「巴と剣道部」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

巴と剣道部」(2006/06/01 (木) 15:49:35) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

放課後の有栖学園。 日も傾き始めたこの時間、この場で目にする事ができる生徒の種類は2つ。 ・下校する者。 ・部活動に励む者。 下校する者は、これからどこに遊びに行くか等の、他愛のない雑談をしながら校門の外へと向かう。 部活動に励む者は、運動場や体育館、または教室で、それぞれの道に向かって励んでいる。 その後者に属する一人、柏葉巴は、今日も武道場で仲間達と汗を流している。 「10分休憩ー!」 剣道部の主将である巴の号令で、部員達は僅かな時間を過ごすために散らばる。 水を飲む者、外に出て風に当たる者、竹刀や防具の手入れをする者。 それぞれがいる中で巴は、今年から入った顧問の蒼星石のもとに居た。 「もうすぐ大会だね、柏葉君」 「そうですね、先生」 「今度の大会は優勝できるかな?」 「部員のみんなも頑張ってくれてるから、良い結果が残せると思いますよ。ただ、油断は禁物ですけどね」 実際、巴の言った事に間違いはない。 有栖学園剣道部は、全国とまでは行かないが、大会でもそれなりの成績を残している。 「そうだね、一瞬のミスが命取りだからね」 「だから、今日は練習試合をしようと思います」 「まぁ、大会も近いし、それで良いんじゃないかな」 「わかりました、私はみんなに伝えてきますので」 「あっ、ちょっと待って」 「なんですか?」 「今日は僕も防具をつけて参加させてもらうよ、良い機会だし」 そして、練習は再開した。 「始め!」 道場では、部員達の咆哮がこだまする。 「めーん!」 「面あり、…始め!」 「こてぇー!」 「小手あり、…勝負あり!」 「ありがとうございました」 一試合終えた巴は、蒼星石の方を見た。 蒼星石は、基本練習を終えてこちらに向かっていた。 「じゃあ、始めようか」 こうして始まった蒼星石との練習試合。 試合方法は、レギュラー5人との勝ち抜き戦。 詳しく言えば、蒼星石対レギュラー5人の試合。 部員達は蒼星石に対して、全勝はできなくても、一勝くらいはできるだろうと考えていた。 実際、そう考える事ができるだけの実力が部員達にはあった、が… 「始め!」 「…勝負あり!」 先鋒、次鋒、中堅、副将は、ストレートの二本負けで蒼星石に敗れてしまった。 部員達は、目の当たりにした蒼星石の実力に慄いていた。 蒼星石は様子見をしていたのであった。 その実力を隠し、普段の練習風景などを見て、部員達がどの程度の実力であるのかを。 残すは、大将の巴との試合のみとなった。 「始め!」 審判の掛け声と共に、試合は始まった。 「やぁー!」 蒼星石の激しい咆哮に、巴もそれで応酬する。 「はぁー!」 一時の精神のせめぎ合いの後、先に攻勢を仕掛けたのは蒼星石であった。 「めーん!」 蒼星石の素早い攻撃に、巴は竹刀で防御する。 竹刀から伝わる衝撃が、蒼星石の一撃の重さを語っていた。 二人はそのまま鍔迫り合いの格好へと移行する。 そして、再び精神のせめぎ合いに発展した。 次に攻勢に出たのは巴。 下がり際に、小手に一撃を与えようと竹刀を下ろす。 しかし、それは蒼星石によってかわされてしまう。 再び離れる二人。 道場全体には重い空気が漂い、部員達は息を飲んでそれを見守っていた。 沈黙を破ったのは巴。 「めーん!」 巴は渾身の一撃を放つ。 しかし、そこに蒼星石の姿は無かった。 そして、一瞬の後 パァーン! と小気味の良い音と共に 「どぉー!」 と蒼星石の掛け声が道場に響いた。 「胴あり!」 審判の掛け声で、巴は自分の状況に気がついた。 ひたすら対時していた状況を打開しようと、先手を打ったつもりだった。 だが、それは違った。 蒼星石は見抜いていた。 巴が気圧されていた事を。 故に、隙を見せるだろうと。 「始め!」 審判の掛け声と共に、再び試合は始まった。 「止め!…勝負あり!」 審判の掛け声と共に挙がったのは、蒼星石の旗であった。 