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信用」(2006/09/18 (月) 22:50:47) の最新版変更点

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男子A「ハァ!?そんな言い訳通るわけねぇだろ!!さっさと金返せよ!!」 男子B「だ、だから悪かったって…。来年までには、ちゃんとバイトとかして返すから…」 男子C「そんな話、信用できるわけねぇだろ!!ほら、とっとと返せよ!!」 男子D「そうだ!…とりあえず、俺の分だけでも返せ!!」 ある日の午後、教室では3人の生徒が1人の生徒を取り囲み、しきりに罵声を浴びせていた。 それを見た2人の教師のうちの1人が、慌てて彼らの間に割って入る。 薔薇水晶「どうしたの…?喧嘩はダメ…。話し合わないと…」 その毅然とした態度に、先ほどまで声を荒げていた生徒達は、思わず何も言えなくなる。 そして二呼吸空いたあと、生徒達は「実は…」と事の顛末を語り始めた。 どうやら、このBという生徒が自分達に「一緒に金出し合って、バイク買おう」と出資を募ったのだが、あろう事かそのお金を紛失してしまったらしい。 確かにそれはそれで可哀相な話なのだが、近日中に自分達のバイクが手に入ると思っていた者達にとってはたまったものではない… なので、約束が違うから自分達が渡したお金を早く返して欲しいと訴えたそうなのだが… そこまで話を聞いたとき、それまで薔薇水晶の後ろでドアにもたれながら腕を組んでいた人物は静かにこう言った。 水銀燈「なるほど…。確かにそれは可哀相な話ねぇ…。ま、それが本当の話ならね…」 その言葉に当事者達、そして教室で事の顛末を見守っていた生徒達はにわかに色めき立った。 男子A「ど、どういうことです!?まさか、コイツ嘘を…」 男子B「ち、違うって!お、俺は本当に…」 水銀燈「なら、何故そんなに堂々としてられるのぉ…?普通財布を落としたのなら、何か自分に出来ることは無いかって、色々行動を起こすはずでしょう?」 男子B「えっ…!?いや、その…」 水銀燈「…言っとくけど、私に嘘が通用すると思ったら大間違いよぉ…?さぁ…正直に言ってご覧。」 男子B「い、いや…その…」 水銀燈「早く…。私まで怒らせたいの…?」 そう言うと、水銀燈はつかつかと彼の元に歩み寄る。 その場にいる誰もが、これから彼の身に起こる『不幸』を頭に思い描いた。 つまり、『蹴り』か、『殴打』か…それとも… 男子B「ご、ごめんなさい!!実は、スロットに使っちゃって…!さ、最初は1万2万のつもりだったんですけど、気がついたら全部なくなってて…!」 目の前の恐怖に屈したのか、彼はついに白状した。 彼はさらに続ける。 男子B「…本当は、勝ってお金を増やそうと思ったんです…。だって、30万もあれば普通勝てると思うじゃないですか…。でも、気がついたら…」 男子A「…この野郎…!」 そう言うと、彼はBに向かって拳を振り上げた。 が、その手は薔薇水晶の手により、止められてしまう。 男子A「は、離してくだ…」 そう言いながら彼は薔薇水晶を睨みつけた。が、その言葉は最後まで言われる事はなかった。 彼女にしてみれば、これは重大な反逆行為であったに違いない。その手は小刻みに震え、うつむいたまま、彼女は一向に顔を上げようとしなかった。 自分の生徒が未成年なのにギャンブルに手を出し、あろう事かその友達のお金にまで手をつけ、しかもそれを最後まで隠し通そうとした… 彼女はいつだって、生徒達に真摯に接してきた。だからこそ、その心中を察するにはあまりあるものがある…。 時間にすれば数十秒…沈黙が教室内を支配した。 やがて、多少気持ちを落ち着かせる事ができたのか、薔薇水晶は静かに…そして怒りを押し殺しながら、皆に向かってこう声をあげた。 薔薇水晶「…今日のロングホームルームの時間は、来月の修学旅行についての話をしようと思っていましたが、やめにします…。今日はみんなでこの問題について話し合って…」 その時、その言葉を遮るように1人がこう呟いた。 水銀燈「馬鹿馬鹿しい…」 薔薇水晶「…え?」 水銀燈「…確かにこの子は馬鹿な事をしたわ。でも、ビジネスモデルとしては悪く無いのよねぇ…。ま、投資する先がギャンブルなんかじゃなかったら、もっとよかったんだけどぉ…」 薔薇水晶「…どういうこと?」 