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真・水泳部、始動」(2006/06/29 (木) 22:05:05) の最新版変更点

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水銀燈「…全く、私もどうかしてるわ…。たかが小娘1人の戯言に心を動かされるなんて…」 ぽかぽかと、優しい日差しが職員室内に降り注ぐ中、水銀燈はため息混じりにそう呟くと、椅子の背もたれに身を預け、『水泳部・部員一覧』と書かれた名簿を眺めやった。 実は、前日に桑田由奈という少女に水泳部の復興を頼まれたのだが、考えれば考えるほどそれは実現困難な事のように思われた。 問題解決に先立って、一番簡単なのは来なくなった部員たちを脅し、無理やり引きずり出してくることなのだが、そんなことをしても意味が無いことは明白だし、かといって、たかが高校生の子供相手に「もう1度戻ってきてくれ」と頭を下げる気には、どうしてもなれない… そうなると、やる気のある生徒を再募集をするのが最も有効な手段なはずなのだが… 水銀燈「…でも、どう考えても『やる気』を履き違えた、お馬鹿さんしか集まらない気がするのよねぇ…」 そう呟く彼女に、メイメイはそっと冷えた緑茶を差し出す。 それを一口すすると、彼女はその打開策を考え始めた。 やると決めたからには、『完璧』を目指したいし、それ以上に去年の二の舞だけは、避けなければならない。 同じ間違いを2度もしたら、それこそ笑い者…末代までの恥である。 水銀燈「…しっかし、この『部活』ってのは厄介ねぇ…。やりすぎるとみんな辞めちゃうだろうし、かといって手を抜きすぎると、試合に勝てず、やる気をなくすみたいだしぃ…」 かのトラヤヌス帝や、フィリップ2世など『名君』と呼ばれた人物たちも、同じようなことで悩んだのだろうか… そんな事を考えながら、彼女はメイメイに向かってこう声を上げた。 水銀燈「…メイメイ…。『帝王学』の本って、この学校にあったっけぇ?ちょっと、目録調べてくれるぅ?」 その言葉に、彼女は急いで自身のパソコンを立ち上げた。 男子A「先生!あの…水泳部の顧問に戻ったって本当ですか!?だったら、俺も入りたいんですが…」 水銀燈「あっそ…。じゃ、この紙に名前と学年、それにクラスを書いてねぇ…」 熱っぽくそう言う男子生徒とは対照的に、顧問である水銀燈はやる気なくそれに応対した。 というのも、前に彼女が危惧したとおり、集まるのは自分目当ての男子生徒ばかりで、女子生徒は一向に集まる気配がなかったからである。 もう、残された方法は『物で釣る』ぐらいしか思いつかないのだが、それでは自分が日ごろから馬鹿にしている男たちとなんら代わりが無い… 水銀燈「しっかりしなさいよ…!このままじゃ、お馬鹿の雪華綺晶に何を言われるか、分かったものじゃないわ…!!」 目下最大の敵である雪華綺晶の名前を出し、自分を鼓舞すると、彼女はもう一度打開策の練り直しを始めた。 一方、そんな水銀燈を慕うメイメイも、必死にその打開策を模索していた。 本来なら、これは出すぎた行為…。また「余計なことをするな」と怒られるのは分かっていたが、これ以上、お姉様を苦しませるわけにはいかない…。 何か似たようなケースは無いだろうか…お姉様のように強大な力を持つもので、その功績から、使えそうなものは無いか… そんな事を考え始めた時、メイメイの頭にある人物の名前が思い浮かぶ。 …いるではないか…。かつて、世界を熱狂と恐怖の渦に巻き込んだ人物が… そして、その側近には、自分と同じような立場にいる者も… 急いでその人物に関する本を見つけると、彼女は屋内プールにいる水銀燈の元へと戻っていった。 メイメイ「お姉様…!いい方法が…」 そう言いながら、プールへと続く扉を開ける彼女。 しかし、その嬉しそうな声とは対照的に、プールサイドからは水銀燈のこんな声が聞こえてきた。 水銀燈「…だから言ったでしょう?私に頼っても無駄だって…」 …もはや、一刻の猶予も許される状況ではない事は、明白だった。 