巴は敗れた。 しかし、二本目からの巴の動きは、一本目のそれとは、かなり違っていた。 巴は積極的に攻勢に出て、その攻撃は、相手に反撃の隙を与えないぐらいに激しいものであった。 傍から見ればそれは、半ばヤケクソのようにしか見えないだろう。 だが、相手をしていた蒼星石から見れば、それは違う。 巴は、自分が持つ、全ての力をもって蒼星石に臨んでいた。 その攻撃は、一本目のような迷いではなく、意思のこもった、ある意味真っ直ぐな攻撃であった。 結局、巴は蒼星石から一本を取ることはできなかった。 だが、蒼星石も、その後巴から一本を取ることはできなかった。 試合後、蒼星石は相手をした部員達に、その敗因を説いていた。 そして、巴の番が来た。 「柏葉君」 「はい」 「君は精神面が弱い」 「…はい」 「一本目のとき…、君は気圧されていただろう?」 「…はい」 「そこに生まれた君の迷いが、あの隙を生んだ」 「……はい」 「でも…、二本目からの君は、気迫に溢れていたよ」 「剣道は、前に出て行くことが大切だと、まだ短い期間だけど僕は教えてきた」 「だから一本目のとき、君はそれに従って前に出てきた」 「だけど、それは迷いから生まれたもので、それは前に出ているとは言い難い」 「でも、二本目の君は、真っ直ぐな意思で前に出てきた」 「落ち着いた、それでいて激しい攻撃」 「正直僕も、あそこまでやれるとは思わなかったよ」 「まあ、今日のは激しすぎると思うけどね。あれじゃ体力が持たないよ」 「でもね、今日のことは忘れないで欲しい」 「いつか君にも、またこのような状況が来ると思う」 「でも、この真っ直ぐな意思を持っていれば、君にはそれを超えられる」 「今日、君が僕に見せてくれた意思は」 「僕のそれを、遥かに上回っていた」 「だから、今日のことを忘れず、これからもがんばって欲しい。…以上!」 「…はい!ありがとうございました!」 蒼星石は、そう述べて立ち上がり、部員達の方を向いた。 「じゃ、練習の続きを始めようか♪」 「「はい」」 「声が小さい!」 「「はいっ!」」 本気を出した蒼星石による、剣道部の練習地獄の日々は、これから始まったばかり。
 放課後の有栖学園。 日も傾き始めたこの時間、この場で目にする事ができる生徒の種類は2つ。 ・下校する者。 ・部活動に励む者。 下校する者は、これからどこに遊びに行くか等の、他愛のない雑談をしながら校門の外へと向かう。 部活動に励む者は、運動場や体育館、または教室で、それぞれの道に向かって励んでいる。 その後者に属する一人、柏葉巴は、今日も武道場で仲間達と汗を流している。 「10分休憩ー!」 剣道部の主将である巴の号令で、部員達は僅かな時間を過ごすために散らばる。 水を飲む者、外に出て風に当たる者、竹刀や防具の手入れをする者。 それぞれがいる中で巴は、今年から入った顧問の蒼星石のもとに居た。 「もうすぐ大会だね、柏葉君」 「そうですね、先生」 「今度の大会は優勝できるかな?」 「部員のみんなも頑張ってくれてるから、良い結果が残せると思いますよ。ただ、油断は禁物ですけどね」 実際、巴の言った事に間違いはない。 有栖学園剣道部は、全国とまでは行かないが、大会でもそれなりの成績を残している。 「そうだね、一瞬のミスが命取りだからね」 「だから、今日は練習試合をしようと思います」 「まぁ、大会も近いし、それで良いんじゃないかな」 「わかりました、私はみんなに伝えてきますので」 「あっ、ちょっと待って」 「なんですか?」 「今日は僕も防具をつけて参加させてもらうよ、良い機会だし」 そして、練習は再開した。 「始め!」 道場では、部員達の咆哮がこだまする。 「めーん!」 「面あり、…始め!」 「こてぇー!」 「小手あり、…勝負あり!」 「ありがとうございました」 一試合終えた巴は、蒼星石の方を見た。 蒼星石は、基本練習を終えてこちらに向かっていた。 「じゃあ、始めようか」 こうして始まった蒼星石との練習試合。 試合方法は、レギュラー5人との勝ち抜き戦。 詳しく言えば、蒼星石対レギュラー5人の試合。 部員達は蒼星石に対して、全勝はできなくても、一勝くらいはできるだろうと考えていた。 