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楽してズルして・・・」(2006/05/06 (土) 19:08:17) の最新版変更点

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金「んしょ、んしょ・・・あと少しで完成かしら~」 夜、誰も居なくなった有栖学園の理科準備室で金糸雀は黙々と作業を行っていた。 机の上には所狭しと実験器具や木板、工作用紙などが置かれていた。 金「これが完成すれば、明日の実験も楽してズルして簡単にできるのかしら~」 どうやら明日の実験に使うための器具を自作しているようだ。 金糸雀・・・・・・有栖学園に在籍する、(自称)教師一の頭脳の持ち主である。 担当は国語(古文・漢文含む)と化学、以前は音楽も担当していた。 部活の顧問に至っては、吹奏楽部をはじめとして全部で12の部の顧問をしている。 他の教師に比べたらかなり大変なはずなのだが、彼女ほど授業に対する創意工夫を怠らない教師は居ないだろう。 彼女がなぜそうなったのか?それは数年前、彼女がこの学校に赴任してきた年まで遡る。 その年、この学校に赴任したのは彼女の他に水銀燈、翠星石、蒼星石、真紅、雛苺で 水銀燈は社会科全般と保健体育、翠星石と雛苺は家庭科、蒼星石は数学と物理、真紅は英語をそれぞれ担当した。 そして金糸雀は国語と化学と音楽を担当する事になる。この事に関して校長であるローゼンは 「ごめんねぇ、来年度にはまた教員増やして皆の負担をなるべく軽くするからさぁ」と無責任に笑っていた。 教師たちは色々と失敗を重ねながらも、それぞれのやり方で授業を進めていく。 金糸雀もそれに負けじと熱心に授業に取り組んでいった。 小さな体を大きく使って黒板に化学式や古文を書き、遅くまで音楽室で教科書に載っている曲の練習を 行ったりと、今から見れば信じられないくらいの働き振りであった。 しかし1ヶ月程たったある日、彼女は授業中に倒れてしまった。 症状は過労だった。幸い命に別状は無かったが、医者から2週間の入院を言い渡された。 本当は1週間の自宅療養で充分だったが、彼女の性格からして無理して学校へ行こうとするだろうし 流石に責任を感じたローゼンからの強い勧めもあって、彼女はそれに従った。 真っ白な天井、窓の外の景色、2時間もするとやる事が無くて飽きてしまった。 考えるのは学校の事ばかり、授業の方は大丈夫だろうか?生徒から質問は来てないだろうか? どうしてもそんな事ばかり考えてしまう。 事実、学校の方はかなり大変だった。金糸雀の空いた穴を他の教師が分担して受け持ったのだ。 そして、受け持った教師全員が金糸雀の凄さを思い知る事になった。 普通は複数の授業を受け持つ事自体あまりありえない事なのだが、受け持つにしても関係のある授業が一般的だ。 だから水銀燈は社会科全般を、蒼星石は数学と物理を担当する事になったのだ。 しかし、金糸雀は違った。全て毛色が異なるのである。 同じ言語、と言う事で真紅が国語を受け持ったが、彼女にしても古文や漢文は専門外である。 時間に多少のゆとりがある翠星石は音楽を受け持ったが、ピアノの演奏なんて出来なかった。 同じくゆとりのある雛苺に至っては、受け持った化学の元素記号は既に宇宙人の言葉であった。 そんなこんなで1週間程経ったある日、浮かない顔をして雛苺が金糸雀の病室にやってきた。 金「どうしたのかしら?何か大変な事でもあったのかしら?」 見舞いに来てもらったはずの金糸雀が逆に心配する。 この1週間、雛苺は毎日金糸雀の病室に見舞いに来ていた。話す内容はその日学校で起きた事。 他愛も無い話だが、金糸雀が一番喜ぶ話題だったので雛苺も楽しそうに話す。 それが浮かない顔をしているのだ。絶対何か有ったのだろう。金糸雀は雛苺に質問する。 雛「うぃ・・・実は・・・」 そう言って雛苺は説明を始めた。内容は次の化学の授業に関してだった。 その日はどうしても化学の実験をしなくてはならない事になってしまったのだ。 自分はあと1週間で退院する。その時に実験をすれば良いではないかと問う金糸雀。 確かにその通りなのだが、雛苺は首を横に振った。