水銀燈「だってそうでしょう?担保もなしに、金利0%でお金が借りられるなんて、こんなおいしい話は無いわぁ。」 そう言うと、彼女はチョークを手に、こんな話をし始めた。 水銀燈「…例えば、20万を月1%の金利で2ヶ月借りたら、2ヵ月後にはいくら返さなきゃいけないのぉ?はい、そこ…!!」 そう言うと、彼女は1人の生徒を指差した。 思わぬ質問に、指された生徒はしどろもどろになりながらこう返答する。 女子E「え…!?え、えーと…金利1%だから、20万×(1+0.01)×(1+0.01)で…20万4020円…です。」 水銀燈「正解…♪で、これが2%になると20万8080になるわけ…。ほら、さっきの1%の価格を単純に2倍したものじゃないってのが分かるでしょう?…これが『複利』の恐ろしさなのよ…。」 得意げにそう言うと、彼女は皆に数学の教科書を机の上に出すように命じた。 どうやら、このホームルームの時間を使って、即席の授業をするつもりらしい。 いつもはやる気なく保健体育を教える彼女だが、今日は心なしか、その目も輝いているように見える。 水銀燈「みんな、終価計算表って数学の教科書の巻末についてなぁい?…ない?仕方ないわねぇ…。例えば年利1%で35年のローンを組んだ場合、最終的に支払う価格が元金の1.416倍なのに対し、10%だと元金の28倍以上も払わなきゃいけないのよぉ…?」 男子B「そ、そんなに…ですか…!?」 水銀燈「そう…。最初は微々たる差でも、月日が経てばこんなにも差が開くのよ。だから、金利はなるべく低いほうがいいってわけ。サラ金なんかもってのほかよ。…そう言う意味も含めて『こんなにおいしい話はない』って言ったの…。」 彼女の流れるような説明を受け、生徒達は思わず感嘆の声を上げる。 薔薇水晶自身も、そんな彼女の説明を受け、何か感じ取ったものがあるらしく、Bに対し優しくこう声をかけた。 薔薇水晶「…B君、分かった…?A君たちはそれを無償で貸してくれたんだよ…?それだけB君の事を信頼してくれたのに、それを無断で賭け事なんかに使っちゃダメ…。そんなので、友情が壊れるのも馬鹿らしいでしょう…?」 男子B「…はい…。みんな、ごめんな…」 そう言うと、彼は皆に向かって深く頭を下げた。 その様子に、周りにいた生徒達も「…まあ、金さえ返してもらえれば…」と、先ほど声を荒げた事に気恥ずかしさを感じているのか、言葉少なに返答した。 …全てはそこで丸く収まるはずだった。 だが… 水銀燈「…友情…ねぇ…。」 少し離れた位置から冷めたようにそう呟くと、彼女は口元に手を当て、くすくすと声を押し殺しながら笑い始めた。 その様子に、薔薇水晶は不審そうにこう声をかけた。 薔薇水晶「銀ちゃん…?」 水銀燈「ん…?あら、聞こえちゃったぁ?だって、どこかの3流学園ドラマみたいで、見てておかしくってぇ…。いっとくけど、世の中そんな甘い話ばかりじゃないわよぉ…?」 薔薇水晶「え…?」 水銀燈「あなたも聞いた事があるでしょう?親友だと思ってた人に連帯保証人を頼まれて、それを了承したら逃げられたって話…。お金1つで、人の心はどうにでもなるの…。だからこそ、たとえ自分が親友だと思う相手でも、一線置かなきゃいけないところがあるってのを私は言いたかったんだけどぉ…」 薔薇水晶「違う…確かに、世の中にはそう言う人もいるけど…」 水銀燈「違わないわよ。現にあの子だってそうしたじゃなぁい。人間なんて、所詮そんなものよ…。あなたも『教育者』なら、その事を伝えたほうがいいんじゃなぁい…?」 薔薇水晶「…違う…。確かに、人は弱いもの…。でも、ちゃんと接すれば…」 そこまで彼女が言った時、水銀燈はもううんざりといった様子で、遮るようにこう言った。 水銀燈「…ま、自分の事より他人の事が気になるのなら、好きにしなさぁい…。でも、他人は所詮他人…頼れるのは自分だけ…。引き際を誤ると、とんでもない事になるわよぉ…」 それだけ言うと、彼女は教室を後にした。 薔薇水晶は、それを止めようと手を伸ばす。が、それ以上足が前に進まなかった。 世の中に完璧なものが無いように、水銀燈の言う事にも一理あるものだったから…。 でも… 1人教壇に取り残された彼女は、机の上にある学級名簿を見ながら、静かにこう呟いた。 薔薇水晶「…違うよ…。銀ちゃんだって、周りにはこんなに沢山の人がいるじゃない…。それでも、頼れるのは自分だけなの…?」 と。 その声を掻き消すように、外からは水銀燈の愛車の発進音が教室内にこだました。 完
男子A「ハァ!?そんな言い訳通るわけねぇだろ!!さっさと金返せよ!!」 男子B「だ、だから悪かったって…。来年までには、ちゃんとバイトとかして返すから…」 男子C「そんな話、信用できるわけねぇだろ!!ほら、とっとと返せよ!!」 男子D「そうだ!…とりあえず、俺の分だけでも返せ!!」 ある日の午後、教室では3人の生徒が1人の生徒を取り囲み、しきりに罵声を浴びせていた。 それを見た2人の教師のうちの1人が、慌てて彼らの間に割って入る。 薔薇水晶「どうしたの…?喧嘩はダメ…。話し合わないと…」 その毅然とした態度に、先ほどまで声を荒げていた生徒達は、思わず何も言えなくなる。 そして二呼吸空いたあと、生徒達は「実は…」と事の顛末を語り始めた。 どうやら、このBという生徒が自分達に「一緒に金出し合って、バイク買おう」と出資を募ったのだが、あろう事かそのお金を紛失してしまったらしい。 確かにそれはそれで可哀相な話なのだが、近日中に自分達のバイクが手に入ると思っていた者達にとってはたまったものではない… なので、約束が違うから自分達が渡したお金を早く返して欲しいと訴えたそうなのだが… そこまで話を聞いたとき、それまで薔薇水晶の後ろでドアにもたれながら腕を組んでいた人物は静かにこう言った。 水銀燈「なるほど…。確かにそれは可哀相な話ねぇ…。ま、それが本当の話ならね…」 その言葉に当事者達、そして教室で事の顛末を見守っていた生徒達はにわかに色めき立った。 男子A「ど、どういうことです!?まさか、コイツ嘘を…」 男子B「ち、違うって!お、俺は本当に…」 水銀燈「なら、何故そんなに堂々としてられるのぉ…?普通財布を落としたのなら、何か自分に出来ることは無いかって、色々行動を起こすはずでしょう?」 男子B「えっ…!?いや、その…」 水銀燈「…言っとくけど、私に嘘が通用すると思ったら大間違いよぉ…?さぁ…正直に言ってご覧。」 男子B「い、いや…その…」 水銀燈「早く…。私まで怒らせたいの…?」 そう言うと、水銀燈はつかつかと彼の元に歩み寄る。 その場にいる誰もが、これから彼の身に起こる『不幸』を頭に思い描いた。 つまり、『蹴り』か、『殴打』か…それとも… 男子B「ご、ごめんなさい!!実は、スロットに使っちゃって…!さ、最初は1万2万のつもりだったんですけど、気がついたら全部なくなってて…!」 目の前の恐怖に屈したのか、彼はついに白状した。 彼はさらに続ける。 男子B「…本当は、勝ってお金を増やそうと思ったんです…。だって、30万もあれば普通勝てると思うじゃないですか…。でも、気がついたら…」 男子A「…この野郎…!」 そう言うと、彼はBに向かって拳を振り上げた。 が、その手は薔薇水晶の手により、止められてしまう。 男子A「は、離してくだ…」 そう言いながら彼は薔薇水晶を睨みつけた。が、その言葉は最後まで言われる事はなかった。 彼女にしてみれば、これは重大な反逆行為であったに違いない。その手は小刻みに震え、うつむいたまま、彼女は一向に顔を上げようとしなかった。 自分の生徒が未成年であるにもかかわらずギャンブルに手を出し、あろう事かその友達のお金にまで手をつけ、しかもそれを最後まで隠し通そうとした… 彼女はいつだって、生徒達に真摯に接してきた。だからこそ、その心中を察するにはあまりあるものがある…。 時間にすれば数十秒…沈黙が教室内を支配した。 やがて、多少気持ちを落ち着かせる事ができたのか、薔薇水晶は静かに…そして怒りを押し殺しながら、皆に向かってこう声をあげた。 薔薇水晶「…今日のロングホームルームの時間は、来月の修学旅行についての話をしようと思っていましたが、やめにします…。今日はみんなでこの問題について話し合って…」 その時、その言葉を遮るように1人がこう呟いた。 水銀燈「馬鹿馬鹿しい…」 薔薇水晶「…え?」 水銀燈「…確かにこの子は馬鹿な事をしたわ。でも、ビジネスモデルとしては悪く無いのよねぇ…。ま、投資する先がギャンブルなんかじゃなかったら、もっとよかったんだけどぉ…」 薔薇水晶「…どういうこと?」 水銀燈「だってそうでしょう?担保もなしに、金利0%でお金が借りられるなんて、こんなおいしい話は無いわぁ。」 そう言うと、彼女はチョークを手に、こんな話をし始めた。 