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料理研究会」(2008/10/17 (金) 22:14:05) の最新版変更点

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私立有栖学園。 それが僕が今年から通うことになった高校だ。 最近まで休校していて今年再びに始動することになった学校。 休校する前はそれなりに偏差値も高く人気の高校だったためか、 再始動一年目から倍率は高めだった。 一応勉強をしてきていたので、入れてよかったと思っている。 それに、この学校には僕にとって二つの良い点があった。 一つ目は先輩たちがいないこと。 人付き合いがあまり得意でない自分にとって先輩後輩の付き合いがないことは大いに助かる。 二つ目はある噂について。 入学前から風の噂で『この学校には昔薔薇乙女と呼ばれた8人の美人の先生がいるらしい』というものを聞いていた。 もし本当なら男として嬉しいことこの上ない。 どちらにしろこれから始まる高校生活に期待に胸を膨らませずにはいられなかった。 学校が始まってから数週間。 少しずつ学園生活にも慣れ始めていたが、早くも一つの悩みができていた。 どうやらこの学校は一年生の前期の間―つまり半年間―は絶対部活に入らなければいけないらしい。 それで、どの部活に入ろうか悩んでいたわけだ。 これといって運動が出来るわけでもないし、かといって文科系の部活にも興味はなかった。 それに、部活でまた人と交流するのが面倒だった。 人見知りな自分にも、クラスには友人と呼べるやつができていた。 それだけで十分だった。 部活一覧冊子を一通り眺めた後、料理研究会に顔を出してみることにした。 半年間だけ所属してすぐに辞めればいいと思っていたので、出来るだけ楽そうな部活にしたのだ。 そんなに人も集まらないだろうなと軽い気持ちで調理室に向かった。 冊子で指定されていた時間に調理室にやってきた訳だが、案の定人がいなかった。 一応鍵は開いていたので、中で待つことにした。 まさか一人もいないとは思っていなかったものの、それはそれでいつでもサボれるからいいかと、 横着なことを考えていた。 しばらくすると春の陽気に当てられてうとうとし始め、一眠りする姿勢をとったのだが、 一人の女性の登場によって、そのまま夢の世界に行くことは許されなかった。 「おめーらすまねぇです!園芸部の方に顔を出してたら遅れちまったです!!」 その女性は勢いよくドアを開け、半ば叫びながらの登場だったので少し吃驚してしまった。 「って一人だけですか。で、おめぇは料理研究会に入るのですか?」 「えっ?あっ一応」 「どうせ楽そうだからとか、サボれそうだからとかいう理由なんでしょーけど」 図星だった。 「まぁいいです。じゃあちょっと待ってるですよ」 「へっ?」 そう言うとその女性は慣れた手つきで料理を作り始めた。 しばらくすると目の前に艶やかな黄色い塊が差し出された。 「卵焼き……ですか」 「嫌いですか?」 「いえ、嫌いではないですけどもっとこう凄いものが出てくる流れかと」 この一言を聞いたあと、その女性は鬼のような形相になった。 「つべこべ言わずに食いやがれですっ!!」 「はっはい」 どうやら逆らわない方がいいみたいだ。 勧められるがままに卵焼きを一口食べてみる。 ふわっとした触感、出来たてのホクホク感。 そして砂糖そのもののな甘さではなく卵を引き立てるような甘みが口の中で広がる。 卵焼きってこんなに美味しかったっけ?と思ってしまうくらい美味しかった。 「っこれめちゃくちゃうまいですよ!」 「あったりめぇーです。翠星石が作ったもんが不味いわけがないです」 得意げに腕を組みながらその女性はそう呟いた。 どうやら名前は翠星石と言うらしい。 「保存しておいた翠星石特製のだし汁を使って作ったですからね」 ただの卵焼きでもなかったみたいだ。 卵焼きの糖分を摂取したからか、ようやく頭が回り始めて、一つ気になることを聞いてみた。 「えともしかして翠星石さんって先生?」 「そーですよそれ以外に何があるですか?」 どことなく不服そうな顔をして返事をしたので、慌てて付け足した。 「いやなんか先生にしては若くて綺麗だなって」 「なっ何馬鹿なこと言ってるですかっ!翠星石は先生なんですよっ!」 「おめぇみたいなチビチビを相手にするわけがないですっ!!」 自分の生徒に凄い言いようだ。 それに『先生にしては若くて綺麗だ』とだけしか言ってないのに。 でもこんなことで顔を真っ赤にして否定しているところを見ると、案外うぶなのかもしれない。 その後翠星石先生と雑談をして、いろいろなことがわかった。 翠星石先生はどうやら家庭科の先生で、園芸部とこの料理研究会の顧問をやっているらしい。 口は悪いが、料理は上手い。そして先生にしておくにはもったいないほど綺麗だった。 性格はまだよくわからないが、卵焼きを御馳走してくれたのだから、悪いはずはない。 そこでふと気づいた。 「でもなんで卵焼き作ってくれたんですか?」 「あぁそれは一応お前が料理研究会に入るからお祝いです」 「お祝いが卵焼き」 「何かいったですか?」 「いえ、なんでもないです。美味しかったです。ありがとうございます」 「わかればいいです」 性格は悪いはずはないと思う。 「さてじゃあ料理研究会の今年の目標を言うですよ」 「目標?」 そんなものがこの会にいるのだろうか。 たまに顔出して料理を作って食べるだけでいいじゃないか。 といつものように怠惰な思考が頭をよぎる。 「そうです。今年の目標は料理研究会を部活にすることです」 「はぁ」 「会のままだと良い食料が買えないのですぅ」 先ほどとは打って変わって、少ししゅんとしながらそんな事を言った。 なるほど、確かに会は部よりも格が低く、学校からの費用も少ないのだろう。 「いやでも、僕一人しかいないし会のままでも」 「なぁーに甘ったれたこと言ってるですか!!そんなんだからお前は卵焼きの良さもわからないのです」 それは関係ないと思うが話が進まないので黙っておく。 「いいですか料理研究会は行く行くは有栖学園一の部活になるのですよ」 「なんでですか?」 「やるからにはなんでも一番を目指すべきです」 何故か燃えている翠星石先生は、感受性や感情表現が豊かな人種なんだと思った。 でも僕はそうではない。 「いやでもそんな必要がないと思うんですけど」 「卵焼き食べたですよね?」 「?はい」 「翠星石が作った卵焼き」 「……はい」 俺が返事をすると、ニタァーという効果音が似合いそうな笑顔をみせた。 まるで魔女のような笑顔。 「じゃあ三年間頑張るですよ」 「……」 「翠星石の作った料理を食べたのに嫌とは言わせないです」 してやられた。 どうやら自分の考えは筒抜けだったみたいだ。 そして半年でやめることが出来なくなったみたいだった。 無茶苦茶な理論だったが、なぜか反論できなかった。 実はそれほど嫌な気がしていなかったからだろう。 こんな美人な先生と二人でいる時間が出来る。 それだけで来る価値はあると思える。 「まずは部にするための人集めです!」 翠星石先生が意気揚々と計画を立てているのを見て一つ悪戯をしてみたくなった。 「でも僕は先生と二人っきりがいいです」 「えっあっあああえ?」 予想通り顔を赤くしてうろたえている。 「冗談です」 「なっななななすっ翠星石をからかいやがったですねー!!」 人付き合いが苦手と言ってた自分が嘘みたい思えた。 翠星石先生だからだろうか。 「すみません。つい」 「……」 「先生?」 「翠星石をからかうとはいい度胸です。生徒が先生に逆らうとどうなるか思い知らせてやるですー!!」 どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。 翠星石先生がギャーギャー騒いでる横で僕は今後はなるべく怒らせないようにしなければと考えていた。 尻に敷かれてしまうことも多くなるだろう。 でもそれは多分我慢できる。 もちろん先生と生徒という立場だからだ。 けどそれ以上に、きっと一緒にいたら、これからの学園生活が楽しくなると思うから。 そんなこんなで僕は料理研究会への入会を決めた。 後日、翠星石先生があの薔薇乙女だとわかるのだが、それはまた別の話。
