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球技大会―金糸雀対翠星石」(2006/03/23 (木) 00:27:58) の最新版変更点

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金糸雀率いるA組 対 翠星石率いるH組 種目はバドミントン、ダブルスで2ゲーム先取の3ゲームマッチ 教師は強制参加なので一人は確定、後は両者ともクラスの中で一番適していそうな者をパートナーに選抜 金糸雀側は柔道部主将の五十嵐、身長180㎝を優に越え、筋骨隆々なその姿は否が応でも力で攻めてくることを想像させる。 翠星石側は剣道部主将の三堂、ほっそりとした体だが、決して頼りなさを感じさせないその立ち居振る舞いに誰もが固唾を呑む。 斯くして、戦いの火蓋は切って落とされた。 先制サーブは翠星石サイド 「いくですよ、三堂」 「ええ、どうぞ先生」 翠星石がサーブを打つ 球速は緩いが、安定した球 対するレシーバーは金糸雀 「きき、きたのかしらー」 既にパニック気味になっている金糸雀 「先生! しっかりしてください」 と、五十嵐独特の野太い声でどうにか落ち着きを取り戻した金糸雀は、自分めがけてきた球を一歩後ろに後退しやっとのことで打ち返す。 この瞬間、三堂の中で金糸雀は敵ではなくなった。 残るは柔道部主将の五十嵐、力量はまだ未知数だ。 打ち返された球は、三堂の方へと力なく落下してくる。 「三堂! あんな奴らまとめてやっつけちまうです。」 横で翠星石の声が聞こえるが、ここはあくまで慎重に様子見の一発、三堂は五十嵐に狙いを定め打つ。 打たれた球は軽やかに、かつ小気味いい音とともに五十嵐へと向かっていく。 「五十嵐~、翠星石狙いでいくのかしら~」 金糸雀の五十嵐に対するアドバイス 翠星石は咄嗟に身構える。 ところが打たれた球は翠星石ではなく三堂のほうへと向かい、更にその球の安定感から単なるミスではないことがわかる。 「五十嵐、なんで三堂のほうにやるのかしら?」 「しくじりました。」 「嘘かしら、今のは完全に三堂を狙ってたのかしら」 「すいません金糸雀先生、ですが、策あってのことです。」 五十嵐の鋭い目に偽りはない。 「そ、そうなのかしら? じゃ、じゃあ任せるのかしら」 「任せてください」 五十嵐は言い終わるとほぼ同時にネット際に向かって走り出す。 五十嵐の戦法はその長身を活かしたネット際のプレイだろう。 しかしそんな戦法はただ五十嵐の手の届かないくらい高いロブをいいだけの話で、ボールコントロールの巧みな三堂にとっては造作も無いこと、三堂はイメージ通りの高いロブを打つ 無論、五十嵐は手が出せないが、本命はその後ろ金糸雀だった。 「先生!」 「わかったかしら!」 ロブは最終的にはただの緩い球、絶好球となる。 だからいくら金糸雀であろうと打ち損じる確立は低い。 金糸雀の打った球は軽やかに相手側のコートへと飛んでいく。 しばらくの間はその繰り返しが続き、技術の面で上回っていた翠星石側が金糸雀のミスによって地道に得点を稼ぎ、1ゲーム目を先取した。 そして2ゲーム目は翠星石側のロブの打ち損じによって五十嵐の強烈なサーブを食らったり、金糸雀のミスの減少などにより金糸雀側が勝利した。 最後の3ゲーム目、今は3対5と翠星石側が2点リードしている。 「はぁ・・はぁ・・所詮・・金糸雀なんてこんなもんです。」 翠星石は荒々しい呼吸を繰り返しながらも、2点上回っているという楽観的な考えを崩さない。 けれど、三堂の顔はそれに反してとても厳しい、少し雲行きが怪しくなり始めたからだ。 まず、最初の頃よりも金糸雀がうまくなっていること、慣れてきたといったほうがいいかもしれない 帰ってくる球が早くなり、ネットギリギリを狙うような低い球も出てきた。 そのため、元々低い球をロブにするのだから翠星石側としては相当な体力を消費することになるし、ロブを打ち損じれば五十嵐の強烈なサーブの餌食となる。 更に、こちら二人はもうヘトヘトだというのに、相手側の要である五十嵐は汗一つかいていない この状況に、思わず眉間に皺が寄る。 