水銀燈「…例えば、20万を月1%の金利で2ヶ月借りたら、2ヵ月後にはいくら返さなきゃいけないのぉ?はい、そこ…!!」 そう言うと、彼女は1人の生徒を指差した。 思わぬ質問に、指された生徒はしどろもどろになりながらこう返答する。 女子E「え…!?え、えーと…金利1%だから、20万×(1+0.01)×(1+0.01)で…20万4020円…です。」 水銀燈「正解…♪で、これが2%になると20万8080になるわけ…。ほら、さっきの1%の価格を単純に2倍したものじゃないってのが分かるでしょう?…これが『複利』の恐ろしさなのよ…。」 得意げにそう言うと、彼女は皆に数学の教科書を机の上に出すように命じた。 どうやら、このホームルームの時間を使って、即席の授業をするつもりらしい。 いつもはやる気なく保健体育を教える彼女だが、今日は心なしか、その目も輝いているように見える。 水銀燈「みんな、終価計算表って数学の教科書の巻末についてなぁい?…ない?仕方ないわねぇ…。例えば年利1%で35年のローンを組んだ場合、最終的に支払う価格が元金の1.416倍なのに対し、10%だと元金の28倍以上も払わなきゃいけないのよぉ…?」 男子B「そ、そんなに…ですか…!?」 水銀燈「そう…。最初は微々たる差でも、月日が経てばこんなにも差が開くのよ。だから、金利はなるべく低いほうがいいってわけ。サラ金なんかもってのほかよ。…そう言う意味も含めて『こんなにおいしい話はない』って言ったの…。」 彼女の流れるような説明を受け、生徒達は思わず感嘆の声を上げる。 薔薇水晶自身も、そんな彼女の説明を受け、何か感じ取ったものがあるらしく、Bに対し優しくこう声をかけた。 薔薇水晶「…B君、分かった…?A君たちはそれを無償で貸してくれたんだよ…?それだけB君の事を信頼してくれたのに、それを無断で賭け事なんかに使っちゃダメ…。そんなので、友情が壊れるのも馬鹿らしいでしょう…?」 男子B「…はい…。みんな、ごめんな…」 そう言うと、彼は皆に向かって深く頭を下げた。 その様子に、周りにいた生徒達も「…まあ、金さえ返してもらえれば…」と、先ほど声を荒げた事に気恥ずかしさを感じているのか、言葉少なに返答した。 …全てはそこで丸く収まるはずだった。 だが… 水銀燈「…友情…ねぇ…。」 少し離れた位置から冷めたようにそう呟くと、彼女は口元に手を当て、くすくすと声を押し殺しながら笑い始めた。 その様子に、薔薇水晶は不審そうにこう声をかけた。 薔薇水晶「銀ちゃん…?」 水銀燈「ん…?あら、聞こえちゃったぁ?だって、どこかの3流学園ドラマみたいで、見てておかしくってぇ…。いっとくけど、世の中そんな甘い話ばかりじゃないわよぉ…?」 薔薇水晶「え…?」 水銀燈「あなたも聞いた事があるでしょう?親友だと思ってた人に連帯保証人を頼まれて、それを了承したら逃げられたって話…。お金1つで、人の心はどうにでもなるの…。だからこそ、たとえ自分が親友だと思う相手でも、一線置かなきゃいけないところがあるってのを私は言いたかったんだけどぉ…」 薔薇水晶「違う…確かに、世の中にはそう言う人もいるけど…」 水銀燈「違わないわよ。現にあの子だってそうしたじゃなぁい。人間なんて、所詮そんなものよ…。あなたも『教育者』なら、その事を伝えたほうがいいんじゃなぁい…?」 薔薇水晶「…違う…。確かに、人は弱いもの…。でも、ちゃんと接すれば…」 そこまで彼女が言った時、水銀燈はもううんざりといった様子で、遮るようにこう言った。 水銀燈「…ま、自分の事より他人の事が気になるのなら、好きにしなさぁい…。でも、他人は所詮他人…頼れるのは自分だけ…。引き際を誤ると、とんでもない事になるわよぉ…」 それだけ言うと、彼女は教室を後にした。 薔薇水晶は、それを止めようと手を伸ばす。が、それ以上足が前に進まなかった。 世の中に完璧なものが無いように、水銀燈の言う事にも一理あるものだったから…。 でも… 1人教壇に取り残された彼女は、机の上にある学級名簿を見ながら、静かにこう呟いた。 薔薇水晶「…違うよ…。銀ちゃんだって、周りにはこんなに沢山の人がいるじゃない…。それでも、頼れるのは自分だけなの…?」 と。 その声を掻き消すように、外からは水銀燈の愛車の発進音が教室内にこだました。 完

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