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「年末、みんなで第九をやろう!!!」
「「「・・・・??」」」
にこにこと笑みを浮かべながら、まるで『今日はいい天気ですね』などと世間話でもするように。
ローゼンはさらりと言ってのけた。
なんてことない朝。
昨日までの雨が嘘のように、雲ひとつ無い空。
珍しく水銀燈が遅刻せず、翠星石と雛苺のケンカ(翠星石が一方的に悪いだけなのだが)も起こらず。
おだやかな、なんてことない一日が始まろうとしていた。・・・・いや、始まるはずだった。
「グッモーニンッ!!!みんな!!!」
突如として現れた、静けさの舞う職員室にはまるでふさわしくない人物。
そして、有栖学園から『日常』を奪い、『非日常』を与える張本人。
「おはようございます…ローゼン校長・・・」
長年の経験で直感したのだろう。あいさつを返す蒼星石の声にも、どこか不安が隠れている。
「どーしたの~みんな、元気ないねぇ~!! 今日は皆に重要なお知らせがあるっていうのに・・・」
(((やっぱり・・・)))
この人がかかわるとロクなことが無い。
重たい空気をものともせず、にこにこと笑うローゼンに対して、『一体今度は何を言い出すのだろう』と教師たちの表情は暗い。
誰もが(ただ一人を除いて)その気まずさに耐え切れなくなってきた時、ガラリと職員室のドアが開いた。
入ってきたのは、ホーリエを始めとする有栖学園の事務員達と、教頭のラプラスだ。
「おはようございます校長」
「大切なお話って何ですかぁ~??」
意味もわからず呼ばれてきたのだろう。しかし教師達と一様に、事務員達の表情には不安の色が浮かんでいる。
(はぁ・・・)と、事務員達の後ろで溜息をつくラプラス教頭。
「やぁ、みんな揃ったようだね」
ローゼンはぐるりと辺りを見回し、その場にいる全員が自分を見ていることを確かめると、その口を開いた。
「年末、みんなで第九をやろう!!!」
・・・と。
―――――しばらくの沈黙。
教師達も、事務員達も何も言わない。
朝練習をする運動部の生徒達の威勢のいい掛け声も、学園の前の道を走る車の音も、朝を喜ぶ小鳥の鳴き声も。
まるで時が止まったかのような、無音。
「校長ぉ~・・・意味解らないんですけどぉ~」
最初にその沈黙を破ったのは水銀燈だった。
その気だるそうな声に、フリーズしていた他の教師、事務員たちの思考も動き出す。
「第九って・・・あのヴェートーヴェンが作曲した・・・?」
「交響曲第9番のことかしらー??」
「うゆ・・・あの家を建てたりする・・・」
「雛苺!!つまらないボケをするなですぅ!!」
打って変わって、騒がしくなる職員室。
「だから~、有栖学園のみんなで第九のコンサートをやろうって言ってるんだよ」
「コンサートって・・・あの・・大きなホールとかでお客さん集めて舞台の上でライト浴びて・・・」
「薔薇水晶先生、おちつくかしらー」
「本来はオーケストラ編成なんだけど、うちの学校にはそんなにたくさんバイオリンは無いからね、吹奏楽編成でいくよ あと合唱も入るからね」
「校長、それは吹奏楽部と合唱部がコンサートをするということですか?」
「ちがうちがう!!さっきから言ってるでしょ みんなで!! 教師、事務員、教頭含めた全員で第九を演奏するんだ」
「・・・・・・・・」
再びの沈黙。
未だ校長の言うことを理解しきれない教師、事務員達。
しかし一つだけ確実にわかっていることがあった。
『これからまた、非日常な日々が始まるのだ』と。
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