私立有栖学園。 それが僕が今年から通うことになった高校だ。 最近まで休校していて今年再びに始動することになった学校。 休校する前はそれなりに偏差値も高く人気の高校だったためか、 再始動一年目から倍率は高めだった。 一応勉強をしてきていたので、入れてよかったと思っている。 それに、この学校には僕にとって二つの良い点があった。 一つ目は先輩たちがいないこと。 人付き合いがあまり得意でない自分にとって先輩後輩の付き合いがないことは大いに助かる。 二つ目はある噂について。 入学前から風の噂で『この学校には昔薔薇乙女と呼ばれた8人の美人の先生がいるらしい』というものを聞いていた。 もし本当なら男として嬉しいことこの上ない。 どちらにしろこれから始まる高校生活に期待に胸を膨らませずにはいられなかった。 学校が始まってから数週間。 少しずつ学園生活にも慣れ始めていたが、早くも一つの悩みができていた。 どうやらこの学校は一年生の前期の間―つまり半年間―は絶対部活に入らなければいけないらしい。 それで、どの部活に入ろうか悩んでいたわけだ。 これといって運動が出来るわけでもないし、かといって文科系の部活にも興味はなかった。 それに、部活でまた人と交流するのが面倒だった。 人見知りな自分にも、クラスには友人と呼べるやつができていた。 それだけで十分だった。 部活一覧冊子を一通り眺めた後、料理研究会に顔を出してみることにした。 半年間だけ所属してすぐに辞めればいいと思っていたので、出来るだけ楽そうな部活にしたのだ。 そんなに人も集まらないだろうなと軽い気持ちで調理室に向かった。 冊子で指定されていた時間に調理室にやってきた訳だが、案の定人がいなかった。 一応鍵は開いていたので、中で待つことにした。 まさか一人もいないとは思っていなかったものの、それはそれでいつでもサボれるからいいかと、 横着なことを考えていた。 しばらくすると春の陽気に当てられてうとうとし始め、一眠りする姿勢をとったのだが、 一人の女性の登場によって、そのまま夢の世界に行くことは許されなかった。 「おめーらすまねぇです!園芸部の方に顔を出してたら遅れちまったです!!」 その女性は勢いよくドアを開け、半ば叫びながらの登場だったので少し吃驚してしまった。 「って一人だけですか。で、おめぇは料理研究会に入るのですか?」 「えっ?あっ一応」 「どうせ楽そうだからとか、サボれそうだからとかいう理由なんでしょーけど」 図星だった。 「まぁいいです。じゃあちょっと待ってるですよ」 「へっ?」 そう言うとその女性は慣れた手つきで料理を作り始めた。 しばらくすると目の前に艶やかな黄色い塊が差し出された。 「卵焼き……ですか」 「嫌いですか?」 「いえ、嫌いではないですけどもっとこう凄いものが出てくる流れかと」 この一言を聞いたあと、その女性は鬼のような形相になった。 「つべこべ言わずに食いやがれですっ!!」 「はっはい」 どうやら逆らわない方がいいみたいだ。 勧められるがままに卵焼きを一口食べてみる。 ふわっとした触感、出来たてのホクホク感。 そして砂糖そのもののな甘さではなく卵を引き立てるような甘みが口の中で広がる。 卵焼きってこんなに美味しかったっけ?と思ってしまうくらい美味しかった。 「っこれめちゃくちゃうまいですよ!」 「あったりめぇーです。翠星石が作ったもんが不味いわけがないです」 得意げに腕を組みながらその女性はそう呟いた。 どうやら名前は翠星石と言うらしい。 「保存しておいた翠星石特製のだし汁を使って作ったですからね」 ただの卵焼きでもなかったみたいだ。 卵焼きの糖分を摂取したからか、ようやく頭が回り始めて、一つ気になることを聞いてみた。 「えともしかして翠星石さんって先生?」 「そーですよそれ以外に何があるですか?」 どことなく不服そうな顔をして返事をしたので、慌てて付け足した。 「いやなんか先生にしては若くて綺麗だなって」 「なっ何馬鹿なこと言ってるですかっ!翠星石は先生なんですよっ!」 「おめぇみたいなチビチビを相手にするわけがないですっ!!」 自分の生徒に凄い言いようだ。 それに『先生にしては若くて綺麗だ』とだけしか言ってないのに。 でもこんなことで顔を真っ赤にして否定しているところを見ると、案外うぶなのかもしれない。 その後翠星石先生と雑談をして、いろいろなことがわかった。 翠星石先生はどうやら家庭科の先生で、園芸部とこの料理研究会の顧問をやっているらしい。 口は悪いが、料理は上手い。そして先生にしておくにはもったいないほど綺麗だった。 性格はまだよくわからないが、卵焼きを御馳走してくれたのだから、悪いはずはない。 そこでふと気づいた。 「でもなんで卵焼き作ってくれたんですか?」 「あぁそれは一応お前が料理研究会に入るからお祝いです」 「お祝いが卵焼き」 「何かいったですか?」 「いえ、なんでもないです。美味しかったです。ありがとうございます」 「わかればいいです」 性格は悪いはずはないと思う。 「さてじゃあ料理研究会の今年の目標を言うですよ」 「目標?」 そんなものがこの会にいるのだろうか。 たまに顔出して料理を作って食べるだけでいいじゃないか。 といつものように怠惰な思考が頭をよぎる。 「そうです。今年の目標は料理研究会を部活にすることです」 「はぁ」 「会のままだと良い食料が買えないのですぅ」 先ほどとは打って変わって、少ししゅんとしながらそんな事を言った。 なるほど、確かに会は部よりも格が低く、学校からの費用も少ないのだろう。 「いやでも、僕一人しかいないし会のままでも」 「なぁーに甘ったれたこと言ってるですか!!そんなんだからお前は卵焼きの良さもわからないのです」 それは関係ないと思うが話が進まないので黙っておく。 「いいですか料理研究会は行く行くは有栖学園一の部活になるのですよ」 「なんでですか?」 「やるからにはなんでも一番を目指すべきです」 何故か燃えている翠星石先生は、感受性や感情表現が豊かな人種なんだと思った。 でも僕はそうではない。 「いやでもそんな必要がないと思うんですけど」 「卵焼き食べたですよね?」 「?はい」 「翠星石が作った卵焼き」 「……はい」 僕が返事をすると、ニタァという効果音が似合いそうな笑顔をみせた。 まるで魔女のような笑顔。 「じゃあ三年間頑張るですよ」 「……」 「翠星石の作った料理を食べたのに嫌とは言わせないです」 してやられた。 どうやら自分の考えは筒抜けだったみたいだ。 そして半年でやめることが出来なくなったみたいだった。 無茶苦茶な理論だったが、なぜか反論できなかった。 実はそれほど嫌な気がしていなかったからだろう。 こんな美人な先生と二人でいる時間が出来る。 それだけで来る価値はあると思える。 「まずは部にするための人集めです!」 翠星石先生が意気揚々と計画を立てているのを見て一つ悪戯をしてみたくなった。 「でも僕は先生と二人っきりがいいです」 「えっあっあああえ?」 予想通り顔を赤くしてうろたえている。 「冗談です」 「なっななななすっ翠星石をからかいやがったですねー!!」 人付き合いが苦手と言ってた自分が嘘みたい思えた。 翠星石先生だからだろうか。 「すみません。つい」 「……」 「先生?」 「翠星石をからかうとはいい度胸です。生徒が先生に逆らうとどうなるか思い知らせてやるですー!!」 どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。 翠星石先生がギャーギャー騒いでる横で僕は今後はなるべく怒らせないようにしなければと考えていた。 これから尻に敷かれてしまうことも多くなるだろう。 でもそれは多分我慢できる。 もちろん先生と生徒という立場だから。 けどそれ以上に、きっと一緒にいたら、これからの学園生活が楽しくなると思うから。 そんなこんなで僕は料理研究会への入会を決めた。 後日、翠星石先生があの薔薇乙女だとわかるのだが、それはまた別の話。

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