晶。
  がっくりとうなだれる翠星石。
「まあ、こんなことになるんじゃないかと思わないでもなかったですが……」
  翠星石はよろよろとよろめき、新鮮なキュウリのトゲで、うっかり手のひらを傷つけてしまう。
「痛っ!!」
  血がにじみ出していた。と、それを見た雪華綺晶。
「大丈夫……」
  と翠星石の傷ついた手を取って、舌でぺろりと血を舐め上げる。
「唾をつけておけば、消毒される……」
  へ?
  呆然と雪華綺晶を見返す翠星石。そして数秒後。
「ぎぃいいいいいいいいいいいいやぁああああああああああああーーーーーーーーッッ!!!!」
  飲み下したからといって、口の中のカプサイシンは、そう簡単には消えはしない。
  傷口に塩をすり込まれたほうが、どれだけ増しだっただろう。
  翠星石は、地べたを転げ回って、悶え苦しんだ。
  自業自得以外の何ものでもなかった。



  おまけ。
「まあ、こんなことになるんじゃないかと思わないでもなかったですが……」
  翠星石が肩を落としていると、雪華綺晶はけほんけほんとむせた。
  レッドサビナのタネが、喉に引っかかったのだ。
「えっ……」
  うっかり彼女のほうを見た翠星石の左目に、雪華綺晶の唾液が降りかかってしまった。
「ぎぃいいいいいいいいいいいいやぁああああああああああああーーーーーーーーッッ!!!!」
  ……そして。何度もかきむしったせいか、左目はすっかり赤く染まってしまった。
  べそをかきながら職員室へ戻る。
翠「え~~ん、蒼星石~~」
  居合わせた蒼星石に抱きつくと。
蒼「ええと……誰?」
翠「……………………へ?」
紅「ええっと……どちらさま?」
銀「誰だったっけぇ……?」
金「誰だったかしらー?」
雛「ヒナ、見たことない人なのーーっ」
薔「……………………?」
翠「…………おっおっおっ、お前ら~~ッ!! 普段から翠星石をどんな目で見てやがるですかーー!!」
  自業自得以外の何ものでもなかった。