「何暗い顔してやがるです、あれこれ考えずにおめぇは勝つことだけを考えてろです。」 翠星石の唐突なアドバイスにハッとする。 そうだ、確かに今は勝つことを考えなければ 「・・・そうですね、勝ちましょう」 ラケットを握る手に再度力を入れる。 「あっちは何か話してるのかしら?」 もはや余裕綽々といった感じの金糸雀 だが五十嵐は決してその表情を緩めない 「そうですね、そろそろ何か仕掛けてくるかもしれません」 「そんなの全然怖くないのかしら、カナのこの完璧な作戦が敗れるなんてありえないのかしら」 「・・・」 「な、なんで黙るのかしら、なんとか言うのかしら」 「先生、来ますよ」 気付くと、既に三堂がサーブを打つ体勢になっていた。 金糸雀も慌てて持ち場に着くと 「さぁぁあああああああああああああ!!」 三堂からとんでもない声が発せられる。 奇声ともに思いっきりぶったたかれた球は、天井にバウンドし威力を上げながら金糸雀の頭上に落下してくる。 どう対処していいかわからない金糸雀はその場で頭を抑えながらしどろもどろするばかり そこで五十嵐が後退し上から急降下してくる球に狙いをつけ打ち返すが、既にネット際で待ち構えていた翠星石が球を相手のコートへと見事に叩き落す。 「やったですやったです! やったですよおめぇ」 ラケットを振り回して喜ぶ翠星石 「この調子でいきましょう」 それに対してあくまで冷静さを保つ三堂 がこの時三堂の右腕は既に限界を超えており、ラケットを持つのが精一杯なありさまだった。 もうこの右腕でさっきのサーブを打てるかどうかはわからない。 ・・・いや、打てるかどうかじゃない、打つしかないんだ。 またもマイナス思考ぎみになっていた自分に活をいれ、静かにサーブの姿勢に入る。 「さぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!」 先ほどよりも更に気合の入った鳥肌の立つような声、しかし球はあまり高く上がらない、それどころか五十嵐にとっては打ちごろの球といっても過言ではない高さ そして予想通り、球は五十嵐のサーブにより翠星石側のコートに叩き落される。 この時点で、決着はついた。 三堂がもうまともにプレイできる状態ではないことは誰が見ても明らかなこと、お互いにこれ以上のプレイにはデメリットしか残されていない スッ、と翠星石がおもむろに手を上げると、審判はタイムをかけ翠星石のもとへと駆け寄る。 近寄ってきた審判に翠星石が何か一言言ったかと思うと、突然審判が 「試合終了~、H組試合放棄のためA組の勝利~」 場内は一瞬どよめきに包まれるが、すぐに誰もが納得し次第におちついていく。 そんな中、三堂は相手チームに向かって一つ礼をし、静かに会場を後にした。 翠星石はそれに気がつくと、三堂の後を追いかける。 「なんか、すっきりしないのかしら」 「・・・そうですね」 勝利は時に虚しいもの、金糸雀率いるA組にとってあまりよい勝利とは言えなかっただろう。 だがそれも仕方のないこと、結果的にA組対H組の試合はA組の勝利によってその幕を閉じた。 ――番外編 翠星石は三堂を探していた。 保健室に行っていなかったからだ。 そこらへんの教室を片っ端から覗いていく翠星石 すると、H組の教室に御堂がいた。 三堂は翠星石に背を向ける形で立っている。 「こんなところでなにしてやがるです、さっさと保健室に行きやがれです。」 だが、三堂からの返答はない。 三堂は自分の不甲斐なさに泣いていた、クラスの代表に選ばれた責任を果たせなかった、そんな自分のことが情けなくてしょうがなかった。 翠星石はわかっていた、三堂が泣いていることも、何故泣いているのかも、泣いている姿を誰にも見られたくないことも すべてをわかりきった上で、翠星石はどうしても言わなければならないことがあった。 「三堂、誰もおめぇを責めたりなんかしやがらねえです、だから、早いとこ保健室にいって来るです。」 その言葉は、今の三堂にとってなによりも救いになる一言 翠星石は、それだけを言い終えると静かに教室を去っていく。 翠星石の去っていく音を聞いた三堂はすぐさま教室を飛び出し、去っていく翠星石に深々と礼をした。 心の底から、感謝の気持ちを込めて 終わり
金糸雀率いるA組 対 翠星石率いるH組 種目はバドミントン、ダブルスで2ゲーム先取の3ゲームマッチ 教師は強制参加なので一人は確定、後は両者ともクラスの中で一番適していそうな者をパートナーに選抜 金糸雀側は柔道部主将の五十嵐、身長180㎝を優に越え、筋骨隆々なその姿は否が応でも力で攻めてくることを想像させる。 翠星石側は剣道部主将の三堂、ほっそりとした体だが、決して頼りなさを感じさせないその立ち居振る舞いに誰もが固唾を呑む。 斯くして、戦いの火蓋は切って落とされた。 先制サーブは翠星石サイド 「いくですよ、三堂」 「ええ、どうぞ先生」 翠星石がサーブを打つ 球速は緩いが、安定した球 対するレシーバーは金糸雀 「きき、きたのかしらー」 既にパニック気味になっている金糸雀 「先生! しっかりしてください」 と、五十嵐独特の野太い声でどうにか落ち着きを取り戻した金糸雀は、自分めがけてきた球を一歩後ろに後退しやっとのことで打ち返す。 この瞬間、三堂の中で金糸雀は敵ではなくなった。 残るは柔道部主将の五十嵐、力量はまだ未知数だ。 打ち返された球は、三堂の方へと力なく落下してくる。 「三堂! あんな奴らまとめてやっつけちまうです。」 横で翠星石の声が聞こえるが、ここはあくまで慎重に様子見の一発、三堂は五十嵐に狙いを定め打つ。 打たれた球は軽やかに、かつ小気味いい音とともに五十嵐へと向かっていく。 「五十嵐~、翠星石狙いでいくのかしら~」 金糸雀の五十嵐に対するアドバイス 翠星石は咄嗟に身構える。 ところが打たれた球は翠星石ではなく三堂のほうへと向かい、更にその球の安定感から単なるミスではないことがわかる。 「五十嵐、なんで三堂のほうにやるのかしら?」 「しくじりました。」 「嘘かしら、今のは完全に三堂を狙ってたのかしら」 「すいません金糸雀先生、ですが、策あってのことです。」 五十嵐の鋭い目に偽りはない。 「そ、そうなのかしら? じゃ、じゃあ任せるのかしら」 「任せてください」 五十嵐は言い終わるとほぼ同時にネット際に向かって走り出す。 五十嵐の戦法はその長身を活かしたネット際のプレイだろう。 しかしそんな戦法はただ五十嵐の手の届かないくらい高いロブをいいだけの話で、ボールコントロールの巧みな三堂にとっては造作も無いこと、三堂はイメージ通りの高いロブを打つ 無論、五十嵐は手が出せないが、本命はその後ろ金糸雀だった。 「先生!」 「わかったかしら!」 ロブは最終的にはただの緩い球、絶好球となる。 だからいくら金糸雀であろうと打ち損じる確立は低い。 金糸雀の打った球は軽やかに相手側のコートへと飛んでいく。 しばらくの間はその繰り返しが続き、技術の面で上回っていた翠星石側が金糸雀のミスによって地道に得点を稼ぎ、1ゲーム目を先取した。 そして2ゲーム目は翠星石側のロブの打ち損じによって五十嵐の強烈なサーブを食らったり、金糸雀のミスの減少などにより金糸雀側が勝利した。 最後の3ゲーム目、今は3対5と翠星石側が2点リードしている。 「はぁ・・はぁ・・所詮・・金糸雀なんてこんなもんです。」 翠星石は荒々しい呼吸を繰り返しながらも、2点上回っているという楽観的な考えを崩さない。 けれど、三堂の顔はそれに反してとても厳しい、少し雲行きが怪しくなり始めたからだ。 まず、最初の頃よりも金糸雀がうまくなっていること、慣れてきたといったほうがいいかもしれない 帰ってくる球が早くなり、ネットギリギリを狙うような低い球も出てきた。 そのため、元々低い球をロブにするのだから翠星石側としては相当な体力を消費することになるし、ロブを打ち損じれば五十嵐の強烈なサーブの餌食となる。 更に、こちら二人はもうヘトヘトだというのに、相手側の要である五十嵐は汗一つかいていない この状況に、思わず眉間に皺が寄る。 「何暗い顔してやがるです、あれこれ考えずにおめぇは勝つことだけを考えてろです。」 翠星石の唐突なアドバイスにハッとする。 そうだ、確かに今は勝つことを考えなければ 「・・・そうですね、勝ちましょう」 ラケットを握る手に再度力を入れる。 