実際、そう考える事ができるだけの実力が部員達にはあった、が… 「始め!」 「…勝負あり!」 先鋒、次鋒、中堅、副将は、ストレートの二本負けで蒼星石に敗れてしまった。 部員達は、目の当たりにした蒼星石の実力に慄いていた。 蒼星石は様子見をしていたのであった。 その実力を隠し、普段の練習風景などを見て、部員達がどの程度の実力であるのかを。 残すは、大将の巴との試合のみとなった。 「始め!」 審判の掛け声と共に、試合は始まった。 「やぁー!」 蒼星石の激しい咆哮に、巴もそれで応酬する。 「はぁー!」 一時の精神のせめぎ合いの後、先に攻勢を仕掛けたのは蒼星石であった。 「めーん!」 蒼星石の素早い攻撃に、巴は竹刀で防御する。 竹刀から伝わる衝撃が、蒼星石の一撃の重さを語っていた。 二人はそのまま鍔迫り合いの格好へと移行する。 そして、再び精神のせめぎ合いに発展した。 次に攻勢に出たのは巴。 下がり際に、小手に一撃を与えようと竹刀を下ろす。 しかし、それは蒼星石によってかわされてしまう。 再び離れる二人。 道場全体には重い空気が漂い、部員達は息を飲んでそれを見守っていた。 沈黙を破ったのは巴。 「めーん!」 巴は渾身の一撃を放つ。 しかし、そこに蒼星石の姿は無かった。 そして、一瞬の後 パァーン! と小気味の良い音と共に 「どぉー!」 と蒼星石の掛け声が道場に響いた。 「胴あり!」 審判の掛け声で、巴は自分の状況に気がついた。 ひたすら対時していた状況を打開しようと、先手を打ったつもりだった。 だが、それは違った。 蒼星石は見抜いていた。 巴が気圧されていた事を。 故に、隙を見せるだろうと。 「始め!」 審判の掛け声と共に、再び試合は始まった。 「止め!…勝負あり!」 審判の掛け声と共に挙がったのは、蒼星石の旗であった。 巴は敗れた。 しかし、二本目からの巴の動きは、一本目のそれとは、かなり違っていた。 巴は積極的に攻勢に出て、その攻撃は、相手に反撃の隙を与えないぐらいに激しいものであった。 傍から見ればそれは、半ばヤケクソのようにしか見えないだろう。 だが、相手をしていた蒼星石から見れば、それは違う。 巴は、自分が持つ、全ての力をもって蒼星石に臨んでいた。 その攻撃は、一本目のような迷いではなく、意思のこもった、ある意味真っ直ぐな攻撃であった。 結局、巴は蒼星石から一本を取ることはできなかった。 だが、蒼星石も、その後巴から一本を取ることはできなかった。 試合後、蒼星石は相手をした部員達に、その敗因を説いていた。 そして、巴の番が来た。 「柏葉君」 「はい」 「君は精神面が弱い」 「…はい」 「一本目のとき…、君は気圧されていただろう?」 「…はい」 「そこに生まれた君の迷いが、あの隙を生んだ」 「……はい」 「でも…、二本目からの君は、気迫に溢れていたよ」 「剣道は、前に出て行くことが大切だと、まだ短い期間だけど僕は教えてきた」 「だから一本目のとき、君はそれに従って前に出てきた」 「だけど、それは迷いから生まれたもので、それは前に出ているとは言い難い」 「でも、二本目の君は、真っ直ぐな意思で前に出てきた」 「落ち着いた、それでいて激しい攻撃」 「正直僕も、あそこまでやれるとは思わなかったよ」 「まあ、今日のは激しすぎると思うけどね。あれじゃ体力が持たないよ」 「でもね、今日のことは忘れないで欲しい」 「いつか君にも、またこのような状況が来ると思う」 「でも、この真っ直ぐな意思を持っていれば、君にはそれを超えられる」 「今日、君が僕に見せてくれた意思は」 「僕のそれを、遥かに上回っていた」 「だから、今日のことを忘れず、これからもがんばって欲しい。…以上!」 「…はい!ありがとうございました!」 蒼星石は、そう述べて立ち上がり、部員達の方を向いた。 「じゃ、練習の続きを始めようか♪」 「「はい」」 「声が小さい!」 「「はいっ!」」 本気を出した蒼星石による、剣道部の練習地獄の日々は、これから始まったばかり。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー