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銀河鉄道」(2006/07/01 (土) 19:53:35) の最新版変更点

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  駅のホームに佇む人影が一つ。  「研修旅行なんてダルイわねぇ…普通の旅行ならよかったのに」   そう愚痴をこぼしたのは有栖学園の教師である水銀燈だ。   有栖学園の研修旅行というのは、色々な学校を訪問し、   それぞれの学校がどのように授業をしているかを見聞してくるというものだ。   毎年1人ずつ選ばれ、今年は彼女だったというわけだ。 銀「やっぱりあそこはグーだったかしら。そうすればあのまな板が負けたのに」   選び方に少々問題があるようだが…   ふとホームを見渡す水銀燈。 銀「それにしても誰もいないわねぇ…」   ホームには人っ子一人居なかった。静寂があたりを包む。   水銀燈はあることを思い出していた。  (あの時もこんな感じだったわね…)                ・                ・                ・  「ガタガタうるさいわねぇ…」   電車の窓から遠ざかる街を見ながら呟く女性が一人。  「まぁ、わかってはいたけど…」   高校を卒業し、他県の大学に行く彼女を見送る人は誰も居なかった。   彼女に高校の友達と呼べる人は一人もいなかった。   しいて言えばいつも口ゲンカしていた子と   彼女を慕う子がいたぐらいだろうか。  「友達なんて…私は一人で生きていけるもの…」   外を見ながら呟く。   知っている景色と知らない景色が彼女を騙すようにいつの間にか入れ替わる。   彼女はふと思う。  (私の体って止まったままで、200kmを超えてるのよね…   これって可笑しな話よね…だって私は止まったままなのに)   黙っていることができず、顔を上げて彼女ははっと気付く。  (私は…ひとりだった)  誰もがそれぞれの 切符を買ってきたのだろう  今までの物語を 鞄に詰めてきたのだろう   彼女の目の前にリボン付きのくんくんが転がって来る。  「あら…」   彼女は思わずそれを手にとる。   同時に小さな女の子が駆け寄ってくる。   その女の子は彼女を見て怖気付いたようだ。  (失敗したわ…)   後悔した彼女からくんくんを奪うと礼も言わず逃げていく。  (やっぱり変に優しさなんて見せるもんじゃないわ。   もういいわ、寝ようかしら…)   そう思いシートを倒す。後ろから舌打ちが聞こえる。  「………」   彼女は聞こえない振りをして、シートに保たれかかって、目を閉じてみたが、  (………)  (…全然眠れやしない)  誰もがそれぞれの 切符を買ってきたのだろう  荷物の置き場所を 必死で守ってきたのだろう   顔を上げて外を見てみる。線路沿いの下り坂で自転車を漕いでいる人がいる。   綺麗なロングヘアーを風でたなびかせながら手を振っている。  (見送りたい人が居るんでしょうね。でも流石に恥ずかし過ぎるんじゃない。   相手を想うならやめてあげた方がいいと思うわぁ)   彼女の体は止まったままで、あの自転車を遠ざける。   彼女は目を閉じ思う。  (本当は羨ましかった…だって私は―)   止まったままだから   高校時代、彼女は常に1番優秀な成績を修めていた。   そういう者を周りの人間は快く思わないものだ。   彼女の周りの人間も例外ではなかった。   陰口を叩かれ、執拗な嫌がらせもあった。   ただ彼女は屈しなかった。   1日たりとも学校を休まなかった。   なぜなら彼女もまた他の者を見下していたから。   見下していた者に屈するのは彼女のプライドが許さなかった。   その一心で学校に通い続けた。   だがそれだけだ   彼女はそうして何を得たのだろう、何を与えたのだろう   3年間の間で彼女が『ありがとう』という言葉を耳にすることはなかった   何も得ようとせず、何も与えようとせず、何も見出そうとせず、   そして、今も―  (…っ!!)   彼女は目を開けた。   すると目の前に真っ赤なキャンディが差し出されている。  「えっ?」   差し出しているのはさっきの女の子だ。  「お姉ちゃん!さっきはありがとう!これ、お礼!」   そういってキャンディをさらに突き出す。それをゆっくりと彼女は受けとった。  「じゃあ、バイバイ!」   笑った女の子が席に戻る。  「…キャンディねぇ…こんなの貰っても全然……グスッ…ないん…グスッ……」   誰にも知られず彼女が泣く。  電車の窓はガタガタ鳴く 生きる街を近付ける  「どーせ出迎える人も居ないし、でも…」   そうして彼女は鞄を手にとる。その目は彼女が生きる街を写している。  誰もが それぞれの 切符を買ってきたのだろう  今までの物語を 鞄に詰めてきたのだろう  荷物の置き場所を 必死で守ってきたのだろう  これからの物語を 夢に見てきたのだろう   プァーン 銀「…!!」   電車の音でふと我に返る。 銀「ずいぶんと考え込んじゃったわぁ…」   脇に置いてあった鞄を手にとり、一歩踏み出す。その時、  「水銀燈!」   後ろから声をかけられ、驚いて振り向く。   そこにいたのは顔なじみの同僚達であった。 銀「あ、あなた達…どうしてここに?」 金「それはあなたを見送るために決まってるかしらー」 銀「でも私はそんなの一言も…」 真「ええ、言ってないわ。だって私達が自分の意思で来たんだもの」 蒼「実はボク達も驚いたんだ。駅に来たらみんなが居るんだからね」   唖然とする水銀燈。さらに、 翠「ほれっ!弁当作ってきたですよ。どーせビニ弁で済ますつもりだったんでしょう。   そんなのより翠星石の弁当の方が2万倍うまいですよ!」 薔「…銀ちゃん…職員証持った?…ハンカチは?…他にも…」 銀「子供じゃないんだから大丈夫よ!まぁ、お弁当は貰っておいてあげるわぁ」   翠星石から弁当を受け取る。すると、 雛「水銀燈!あいとっ!あいとなのー!気合でのりきるのー!」 雪「…おみやげよろしく…」 銀「……。あなた達、私が何しに行くかわかってるの…」   こめかみを抑え、ため息をつく。   プルルルルッ   発車を告げるベルが鳴る。   踵を返し、電車に乗り込もうとする水銀燈。 真「水銀燈」 銀「まだ何かあるの?」   再び声をかけられ振り向く水銀燈。   そこには笑顔で並んでいる同僚達。そして、  「いってらっしゃい」   彼女もまた笑顔でそれに返答する。  「いってきます」   彼女は電車の窓から遠ざかる街を見ていた   見送る人も出迎える人も居る   彼女が生きている街を  人は年を取る度 始まりから離れていく  動いていないように思えていた 僕だって進んでる  FIN

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