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風が吹くたびに地面が桜色に染まってゆく。 桜の季節の全てが新たな出会いに心躍る季節とは限らない。出会いがあれば当然別れもある。 今日は離任式。今まで有栖学園に尽力してきた教職員が去って行く日。それは、避けては通れない日。 離任式を終えた職員室は、去って行く教師と、それを惜しむ生徒たちでごった返していた。 制服姿の生徒たちに混ざって、過去その教師のお世話になった卒業生たちが花束を涙ながらに贈っていた。 そんな中で、来年もここ有栖学園で教師を続ける自分たちは邪魔者以外の何者でもない。 そのような判断を下した蒼星石と翠星石は、校舎から少し離れたところにある桜の木の根元で、時間が過ぎるのを待っていた。 「……寂しくなるね」 足を投げ出し、木の幹に背中を預けていた蒼星石が、呟くように言った。 「……そうですか?翠星石はそれほど悲しくねーですけど?」 蒼星石のすぐ隣で、体育座りをしていた翠星石がそっけなく返す。だが、その目は真っ赤に泣き濡れていた。 蒼星石はそんな翠星石を見て思わず噴きだしてしまった。 「な、なんです!?」 急に笑い出した蒼星石に翠星石はすぐさま反応した。だが、決して蒼星石の方を見ようとはしなかった。 涙で濡れた目を見られたくないのだろうか。そんな翠星石に、再び笑いだしてしまいそうになったが、グッと堪えた。 「うぅん、なんでもない」 それから暫く2人は、舞い落ちる桜の花びらをじっと見つめていた。 なんの感情もなくただ風に揺られて落ちてゆく桜の花びらが、この上なく物悲しく映った。 その花びらの中の一枚が手の平に落ちた時、蒼星石はそっと独り言のように呟いた。 「この散って行く桜のように、僕たちにもいずれ別れは来るんだよね…」 「え…な、何言ってやがるですか!?」 蒼星石の突然の発言に驚いた翠星石に向かって話しかけているのか、自分自身に語りかけているのか、蒼星石はそのまま続けた。 「僕たちが教師である以上、別れはいつの日か必ず…」 手の平に乗った桜をギュッと握り締め、蒼星石は搾り出すような声で呟いた。 そんな蒼星石に、翠星石は馬鹿なことを言うなと顔をしかめた。 「も、もし蒼星石先生がこの学校を出て行くときが来たなら、その時は翠星石も一緒に出ていくです!!」 「ははは、そんなことは駄目だよ。僕たちがどこへ行くかを決めるのはローゼン校長や教育委員会なんだから……」 翠星石のとんでもない発言に思わず笑う蒼星石。そんなことは分かっていると、翠星石は自分の両膝に顔を埋めた。そして辛うじて聞き取れる程の声で言った。 「す、翠星石と蒼星石先生はずっと一緒です……!!ずっと、ずっと一緒です……」 もしそうだったらどれだけ素晴らしいだろうか。だが、こればかりは蒼星石たちにはどうしようもなかった。 来年度もとりあえずは一緒に働ける。でも、もしかしたら……。 そこまで考えて蒼星石は首を振り、苦笑した。そんな未来のことを考えても仕方がない。 今は、隣にいる翠星石や、真紅たちと一緒に働ける幸せを胸いっぱいに感じよう。 「そうだね、ごめん。僕たちはいつまでも一緒だ……」 そう言って蒼星石は翠星石の肩に頭を預けた。こうしていると、翠星石の温もりが自分に流れ込んでくるようで、とても気持ちがよかった。 「蒼星石先生……?」 「しばらく、こうさせて……」 眠るように瞳を閉じた。そんな普段見せない蒼星石の姿に、翠星石の顔は思わず綻んだ。 「蒼星石先生は甘えん坊さんですぅ」 翠星石は蒼星石のように足を投げ出すと、蒼星石の手をぎゅっと握った。 「ずっと、ずっと一緒です……。たとえ教える学校が違っても、離れ離れになっても、翠星石と蒼星石先生は心で繋がってるです……」 「うん……」 桜の木を撫でるように風が過ぎ去った。桜の花びらが2人を包み込むように舞い散る。 その中で2人は、お互いに寄り添い合いながら瞳を閉じた。お互いの温もりを確かめ合うように……

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