水銀燈「…メイメイ、そんなに急いでどこに行く気ぃ?今日は雨も降ってるし、学食にしましょぉ…」 次の日の昼休み、人一倍急いで外に出ようとするメイメイに対し、水銀燈は呆れた様子でそう呟いた。 また、どこかでケーキバイキングでもやっているのだろうか…。大体、いつもカロリーや味のことを考えすぎて、2~3個しか食べられないくせに…と考えていたのだが、この日のメイメイはどうも様子が変だった。 しきりに落ち着かない様子で、メイメイは彼女にこう言った。 メイメイ「えっ!?い、いや…今日はよしたほうがよろしいかと…」 水銀燈「何よ…。何か理由でもある訳ぇ?」 メイメイ「い、いえ…そう言うわけでは無いんですが…」 水銀燈「…メイメイ。あなた、私に何か隠してるわね?ほら、何を企んでいるのか…」 そう彼女が声を上げた時、スピーカーからお昼の放送開始を告げる声が聞こえてきた。 いつもは、結構やりたい放題の放送なのだが、今日はどこか雰囲気が重苦しい… 「一体何事?」と考えていた時、スピーカーからこんな声が聞こえてきた。 薔薇水晶「…えっと、今日はリクエスト曲の前に、水泳部からちょっとお知らせがあるそうです…。では、聞いてください…」 その声に、水銀燈は気まずそうに下を向くメイメイを、キッと睨み付ける。 スピーカーから流された内容は、このようなものであった。 水銀燈「…だから言ったでしょう?私に頼っても無駄だって…」 由奈「そ、そんなこと無いです!今に、みんなきっと…」 水銀燈「どうだか…。それに、頼むのなら蒼星石に言ったほうが良かったんじゃないのぉ?あの子なら、すぐ人が集まるはずよ…?私と違って、みんなから好かれてるしぃ…」 由奈「…え?」 水銀燈「…ま、後ろ指差されるのは慣れてるからいいんだけどぉ…。それより、あなたもそろそろ身の振りを考えたほうがいいわよぉ…。私と一緒にいても、いじめられるだけだもの…。」 明らかに隠し録りされたと分かる内容に、生徒たちは思わずその手を止め、耳を傾けた。 彼女が見せた、意外な一面…そして、その真意… それらは、生徒の心を揺り動かすには十分すぎる内容だった。 そして、それに輪をかけるように、スピーカーからメイメイのこんな言葉が聞こえてきた。 「…現在、水泳部は危機的な状況です。お願い…もう、あなただけが頼りです…」 と。 メイメイ「ご、ごめんなさい…!!過ぎた事とは思ったのですが、どうしてもお役に立ちたくて…」 放送の後、青ざめた顔でそう言う彼女に対し、流石の水銀燈も「このバカ…!」と言ったきり、言葉が続かなかった。 彼女の選んだ方法…それは、校内放送による水銀燈のイメージのすり替え… これなら、水銀燈の『怖い』『近寄りがたい』というイメージを逆手にとり、逆に人気を高めることが可能であるとメイメイは考えたようだ。 ちなみに、あの時彼女が思いついた者は『ヨーゼフ=ゲッベルス』という名の男…。 かつて、ヒトラーの下でプロパガンダを任務とする国民啓蒙・宣伝大臣を務めた男であった。 結果的に、この作戦は彼女の予想をはるかに上回る成果を上げた。 もう、ラウンジ内では「水銀燈先生って、実はいい人なのかも…」「部の掛け持ちもOKだし、私も入ってみようかなぁ…」と言った声があちこちから聞こえてくる。 しかし、いくら作戦が成功したといっても、それで全てが許されるわけではないということはメイメイには十分わかっていた。 もう、殴られることも覚悟したのだが、当の水銀燈からは何の反応も無い…。 恐る恐る顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした水銀燈の姿があった。 メイメイ「あ…あの…。お姉様…?」 水銀燈「うるさい!何よ…あれは一体…!!これじゃ私がまるで…」 その言葉を遮るように、ある者が彼女にこう声をかける。 女子B「あの…ごめんなさい…。今まで、水銀燈先生を誤解していました…。それで、出来れば私も水泳部に…」 その言葉を聞くが早いか、水銀燈は雨の中、傘も差さずに駐車場へと走っていった。 赤くなった顔を、よりいっそう赤らめながら… 結局、このことがきっかけとなり、水泳部は多数の部員を獲得することに成功した。 こうして、水銀燈率いる水泳部は、ようやく動き出したのであった。 完
水銀燈「…全く、私もどうかしてるわ…。たかが小娘1人の戯言に心を動かされるなんて…」 ぽかぽかと、優しい日差しが職員室内に降り注ぐ中、水銀燈はため息混じりにそう呟くと、椅子の背もたれに身を預け、『水泳部・部員一覧』と書かれた名簿を眺めやった。 実は、前日に桑田由奈という少女に水泳部の復興を頼まれたのだが、考えれば考えるほどそれは実現困難な事のように思われた。 問題解決に先立って、一番簡単なのは来なくなった部員たちを脅し、無理やり引きずり出してくることなのだが、そんなことをしても意味が無いことは明白だし、かといって、たかが高校生の子供相手に「もう1度戻ってきてくれ」と頭を下げる気には、どうしてもなれない… そうなると、やる気のある生徒を再募集をするのが最も有効な手段なはずなのだが… 水銀燈「…でも、どう考えても『やる気』を履き違えた、お馬鹿さんしか集まらない気がするのよねぇ…」 そう呟く彼女に、メイメイはそっと冷えた緑茶を差し出す。 それを一口すすると、彼女はその打開策を考え始めた。 やると決めたからには、『完璧』を目指したいし、それ以上に去年の二の舞だけは、避けなければならない。 同じ間違いを2度もしたら、それこそ笑い者…末代までの恥である。 水銀燈「…しっかし、この『部活』ってのは厄介ねぇ…。やりすぎるとみんな辞めちゃうだろうし、かといって手を抜きすぎると、試合に勝てず、やる気をなくすみたいだしぃ…」 かのトラヤヌス帝や、フィリップ2世など『名君』と呼ばれた人物たちも、同じようなことで悩んだのだろうか… そんな事を考えながら、彼女はメイメイに向かってこう声を上げた。 水銀燈「…メイメイ…。『帝王学』の本って、この学校にあったっけぇ?ちょっと、目録調べてくれるぅ?」 その言葉に、彼女は急いで自身のパソコンを立ち上げた。 男子A「先生!あの…水泳部の顧問に戻ったって本当ですか!?だったら、俺も入りたいんですが…」 水銀燈「あっそ…。じゃ、この紙に名前と学年、それにクラスを書いてねぇ…」 熱っぽくそう言う男子生徒とは対照的に、顧問である水銀燈はやる気なくそれに応対した。 というのも、前に彼女が危惧したとおり、集まるのは自分目当ての男子生徒ばかりで、女子生徒は一向に集まる気配がなかったからである。 もう、残された方法は『物で釣る』ぐらいしか思いつかないのだが、それでは自分が日ごろから馬鹿にしている男たちとなんら代わりが無い… 水銀燈「しっかりしなさいよ…!このままじゃ、お馬鹿の雪華綺晶に何を言われるか、分かったものじゃないわ…!!」 目下最大の敵である雪華綺晶の名前を出し、自分を鼓舞すると、彼女はもう一度打開策の練り直しを始めた。 一方、そんな水銀燈を慕うメイメイも、必死にその打開策を模索していた。 本来なら、これは出すぎた行為…。また「余計なことをするな」と怒られるのは分かっていたが、これ以上、お姉様を苦しませるわけにはいかない…。 何か似たようなケースは無いだろうか…お姉様のように強大な力を持つもので、その功績から、使えそうなものは無いか… そんな事を考え始めた時、メイメイの頭にある人物の名前が思い浮かぶ。 …いるではないか…。かつて、世界を熱狂と恐怖の渦に巻き込んだ人物が… そして、その側近には、自分と同じような立場にいる者も… 急いでその人物に関する本を見つけると、彼女は屋内プールにいる水銀燈の元へと戻っていった。 メイメイ「お姉様…!いい方法が…」 そう言いながら、彼女はあるものを手にプールへと続く扉に手をかける。 しかし、その嬉しそうな声とは対照的に、プールサイドからは水銀燈のこんな声が聞こえてきた。 水銀燈「…だから言ったでしょう?私に頼っても無駄だって…」 …もはや、一刻の猶予も許される状況ではない事は、明白だった。 水銀燈「…メイメイ、そんなに急いでどこに行く気ぃ?今日は雨も降ってるし、学食にしましょぉ…」 次の日の昼休み、人一倍急いで外に出ようとするメイメイに対し、水銀燈は呆れた様子でそう呟いた。 また、どこかでケーキバイキングでもやっているのだろうか…。大体、いつもカロリーや味のことを考えすぎて、2~3個しか食べられないくせに…と考えていたのだが、この日のメイメイはどうも様子が変だった。 しきりに落ち着かない様子で、メイメイは彼女にこう言った。 メイメイ「えっ!?い、いや…今日はよしたほうがよろしいかと…」 水銀燈「何よ…。何か理由でもある訳ぇ?」 メイメイ「い、いえ…そう言うわけでは無いんですが…」 水銀燈「…メイメイ。あなた、私に何か隠してるわね?ほら、何を企んでいるのか…」 そう彼女が声を上げた時、スピーカーからお昼の放送開始を告げる声が聞こえてきた。 いつもは、結構やりたい放題の放送なのだが、今日はどこか雰囲気が重苦しい… 「一体何事?」と考えていた時、スピーカーからこんな声が聞こえてきた。 薔薇水晶「…えっと、今日はリクエスト曲の前に、水泳部からちょっとお知らせがあるそうです…。では、聞いてください…」 その声に、水銀燈は気まずそうに下を向くメイメイを、キッと睨み付ける。 スピーカーから流された内容は、このようなものであった。 水銀燈「…だから言ったでしょう?私に頼っても無駄だって…」 由奈「そ、そんなこと無いです!今に、みんなきっと…」 水銀燈「どうだか…。それに、頼むのなら蒼星石に言ったほうが良かったんじゃないのぉ?あの子なら、すぐ人が集まるはずよ…?私と違って、みんなから好かれてるしぃ…」 由奈「…え?」 水銀燈「…ま、後ろ指差されるのは慣れてるからいいんだけどぉ…。それより、あなたもそろそろ身の振りを考えたほうがいいわよぉ…。私と一緒にいても、いじめられるだけだもの…。」 明らかに隠し録りされたと分かる内容に、生徒たちは思わずその手を止め、耳を傾けた。 彼女が見せた、意外な一面…そして、その真意… それらは、生徒の心を揺り動かすには十分すぎる内容だった。 そして、それに輪をかけるように、スピーカーからメイメイのこんな言葉が聞こえてきた。 「…現在、水泳部は危機的な状況です。お願い…もう、あなただけが頼りです…」 と。 メイメイ「ご、ごめんなさい…!!過ぎた事とは思ったのですが、どうしてもお役に立ちたくて…」 放送の後、青ざめた顔でそう言う彼女に対し、流石の水銀燈も「このバカ…!」と言ったきり、言葉が続かなかった。 彼女の選んだ方法…それは、校内放送による水銀燈のイメージのすり替え… これなら、水銀燈の『怖い』『近寄りがたい』というイメージを逆手にとり、逆に人気を高めることが可能であるとメイメイは考えたようだ。 ちなみに、あの時彼女が思いついた者は『ヨーゼフ=ゲッベルス』という名の男…。 かつて、ヒトラーの下でプロパガンダを任務とする国民啓蒙・宣伝大臣を務めた男であった。 結果的に、この作戦は彼女の予想をはるかに上回る成果を上げた。 もう、ラウンジ内では「水銀燈先生って、実はいい人なのかも…」「部の掛け持ちもOKだし、私も入ってみようかなぁ…」と言った声があちこちから聞こえてくる。 しかし、いくら作戦が成功したといっても、それで全てが許されるわけではないということはメイメイには十分わかっていた。 もう、殴られることも覚悟したのだが、当の水銀燈からは何の反応も無い…。 恐る恐る顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした水銀燈の姿があった。 メイメイ「あ…あの…。お姉様…?」 水銀燈「うるさい!何よ…あれは一体…!!これじゃ私がまるで…」 その言葉を遮るように、ある者が彼女にこう声をかける。 女子B「あの…ごめんなさい…。今まで、水銀燈先生を誤解していました…。それで、出来れば私も水泳部に…」 その言葉を聞くが早いか、水銀燈は雨の中、傘も差さずに駐車場へと走っていった。 赤くなった顔を、よりいっそう赤らめながら… 結局、このことがきっかけとなり、水泳部は多数の部員を獲得することに成功した。 こうして、水銀燈率いる水泳部は、ようやく動き出したのであった。 完

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