なんでも、その日は教育委員会の偉い人が 視察に来ると言うのだ。しかも、よりにもよって化学の実験の様子を見たいと言ってきたと言う。 校長や教頭は違う授業や日時の変更を求めたが、逆に「何か後ろめたい事でもあるのかね?」と態度を硬化させてしまった。 雛「それで実験をする事になっちゃったんだけど・・・薬品とかって勝手に使ったらダメなのよね?」 雛苺が心配しているのは、実験に使う薬品であった。 通常、こういった薬品は担当者以外の者は管理に携わる事は出来ない。 要するに金糸雀以外は理科準備室にある棚の中の薬品を触ってはいけないのだ。 取り扱う薬品はどれも使い方を誤まれば、大怪我では済まない劇物や毒物ばかりである。 知識の無い者が扱っては何が起こるか分からない。しかし、それでは到底実験なんて出来ない。 それが雛苺を悩ませていたのだ。そんな雛苺を見て金糸雀が呟く。 金「やっぱり、ここはカナが出なきゃならないのかしら~」 彼女の言う通りである。疲労はすっかり癒えており、授業を行うには何ら問題は無い。 しかし雛苺は言った。 雛「それはもっとダメなのよー。金糸雀先生はちゃんと休むの」 金「でも、それじゃ実験なんて出来ないかしら~」 雛「・・・うぅ、それは分かってるけど・・・」 こうなると結構頑固なのよね、と金糸雀は思った。古い付き合いだ、相手の事など手に取るように分かる。 それならば・・・と、金糸雀は違う質問をしてみた。 金「次の実験って、どんな事をやるのかしら?」 雛「え、えっとぉ・・・これなの」 そう言って、教科書を見せる雛苺。内容は基本的な化学反応を見るための実験だった。 しかし、逆に基本だからこそ色々やる事になる。塩酸や硫酸を使った実験も載っている。 金「やっぱり行かないとダメなのかしら~」 雛「だからそれはダメなのよ~」 取り付く島も無かった。だが、これは自分が行かないと絶対に出来ないだろうと金糸雀は考えていた。 雛苺が帰った後もその事ばかり考えていたが、ふとある事を思いつく。 自分が居なくても安全に実験を行える物が有れば良いのではないか?準備さえすれば、後は自動的に 実験を行ってくれる物が有れば・・・。 そう考えた金糸雀は紙とペンを用意して、一心不乱にある物を描き始めた。 作業が行き詰ると病室を出て、気晴らしに屋上に出たりして気分転換をする。 また、巡回に来た医師に自分が今行っている事を説明し、アドバイスを受けたりもした。 そして実験が行われる2日前、ようやくそれが完成した。 金「これを渡すのかしら」 雛「これは・・・何?」 金「明後日の実験を安全に行うための機械の設計図なのかしら。これさえあれば楽してズルして実験が行えるかしら」 雛「楽してズルして?」 金「それは・・・担当のお爺ちゃん先生が『もっと楽をしろ、ズルしてもいいから』っていつも言うから、   うつっちゃったのかしら。でもこれなら安全なのかしら」 雛「本当?良かったなの。ヒナずっと心配だったの」 金「でも、当日は蒼星石先生に任せた方が安心かしら。雛苺先生だと零すかも知れないから心配かしら」 雛「うぅ・・・でも、薬品は」 金「今回は特別に許可するかしら。どこに置いてあるかもその紙に書いてあるから、ちゃんと扱って欲しいのかしら。   零したりしたら大変な事になるから注意するかしら」 そう言って設計図と一緒に戸棚の鍵を渡す金糸雀。そして、再三再四注意する金糸雀。 雛苺が病室を出て行った後、金糸雀は呟く。 金「結構楽しかったのかしら。次もこんな風に実験してみようかしら~」 実験は前日に設計図通りに組み立てられた器具で安全に行われ、視察に来た人もその独創的な実験を絶賛した。 金「ようやく完成したのかしら~」 場所は再び理科準備室に戻る。どうやら、作成していた実験器具が完成したようだ。 金「これで明日の実験も・・・・・・って、もうこんな時間!」 時計の針は既に午後11時を回っていた。 金「もう終電も無いし・・・今日も学校にお泊りかしら~」 そう言って持参の寝袋を広げ、部屋の電気を消して入る。 金「お休みなさい・・・」 金糸雀・・・有栖学園に在籍する、教師一の頑張り屋である。

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