「あっちは何か話してるのかしら?」 もはや余裕綽々といった感じの金糸雀 だが五十嵐は決してその表情を緩めない 「そうですね、そろそろ何か仕掛けてくるかもしれません」 「そんなの全然怖くないのかしら、カナのこの完璧な作戦が敗れるなんてありえないのかしら」 「・・・」 「な、なんで黙るのかしら、なんとか言うのかしら」 「先生、来ますよ」 気付くと、既に三堂がサーブを打つ体勢になっていた。 金糸雀も慌てて持ち場に着くと 「さぁぁあああああああああああああ!!」 突然三堂からとんでもない声が発せられる。 奇声ともに思いっきりぶったたかれた球は、天井にバウンドし威力を上げながら金糸雀の頭上に落下してくる。 どう対処していいかわからない金糸雀はその場で頭を抑えながらしどろもどろするばかり そこで五十嵐が後退し上から急降下してくる球に狙いをつけ打ち返すが、既にネット際で待ち構えていた翠星石が球を相手のコートへと見事に叩き落す。 「やったですやったです! やったですよおめぇ」 ラケットを振り回して喜ぶ翠星石 「この調子でいきましょう」 それに対してあくまで冷静さを保つ三堂 がこの時三堂の右腕は既に限界を超えており、ラケットを持つのが精一杯なありさまだった。 もうこの右腕でさっきのサーブを打てるかどうかはわからない。 ・・・いや、打てるかどうかじゃない、打つしかないんだ。 またもマイナス思考ぎみになっていた自分に活をいれ、静かにサーブの姿勢に入る。 「さぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!」 先ほどよりも更に気合の入った鳥肌の立つような声、しかし球はあまり高く上がらない、それどころか五十嵐にとっては打ちごろの球といっても過言ではない高さ そして予想通り、球は五十嵐のサーブにより翠星石側のコートに叩き落される。 この時点で、決着はついた。 三堂がもうまともにプレイできる状態ではないことは誰が見ても明らかなこと、お互いにこれ以上のプレイにはデメリットしか残されていない スッ、と翠星石がおもむろに手を上げると、審判はタイムをかけ翠星石のもとへと駆け寄る。 近寄ってきた審判に翠星石が何か一言言ったかと思うと、突然審判が 「試合終了~、H組試合放棄のためA組の勝利~」 場内は一瞬どよめきに包まれるが、すぐに誰もが納得し次第におちついていく。 そんな中、三堂は相手チームに向かって一つ礼をし、静かに会場を後にした。 翠星石はそれに気がつくと、三堂の後を追いかける。 「なんか、すっきりしないのかしら」 「・・・そうですね」 勝利は時に虚しいもの、金糸雀率いるA組にとってあまりよい勝利とは言えなかっただろう。 だがそれも仕方のないこと、結果的にA組対H組の試合はA組の勝利によってその幕を閉じた。 ――番外編 翠星石は三堂を探していた。 保健室に行っていなかったからだ。 そこらへんの教室を片っ端から覗いていく翠星石 すると、H組の教室に御堂がいた。 三堂は翠星石に背を向ける形で立っている。 「こんなところでなにしてやがるです、さっさと保健室に行きやがれです。」 だが、三堂からの返答はない。 三堂は自分の不甲斐なさに泣いていた、クラスの代表に選ばれた責任を果たせなかった、そんな自分のことが情けなくてしょうがなかった。 翠星石はわかっていた、三堂が泣いていることも、何故泣いているのかも、泣いている姿を誰にも見られたくないことも すべてをわかりきった上で、翠星石はどうしても言わなければならないことがあった。 「三堂、誰もおめぇを責めたりなんかしやがらねえです、だから、早いとこ保健室にいって来るです。」 その言葉は、今の三堂にとってなによりも救いになる一言 翠星石は、それだけを言い終えると静かに教室を去っていく。 翠星石の去っていく音を聞いた三堂はすぐさま教室を飛び出し、去っていく翠星石に深々と礼をした。 心の底から、感謝の気持ちを込めて 終わり

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