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水銀燈「…ん…もう、こんな時間か…。」 その日、水銀燈はいつものように、規定の時間に学校へ行かずに惰眠をむさぼっていた。 いつもなら、このぐらいの時間になると薔薇水晶が迎えに来るはずなのだが、どうやら今日は諦めたらしい。 水銀燈「ふぅ…こんなことで済むのなら、始めからインターホンの電源を切っておけばよかったわぁ…♪」 そう言うと、水銀燈は布団をかけなおし、静かに寝息を立て始めた。 しかしその直後、どこからともなくヘリコプターの轟音が辺りに響き渡る。 水銀燈「…うるさいわねぇ…。一体何の宣伝よ…?」 そう、それはただのヘリコプターのはずだった。 頭から布団をかぶり、その轟音に耐える水銀燈。そこへ、窓ガラスの割れる音が室内に響く。 その音に驚いて飛び起きると、そこには薔薇水晶に似た白い服の女性がいた。 水銀燈「誰…!?」 思わず身構える水銀燈。白い服の女性は、微笑みながらこう答えた。 雪華綺晶「初めまして…お姉さま。私は、薔薇水晶の姉…雪華綺晶…。妹の命により、貴女を学校へ連行します…。」 …水銀燈と雪華綺晶…これが、2人の初めての出会いだった。 ローゼン「…というわけで、全員そろったところで皆に紹介するね。この方は、薔薇水晶のお姉さんの『雪華綺晶』君。ちなみに前職では、傭兵の仕事をしていたらしいよ?」 その紹介に、あるものは驚きの声を上げ、あるものは『こいつにはイタズラするのは控えよう』と心に誓った。 ローゼン「じゃあ、早速仕事を…といいたいところなんだけど、まだ君の机が無いんだよね?薔薇水晶君、旧校舎から机を持ってきてあげてくれるかい?」 薔薇水晶「はい、喜んで…!」 姉と一緒に仕事が出来るのがとても嬉しいらしく、薔薇水晶は喜びに満ちた顔で旧校舎へと向かった。 それを確認すると、水銀燈は雪華綺晶にこんなことを言いだした。 水銀燈「…って事は、あなたは私の『後輩』って事よねぇ…?先輩の家の窓ガラスを勝手に割っていいと思ってる訳ぇ?」 雪華綺晶「えっ…!?ご、ごめんなさい!お姉さま…!!きちんと弁償しますから…!!」 その言葉に思わず水銀燈はほくそ笑んだ。 軍隊といえば、やはり体育会系…そして、上下関係は絶対…その予想は見事に当たった。 水銀燈「いいのよぉ…♪元々、私が学校に来なかったのが悪かったんだしぃ…。あ、でも、今日お財布持ってくるの忘れちゃったから、お昼ご飯代貸してくれるぅ?」 …こうして、水銀燈は雪華綺晶にたかり始めた。 薔薇水晶「姉さん、今日は久しぶりに外でご飯食べない…?」 雪華綺晶「…ごめん。お金、無いから…」 学校へ赴任してから1週間…雪華綺晶はお金の工面に苦労していた。 あれからというもの、水銀燈はコーヒー代から架空の香典費用に至るまで、あらゆる面で雪華綺晶にお金を『借り』に来た。 雪華綺晶としては、先輩の頼みを断るわけにもいかず、また妹にカッコ悪いところを見せるわけにもいかずといった悪循環にはまりつつあった。 そんな雪華綺晶の様子を不審に思ったのか、ある日薔薇水晶は雪華綺晶のあとを尾行した。 元々傭兵だっただけに、何度かばれそうにはなったが、ついにその原因を突き止めることに成功した。 水銀燈「ごめんねぇ…急に呼び出したりなんかしちゃって…。実は私、車で人引いちゃって、その示談金に200万ぐらい…いや、100万でいいから貸して欲し…」 薔薇水晶「姉さん…!この人の言っている事は全部嘘だから、騙されちゃダメ…!!」 突然現れた薔薇水晶に少し驚きながらも、水銀燈は落ち着きを取り戻し返答した。 水銀燈「失礼ねぇ…。勝手に嘘つき呼ばわりしないでくれるぅ…?」 薔薇水晶「だって、銀ちゃんの車…傷一つ付いて無いじゃない…!最近、何か姉さんが元気ないと思ったら、こういうことだったのね…!!早く、姉さんに貰ったお金…返してあげて!」 水銀燈「やぁよぅ…毎日ヘリで登校するぐらいだから、お金一杯持ってるんでしょう?それに、お姉ちゃんが決めたことに、妹が口を挟んじゃダメよぉ。さ、行きましょう…雪華綺晶…♪」 雪華綺晶「で…でも…」 雪華綺晶の手を引っ張って、外へ連れ出そうとする水銀燈。その行く手を薔薇水晶が遮った。 薔薇水晶「だめ…。お願いだから、早く返してあげて…!」 水銀燈「…邪魔よ!」 そう言って、水銀燈は薔薇水晶を突き飛ばした。 「うっ…!」っと短く声をあげ、尻餅をつく薔薇水晶。その薔薇水晶に駆け寄ると、雪華綺晶は水銀燈をにらみ、小さくこう呟いた。 雪華綺晶「…ばらしーを、いじめたな…?」 その声を聞き、薔薇水晶は思わず叫んだ。 薔薇水晶「大変…!!銀ちゃん、早く姉さんに謝って…!こうなると、私でも止められないの…!!だから、早く…!!」 水銀燈「ふん…何を言ってるの!?傭兵だか何だか知らないけど、この私にかなうわけ…」 その瞬間、1発の銃声が廊下に響き渡った。水銀燈の輝くような銀色の髪が、何本か地面に落ちる。 水銀燈「…え!?」 雪華綺晶が取り出したもの…それは、デリンジャーと呼ばれる小型の拳銃だった。 再びそれを水銀燈に構えると、雪華綺晶はこう言った。 雪華綺晶「…私はどうなってもいい…。でも、妹に手を出すことだけは絶対に許さない…!!」 薔薇水晶「姉さん、やめて!私なら大丈夫だから!!銀ちゃん…早く!!」 真紅「何!?今の音は一体何なの!?」 発砲音を聞きつけ、続々と人が集まってくる。 その人ごみのせいで、もはや逃げようにも逃げられない状況になった水銀燈は、ついに雪華綺晶に謝罪した。 それは、決して屈しない女…水銀燈が初めて公式の場で人に謝罪した瞬間でもあった。 そう…有栖川学園最凶と謳われた水銀燈が、この屈辱を味あわせてくれた雪華綺晶を斃すためには、少しだけ時間が必要だった…。 心の奥底で、残忍かつ徹底的な復讐を誓う水銀燈…。 こうして、多くの火種を残しながらも、一時的な均衡は学園に訪れた。 そして、幾多の争いを経験するうちに、互いの気心が知れるようになると、両者の関係は良好なものへと変化していった。 …雨降って、地固まる… 二人には、そんな言葉がよく似合っていた。 完

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